いつかまたおなじ空のしたで

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「命の惜しい者は去れ!」
トリスは言い放つと私たちの周りに小さな魔法陣をいくつも作り出した。その魔法陣からはいくつもの黒いトゲのようなものが顔をのぞかせて今にも発射されそうだ。
「先に進ませるな!」
兵士の隊長だろうか?1人だけ兜をかぶった男が命令を出している。だが矢が届かないのを見て次の矢を番える部下は少ない。
兵士達が牽制する中私たちはさらに進む。
扉にさしかかると、バリアーが触れた所からサラサラと砂のように崩れていって、、扉をくぐる頃には私たちが通った場所は丸くくり抜かれたようになくなっていた。
「さっきも、これ使ったら良かったんじゃない?」
私は素直な感想をのべた。
ふと足を止めて視線を泳がせるとトリスが言った。
「、、、確かにな」
言い聞かせるように呟くとまた歩き始める。
えっ、、トリス、ちょっと天然?
開発局に入ると、職員は皆驚いた顔でうろうろしている。
もう一度トリスが言う。
「命が惜しい者は去れ!」
さすがに建物への入り方と私たちの周りの魔法陣を見て状況を判断したらしい。我先にと皆手にものもとりあえず走り去っていく。
地下4階まであるこの施設は地下に下りるにしたがって実験の危険度が上がる。
私がいたのはレベル3。兵器への転用が可能と判断されたなら、私はレベル4の実験施設に連れていかれていた事だろう。
「同胞の気配がある、、、」
やっぱりまだ仲間が、、実験という名目で痛めつけられながら、いつ終わるともわからない苦痛の中にいる、、、、、
「助けよう!!」
「だがこの反応は、、皆もう魂があるべき形にない。このまま生きながらえても苦痛しかあるまい」
トリスが口惜しげにこぼす。
「お、、おおお、、」
突然暗がりから声が聞こえた。
現れたのは薄汚い白衣を着た白髪の男だった。
「おお、、」
思わず私は持ってきた聖剣(見る影もない)を構える。
白衣の男は、容貌に似合わない少年のような眼差しで私を見ている。
「今も変わらず美しい、、」
は?きも、、、なにこいつ
「憶えていないのも無理はない、、私はあの頃目立たなかっただろうからね、、」
え?あの頃?なに言って、、
「私はね、君の実験グループの末端にいたんだよ、さぁこっちに来たまえ」
トリスと顔を見合わせて、私は男が手招きする一画に進んだ。
「研究が中断されてからも私は諦めなかった!君を複製し!バンパイヤと人間との交配を実現する!そのために人生を費やしてきた!私自らをも肉体に改造に改造を重ねて、既に元々の私たる部分など脳と少しの神経組織くらいのものだろうね、ふふふ、、」
たしかにこの人、体のバランス?がちょっとおかしい。腕が片方づつ長さが違うし足も体の割に短いような気がする。

