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人類の存続

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翌朝、まだ陽も登らぬうちにクロード達はエデンを発った。
明日の朝にはアスタナに着きたいのでかなり急ぐ旅になりそうだ。

「ねぇクロード様、なんでこんなに急ぐの?」

「フールは口を動かさないで魔力を動かして下さい。」
フールはクロードにより移動中も魔力を練る訓練をさせられていた。

「アスタナが怪しいんですよ。ラファイは覚えていますよね?ジャイアントアントの巣の中で見た者達を。」

「あぁ。」

「あの人達はアスタナの住民かもしれません。アスタナを調べて巣に繋がる穴か何かがあれば確実だと思っています。ガライルがアスタナ方面にも巣があったかもしれないと言っていましたよね?」

「そうじゃ、ただあそこはもう埋まっておった。」

「誰かが故意に埋めたとしたら?それにリナリアがアスタナの貧しい住民が行方不明になっていると情報を貰いました。」
アスタナ王国は貧しい住民達は貧しい者で固まり小さな集落を作っていた。

「成程、貧しい者だけが行方不明なんじゃな?」

「そうです。何かあると思いませんか?」

「十中百九まぁ何かあんだろな。」
クロード達は途中野営をし、また翌朝まだ暗いうちにアスタナを目指した。
少し遅れたが昼前にはアスタナに入る事が出来た。

「ここからは別行動になります。フールは東、ラファイは西、ガライルは南、カイテルは北を俺は中央を。何かあれば招集を掛けてください。」

「「「「了解!」」」」
東西南北チームは散って行った。

「俺は中央ですか、何かありますかね?」
アスタナの中央は貴族達の住む地域だ、目に付きやすく何かするならまず選ばない地域だろう。
クロード達は変装せずに普通の格好をしている。
気配は消しているが、フードを深く被ったりしていたら目立ってしまう。
まぁ、ガライルを抜きにしてそれぞれが見た目で目立ってしまって居るが致し方ないだろう。
東を担当しているフールは風の速さで街中を駆け巡り、街を抜け国の外れまで来ると足を止めた。

「ふ~ん、ここが噂の集落?これって人が住めるの?」
フールは首を傾げた。
土台は木だが、屋根は大きな葉の様な物を何枚も重ねた物で壁も土壁で大きな穴や皹が入り最早壁の意味を成して居なかった。
貴族出身のフールは本当にこんな所で人が暮らしているのかと不思議に思った。
家だけを見ればルチルの時より酷かった。
ただ、総帝から命令が出た為少なからず配給は行われている様だった。
集落の中心にある鍋には調理をした後があったからだ。

西担当のラファイは…貧しい者達に囲まれていた。

「お恵を…」

「お願いします!貴族様!私はもうお乳が出なくなってしまいました!せめて子供に食べさせる物を…」

「お願いします…」

「貴族様…」
ワラワラと寄ってくる住民達にラファイの調査は苦戦していた。
それはラファイが嚔をした事から始まった。
ラファイの嚔に子供が気付いたのだ。
気配消しに使っていた魔法は相手が認識しない限り気付かれないものだった。
身なりが整い顔も整っているラファイに何か恵んで貰おうと住民が集まって来てしまったのだった。
ラファイは目を瞑り振るえた、どうにかしてやりたい…しかし、任務がある。
ラファイの中で葛藤が生まれた。

「だぁぁぁあ!分かった分かったよ!!肉は此処に置く子供優先に食わせろ!」
ラファイは乳飲み子達を見て目を反らそうとするが…出来なかった。

「乳飲み子は待ってろ!!」
ラファイは森へ飛ぶとホーンモーモーを探した。
ホーンモーモーのミルクは濃厚で栄養価がとても高い上質なミルクなのだ。
ホーンモーモーは口笛を吹くと角を鳴らして答えてくれる。

ーピィーーーーーーーーーー…

ーボォーーーーーーン

「あっちか!!」
ラファイは森に降りた。
そこにはホーンモーモーの群れが草を食べていた。
一際大きなホーンモーモーがラファイに近付く。
ラファイの前に来るとお辞儀の様な仕草を見せる。
ラファイも一礼しつホーンモーモーに頼む。

「ミルクを分けて欲しいのだが?」
ホーンモーモーは横を向く、絞れと言う事だ。

「ありがとう、助かる。」
急いでミルクを絞りモーモーにお礼を言うとまた集落に飛んだ。

「これを赤子に飲ませろ、ホーンモーモーのミルクだ。当分もつだろう?」
住民達にお礼を言われラファイは急いで集落を離れた。
南担当のガライルは森との国境に穴を発見していた。
穴は枝や葉で隠されていた。

「こりゃ…人間が掘ったもんじゃな。」
ガライルは入ってみるか報告が先か悩んだ。

「ちぃとばかし様子を見て来るかのぉ?」
ガライルは人が丁度一人入れる様に掘ってある穴を降りて行った。
縦に3m程梯子を降りると今度は斜め下に向かって穴が続いていた。
穴を5m程下ると大きな空間に出た。

「こりゃジャイアントアントの巣で間違いないのぅ。しかし…」
ガライルは鞄からランプを出すと辺りを照らして確認する。
その空間には人を磔にするための十字の木が何個も並び、何かを引きずった様な血の跡が億へと続いていた。

「ジャイアントアントの気配は無いがなぁ。一度クロード様に報告が先じゃな?」
ガライルは元きた道を戻った。
一方、中央担当のクロードは…女性に囲まれていた。

「何処の国の方ですの?」

「お名前は聞いてよろしくて?」

「私達とお茶しませんこと?」

「お慕いしている女性は居られるのかしら?」
クロードは香水の匂いに酔い吐き気を催していた。

「あら!お顔の色が悪くてよ?!少し休みましょう?」

「だ…大丈夫です。お構い…なく…」
一人の女性がクロードの腕に自分の腕を絡め胸を押し付けて来た。

「辞めてください!!」
クロードは思わず腕を振り払った。

「きゃっ!!」

「私は既婚者です。近付くのは辞めて頂きたい!!」
クロードの剣幕に女性達は散って行ったが、一人だけ残った。

「私は既婚者でも構いませんわ!!」
いや、構いますよ…とクロードは思った。

「私は忙しいので失礼します!」

「逃がしませんわ!」
ガシッとクロードの腕を掴んで離すものかと両手に力を入れた。
クロードは溜息を吐き女性を見下ろした。

「始めてなのですわ。理想の殿方に出会ったのは!!妾でも構いません!!」

「妾を取る気もありませんし、貴女は私の好みではありません。それに妻以外を愛する気もないですよ?手を離して下さい。」

「嫌です!!」
全く埒が明かない。
そこにフールが飛んで来た。

「クロード様!こっちは何も…って何女の子とイチャイチャしてんの?!楓ちゃんに言っちゃうからね!」

「まぁ!クロード様と仰るのね?」
クロードはフールの間の悪さに額に手を当てた。

「フール…」

「ひぃっ!!」
失礼ですね、殺気を向けただけですよ。

「仲間が来たので本当に失礼します!では!」
クロードはフールの腕を掴み転移した。
残された女はクロード様…と呟きポーっと暫く突っ立っていた。

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