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24話 表裏
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キルクスを撃退したあと、そのまま野営をすることにした。
周囲も暗くなっていたし、これからまた馬に乗って移動しようという気にならなかったからだ。
「いやぁ、それにしてもさっきはビックリしましたね」
夕食のシチューをパンに浸しながらロッカが呟いた。
極めて明るい口調なのは、重苦しい空気にしないためだろう。
「そうだな。あいつは騙り部とかいうやつに監視を頼まれていたと言っていたな。ロッカはそいつを知っているか?」
「いえ、知らない名前……いや、二つ名でしょうか。もしかしたらジョブの名称かもしれませんね」
「だとしたら聞いたことないから十中八九、ユニークジョブだろうな」
ユニークジョブといえば……。
ロッカが魔工技士。
俺が魔銃士。
さっきのキルクスってヤツが魔獣使い。
それから——騙り部。
非常に珍しいはずのユニークジョブ持ちがなんでこうも近くにいるんだろうか。
なんだか作為的なものを感じざるを得ない。
「あとこうも言ってましたよ。『キミたちの歩く道は、もう全部読まれてるんだからサ』って」
「読まれているっていうのも気持ち悪い表現だよな」
「未来を読まれているって素直に受け取ればいいんですかね?」
未来を読まれている……本当にそんなことがあるんだろうか。
俺がパーティをクビになるのも、ロッカと会うのも、ティアが拐われたのもあらかじめ分かっていたのか。
「こうやってティアローズさんを追って王都へ行くことも読まれていた……とか?」
そんなのまるで騙り部とかいうやつの手のひらの上で踊っているようなもんじゃないか。
「いや待てよ……もし全ての未来が読めるんだとしたら、キルクスが俺たちを監視する必要はないはずだ」
「確かにそうですね。じゃあ未来が読めるわけじゃないのかもしれませんね」
「それか俺たちの選択次第で未来なんか変わるってことかもしれないな」
「わぁ、ヴェインさんってば案外ロマンチストですね」
そう言ってロッカが笑うから、なんだか急に恥ずかしくなった。
うるせぇと一言だけ呟くと、腕を枕にして横になる。
こうして見上げると星が綺麗だなぁなんて言ったらまた馬鹿にされる気がするから、思うだけにしておく。
次の日からは夜をちゃんと宿場町で過ごしながら進んだので、特に大きな問題なく王都へ辿り着いた。
ひとつ問題があったとすれば、尻が痛いとロッカが泣き言を言っていたくらいか。
恥ずかしかったのか「あ、あそこが痛くて……」とか言っていたからどこかと思って焦ったもんだ。
「よし、やっと王都が見えてきたな」
「お城も大きいですけど、大神殿はいつ見ても凄いですね」
確かに霞がかるほどの距離にあるのに、大神殿はなお大きく見える。
それこそさらに奥にそびえる王城と大差ないくらいの威容だ。
ルティアス大神殿——あそこへ行けば恐らくティアの居場所が分かるはず。
つまり俺たちの目的地ってことだ。
「ロッカは王都に来たことがあるのか?」
「はいっ! リーンベルへ行く途中にも寄りましたからね」
そういえばロッカはメリディアから来たんだったか。
あそこはリーンベルと王都のちょうど真反対だからそりゃ通るか。
「じゃあ案内は頼むぞ」
「ヴェインさんは来たことないんですか?」
「来たことはあるが……一回だけなんだ」
それも一日の滞在だったから、初めてみたいなもんだ。
王都とはいっても大抵の人にとってはそんなもんだろう。
「じゃあこの前見つけたおいしいスイーツのお店、紹介しちゃいます!」
「スイーツかよ。酒がよかったな……」
そんな文句ともいえない文句を垂れつつも、なんだか少し心を躍らせながら街へ続く街道を駆けた。
§§
——数日前。
厚い帳を下ろした部屋の中、黒檀のテーブルを囲む三人がいた。
「で、首尾はどうだ?」
「予定通り古代遺跡は開かれましたんで、ちゃんと取ってきましたよ」
右目にモノクルを付けた学者風の男——レーナーは、金属の箱をテーブルに置いた。
手入れが行き届いているはずのそのテーブルは、思いがけず乗せられたその重量に思わずぎしりと軋む。
「それは重畳」
箱を開けて、中身を確認した男は薄く頷いた。
「しかしですねぇ……聞いていた話と違いましたよ?」
レーナーと対峙する男の眉がぴくりと動いた。
「違った、だと?」
「ええ、僕が着いたときにはもう遺跡の守護者が既に倒されていました。あれを倒すために五人も精鋭を連れて行ったんですが」
「既に倒されていた……」
男は黒檀のテーブルを指先でトントンと忙しなく叩く。
これは考え事をするときの男の癖だった。
「そこで圧死している予定の男もピンピンしていましたし」
「……おい聞いたかババア。あの魔工技士の女を魔獣使いのガキに見張らせておけ」
「はぁ、まったくアンタは口が悪いね。それに私はアンタの小間使いじゃないんだよ」
「……さっさと行け」
ババアと呼ばれた女は溜息をつくと、肩をすくめて部屋を出ていった。
「いいんですか? 彼女に離反されても」
「大事なことは大方調べ終わっているからな。残っているのはあいつの力を頼るまでもない些末なことだ」
「でもその些末なことが気になるから監視なんてつけるんでしょうに」
男は苛立った様子で、レーナーを鋭く睨みつける。
「ああ、怖い怖い。その眼で見ないでくださいよ……まだ仲間でしょう?」
「ふん、この風見鶏が」
罵られたはずのレーナーはおかしそうにくつくつと笑った。
