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赤い髪の魔族6
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「はいこれ、返しとくね」
手のひらに乗せられた指輪を中指にはめたとき、私はほとんど口もきけない状態だった。何度も何度も背すじを震わせて声を上げたせいで喉はがさがさになっていたし、精神的な衝撃や恥ずかしさ、後悔も計り知れなかった。
何よりも甘い痺れが身体のあちこちに残っていて、部屋に戻るどころか立ち上がることすらままならない。おかげでヘッドボードを背に座るイスラさんに抱えられた状況から逃げ出すこともできず、ただ居た堪れなさに身体を小さくしていると、背後から苦笑混じりの声が上がった。
「やっぱり蠱惑の果実と魔族が抑制なしでするのはまずいね、感じすぎる。僕も合法的にきみを連れ去る方法がないか考えちゃったしさ」
「もう、その話はしないで下さい……」
「怖がらせてごめんね。でもきみもわかったでしょ、魔族の前でそれを外したらどうなるか」
あんなことがあった後なのに、そもそも外すよう仕向けたのはそっちなのに、私が食器でも割った程度の口調で話すイスラさんに気が遠くなる。きっと、怒っても意味なんてない。この人は魔族で、私とはまったく違う常識の中で生きているのだから。
でも。
到底自分の身に起きたことを受け入れられなかった。あんな風に触られたことも、それに対する自分の反応も。今この瞬間、思い出すと身体の奥がじわりと疼いてしまうことも。
(……なんで)
恐怖で震えたのに、強すぎる羞恥で涙が出そうだったのに。
一番鮮烈に覚えているのは焼けつくような快感と重なった肌の熱で。
私の身体、どうしてしまったんだろう。
どうなってしまうんだろう。
「そうそう、指輪はちゃんと修復できるよ。実はね、今ヤケイがその為の道具を取り寄せてるんだ。力が溢れたことで石自体が変質してるからって。それが届けばほぼ元の状態に直せるけど、今と同じ使い方だとまた壊れるだろうね」
きみの力が強すぎるから、と肩をすくめてイスラさんが私の左手を取る。思わず息を呑んだけれど、散々私の中に入った長い指は何の温度もない手つきで指輪に触れた。海のような青い宝石の、滑らかな表面をなぞると。
「とはいえ渦潮の最奥は強力だから、きみみたいな強敵相手でも歯が立たないわけじゃない。あらかじめ魂を調整しておけば十分対応できる」
「調整って、何をするんですか?」
「簡単だよ。指輪で抑えられる程度に力を流せばいいんだから、強い力を持つ安全な魔族……つまり僕たちの誰かとセックスすればいい」
セ――
当たり前のように言い放たれた言葉を飲み込めなくて、私は目を瞬かせた。せっくす。魔族と。数秒後、点が線に繋がってほとんど悲鳴みたいな声を上げる。
「で、できません!!」
「毎日しろってわけじゃないよ、多分週に……」
「そうじゃなくて、セ……あの、そ、そういうこと自体が無理ですっ」
無理。
無理に決まってる。
だって、私は本来性的なことなんて全く縁がなくて、学校で男子と話すときでさえ緊張するレベルなのに。今だって、ここに来てから起きたことを思い出すたびに心臓が破裂しそうになるのに。そんなの。
「わ、私には……できません……っ」
真っ赤になった顔を見られないよう下を向く。数十分前までの記憶が芋蔓式によみがえって、湧き上がる羞恥と困惑と理解できない熱に息を弾ませていると、後ろでイスラさんが笑った、気がした。うなじのあたりに吐息がかかって、肌があわ立つ。
「律香ちゃん、今日何回イッたか覚えてる?」
耳朶に触れそうなほど近い位置から生々しいことを聞かれて、びくりとした。答えられるわけがなくて無言で首を横に振ると、不意に伸びてきた硬い腕に強く抱き寄せられる。背中と密着する胸板の感触、布地越しに伝わる体温に、ますます身体がこわばる。
「あ、の……」
「もう数えられないよね。途中でイキ癖がついて、少し中を触るだけでイッてたし」
手が少しずつ下降して、下腹部のあたりで止まる。今日、イスラさんの指を何度も受け入れて、何度も気持ち良くなったところ。瞼の裏で明滅する記憶に、ますます体温が上がっていく。
思い出してしまう。あの時、何を考えていたか。どろどろに溶けた意識の中で欲していたもの。
もっと深いところまで。
もっと注がれたい。
もっと――
「さっきも言ったけど、人間の魂って魔族の力と惹かれ合うんだよ。それは強大であればあるほど顕著で、魔族がきみの魂に惹かれるようにきみも本能的に強い魔力を求めている。これには色んな理由付けがあるんだけど、まあいいよね、そんなことは」
服越しに指が食い込んで咄嗟に唇を噛もうとしたけど、間に合わなかった。喉奥から洩れる甘く掠れた。何かを求めるように、中がきゅっと締まる。
これ以上はいけない。これ以上は、きっと戻れなくなる。一度踏み込んでしまったら、もう。
