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読書家シュゼットの場合。
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シュゼット・ファウストは、グラジオラス辺境伯領にある図書館の管理者の娘として生まれた。母は元司書で、両親共に読書好きだった為、シュゼットは生まれる前から本に囲まれていたと言える。
生まれる前から本に囲まれ、シュゼットが生まれてからは、毎日毎日本を読み聞かせられていた。優しく、おっとりとした穏やかな母の声が。
オモチャを与えられるよりも前から絵本を与えられ、本を大切にすることを教えられて育った。
シュゼットの母は優秀な人で、近隣の国の言葉を解し、外国の本も読み聞かせてくれた。
悪いドラゴンが聖なるドラゴンに退治される話。白鳥になる呪いを掛けられた姫が呪いを打ち破る話。人間に知恵を授けるドラゴンの話。遠い異国の冒険譚。可愛らしくてイタズラ好きな妖精や小人達の話。意地悪なドラゴンの話などを毎日・・・
そんなある日、シュゼットの母は交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
当時四歳程だったシュゼットには、母親がいなくなった理由がわからなかった。
母が急に姿を消して寂しかったシュゼットは、本棚から本を引っ張り出して広げた。母が、いつものように読み聞かせてくれることを待って・・・
けれど、本を広げて幾ら待っても、母はシュゼットの下へ現れてはくれなかった。
見兼ねた侍女が「読んで差し上げましょうか? お嬢様」と言ったが、シュゼットは首を振った。シュゼットは、母を待っていたのだから・・・
そして、じっと本を見詰めていたシュゼットは、思い出した。「シュゼットちゃん、早く自分で本を読めるようになりましょうね。そうすれば、きっと今より、もっともっと本が大好きになりますよ」と、本を読み聞かせながら優しく微笑んで母が言っていたことを。
母はきっと、自分が既に単語だけでなく、文章を読めることを知っていたに違いない。
単語を読むと、「シュゼットちゃんは賢いですね。すごいですよ。偉いです」と誉めてくれた母。
だからきっと、「今度は、シュゼットちゃんが自分一人で読んでご覧なさい」ということなのだ。
そう思ったシュゼットは、本を読んだ。母が読んでくれた本を、一人で読み切った。
もう少し大きくなってから、と部屋にあった少し難しい本を一人で読んだ。
そうして、部屋に置いてあった本をどんどん読んで行き、とうとう全てを読んでしまった。
けれど、母は現れてくれなかった。
それでもシュゼットは、本を開き続けた。朝から晩まで、一日中ずっと。
そうやって、母が現れるのを待ち続けて本を読むシュゼットを不憫に思った父は、シュゼットを図書館へと連れて行くことにした。
幸いなことに、シュゼットはずっと本ばかり読んでいて、とても物静かな子供だったので、父の業務の邪魔にはならなかったから・・・
父に連れられ図書館で過ごすようになったシュゼットは、次第に本へとのめり込んだ。
本を読んで、文字を追っていると、時間を忘れた。その間は、母がいなくても寂しくなかったから。
朝から晩まで図書館で過ごすシュゼットには、本を読む時間がたっぷりとあった。
小さな身体で、ずらりと並ぶ本棚から本を引っ張り出し、時には大人に本を取ってもらいながら、片っ端から本を読んで行き、五歳の半分を過ぎる頃には、図書館に置いてある閲覧に指定の入る本以外を、おおよそ読んでしまった。
この時点ではまだ、シュゼットがちゃんと本を読んでいることに気付いた大人が、どれだけいたのかはわからないけれど・・・
そうやって、いつものように図書館で本を読んでいたある日のことだった。
図書館に、どこか浮世離れした妙齢の女性が、とても旧い本を持ってやって来たのは。
シュゼットは最初、その女性に全く気付かず、黙々と本を読んでいた。
けれど、その女性がシュゼットに気付いた。小さな手で大きくて重く、古い本の厚いページを捲り、藍色の瞳がその文字を追っていたことに。
「あらあら、それはもしかして・・・古代文字ではありませんか! 驚きましたわ。お嬢さんは、そんなに旧い言葉が読めるのですか?」
声を掛けた女性に気付かず、シュゼットは大きな本から顔を上げることもなかった。
「まあまあ、凄い集中力ですこと。小さなお嬢さんは、とても勉強家なのね。ごめんなさいね? お邪魔するつもりは無いのですよ」
女性は気を悪くした様子もなく、微笑ましいという視線をシュゼットへ向けた。
「失礼しますね」
そして女性は、シュゼットの隣に並んで座り、旧い本を広げたのだった。
「・・・やっぱり、難しいですわ」
暫くして、溜め息混じりの呟きが落ちる。
旧い本を広げたはいいが、そこに記されている言葉はとても旧く、辞書や参考文献を捲りながらでも、その意味を読み取ることがとても難しい。
「・・・じゃりゅうに、ついて?」
ぽつんと、小さな声が読み上げた。
「え? お嬢さん、これが読めますの?」
驚いた女性が、文字を読み上げた小さな女の子へと視線を向ける。
「とびとび、ですが。読める部分はあります。古代文字のくずし文字と、しんせー言語がまざってます。しんせー言語は、むずかしいです」
