いつかまたおなじ空のしたで

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剣に手をのばしつかを握ると、とたんに炎が噴き出した。
「あっつ!?」
ガチャン!と音を立てて剣が石作りの床に転がる。つかには私の手の皮?がくっついてぷすぷすと燃えている。
ブキがあるのにつかめない??
でもさすが聖剣、人族の勇者の剣だ。魔族には握らせない、そういう風に出来てるんだろう。
でもでも、私はその聖剣に貫かれて連れてこられたんだ!
手を見たらもう火傷がほとんど治っている。
私のがまんが強いか、それとも剣の炎が強いか。
例えばそんな勝負なら、私はなにがあったって負けない!そんな気がして、私はもう1度剣に手をのばし、そして握った。
またも炎が噴き出すが私の再生能力のほうが1枚も2枚も上だ!
ざまあみろ聖剣!私に仕われて勇者の石像を切り壊すんだ!
「うーーぅえい!!」
ガキィン!
上段からの一撃を皮切りに、私のターンが始まった。
キィン!ガキュン!ギィン!ガキン!
お父さんとにーにーの稽古を思い出しながら私は剣を振るっていた。
16の型。
正眼に構えてから上段、袈裟斬り、切り返し、胴切り、突きなどを連続で繰り出す基本の型だ。
「ウェイ!」「ドゥエイ!」
にーにーの口ぐせが勝手に出てくる。足の運び、軸足の重心、手首の返し、肩や腰の回し方、、、こんな大変な事を毎日毎日やっていたのか、、、お父さんはもちろん、にーにーにも頭が上がらない、今更だけどそう思いながらひたすらに剣を振るって、、、
気がつけば私は一息で抜刀から納刀までが出来る様になっていた。
どのくらい切りつけていただろうか?
いつの間にか勢いよく吹き出していた炎は消えて、剣は大人しく私に握られていた。
足元にはなにかのかけらが散らばって細かな宝石をばら撒いたようにキラキラとその存在を主張している。
「ふぅ、はぁはぁ、、、」
肩で息をしながら勇者の石像を見上げた、なんと石像はびくともしていない。
えっ?
こっち聖剣だよ?
あんた石でしょう?
なんで砕けないの?
聖剣ってなまくらなの?
くたびれた私はもう1度手元の剣を見た。
なんと、時間も気にせず斬りつけ続けて気がつかなかったけど、、やっぱり刃が潰れてなまくらどころじゃなくなっている。これじゃあ鉄の板とおんなしだ。足元でキラキラしてるのは、欠けた聖剣のかけらだった。
きっとこの石像はどこか屋外でもに飾るつもりで硬化魔法とかそんなのがかけられてるんだ、、それならいくら聖剣だって刃が欠けちゃう、たぶん、、わかんないけど
でもでも悔しい!
あのアレスを模った物に髪の一筋ほどの傷もつけられないなんて。
このまま叩き続けたら、いつかもしかしたら、ひびの一つでも入れられるかもしれない。
それなら、いっそ豪華に装飾された柄のほうで叩きつければどうだろう?
思い立ったが吉日?だっけ?やってみよう!
切れないとはいえ、刃の方を持つのはちょっとドキドキするけど、なるべく力が入るように刃の先の方を持って、、、
「うーりゃー!」
ゴキン!
これはいい!いい音がする!よし!
「うーりゃー!」
ゴキキン!!この調子で!
「うーりゃー!」「おーりゃー!」
「うおーりゃー!!」「とぉーりゃー!!」
ゴキン!ガキュン!ゴキキン!ガキン!
「うおーりやあー!!!」
バキン!
えっ?変な音した?、、
夢中になって叩いていたけど、今バキンて、、、
勇者は、、、ちっとも壊れてない、やっぱりかくそう。
ていう事は、、、ちらっと剣に目を落とす。
ビシ、ビシ、、、
ささくれだった刀身を握る手にかすかに震える剣の動きが伝わってくる。
目をこらして見ると柄に着いた赤い宝石にヒビが入ってきて、、る?
ビシビシビシ、、
あっなんかやばい?
なんか赤い煙?みたいの出てきたし!
ビシ!パキン!!
