星空の戦闘機 18歳の特攻兵。幼馴染の二人。あのときあなたは約束しました。「きっと君を迎えにいくと」

花丸 京

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9 靖国に眠る英霊の奇跡

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長い坂を登っていった。
真っ直ぐな坂の上に、巨大な形の鳥居とりいがそびえていた。
写真や絵などで見慣れた光景だった。
名が知れているわりに、あたりはひっそりしている。
ひろいので、人がいても建物や庭に溶けこんでしまうのか。
見わたせば、たしかにあちこちに人影があった。

鳥居をくぐって、砂利を踏んでまっすぐに進んだ。
隅のほうに売店や休憩場がある。
正面の拝殿に幕が張ってあった。柵で仕切られている。
かのんは拝殿はいでんで頭を垂れ、合掌がっしょうした。
戦争で死んだ日本兵がたてまつられているのだ。
そう思うと、胸の奥が熱くなった。

両手を合わせた。いままでのもろもろの出来事が頭に浮かんでくる。
いつも脳裏に描かれる光景は、焦土に一人で立っている自分だった。
焼夷弾しょういだんの熱気で蒸発してしまった町の人たちも、神社には奉られているのだろうか。
お祈りを終え、頭をあげた。
背後を白い袴姿の神職しんしょくさんが急ぎ足でとおりすぎた。
かのんは、ごめんください、と声をかけた。
足をとめた神職さんは大学生のように若かった。
「記念館があるときいたのですが、どちらでしょう?か」

左手の木立の奥に、洋風の建物があった。
正式の名前は遊就館ゆうしゅうかんだった。博物館の印象である。
建物のなかはひんやりしていた。
戦争の歴史がならんでいた。
かのんのヒールの足音が、吹き抜けの階段ホールに響いた。

二階の奥でかのんは、雷に打たれた。
軍人の写真がならんでいたのだ。飛行服の兵士もいた。
かのんは姿勢を正した。
「勇敢でした。立派でした。お国のためにやってくれました。感謝します」
どんぐりさんのためと、ならんだ英霊えいれいたちのためにいっていた。

階段をあがってきた数人の若い男女が、にぎやかに通りすぎた。
かのんはからだの力を抜き、兵士の写真一枚一枚をたんねんにながめた。
海軍も陸軍も大佐も二等兵も、空軍のパイロットたちもみんな一緒だった。
もしやと、写真の前を何度もいききした。
どんぐりさんの写真はなかった。
写真のなかには、特攻とっこうらしき少年が何人もいた。
かのんから見れば、自分の子供のようにも思えた。

ほんとうにこんな子供が自らの命を賭け、特攻で散っていったのか。
かのんはならんだ写真から目をはなし、傍らのガラスケースに目を移した。
たくさんの特攻隊員の遺品がまとめられていた。
自筆の手紙類があった。
父母や兄弟に宛てたもの。妹に宛てたもの。
これから生まれてくる子供にあてたもの。
母に宛てたもの。そして恋人に宛てたもの。
飛行日誌もある。

泪で目が曇り、遺品の文字が読めなくなった。
かのんは、ハンカチで目頭をおさえた。
それでも、泪があふれた。
なにか稲妻のようなものが走った。
かのんはハンカチを目に当て、気持ちのしずまるのをまった。
ハンカチを胸までおろし、ガラスケースのなかに視線をすえた。


焦げた封筒だった。
封筒は、上の角口の三分の一が、なくなっていた。
斜め下にむかって焦げ目をつけている。
ごくふつうの茶封筒である。
残った下側の左半分に、文字が書かれていた。
『……の ん  さ ま』
まさか……。
封筒の真ん中に、ひらがなで書かれていた。
上側と右側の五分の二ほどがなくなっていた。
失せた部分には、宛先が書かれていたのか。

かのんは両手をつき、ケースのガラスに顔をつけた。
やはり『……の ん さ ま』とはっきり書かれている。
欠けた上の部分には『か』と書かれていたのだ。
これは、自分宛の手紙だ──。
わあっと叫びたかったが、拳固をにぎってこらえた。
かのんはあたりを見まわした。
館員らしき人の姿はなかった。

