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 意中の相手に溺愛されるおまじない。
 そんな小学生みたいな話を、本気で信じていたわけじゃない。そんな都合のいいことは起こらないし、意中の相手は私の名前すら知らない。

 わかっていても試したのは、きっと、恋に恋していたから。好きな人をアイドルみたいに崇めて、安全圏から愛情表現したかったから。だって、誰にでも優しい先輩が私だけを溺愛するなんて有り得ないし。想像できないし。もし実現したら恐れ多くて逃げ出すし。

 だから、ネットで見かけた情報を元に小指におまじないの言葉を書いて、先輩と廊下ですれ違うタイミングでこっそり祈った。先輩が私を溺愛してくれますようにって。なんの現実味もなく、宝くじが当たるよう願うくらいの気持ちで。


 なのに。
 なのにどうしてこんなことに。

 
 体育館倉庫の、埃っぽいマットに押し倒されて、私は呆然と先輩を見上げた。いつも笑顔で、穏やかで優しくて、誰かを害するなんて有りえない先輩の、嗜虐的な瞳を。





「その小指のやつ知ってるよ、好きな相手に溺愛されるってやつでしょ」

 俺のこと好きなの? と聞かれて、私はほとんど反射的に頷いてしまった。ずっと憧れていた、一度でいいから二人で話ができたらと夢見ていた先輩。色素の薄い柔らかそうな髪と、猫のような瞳が目を惹くその人は、今、何の躊躇いもなく私の制服を脱がしている。

 ブラウスの裾を引き出して、スカートのホックを外すと、下腹部を包み込む指の長い手。触れられたところが熱くて思わず身じろぎすると、紅茶色の瞳が微かに細められて。

「別にいいよ、付き合っても。あんまり他人に興味ないから、きみが思ってるような感じじゃないかもしれないけど」

 さらりと言われて、心臓が止まりそうになる。付き合う? 先輩と? そんなの有りえない。私なんかに言うわけがない。

 この信じられない状況といい、私は夢を見ているに違いない。祈った瞬間先輩が振り返ったのも、突然腕を掴まれて倉庫に連れ込まれたのも、起きたら全部消えている都合のいい夢。そう考えれば、先輩が普段と別人みたいなのも納得がいく。本当は優しい先輩の夢が見たかったし、勝手に出演させて申し訳ない気持ちもあったけど。

「……付き、合ってほしいです」

 それでも私は、小さな声で言った。夢の中なら、何を言っても迷惑はかけないはず。彼女にしてください、とおずおず付け加えると、先輩は表情ひとつ変えずに私の頬を撫でて。

「そう? じゃあ今から俺たちは恋人同士ってことで」

 言葉とともに、中指が下着に掛けられる。告白と同時にこんなことになっているのもおかしいし、現実だったら大問題だ。というか、夢でも恥ずかしい。すごく。そんな葛藤も、もっと可愛いの下着を履いておくんだったと後悔する間もなく、飾り気のない布地が太腿を通り過ぎていった。

「あ……」

 ひんやりした空気が、奥まで触れて変な感じがする。倉庫の中は薄暗いけど、先輩には全部見えているはず。慌てて足を閉じようとしたけど、内腿に置かれた手に動作を阻まれて。

「閉じるな」

 冷たく命じる言葉にぞくりとする。思わず動きを止めた私の足を、先輩が大きく開いた。いつもぴたりとくっついている秘唇が離れて、粘膜まで覆いなく晒されて。恥ずかしくて堪らないのに、先輩の命令を思い出すと隠すこともできずにただ息を弾ませる。

「いい子だね、ちゃんと言うことを聞ける子は好きだよ」

 好き。先輩が。心に想い描いていた言葉を耳にすると、こんな状況でも胸がきゅんとしてしまう。粘膜を包む肉を親指が左右に押し開いて、自分でも見たことのない奥まったところに視線が注がれる。

「毛が薄めだから、全部見えてる。自分で触ったことある?」
「…………っ」
「返事」
「ぁ、な、ないです……」

 自分でって、そういう意味、だよね。ぼんやりした知識はあるけど、到底縁のないものだと思っていた。
 先輩が軽く身をかがめて、ひくひく震える奥に顔を寄せる。いくら夢の中でも耐えがたくて、忙しなく肩を喘がせると、不意に息を吹きかけられた。

「んん……っ」

 ひんやりした呼気が入り口の上部を掠めた時、変な感じがした。そこを起点に淡い痺れのようなものが広がって、思わず鼻にかかった声を洩らすと先輩が動きを止める。身体を起こして、真っ赤になっているであろう私の顔を覗き込んで。

「あ、あの……」

 声、おかしかったかな。不安になって、思わず視線を逸らすと。

「先にキスしとこうか」
「え」
「俺は別にいいけど、まんこを舐めた口とファーストキスは抵抗あるかなって。あ、初めてとは限らないか」
「い、いえ……はじめてです……」

 あけすけな言葉にどう反応していいのかわからなくて事実だけをなんとか伝えた私に、先輩が納得したように小さく頷いた。

「じゃあ、ちょっと口開いて舌出して」

 言われた通りにして目を閉じたものの、なんだか間の抜けた格好をしている気がして落ちつかない。キスって、こんなのだっけ。確か、ドラマや漫画で見たのはもっと――

「――ん」

 舌先が触れ合う。唇より先に。むず痒い程度の刺激から軽く歯を立てられて、思わず背を震わせるとそのまま口付けられた。

「ふ、ぅ……」

 すぐに口腔に潜り込んだ舌に絡め取られて、くちゅくちゅと響く音に頭の芯が蕩けていく。粘膜同士が隙間なく重なって、ゆっくり擦り合わされる初めての感覚に、首筋が粟立った。想像よりもずっと生々しくて、気持ちいい。さっき撫でられた下腹部の奥が、糸で繋がっているみたいにきゅんとする。

「ぅ……んんッ、う」

 キスしている間も手は奥を探って、普段は閉ざされている粘膜を下から撫で上げる。引っ掛かりなく、ぬるぬると柔らかい部分に触れる指の感触に、自分が濡れているのだと気付いた。いつからなのかわからない。初めてのキスのせいか、それとももっと前からか。

「舐めるって言われて期待した?」

 唇を離した先輩が、からかうように耳元で囁く。耳朶を唇で食まれて反射的に首を竦めると
、ほんの少し笑ったのか吐息の触れる気配がした。

「せっかく恋人になったんだし、これからは俺がきみの身体を管理しようか。クリとナカで何度もイカせて、俺を見るだけで濡れるようにしてあげる」

 とろりとした液体を纏った指が、さっき吐息の触れたところを下から押し上げて、鼓動が跳ねた。錯覚じゃなかった。やっぱり、快感の芯のようなものがある。小さな突起をすりすりと撫でられるたびに甘い細波が走って、声を抑えられない。

「あっ……せ、先輩……そこ、は……ぁ」
「普段はさ、滅多に誰かと付き合ったりしないんだよね。さっきも言ったけど他人に関心ないから。でもきみには一から教えたいと思った」

 おまじない、効いてるんじゃない?

 薄く笑みを刷いた先輩が、指の腹で軽く突起を弾く。それだけで背中がびりびりして、身をよじるとまた内腿に手が触れた。閉じるな、と言われたことを思い出してなんとか体勢を保つと、先輩がひどく優しい眼差しで私をとらえた。いつもの先輩を思わせる、穏やかな声が鼓膜に響く。

「よくできたね。そのまま、俺から全部見えるよう股開いといて」

 
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