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6.姫勇者
後編上
しおりを挟むアリーさんが越境してからの経歴をたどります。
国外であっても私はいちおう世界地図も暗記していますので、おおよその地名と位置は把握しています。
しかしひとつだけ、聞いたことのない、町……でしょうか、その後の経歴からすると、しばらくの間はここへ滞在し冒険の拠点にしたか、もしくは休息にあてていたのかもしれません。
「アリーさん、少しお尋ねします。恐縮ですが、このアウロラ、という地名はどういったところでしょう」
アリーさんは表情を明るくしました。地名を聞いた途端の反応です。
「はい、景色もきれいでひとも優しくて、とてもいいところです。草原では放牧をして、森では採集ができて、その奥には清流もあってね。子供たちが滝壺に飛び込んで遊ぶんだけど、みんな私よりもずっと勇敢なの。みんなのんびりと暮らせるところでね、実は温泉もあるの! だからスターちゃんもいっしょに……」
アリーさんは、自分が立ち上がって声を高くしていたことに気づいたようです。
あわてて椅子へと戻り、足をぶつけながら座りました。足をぶつけたのに顔を押さえていましたが。今はまっすぐに背筋を正しているので面接に問題はないでしょう。
面接において話しぶりや語気といったものに明確な評価基準はありませんし、よほど風格や風紀を乱さなければ減点対象でもないので、質疑に対しての応答が適切で行われるのであれば面接への影響はありません。
この場合は私の質問の意図との相違でしょうから再度尋ねます。知らないことを正確に知るのは大切ですから。
「アウロラとは行政区画の名称ですか? またその場合の王国内で該当する同程度人口規模の市町村あるいはその他区域名と、領地所有する国家および政治的共同体名、ならびに地理的標本として周囲における三つ以上の他行政区画もしくは定着名称での山林河川名と各距離、それとできれば土地区画面積を王国度量衡学会の定義する標準組立単位系で教えてください」
これで相違は起きないはずです。
「アウロラの人口規模は王国の標準的な村二つぶんに該当し、居住区面積は同程度に加えて経済的資源管理地および周囲の森林草原地も有します。現時点で特定の所有もしくは支配および被支配に関する国家を含む政治的共同体ならびに他領地はなく、自治運営による民主的な統治がされており、シェン、ヴォルキヒ、レーゲンの各山脈に囲まれた同山脈等間隔の中央ほどの位置です」
とてもわかりやすい返答をいただきました。
アリーさんはおかしそうに笑っていますが、誰かのまねでもしていたのでしょうか。会話が成立するのであれば面接への影響はないので構いませんが。
構いませんが、その説明ではさらなる疑問が生まれます。
「そのアウロラという、村に該当する行政区画で防衛に携わったとありますが、防衛における相手とは具体的になにを指すのでしょう」
「ええと、行政区画というか、アウロラはアウロラです。みんな村と呼んでいるので村でいいです。ええと、防衛相手は、オラージュ王国軍……人間です」
「オラージュ王国は隣国ですが、アウロラはオラージュ王国領ではないのですか? 別の国の領地ですか?」
「ええと、昔からどの国の領地でもなくて、交易はあるんですけど山あいの小さな村なので、国がどうこうという世間の情勢からは少し離れています。私が訪れたときも平和そのものでした。でしたけど……」
アリーさんは声を曇らせて、しかし言葉を刻み込むように言いました。
「最初はアウロラ周辺に出没するモンスターから住民を守るために滞在していました。頼ってもらえるのはうれしいのですけど、私はずっと滞在できるわけじゃないので、みんなで柵を設置したり弓矢を作ったりしたらどうかって説得しました。……そんなときに突然、オラージュ王国軍が村へやって来ました。北の国との戦争中なのでこの村を拠点にすると。村のみんなは反対して、もちろん私も反対です。どの国とも関係なく平和にやってきた村なのに、突然土地を奪われるわけですから。モンスターから守るための用意が、人間相手になりました。オラージュ王国軍の兵士さんへ何度も話し合いを求めたんですけど聞く耳すら持ってくれなくて……。ある日、侵攻の最終通達があってその夜に村へ攻めて来ました。とりあえずみんなを森へ避難させて……清流のところです、見つかりにくい場所だから。それで私だけ村に残って、迎撃して追い返しました」
