2 / 179
ヴァンパイア編。
2.可愛い顔でなかなか辛辣な口だ。
しおりを挟む
ということで、荷物をまとめてやって来たのは実家から程よく離れた港街。
活気があって実にいい。
とりあえず、当面の資金調達だな。
一応、手持ちの荷物だけでも一財産にはなる。しかし、放浪するのもそれなりに金がかかる。
ビンゴブックをぱらぱらと捲る。ビンゴブックというのは、要は賞金首の載った手配書のことだ。
オレの育った家。エレイスは、父上御用達の便利屋。要人警護からパシリまで、様々な仕事をこなす。例えば・・・敵対勢力の暗殺から、隠し子の養育なんかもね?
父上は高位の貴族だけあって、敵もそれなり…いや、かなり多い。暗殺やそれに類するきな臭い話は常にごろごろしている。実際、オレの養育というのも、護衛兼教育だし。
そういう家で育ったから、護身術はそれなりに仕込まれている。まあ、オレが仕込まれているのは、あくまでも護身術と逃げ足で、さすがに本職の暗殺者や戦士なんかには敵わないが…一応、負けもしない。逃げるだけなら、ある程度は余裕だ。
活気があって人の多い港街には、それなりに犯罪も起こる。
詐欺師…は微妙だな。どうせ狙うなら、強盗や殺人犯、暴漢辺りを減らす方がいいだろう。治安への貢献にもなるし、判り易くて見付け易い。
そんなことを考えながら歩いていると、可愛い子がチンピラ的な男共に絡まれているのを見付けた。短いふわふわの明るい茶髪とターコイズブルーの瞳。
「よう、嬢ちゃん。俺らに付き合えよ」
昼日中から下卑た視線と目的を隠そうともせず、可愛い子の腕を掴む。全く、大通りでよくやるものだ。
「ちょっと、離せってばっ!? 汚い手で触るなっ!? っていうか、さっきから言ってるだろ! 僕は女の子じゃないってさっ!? アンタら、顔どころか頭も、オマケに耳まで悪いワケっ! いい加減にしてよねっ!」
なかなかいい啖呵を切る。確かに、格好は男の子で胸もペタンコ。けど、それが馬鹿共に通じるか…
「ンだとっ、このアマっ!! 人が下手に出てりゃつけあがりやがってっ!?」
やっぱり怒った。いつ下手に出たのかは不明だが、まあ、馬鹿の言うことだ。当然ながら、意味は無いのだろう。
「さて、行きますか…」
このまま見ているワケにも行かないだろう。例えあの子が男の子だとしても、可愛い子には違いない。キャスケットを深く被り直して、と。
「とうっ!」
とりあえず、あの子を囲むチンピラその一に軽く飛び蹴りをかます。
「ブヘっ!?」
側頭部へ膝蹴り。無論、手加減はしたが。
「おお、ナイススライディング!」
ズベシャっ! と、地面で顔面を軽~く擦り下ろすチンピラその一。
「な、なんだっ!?」
「通行人でーす。いやー、足が滑っちゃって。すいませんねー」
「いや、そんなワケないでしょ! とうって言ったの聞こえたからっ!」
あ、近くで見るとホントに可愛い。ふわふわなライトブラウンの髪、ターコイズブルーの瞳はミルキーな色が強め。
少年というよりは、可愛い系の美少女と言う方が通用する顔立ちだ。あまり背の高くないオレより小さくて華奢な体格だし。
「あははっ、ナイスツッコミ」
「アンタがボケかますから! って、そんなこと言ってる場合じゃないしっ!」
どうやらツッコミ体質のようだ。可愛くて面白い子だな。
「だよねー、あははっ、うりゃ!」
可愛い子の腕を掴むチンピラその二の肘をガツンと拳で殴る。狙うはファニーボーン。殴られると腕全体が痺れて痛くなる場所だ。そしてここは、鍛えようが無い場所でもある。ヒビが入ったり、骨折すると後遺症が残ったりもする。良い子は真似しちゃいけません。
「ぐがっ!?」
よし、男の手が離れた。
「さ、行くよ!」
「へ?」
可愛い子の手首を掴み、チンピラの壁が薄い方向へパッと駆け出す。うん、腕も細い。ホント、華奢だな。
「待てっ!? このガキっ!?」