急いで封筒の下の説明書きを読んだ。
『この封筒は、東京上空でB-29に体当たりした戦闘機から落ちてきたものとして、東京の一市民が届けてきたものです。当館は、特攻隊員の貴重な遺品と判断し、展示保管しました』
かのんは、おおーと声をあげそうになった。
胸がふるえ、その場を動けなかった。
「どうしましたか?」
館内の客が、急病なのかと、と声をかけてきた。
「館員の方を呼んできていただけませんでしょうか」
かのんが胸をおさえ、苦しそうに応えた。
客は足音をたてて離れていった。

白い袴姿はかますがたの神職の館員があわててやってきた。
「どういたしましたか。だいじょうぶでしょうか」
かのんをのぞきこんだ。
「はい、だいじょうぶです。じつはこれ……」
かのんは、目の前のガラスケースを指差した。
「これ、たぶんわたし宛なんです」
「え?」
小さく声をあげ、神職さんが目を見はった。
そしてガラスケースに一歩みより、腰をかがめた。
「これ、あなた宛なのですか?」
神職さんはすぐに顔をあげた。
「はい。まちがいないとおもいます。わたしは小さいころから、『かのん』と呼ばれていました。子供のころのわたしは観音かんのんさまに似ていたので『かんのん』が、呼びやすいように、『かのん』になったんです。あのう、すみませんがこの茶封筒の裏側を見せていただけませんでしょうか。差出人の松井一郎伍長ごちょうの名前があるかも知れません」

神職さんは事務所に鍵をとりにいった。
すぐにもどってきて、ガラスケースを開けた。
茶色の封筒を白手袋でとりだし、裏をかえしてみた。
だが、封筒の裏側には、松井一郎伍長の名前もどんぐりさんの名前もなかった。
「なかの手紙はどうしたんでしょう?」
「なかったようですね。あれば貴重な記録になりますので、一緒に展示させてもらっています」
神職さんは、気の毒そうに眉をゆがめた。

「失礼ですがあなたのお名前は?」
あらたまって訊ねた。
「進藤春江ともうします。銀座で花屋をやっております。私たちは深川で育ちました。この手紙の主は少年航空兵で、わたしの幼馴染おさななじみで、婚約者でした。彼はB-29に体当たりしたパイロットなんです。彼は約束してくれたのです。もし出撃するときは空から手紙をくれるって。ですからもしかしたら、と思いついて、こちらにそういう手紙が届いているかもしれないと訪ねてみたのです。いままで、靖国神社にそういうものが保管されていることをわたしは知りませんでした」
「あなたのこちらの婚約者のかたは、どちらの部隊にいらしたのですか?」
神職さんはあらためて質問した。
「陸軍第十飛行師団で、帝都ていと防衛の調布244戦隊でした。三式の戦闘機、飛燕ひえんの操縦士でした」
「亡くなられた日にちは、おわかりでしょうか?」
「役所に届いていた公式の戦死は二十年の七月になっていました。でもわたしが目撃したのは、B-29が東京の深川を消滅させる三月十日の二日まえの三月八日だったと思います。真昼の戦闘でした」
「そのときは、一機だけだったんですか?」
「編隊を組んだ他の機は、ほかの進路からB-29に接近していたのかもしれません。でも、わたしには深川のわたしたちの家の上空を通過する戦闘機の雄姿しか目に映りませんでした」
神職さんは少々お待ちください、とふたたび姿を消した。


やがて抱えてきた厚紙の表紙の台帳のようなものをガラスケースの上に置き、ページをめくった。
「日付ははっきりしませんが、三月の大空襲の直前に拾ったことに間違いなさそうです。自分でもっているのもどうかと、五年まえにご寄付をいただいてます」
「手紙とかは入っていなかったんですか」
「なかったそうです。空中を舞っているとき、ばらけて風で飛んでいってしまったんではないでしょうか」
「そっちの手紙は、どこからも届いていないんですね」
「あれば一緒にここにならんで置かせてもらいます」