赤い宝石がついに砕けてバラバラになって床に散らばった。
あー、、
私はぼんやりと、砕けて燃えてる?みたいなかけらを見つめた。
赤い煙みたいのがぶわっと広がって、離すこともできず私の手に握られたままの剣はといえば、金色の金属で出来ていた柄もサラサラと砂のように崩れ落ちて刀身を残すのみとなっていた。
力が抜けなくって開けない指を無理矢理広げて、握っていた今や成れの果てとなった聖剣を持ち直す。
赤い煙はしばらくゆらゆらと辺りをうかがうように漂ってから1箇所に集まって、人の形を作った。
ゴーストみたいなそれは次第に輪郭をはっきり現し始め、、
そしてやがて、とても懐かしい、可愛らしい姿を現した。
「魔王さま、、、?」
目の前の彼女がちょっとだけ眩しそうに眠たそうに目を開ける。
「ん、、、、」
間違いない、魔王さまだ。
屋台で買った肉まんを美味しそうに食べる人。
小さな子たちとかくれんぼして、ぴこぴこ動く羽根のせいですぐに見つかっちゃう人。
具合悪い人のところにはすぐに来て仕組みはわからないけどすぐに元気にしちゃう人。
連合国が何かをしてくれたかなんて知らない、聞いたこともない。
でも、魔王さまや王様がみんなにしてくれた事は、誰でも知ってる。
魔王さまだ。
でもでもなんで?私、剣の柄のほうで勇者ぶっとばして、、宝石がわれて、、、それで、
「魔王さま!」
こきこき首を鳴らして、そして私を見つめて、魔王さまは言った。
「レージュのうちの、、リーナ?」
「うん!魔王さま!」
とたん魔王さまは口に手をあてて、、顔を背ける。
「長らく誰も来なかっが、、勇者におしっこって、、リーナあなた、、くすくす」
えっは??なんで、、
「妾はな、その剣の宝玉に封印されていたのだよ、、まぁ、封印されても意識はあるし周りを伺うことはできたのだけれど、、」
「えっ?、、、じゃあいままでの??」
「ん、全部見せてもらっていたよ、、くすくす」
言いながら魔王さまはころころ笑う
えー!!めちゃくちゃに石像を叩きまくったのはともかくおしっこは、、、、、
真っ赤になっている私に魔王さまは続けた。
「それとねリーナ、これは本当に本物、勇者アレスだよ」
石像の、前に伸ばした手に触れながら魔王さまが言った。
は?石像じゃなくて?
「でもでも、石ですよ??」
私はもう頭回らなくてわかりきった事を口にした。
「そうだ、石化の永年作用の術式がほどこされているんだよ」
まじか!石化、、、人が石に?考えもしなかったよそんなの、、、
「しかも、この石化中にはな、意識はある」
えっえっ、?
「だから、、くすくす、、リーナが、、くすくす、、おしっ、くすくす、おしっ、くすくすくす」
さらに真っ赤になる私。
「もーいわないでー!かじりますよ!!」
相手が魔王さまってのも忘れてタメ口になる私。
「こわいこわい!勘弁してくれ!」
魔王さまは笑いながらイヤイヤのポーズをする。
「だめです!次言ったらかじります!」
私は、全身で激おこを表そうと思って腕を組んで仁王立ちをして見せた。
「わかったわかった、もう言わない。それと、魔王さまはやめてくれ」
えっ、魔王さまは魔王さまだし、、どうしたら、、、、
「忘れたか?ベアトリクスだ、トリスとよんでくれたら嬉しい」
たしかに魔王さまとしか呼んだ事なかった、、
「それと、敬語も必要ない、というか敬語は禁止だ」
は??困る困りますそれ!
「えっ、でも魔、、トリスさまそれはちょっと、、」
「トリスだ」
「あ、、、トリス、、」
「うむ、」
「わかり、、わかった」
「よし」
言うと、トリスは手をパンパンと叩き埃を払うしぐさをして身なりを確認する。
そして右手を差し出して言った。
「これからよろしくな、リーナ」
恐る恐る手を差し出すと、遅い!と言わんばかりにぎゅっと手を掴まれた。
「よろしく、、トリス」
こうして、魔王さま改め、トリスと私の旅が始まったのだった。
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