軍隊をひとりで追い返したそうです。
「みんなで喜びました。でもまた攻めて来られかもしれないので、柵のほかに頑丈な砦も作るように提案したら、みんな賛成してくれました。材料は、森で考えていたら私の目の前に森の精霊が現れて、伐採のお許しを願ったら許してくれました。さっそく作業をしていたら森の獣人族やモンスターまで土地を守るために手伝ってくれると言ってくれたので助かりました。みんなで仕事を分担して、砦や家や学校までできたんです。獣人さんやモンスターさんはあまり人間の言葉がしゃべれないじゃないですか。だから、子供たちといっしょに読み書きや計算が学べるように勉強の手引書も作りました。……そしてまた、オラージュ王国軍が攻めて来ました。みんなの村です、今度はみんなで戦って守りました」
精霊や獣人族やモンスターまで味方にしたそうです。
「あっ、住民同士のトラブルもあったんです。そのたびに私に相談されるので、どうしようかと考えて決め事を作ってみたんです。たとえば、森を拓いてできた土地で羊の放牧をするようになったんですけど、誰がどのくらい責任を持つかとか、そのひとの取り分とかを前もって決めたらケンカは起きなくなりました。あと獣人さんやモンスターさんも増えてきたり、ほかの町から村に住みたいっていうひとも来たので、みんなが名前を覚えられるように名札とか名簿も作ったんです。家も増えたから住所を記録したり。……でも人口が増えると食料が足りなくなったり、燃料のマキも伐採しすぎたら森の精霊さんに怒られるかもしれないので、ほかの町から足りないものを買えばいいんじゃないかって思ったんです。……でも村にあるお金は少ないので、ないものは作ろうと。森の木から採れる樹脂を固めて、お金にしました。琥珀製だともっと高いお金という仕組みです。それを持って町に行って市場のひとたちと約束をしました。あとで少しづつ森で採れる木の実や村で織った生地を持ってくるので、村のお金を使わせてくださいって。何度も頼みに行って、持っていった木の実も生地も評判が良くて、町のみなさんが了承してくれました」
……これは、どういった評価をしていいのでしょうか。
「アウロラは私が訪れたときよりも発展していきました。だんだん砦も大きくなってしまって。みんな冗談で、私のことを王様って呼ぶんです。おかしいので私も冗談で返事したりして、笑って過ごしていました。……そんな中、またオラージュ王国の兵士が来ました。でも、前とちがって、国王からの親書を持って来られただけでした。代表者との話し合いをしたいそうで、私は遠征していたオラージュ国王陛下のもとを尋ねました。ふふっ、そこでもみんな私のこと、王様って呼ぶんですよ? 私もおかしくて笑ってしまって、おかげさまでなごやかな会談になりました。そして約束してくれたんです。もうアウロラへは攻めてこないのと、お互いに連絡をしやすいように係を置いて、あと村の特産品を買ってくれるって」
私はしばらく聞いていましたが、なんの質疑をしていたかを忘れました。間違いのないことは、今は勇者面接をしているということです。
「つまり……アリーさんは、もともと特定の所有領にないアウロラという地域で、住民を従えて土地を守り、自治を主導して教育や法律制度を設けて戸籍を管理し、通貨を発行してほかの町との交易を行い、オラージュ王国と不可侵条約ならびに貿易協定を結び大使の交換をした、ということですか?」
「ええと、はい。従えたとか主導かはわかりませんけど、おおむねそうです」
それは国です。
立派な国家です。
定義としての条件をすべて満たし、住民自身が冗談かどうかは知りませんが、アリーさんを王様と呼んでいます。つまりアウロラ王国です。
アリーさんは建国しました。
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