「――とにかく、きみならきっと楽しめるから大丈夫」
僕はいつでも歓迎するよという囁きへの拒絶は、顎を持ち上げるようにして重ねられた唇の中に消えた。
手のひらに乗せられた指輪を中指にはめたとき、私はほとんど口もきけない状態だった。何度も何度も背すじを震わせて声を上げたせいで喉はがさがさになっていたし、精神的な衝撃や恥ずかしさ、後悔も計り知れなかった。
何よりも甘い痺れが身体のあちこちに残っていて、部屋に戻るどころか立ち上がることすらままならない。おかげでヘッドボードを背に座るイスラさんに抱えられた状況から逃げ出すこともできず、ただ居た堪れなさに身体を小さくしていると、背後から苦笑混じりの声が上がった。
「やっぱり蠱惑の果実と魔族が抑制なしでするのはまずいね、感じすぎる。僕も合法的にきみを連れ去る方法がないか考えちゃったしさ」
「もう、その話はしないで下さい……」
「怖がらせてごめんね。でもきみもわかったでしょ、魔族の前でそれを外したらどうなるか」
あんなことがあった後なのに、そもそも外すよう仕向けたのはそっちなのに、私が食器でも割った程度の口調で話すイスラさんに気が遠くなる。きっと、怒っても意味なんてない。この人は魔族で、私とはまったく違う常識の中で生きているのだから。
でも。
到底自分の身に起きたことを受け入れられなかった。あんな風に触られたことも、それに対する自分の反応も。今この瞬間、思い出すと身体の奥がじわりと疼いてしまうことも。
(……なんで)
恐怖で震えたのに、強すぎる羞恥で涙が出そうだったのに。
一番鮮烈に覚えているのは焼けつくような快感と重なった肌の熱で。
私の身体、どうしてしまったんだろう。
どうなってしまうんだろう。
「そうそう、指輪はちゃんと修復できるよ。実はね、今ヤケイがその為の道具を取り寄せてるんだ。力が溢れたことで石自体が変質してるからって。それが届けばほぼ元の状態に直せるけど、今と同じ使い方だとまた壊れるだろうね」
きみの力が強すぎるから、と肩をすくめてイスラさんが私の左手を取る。思わず息を呑んだけれど、散々私の中に入った長い指は何の温度もない手つきで指輪に触れた。海のような青い宝石の、滑らかな表面をなぞると。
「とはいえ渦潮の最奥は強力だから、きみみたいな強敵相手でも歯が立たないわけじゃない。あらかじめ魂を調整しておけば十分対応できる」
「調整って、何をするんですか?」
「簡単だよ。指輪で抑えられる程度に力を流せばいいんだから、強い力を持つ安全な魔族……つまり僕たちの誰かとセックスすればいい」
セ――
当たり前のように言い放たれた言葉を飲み込めなくて、私は目を瞬かせた。せっくす。魔族と。数秒後、点が線に繋がってほとんど悲鳴みたいな声を上げる。
「で、できません!!」
「毎日しろってわけじゃないよ、多分週に……」
「そうじゃなくて、セ……あの、そ、そういうこと自体が無理ですっ」
無理。
無理に決まってる。
だって、私は本来性的なことなんて全く縁がなくて、学校で男子と話すときでさえ緊張するレベルなのに。今だって、ここに来てから起きたことを思い出すたびに心臓が破裂しそうになるのに。そんなの。
「わ、私には……できません……っ」
真っ赤になった顔を見られないよう下を向く。数十分前までの記憶が芋蔓式によみがえって、湧き上がる羞恥と困惑と理解できない熱に息を弾ませていると、後ろでイスラさんが笑った、気がした。うなじのあたりに吐息がかかって、肌があわ立つ。
「律香ちゃん、今日何回イッたか覚えてる?」
耳朶に触れそうなほど近い位置から生々しいことを聞かれて、びくりとした。答えられるわけがなくて無言で首を横に振ると、不意に伸びてきた硬い腕に強く抱き寄せられる。背中と密着する胸板の感触、布地越しに伝わる体温に、ますます身体がこわばる。
「あ、の……」
「もう数えられないよね。途中でイキ癖がついて、少し中を触るだけでイッてたし」
手が少しずつ下降して、下腹部のあたりで止まる。今日、イスラさんの指を何度も受け入れて、何度も気持ち良くなったところ。瞼の裏で明滅する記憶に、ますます体温が上がっていく。
思い出してしまう。あの時、何を考えていたか。どろどろに溶けた意識の中で欲していたもの。
もっと深いところまで。
もっと注がれたい。
もっと――
「さっきも言ったけど、人間の魂って魔族の力と惹かれ合うんだよ。それは強大であればあるほど顕著で、魔族がきみの魂に惹かれるようにきみも本能的に強い魔力を求めている。これには色んな理由付けがあるんだけど、まあいいよね、そんなことは」
服越しに指が食い込んで咄嗟に唇を噛もうとしたけど、間に合わなかった。喉奥から洩れる甘く掠れた。何かを求めるように、中がきゅっと締まる。
これ以上はいけない。これ以上は、きっと戻れなくなる。一度踏み込んでしまったら、もう。
「――とにかく、きみならきっと楽しめるから大丈夫」
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