「まあまあっ、素晴らしいことですわ! では、読める部分の意味だけでも教えてくださいな」
「わかりました」
わからない単語があって飛び飛びではあるが、シュゼットは一生懸命に書いてある文字を読んだ。
その内容は・・・
生まれる前から本に囲まれ、シュゼットが生まれてからは、毎日毎日本を読み聞かせられていた。優しく、おっとりとした穏やかな母の声が。
オモチャを与えられるよりも前から絵本を与えられ、本を大切にすることを教えられて育った。
シュゼットの母は優秀な人で、近隣の国の言葉を解し、外国の本も読み聞かせてくれた。
悪いドラゴンが聖なるドラゴンに退治される話。白鳥になる呪いを掛けられた姫が呪いを打ち破る話。人間に知恵を授けるドラゴンの話。遠い異国の冒険譚。可愛らしくてイタズラ好きな妖精や小人達の話。意地悪なドラゴンの話などを毎日・・・
そんなある日、シュゼットの母は交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
当時四歳程だったシュゼットには、母親がいなくなった理由がわからなかった。
母が急に姿を消して寂しかったシュゼットは、本棚から本を引っ張り出して広げた。母が、いつものように読み聞かせてくれることを待って・・・
けれど、本を広げて幾ら待っても、母はシュゼットの下へ現れてはくれなかった。
見兼ねた侍女が「読んで差し上げましょうか? お嬢様」と言ったが、シュゼットは首を振った。シュゼットは、母を待っていたのだから・・・
そして、じっと本を見詰めていたシュゼットは、思い出した。「シュゼットちゃん、早く自分で本を読めるようになりましょうね。そうすれば、きっと今より、もっともっと本が大好きになりますよ」と、本を読み聞かせながら優しく微笑んで母が言っていたことを。
母はきっと、自分が既に単語だけでなく、文章を読めることを知っていたに違いない。
単語を読むと、「シュゼットちゃんは賢いですね。すごいですよ。偉いです」と誉めてくれた母。
だからきっと、「今度は、シュゼットちゃんが自分一人で読んでご覧なさい」ということなのだ。
そう思ったシュゼットは、本を読んだ。母が読んでくれた本を、一人で読み切った。
もう少し大きくなってから、と部屋にあった少し難しい本を一人で読んだ。
そうして、部屋に置いてあった本をどんどん読んで行き、とうとう全てを読んでしまった。
けれど、母は現れてくれなかった。
それでもシュゼットは、本を開き続けた。朝から晩まで、一日中ずっと。
そうやって、母が現れるのを待ち続けて本を読むシュゼットを不憫に思った父は、シュゼットを図書館へと連れて行くことにした。
幸いなことに、シュゼットはずっと本ばかり読んでいて、とても物静かな子供だったので、父の業務の邪魔にはならなかったから・・・
父に連れられ図書館で過ごすようになったシュゼットは、次第に本へとのめり込んだ。
本を読んで、文字を追っていると、時間を忘れた。その間は、母がいなくても寂しくなかったから。
朝から晩まで図書館で過ごすシュゼットには、本を読む時間がたっぷりとあった。
小さな身体で、ずらりと並ぶ本棚から本を引っ張り出し、時には大人に本を取ってもらいながら、片っ端から本を読んで行き、五歳の半分を過ぎる頃には、図書館に置いてある閲覧に指定の入る本以外を、おおよそ読んでしまった。
この時点ではまだ、シュゼットがちゃんと本を読んでいることに気付いた大人が、どれだけいたのかはわからないけれど・・・
そうやって、いつものように図書館で本を読んでいたある日のことだった。
図書館に、どこか浮世離れした妙齢の女性が、とても旧い本を持ってやって来たのは。
シュゼットは最初、その女性に全く気付かず、黙々と本を読んでいた。
けれど、その女性がシュゼットに気付いた。小さな手で大きくて重く、古い本の厚いページを捲り、藍色の瞳がその文字を追っていたことに。
「あらあら、それはもしかして・・・古代文字ではありませんか! 驚きましたわ。お嬢さんは、そんなに旧い言葉が読めるのですか?」
声を掛けた女性に気付かず、シュゼットは大きな本から顔を上げることもなかった。
「まあまあ、凄い集中力ですこと。小さなお嬢さんは、とても勉強家なのね。ごめんなさいね? お邪魔するつもりは無いのですよ」
女性は気を悪くした様子もなく、微笑ましいという視線をシュゼットへ向けた。
「失礼しますね」
そして女性は、シュゼットの隣に並んで座り、旧い本を広げたのだった。
「・・・やっぱり、難しいですわ」
暫くして、溜め息混じりの呟きが落ちる。
旧い本を広げたはいいが、そこに記されている言葉はとても旧く、辞書や参考文献を捲りながらでも、その意味を読み取ることがとても難しい。
「・・・じゃりゅうに、ついて?」
ぽつんと、小さな声が読み上げた。
「え? お嬢さん、これが読めますの?」
驚いた女性が、文字を読み上げた小さな女の子へと視線を向ける。
「とびとび、ですが。読める部分はあります。古代文字のくずし文字と、しんせー言語がまざってます。しんせー言語は、むずかしいです」
「まあまあっ、素晴らしいことですわ! では、読める部分の意味だけでも教えてくださいな」
「わかりました」
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