「自分の利益を最大にしようとするのは合理的でしょう」
「それも過去からの知恵か? 神智学者」
「ただの普遍的な真理ですよ——騙り部」
周囲も暗くなっていたし、これからまた馬に乗って移動しようという気にならなかったからだ。
「いやぁ、それにしてもさっきはビックリしましたね」
夕食のシチューをパンに浸しながらロッカが呟いた。
極めて明るい口調なのは、重苦しい空気にしないためだろう。
「そうだな。あいつは騙り部とかいうやつに監視を頼まれていたと言っていたな。ロッカはそいつを知っているか?」
「いえ、知らない名前……いや、二つ名でしょうか。もしかしたらジョブの名称かもしれませんね」
「だとしたら聞いたことないから十中八九、ユニークジョブだろうな」
ユニークジョブといえば……。
ロッカが魔工技士。
俺が魔銃士。
さっきのキルクスってヤツが魔獣使い。
それから——騙り部。
非常に珍しいはずのユニークジョブ持ちがなんでこうも近くにいるんだろうか。
なんだか作為的なものを感じざるを得ない。
「あとこうも言ってましたよ。『キミたちの歩く道は、もう全部読まれてるんだからサ』って」
「読まれているっていうのも気持ち悪い表現だよな」
「未来を読まれているって素直に受け取ればいいんですかね?」
未来を読まれている……本当にそんなことがあるんだろうか。
俺がパーティをクビになるのも、ロッカと会うのも、ティアが拐われたのもあらかじめ分かっていたのか。
「こうやってティアローズさんを追って王都へ行くことも読まれていた……とか?」
そんなのまるで騙り部とかいうやつの手のひらの上で踊っているようなもんじゃないか。
「いや待てよ……もし全ての未来が読めるんだとしたら、キルクスが俺たちを監視する必要はないはずだ」
「確かにそうですね。じゃあ未来が読めるわけじゃないのかもしれませんね」
「それか俺たちの選択次第で未来なんか変わるってことかもしれないな」
「わぁ、ヴェインさんってば案外ロマンチストですね」
そう言ってロッカが笑うから、なんだか急に恥ずかしくなった。
うるせぇと一言だけ呟くと、腕を枕にして横になる。
こうして見上げると星が綺麗だなぁなんて言ったらまた馬鹿にされる気がするから、思うだけにしておく。
次の日からは夜をちゃんと宿場町で過ごしながら進んだので、特に大きな問題なく王都へ辿り着いた。
ひとつ問題があったとすれば、尻が痛いとロッカが泣き言を言っていたくらいか。
恥ずかしかったのか「あ、あそこが痛くて……」とか言っていたからどこかと思って焦ったもんだ。
「よし、やっと王都が見えてきたな」
「お城も大きいですけど、大神殿はいつ見ても凄いですね」
確かに霞がかるほどの距離にあるのに、大神殿はなお大きく見える。
それこそさらに奥にそびえる王城と大差ないくらいの威容だ。
ルティアス大神殿——あそこへ行けば恐らくティアの居場所が分かるはず。
つまり俺たちの目的地ってことだ。
「ロッカは王都に来たことがあるのか?」
「はいっ! リーンベルへ行く途中にも寄りましたからね」
そういえばロッカはメリディアから来たんだったか。
あそこはリーンベルと王都のちょうど真反対だからそりゃ通るか。
「じゃあ案内は頼むぞ」
「ヴェインさんは来たことないんですか?」
「来たことはあるが……一回だけなんだ」
それも一日の滞在だったから、初めてみたいなもんだ。
王都とはいっても大抵の人にとってはそんなもんだろう。
「じゃあこの前見つけたおいしいスイーツのお店、紹介しちゃいます!」
「スイーツかよ。酒がよかったな……」
そんな文句ともいえない文句を垂れつつも、なんだか少し心を躍らせながら街へ続く街道を駆けた。
§§
——数日前。
厚い帳を下ろした部屋の中、黒檀のテーブルを囲む三人がいた。
「で、首尾はどうだ?」
「予定通り古代遺跡は開かれましたんで、ちゃんと取ってきましたよ」
右目にモノクルを付けた学者風の男——レーナーは、金属の箱をテーブルに置いた。
手入れが行き届いているはずのそのテーブルは、思いがけず乗せられたその重量に思わずぎしりと軋む。
「それは重畳」
箱を開けて、中身を確認した男は薄く頷いた。
「しかしですねぇ……聞いていた話と違いましたよ?」
レーナーと対峙する男の眉がぴくりと動いた。
「違った、だと?」
「ええ、僕が着いたときにはもう遺跡の守護者が既に倒されていました。あれを倒すために五人も精鋭を連れて行ったんですが」
「既に倒されていた……」
男は黒檀のテーブルを指先でトントンと忙しなく叩く。
これは考え事をするときの男の癖だった。
「そこで圧死している予定の男もピンピンしていましたし」
「……おい聞いたかババア。あの魔工技士の女を魔獣使いのガキに見張らせておけ」
「はぁ、まったくアンタは口が悪いね。それに私はアンタの小間使いじゃないんだよ」
「……さっさと行け」
ババアと呼ばれた女は溜息をつくと、肩をすくめて部屋を出ていった。
「いいんですか? 彼女に離反されても」
「大事なことは大方調べ終わっているからな。残っているのはあいつの力を頼るまでもない些末なことだ」
「でもその些末なことが気になるから監視なんてつけるんでしょうに」
男は苛立った様子で、レーナーを鋭く睨みつける。
「ああ、怖い怖い。その眼で見ないでくださいよ……まだ仲間でしょう?」
「ふん、この風見鶏が」
罵られたはずのレーナーはおかしそうにくつくつと笑った。
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