いつかまたおなじ空のしたで

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トゥルッポー、トゥルッポー
おひさまの光を目覚ましに鳥や動物たちが元気に動き始める。
木々は青く豊かに茂り、朝露にその葉をキラキラと輝かせている。
森がひらけると整地された道があり、その向こうには木々の倍程も高さのある城壁が姿を現す。
街ひとつをぐるりと囲む城壁。
等間隔毎の監視台があり、そこにはそれぞれ2つの大弓が設置され兵士が常に外側を監視している。
ここ、セレスティアナ王国を鉄壁のセレスティアナと言わしめた王国自慢の城壁だ。
様々な種族がくらしているこの大陸では、はるか昔から戦争が絶えなかった。
人族、獣人族、魔族、亜人、、
それぞれに主義主張を掲げ、自分たちの住む土地を広げ、資源を得るために争いあっていた。特に数の多い人族が他の種族に対して戦力でも圧倒し森を切り開き、前線城塞都市を築くに至っていた。
だか、セレスティアナの鉄壁完成と同じ頃、人族以外の種族に変化が訪れた。
魔王が誕生したのだ。
強大な魔力と知力そして洞察力をもつ魔王の誕生。
魔王によって束ねられた魔族たちは人族の侵攻を食い止めるどころかついにセレスティアナの鉄壁を崩すべく城塞都市の直前にまで迫っていた。
人族の国々は抵抗し、気が遠くなるほど長く争いは続いた。
長い争いの中で人族は徐々に勢力を削られついに魔族の爪がセレスティアナの城壁にかかるまでに追い詰められていた。
そんな時、魔王との直接交渉の末に停戦という形をもって戦争に区切りをつけたのが私たちの国セレスティアナ王国だった。
大陸のほぼ中央に位置し王城と中央市街を鉄壁に囲まれた王都セレスティアナ。
大陸を分断する線を引くかの如く各貴族たちがそれぞれの領地を持ち、それを決死の覚悟で守っていた。
人族の、文字通り「砦」として存在していたセレスティアナ。国王のモンドレイは魔王との交渉で停戦条約を結んだ。
モンドレイからの停戦内容としてまずははこうだった。
セレスティアナがどちらにも与せず、中立を保つ事。大陸を二分するほどの土地を事実上支配しているセレスティアナが中立となれば戦争の抑止には充分であった。
そのはずだった。
だが、魔王はそれだけでは納得しなかった。ツノがある、牙がある、羽根がある、自分たちとちがう、それだけで容赦なく他者を蹂躙してきたそんな人族に対してどんな条約もいつ反故にされてもおかしくない、そう思う魔王の考えは決して間違ってはいなかった。
ここで条約を締結しなくてはさらに戦争が続く、いずれこの大陸に流されるお互いの血を命を少しでも減らしたい、、
モンドレイは魔王に訴えた。
モンドレイが息を切らしカップのお茶に手を伸ばした時、それまでがんとして譲らなかった魔王がたまりかねて口をひらいた。
「妾から提案が、ひとつある」
モンドレイはごくりと息をのんで頷く。
「お前たち魔族となれ」
この「提案」にはモンドレイもさすがに顔をこわばらせた。
ここでいう「魔族」とは人族以外を指している。獣人や亜人、はては悪魔など言葉を扱えるならそれこそゴースト等も含まれている。
モンドレイは考えを巡らせた、、
魔王が自らの同胞として人族の砦たるセレスティアナの住民を迎えるというのか?、、
もしくは自ら魔族となってまで和平を望むなら停戦の申し出を受けるつもりなのか?、、、、、
しかし魔族となったセレスティアナの民はどうなる?
セレスティアナの民が魔族に変化したとして人族と交流する事が可能なのか?、、、
眉間に指をあてて思慮を巡らすモンドレイを見かねた魔王が続けた。
「自らが魔族となり、両種族の親交に努めよ」
モンドレイは、はっと顔を上げた。
魔王は更に続ける。
「転生に耐えられない応じられない民は、、それはそれで仕方ない」
さすがにモンドレイも困惑して答える。嫌なら別に構わない?魔王はそんな事で納得するのか?
震える声でモンドレイがため息混じりにこぼす。
「そんな事を言えば半数は拒む事になるだろう」
魔王はひとつ笑うとカップのお茶を飲み干して言った。
「国王も民も真に和平を望むなら、、戦争相手とはいえ、、しかしそれでも強者の提案にはのるものではないか?」
確かにそうだ。
「死ぬか」「生きるか」なら当然後者を選ぶ。だが今まで殺し合ってきた相手を同胞と認めるほど人族の心は強くない。
だがしかし、このまま戦争が続けばいずれ人族は滅びるだろう、、、
テーブルの端にある呼び鈴でメイドを呼び、魔王がお茶のおかわりを頼む。
入ってきたメイドはねこの獣人だ。メイドは恭しく頭を下げるとさがり、すぐにおかわりのお茶とお菓子を持って戻ってきた。
クッキーを齧ると魔王は改めてモンドレイに向き直り、そして言った。
「返答は3日後、この水晶に向かって話しかければ妾につながる」
進退極まったとはこの事だ、、こわばらせた身体を解すように首を鳴らしモンドレイは立ち上がった。
「了解した、3日後の正午までに答えを出すとしよう」
「いいだろう」
魔王は脚を組みかえて答える。そして続けた。
「妾たちとて無下に命を刈りたくはない、この会談が有意義な結果を結ぶ事をねがっているよ」
沈黙で返し、モンドレイはセレスティアナに戻った。
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