待てと言われて待つ奴はいないのが、万国共通の道理。
「ちょっ、どこ行くのさ?」
「ん? 逃げるよ?」
「は? アンタ、関係無いじゃん」
「気にしない気にしない」
「は? ちょっ、わわっ!」
「頑張ってついて来てね?」
ごちゃごちゃ言う彼? を無視して走る速度を上げる。
「待てっ!!」
無論、待たない。まああの程度の人間、捻るのはワケないが、とりあえずそれは後にしておく。
適当に狭そうな裏路地へと入る。
「へっ! そっちゃあ、行き止まりだぜ!」
勝ち誇ったような声が背後から聞こえるが特に気にしない。
「ちょっ、行きっ…止ま、り…って…」
息の切れたボーイソプラノ?が言う。
「大丈夫大丈夫。ごめんだけど、ちょ~っと大人しくしてね?」
「…は? な、なにするワケっ!?」
彼? を、ぐっと抱き寄せる。そして、
「ちょっとぉっ!?」
トン、と壁に向かってジャンプする。道が行き止まりなら、上に行けばいい。
「はあっ!?」
「ちょっと口閉じようか? 舌噛むよ」
壁の出っ張りに足を掛け、反対側に向かってまた跳ぶ。三角飛びの要領で、屋上までジャンプを続ける。と、
「ど、どこへ消えたっ!?」
下からオレらを探す声。
「ほい、もう離れていいよ?」
「っ!」
パッと離れる彼?
「な、なにが目的なワケっ?」
噛み付くような言葉。
「ん? 特に無いよ」
「はあっ? アンタ、バカなの?」
可愛い顔でなかなか辛辣な口だ。
「バカはヒドいな? ま、お節介なのは認めるけどさ。じゃあオレもう行くから、今度は絡まれないよう気を付けなよ」
「あ、ちょっと!」
隣の建物へとジャンプして移る。適当なところで降りよう。
活気があって実にいい。
とりあえず、当面の資金調達だな。
一応、手持ちの荷物だけでも一財産にはなる。しかし、放浪するのもそれなりに金がかかる。
ビンゴブックをぱらぱらと捲る。ビンゴブックというのは、要は賞金首の載った手配書のことだ。
オレの育った家。エレイスは、父上御用達の便利屋。要人警護からパシリまで、様々な仕事をこなす。例えば・・・敵対勢力の暗殺から、隠し子の養育なんかもね?
父上は高位の貴族だけあって、敵もそれなり…いや、かなり多い。暗殺やそれに類するきな臭い話は常にごろごろしている。実際、オレの養育というのも、護衛兼教育だし。
そういう家で育ったから、護身術はそれなりに仕込まれている。まあ、オレが仕込まれているのは、あくまでも護身術と逃げ足で、さすがに本職の暗殺者や戦士なんかには敵わないが…一応、負けもしない。逃げるだけなら、ある程度は余裕だ。
活気があって人の多い港街には、それなりに犯罪も起こる。
詐欺師…は微妙だな。どうせ狙うなら、強盗や殺人犯、暴漢辺りを減らす方がいいだろう。治安への貢献にもなるし、判り易くて見付け易い。
そんなことを考えながら歩いていると、可愛い子がチンピラ的な男共に絡まれているのを見付けた。短いふわふわの明るい茶髪とターコイズブルーの瞳。
「よう、嬢ちゃん。俺らに付き合えよ」
昼日中から下卑た視線と目的を隠そうともせず、可愛い子の腕を掴む。全く、大通りでよくやるものだ。
「ちょっと、離せってばっ!? 汚い手で触るなっ!? っていうか、さっきから言ってるだろ! 僕は女の子じゃないってさっ!? アンタら、顔どころか頭も、オマケに耳まで悪いワケっ! いい加減にしてよねっ!」
なかなかいい啖呵を切る。確かに、格好は男の子で胸もペタンコ。けど、それが馬鹿共に通じるか…
「ンだとっ、このアマっ!! 人が下手に出てりゃつけあがりやがってっ!?」
やっぱり怒った。いつ下手に出たのかは不明だが、まあ、馬鹿の言うことだ。当然ながら、意味は無いのだろう。
「さて、行きますか…」
このまま見ているワケにも行かないだろう。例えあの子が男の子だとしても、可愛い子には違いない。キャスケットを深く被り直して、と。
「とうっ!」