案内された部屋は、、部屋なんてものじゃ無い。レベル3フロアー丸々ひとつ分程の広い実験施設がそこにはあった。
そして壁際にはずらりと円筒状の水槽が並び、私っぽいなにかが液体の中にたゆたっている。 
凝視する私に男は説明した。
「あー、それらは失敗作だよ。複製段階で細胞の再生機能にエラーが出てね、死んでしまった」
これ、やっぱり私なんだ、、
え、でも、、死んでしまった?失敗って、、これ全部??
なに?私を作って?だけど死んで?
こんなにたくさんの私が??
頭がぐるぐるして、目の前がぼやけ始めてきた時に男が声をはりあげた。
「だが見たまえ!これはちがう!」
男が両手を広げて誇らしげに言いながらさし示す。
私とトリスは示されるまま顔を向けた。
男が指し示した手術台には、まだ生きた私が横たえられている。
しかもお腹が大きい、、、
「見たまえ、、君と私のハイブリッドの誕生だ!」
横たわる私には腕も足もない。いや、あった跡がある、、、
かろうじて首だけ動かせるもう1人の私が、なにか言いたげにくちをぱくぱくさせている。
「ん?珍しいな、お喋りしたいのかね?」
男が口元に耳を近づけ、、そして笑いだした。
「ふふふ、はははは!殺して?殺してほしいのかね?」
、、、、なんて、ひどい、、
目の前が赤い。
頭がざわざわして、耳鳴りがうるさい!
自分の中を血が流れる音が頭に響く。
「お前はこれから母となるのだよ!私と!バンパイヤの交配による新人類のね!ふふふ、、ふはははは!」
「ドゥゥッ!ウェーイ!」
無意識に、私は目の前の白衣の男を細切れにしていた。
血飛沫の中に、さっきまで嬉々として自分の実験を自慢していた男のかけらたちが散らばった。
足下に散らばるかけら達から流れてくる液体から逃げるように私は少しだけ後ずさった。
これでもう嫌な事を聞かされることはない。
気がつくとざわざわが収まって、自分を見つめる視線に気がついた。
それは手術台の上の、もう1人の私だった。
がんばって首だけを動かして、私を見つめる目。その目と目が合った、そして苦しそうに微笑むと、もう1人の私はこくりとうなづいた。
私も、がんばってにっこり笑いながらうなづいた。
そして剣をしまうと、ひとつ深呼吸をして言った。
「トリス。みんなを、楽にしてあげて」
トリスが両手を広げ、そして上に向けた。
魔法陣から七色の光がが周りに放たれ突き刺さる。光が刺さったところから光の粒が瞬き、瞬き終わると砂のようにくずれ落ちで行く。
見つめ合う私と私。
私は、もう1人の私が光の粒になるまでがんばって笑顔で、、、いられなかった、ぼろぼろに泣いていた。
トリスが歌い始める。私たちの足元に魔法陣が形作られて、やがて大きくなってフロアーを包んだ。そして一瞬白く光ると、、その跡には何も無かった。
大きな、落ちたら間違いなく死んでしまいそうに深い穴がそこには空いているだけだった。
これで技術開発局はおしまいだ、レベル3から地下にこれほど深く抉られたのだ。
もしこの施設がレベル10まであったとしても全て無くなっているだろう。
奈落を確認する様にトリスは一瞥やると、私と目を合わせず施設の外へ続く通路へ歩き出した。私も慌ててあとを追う。
私達が地上まで出てくると、周りの兵士たちは逃げ出したらしく、兜をかぶった男はその場で気を失っている。
「あそこか、、」
周りを見回していたトリスがぽそりと言う。
「なに?」
涙を拭うのも忘れて私はトリスを見上げる
「取り返しておきたい物がある」
トリスは背中を向けたままだ。
「そうなんだ、、はやく取り返しに行こうよ!」
ぐっと涙を拭うと、私は出来るだけしっかりと言葉にして言った。
「そうだな、長居は気分の良い場所ではないしな」
「うん、、、」
私はなおも溢れる涙を拭うと彼女の手を握り直して頷いた。
もうあんなのはいやだ。

トリスは相変わらず壁に穴を開けながら城の中を進んでいく。
地中なのかわからないけど、、真っ暗でちょっと怖いな。そんな事を考えていると明るい場所に着いた。
キラキラと輝く黄金、よくわからない彫刻や絵画、勇者と一緒にあった聖剣みたいな剣もある。
宝物殿、こういう場所をそんなふうに呼ぶんだろうと思う。
開発局を消し去ってから私たちは地下を進み続けこの場所に来ていた。
づっと手を離さずにいてくれたのは嬉しかった。私1人だったら、歩けたかすらわからない。
私がぼんやり見回していると、トリスはたくさんの棚の隙間へそそくさと入って行った。
私はというと、剣のコーナーにあった伸び縮みする杖?が気に入って伸ばしたり縮めたりしていた。
トリスは一度周りを見回ると顎に手を当てて何か思い悩んでいる様子だ。
「どうしたの?」
「、、、乱雑に置かれていて、なにが何処にあるかわからぬ、、、」
は?わりと整理されてない?絵のコーナー、ブキのコーナー、何かわからないけど魔法具のコーナー、、
「じゃあ、、、全部持っていけば良いんじゃない?」
トリスが目を丸くしている。
だって、ここにあるならみんな持っていって、時間ある時に探したら良いよね?
「ぷはっ!あっはっはっはっ!」
なんだか豪快に笑うトリス、、
「え?なんか変な事いった?私、、」
「リーナ、、頭が良いな」
言うが早いか、トリスが手を振ると宝物殿の床が奈落の如く漆黒に染まり、音もなく部屋の物全てが吸い込まれた。
「よし」
トリスは一仕事終わったかのように首を鳴らす。すごい、何も無くなった部屋の大きさといったらもし誰かが1番奥にいたなら顔の判別も難しいほどだ。トリスの次元収納はこの部屋の荷物を全部仕舞ってしまったのだ。
「行こうか」
彼女は振り返って言うと、また私の手を取って、きた道を歩き始めた。
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