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人類の存続

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「クロード…」

「あっ!おはようございます。何だか俺凄く寝てたみたいですみません。後の書類は俺がやりますから、皆さんは任務に行って下さい。」
クロードはシャツを羽織っただけで色気がだだ漏れだ。
細い割には逞しい胸から腹にかけて巻かれた包帯が痛々しい。
未だに完全に塞がらない腹の穴にはまだ包帯に血が滲んでいる。

「クロード!!まだ腹は塞がってねえんだ!!休んでろ!!」

「そうですわよ!!まだ執務は無理ですわ!!私達これでも書類整理は慣れて来ましたのよ?」

「そうじゃ!!また無理して倒れでもしたら本末転倒じゃ!!」

「言う事聞けよクロード!!お前肝臓が半分無くなってんだぞ?!ナディアさんも近々来るって言ってた、バレたら煩いぞ?」
ナディアの名前を出すとクロードは折れた。

「分かりました…病み上がりに母さんの説教は御免ですからね。でも面倒な書類は俺に回して下さい。ベットの上でも執務は出来ますから。」
皆分かった分かったと言ってクロードを追い出した。
追い出されたクロードは総帝のローブを羽織りフードを深く被った。
仕方なく自室に戻り大人しくベットに入る事にしたのだった。
クロードは眠っている間夢をずっと見ていた。
それはそれは素晴らしい夢だった。
アレはクロードが倒れてからの話だ、クロードは暗闇を歩いていた。
一筋の光も無くどっちか上でどっちが下かもんからなくなる。
ただ足を動かし続けた。
どの位歩いたか分からない、数時間かもしれないし数日かもしれない。
すると遠くに光が見えた、とても小さな光。
クロードはその光を目指して歩いた。
光が近くなるとその光は小さな扉から漏れる光だと分かった。
クロードは扉を開けるのを躊躇したが、遠慮気味にノックをした。

「は~い!」
鈴が鳴る様な声が聞こえ、直ぐに扉は開いた。

「何方?あら!来客なんて珍しい!嬉しいわぁ!」
クロードは見惚れた、出てきた女性は酷く美しかった。
足元まで長い少しウェーブのかかった絹の様な金色の髪をフワフワ靡かせながらクロードを中に誘った。

「入って入って!お茶は何が良いかしら?紅茶?それとも日本茶が良いかしら?」
嬉しそうにお茶の準備を始める彼女を見てクロードの頬は自然と緩んでいた。

「日本茶にしましょう!貴方は飲んだ事無いでしょ?」

「はい、ありません。」
日本茶はほろ苦くそれていて円やかでとても美味しかった。

「私は楓、貴方は?」

「俺はクロードです。」

「そう、クロードね!ねえクロード、私とお友達になって頂戴。私お友達が居ないのよ、ずっと憧れてたの。」
キラキラと光る彼女のオパールの様な瞳に見詰められるとクロードは顔に熱を持つのが分かった。
胸は苦しいし、動悸も煩い。
こんなのクロードは知らなかった。

「俺で良ければ。」

「まぁ!嬉しいわぁ!!」
クロードは部屋を見回して不思議に思う。
窓も無ければベットの様な寝具や家具も無い。
あるのは今お茶を頂いているテーブルと椅子だけだ。
それ以外は真っ白な空間が広がっていた。

「楓は此処に住んでいるのですか?」
そう聞くと楓は少し悲しい顔をした。

「そうよ、私には役目があるから。此処にずっと一人…クロード、貴方が訪ねて来てくれてとっても嬉しかったの!!」
無邪気に笑う楓、クロードはまた動悸に襲われた。

「う~ん…でもクロードはまだこっち側に来るには早いわぁ。かなり私に近い存在だけど貴方には帰る場所があるわね?あまり此処に長居してはいけないわ。」

「でも、俺が行ってしまったら楓はまた一人になってしまうんですよね?」

「仕方ないわ、それが私の役目なのだし運命なのだから。」
楓は部屋の中央にある大きな球体に触れた。
楓が触れるとそこにはクロードが憧れるアースレジーナが映し出された。

「アースレジーナ…」

「クロードの世界ではそう呼ぶの?これは地球、沢山の人間に動物達が住んでいるわ。」

「地球…地球を見守るのが役目ですか?」

「そうよ、地球が無くなるまで私は此処から地球を見張らなければならないの。」

「楓は神様ですか?」
楓はキョトンとした。

「まさか!私は人間…ちょっと違うかしら?でも人間よ。クロードと同じ、地球の人間と違って魔法も使えるわ。」
楓はそれから色々語ってくれた。
楓は地球に生命を齎した星の人で、地球を監視する役目をおった巫女の様な者だと。
生命の進化を見守り記録に残す、言わば実験の様なものなんだそうだ。
それに地球が一番環境が良かったのだ。

「楓…」
地球を眺めていた楓の前に片膝をついて楓の手を取った。

「俺はまた楓に会いたいです。」

「それは…」
楓は真っ赤になり狼狽えた。

「このまま楓に会えなくなるのは嫌なんです。」
お願いしますと楓の綺麗な手の甲に口付けた。

「ここでは転移魔法陣は使えますか?」

「えっ?えぇ、使えるわ。クロード程の魔力を持っていれば大丈夫だと思う。」

「そうですか。」
クロードは直ぐに転移魔法陣を描き始めた。

「これでまた楓に会いに来れますね?」

「クロード…ありがとう…」
涙ぐむ楓をクロードは無意識に抱きしめ優しく頭を撫でた。
自分がしている事に気付いたクロードは慌てた。

「す、すみません!!」

「ううん、大丈夫。」
クロードも楓も真っ赤だった。

「楓、また必ず逢いに来ます。」

「待ってるわクロード。」
自然と二人の唇は重なった。



「さぁ、戻る時間よクロード。またね…」
楓に胸を押されるとクロードの意識は浮上した。
クロードは痛む腹を押さえながら、胸の苦しさと動悸とどうにかしようと胸を押さえた。

「俺はどうしてしまったのでしょうか?女性にあんな…」
クロードは楓の唇の感触を思い出し頭を抱えた。
女性にこんな感情を持ったのは初めてだった。
楓ともっと一緒に居たい。
楓にもっと触れていたい。
これがクロードの初恋だった。
クロードがそれに気付くのはまだちょっと先の事だ。
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