神職さんは残念そうに唇を噛んだ。
「ところで、このような身元不明の遺品が、自分の身内の者と関係あるのではないかと、ときどきやってくる方がいらっしゃいますので、念のためなのですが、あなたがこの封筒の主と知り合いだったというような、なにか証拠のようなものはお持ちでしょうか?」
神職さんが、慇懃いんぎんないいかたをした。
かのんは、手提げのなかから一通の書類をだした。
万が一、訊ねられるかもしれないと予測し、用意してきたものだった。
三月九日の夜、244戦隊に面会しにいったときに手渡された婚姻届の用紙と一通の手紙だった。

「これは婚姻届とその件について書いてある手紙です」
かのんは用紙と手紙をひろげた。
若い神職さんは手紙に目を通した。
そのあと、手紙に書かれた男性の文字を焦げている封筒の文字と見比べた。
「ここではなんですから、事務所のほうにおこしいただけますか」
かのんは、展示館の裏の事務所に案内された。

事務所の年配の神職さんと二人、焦げた封筒とかのんの手紙を見比べた。
「同じ人の文字みたいです。これは奇跡ですね」
年配の神職さんが声をあげた。
「実はあの展示品については、当方にも疑念がないでもありませんでした。しかし、調べてみますと、あの日あのとき、たしかに飛燕ひえんが飛んでいるんです。東京上空で、特攻隊員が体当たりをした事実があるんです。当時の状況をみなさんに知ってもらいたいがため、展示させていただいていました」
「お手数ですが、もう一度お話をおうかがわせていただけませんでしょうか」
年配の神職さんが改まった。
かのんは、公園で遊んだ幼馴染の時代から、最後に、空から手紙を書くと約束してくれたときまでの経緯いきさつを話した。

話し終えたとき、かのんはさっきから気になっていた質問をした。
「ところで、この手紙を届けてくれた方がどなたなのか、差し支えがなければ教えてほしのですが?」
年配の神職さんがうなずき、若い方の神職さんが台帳をのぞいた。
「田神新次郎さんとおっしゃって、靖国通りの坂を下った神田神保町で古書店を経営なさっていらっしゃる方です。いまも店はあると思いますが」
台帳の記録を目で追いながら答えた。
「会えるでしょうか」
かのんは、おうむ返しにきいた。
「電話でたしかめてみましょう」
年配の神職さんが答えた。
若い神職さんが奥のデスクの電話をとりあげた。
小声でやりとりをし、紙切れをかのんに手渡した。
「ぜひお会いしたいそうです」
紙切れには地図と店の名前と電話番号が書かれていた。


かのんは九段の坂をくだり、神保町じんぼうちょうの交差点をこえた。
大通りに面した歴史書専門の古書店だった。
「やあ、あなたですか」
靖国神社側から電話をもらった相手は、かのんを待っていた。
六十前後の頭の薄い男だった。

「封筒を拾っていただきまして、ありがとうございます。そのときは空から手紙をだすと本人が、言っていたのですが、いままでそんな事実はありえないと確かめもしなかったのです。でも、もしやと思いたち、靖国神社のほうに行ってみたのです。そうしたら、あったのです。あおの人の手紙を発見したのです。あの人は約束を守ってくれていたんです。おどろきました。まだ胸がどきどきしています。ありがとうございます」
かのんは頭をさげた。

「あれは飛燕ひえんだったね。見てたんですよ。勇ましかったなあ」
古書店のおじさんは腕を組み、顎をひねった。
「少年航空兵は、おいくつでしたか」
「十九歳でした」
「十九……か」
おじさんは息を止め、薄くなった頭を前から後ろになでた。
「うちのドラ息子にきかせてやりたい話だ」
おじさんは、椅子をすすめた。

「おれはね、神田の柳橋やなぎばしのところに立ってたんだよ。東京のあっちこっちがやられてね。とにかくB-29が昼間から堂々とやってきやがるし、日本はもうだめだって、正直そう思ってた。そうしたらどこからともなく、ふいに戦闘機があらわれたんだな。左右に羽根をゆらし、なにかに合図でもするかのように低空飛行をした。すると、そのままぐいぐい飛んで行って、低空飛行から急上昇して、一直線に猛然もうぜんとB-29つっこんでいった。反対方向も数機の戦闘機が見えたが、とにかく低空飛行の一機がいちばん乗りだった」
おじさんは、興奮してふうっと大きく息をついた。

「あんときは、みんな歓声をあげたよ。戦闘機は計算でもしていたかのようにぐんぐん一直線だった。ためらいもなく接近した。当たったと思った瞬間、ぱっと光った。でも、戦闘機は一瞬のうち東京の空に消えてしまってね。あとには翼から煙を吐いたB-29が、千葉の海のほうにゆるゆると飛んでいこうとしているだけだった。おれはね、そのB-29よりも、戦闘機はどこ消えてしまったんだろうって、いつまでも目で探してた」
おじさんは、本屋のコンクリートのや天井を見上げ、ぐるっと頭をふった。

「おれはおやじの代からの本屋やってたけど、戦争で東京が焼けるようになって、店は休業みたいになってた。だからなにもすることがないので、橋をわたって、土手の上にひっくり返って、悠然ゆうぜんと空見てた。みんな防空壕ぼうくごうかなんかに逃げて姿隠してたけど、おれはもうそんなところに潜りこんだってどうにもなるかって、ひらきなおってあの特攻の雄姿を目撃した。半分は唖然あぜんとしてぼんやりしてたかもしれないあな。そうして気がついたら、あの紙が落ちてきたってわけだ。とにかくなんにもない空からふってきたんだから、さっきの戦闘機からだろうかなっておれには考えた。そして落下しそうなほうに走りだした。隅田川の土手をはしって、町んなかの路、けんめいに駆けた。そうしてあの茶色の紙を拾ったんだよ。焦げあとのある封筒だった」
事務用のスチールのデスクで向かい合い、おじさんとかのんは互いにうなずいた。

背後には、店で売る古本が束になって積まれている。
「封筒には、三分の一ほど焦げて『……の ん さ ん』と書かれていたようだったけど、あなたの名前はなんというのですか」
「わたしは、子供のころから、かのんと呼ばれていました。本名は進藤春江といいます。仇名あだな許婚いいなずけがつけたです。じつは、いまもその名前を使っています」
「かのんさん、かあ」
「小さいころ、観音様かんのんさまみたいな顔つきだったので、そう呼ばれていたんです」

オカッパの頭を見、古書店のおやじさんは、ははん、と笑みをもらした。
「こんな手紙みたいの、もってたってしょうないから、何度も捨てちゃおうかなって思ったんだけど、夢中で両足動かして手に入れたものだったし、戦闘機から落ちてきた大事なものだって気がしたし、古書店の根性もあって紙切れ一枚が捨てられなかった。それである日、靖国神社にもっていって保存してもらうのがいちばんいいって気がついて、もっていったら、もしかしたらこれは貴重な遺品になるから預かるって係員の人が納得してくれてね。よかったよ。こうやって心当たりの人がでてきてくれたんだし。あれはやっぱりほんとうに、日本の戦闘機から落ちてきたんだなあ」
おじさんはうんうんとうなずき、目をしばたたいた。

「あのうそれで、中身の手紙のほうは、どこにもなかったんですか?」
じつはあったんだけど、どこかにいってしまってねえ、という話がきければと期待した。でもさっきからの話のとおり、おじさんは首をふった。
「衝突のときに機体が炎につつまれ、ついでに封筒も焼けて、口が開いてしまったんだろうなあ。なにしろ空からだったから、空中を漂っていて、とちゅうでばらけてしまったんだろうな。もしかしたら、おれと同じように手紙のほうを拾ったやつがどこかにいるかもしれないなあ」


かのんは新聞の片隅に、小さな広告をだした。
『昭和二十年三月八日、午前十一時ころ、東京上空に出撃したB-29に体当たりした日本の戦闘機が、空から私、『かのん』宛に手紙を落としました。封筒は届きましたが、なかに手紙が入っていませんでした。封筒が焦げ、口が開いてしまったため、なかの手紙は、風に流されたようです。二十二年前の古い話になりますが、もしその手紙を拾い、お手元にお持ちの方、あるいはそんな記憶がおありの方、またはお心当たりの方がございましたら是非ぜひ、下記ご連絡いただけませんでしょうか。
東京都中央区銀座三丁目 花屋店主 東毎新聞尋ね人欄気付 進藤春江』
あまりにも古い話だったから、拾ったという連絡がくるかどうか、自信はなかった。
その代わり、翌日の午後、記事を掲載した当の新聞社の記者が取材にきた。
中年の新聞記者は、すでに独自にいろいろ調べてきていた。
調布の244戦隊についてや、戦友と撮った出撃前の松井一郎伍長の写真などももっていた。

新聞記者は、すその長いトレンチコートを着、事前の電話もなく三坪の花屋に入ってきた。手伝いにきていた学校帰りの混血の花子の挨拶をうけ、ぐるうっと店内を一回りした。
「野の花が多いんですね。草の匂いがしてて、いいですね」
うれしそうに一人でつぶやいた。
花が好きなのだろうと、花子にもすぐに気づいた。
だが、花を買いにきた客ではなさそうだった。
「失礼ですが、ご主人はご在店でしょうか」
かのんは奥の作業台の花の山に隠れ、一抱えもありそうな祝いの花束と格闘していた。

記者は、花束の陰にいた女性をすぐに店主とみなした。
名刺を手に、おかっぱ頭のかのんに近づいた。
「うちの新聞の記事を読ませてもらいました。いま、外の公衆電話から文化部に問い合わせてみましたが、電話や午後に着いた郵便物のなかに、目的のものや、それに関するものはなかったそうです。一息ついたら、ちょっと取材をさせていただいてもよろしいでしょうか。あらためて記事を書いてみたいと考えているんです」
太い筒長の竹のおけに花をそろえ終えたかのんに、新聞記者は名刺をわたした。
「あらためて記事を書いてみるって、どういう意味なんでしょう」
かのんは名刺を覗くよりも先にきいた。
「座ってもよろしいですか」
新聞記者は、作業台の前の丸椅子にコートのまま腰をおろした。

側にいた花子が、雑巾で作業台と丸椅子をあわてて拭いた。
記者は、左手にもっていた茶色のB4の角封筒から、何枚かの写真をとりだした。
飛行第244戦隊基地や飛燕ひえんの写真、そして、かのんがおどろいたのは戦友と撮った出撃まえの松井一郎伍長の写真だった。
「どんぐりさん」
かのんは声をあげた。
とびつくようにその写真を手にした。
写真に顔を近づけ、すこし離し、そしてさらにのぞきこんだ。
「どこにあったんですか、この写真」
「244戦隊の戦友のあいだをまわって、お借りしてきました。あとで複写をしてさしあげます」

だが、さらにおどろいたのは、B-29に体当たりする瞬間の飛燕の写真があったことだった。
四角くて高いビルのはるか上空に、一機のB-29と、まめ粒のような戦闘機が写っていた。
「これは松井伍長の体当たりの瞬間なのですか?」
かのんは思わずきいていた。
翼をひろげたB-29に、下方から一機の戦闘機が、一筋の白い気流の線を描きながら、体当たりをしようとしているところだった。
「うちの社の屋上から撮影したものです。二十年三月八日午前十時半に出撃した調布の帝都防衛の飛行第244戦隊隊員の名前も、調べてわかりました。このなかには少年飛行兵出身の松井一郎伍長の名前もありました。撮影の日付からして、もしかしたら松井伍長かもしれません。はなやかなオリンピックも終わりました。いまの繁栄をほこる私たちは、このような歴史的事実を忘れてはならないのです。進藤さんを取材し、松井伍長との最後の約束の話などをうかがわせていただいて、あらためて記事にするつもりです。もしかしたらそれを読んで、手紙を拾った人がでてくるかもしれません」
                                                                  ●9章終

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