とりあえず、あの子を囲むチンピラその一に軽く飛び蹴りをかます。
「ブヘっ!?」
側頭部へ膝蹴り。無論、手加減はしたが。
「おお、ナイススライディング!」
ズベシャっ! と、地面で顔面を軽~く擦り下ろすチンピラその一。
「な、なんだっ!?」
「通行人でーす。いやー、足が滑っちゃって。すいませんねー」
「いや、そんなワケないでしょ! とうって言ったの聞こえたからっ!」
あ、近くで見るとホントに可愛い。ふわふわなライトブラウンの髪、ターコイズブルーの瞳はミルキーな色が強め。
少年というよりは、可愛い系の美少女と言う方が通用する顔立ちだ。あまり背の高くないオレより小さくて華奢な体格だし。
「あははっ、ナイスツッコミ」
「アンタがボケかますから! って、そんなこと言ってる場合じゃないしっ!」
どうやらツッコミ体質のようだ。可愛くて面白い子だな。
「だよねー、あははっ、うりゃ!」
可愛い子の腕を掴むチンピラその二の肘をガツンと拳で殴る。狙うはファニーボーン。殴られると腕全体が痺れて痛くなる場所だ。そしてここは、鍛えようが無い場所でもある。ヒビが入ったり、骨折すると後遺症が残ったりもする。良い子は真似しちゃいけません。
「ぐがっ!?」
よし、男の手が離れた。
「さ、行くよ!」
「へ?」
可愛い子の手首を掴み、チンピラの壁が薄い方向へパッと駆け出す。うん、腕も細い。ホント、華奢だな。
「待てっ!? このガキっ!?」
待てと言われて待つ奴はいないのが、万国共通の道理。
「ちょっ、どこ行くのさ?」
「ん? 逃げるよ?」
「は? アンタ、関係無いじゃん」
「気にしない気にしない」
「は? ちょっ、わわっ!」
「頑張ってついて来てね?」
ごちゃごちゃ言う彼? を無視して走る速度を上げる。
「待てっ!!」
無論、待たない。まああの程度の人間、捻るのはワケないが、とりあえずそれは後にしておく。
適当に狭そうな裏路地へと入る。
「へっ! そっちゃあ、行き止まりだぜ!」
勝ち誇ったような声が背後から聞こえるが特に気にしない。
「ちょっ、行きっ…止ま、り…って…」
息の切れたボーイソプラノ?が言う。
「大丈夫大丈夫。ごめんだけど、ちょ~っと大人しくしてね?」
「…は? な、なにするワケっ!?」
彼? を、ぐっと抱き寄せる。そして、
「ちょっとぉっ!?」
トン、と壁に向かってジャンプする。道が行き止まりなら、上に行けばいい。
「はあっ!?」
「ちょっと口閉じようか? 舌噛むよ」
壁の出っ張りに足を掛け、反対側に向かってまた跳ぶ。三角飛びの要領で、屋上までジャンプを続ける。と、
「ど、どこへ消えたっ!?」
下からオレらを探す声。
「ほい、もう離れていいよ?」
「っ!」
パッと離れる彼?
「な、なにが目的なワケっ?」
噛み付くような言葉。
「ん? 特に無いよ」
「はあっ? アンタ、バカなの?」
可愛い顔でなかなか辛辣な口だ。
「バカはヒドいな? ま、お節介なのは認めるけどさ。じゃあオレもう行くから、今度は絡まれないよう気を付けなよ」
「あ、ちょっと!」
隣の建物へとジャンプして移る。適当なところで降りよう。
12
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】カミに愛されし聖女との婚約を破棄するっ!?
月白ヤトヒコ
ファンタジー
国王である父は敬虔で、神へとよく祈っていることは知っていた。
だが、だからと言ってこの暴挙はどうかしていると言わざるを得ない。
父はある日突然、城へと連れて来た女性をわたしの婚約者へ据えると言い出した。
「彼女は、失われしカミを我が身へと復活せしめるという奇跡を起こせし偉大なる女性だ。公爵とも既に話は付いている。彼女を公爵家の養女とし、お前と婚姻させる。これは、彼女を教会から保護する為に必要な処置だ。異論は認めぬ!」
それまで賢君とは及ばずも暴君ではなかった父の豹変。なにか裏があると思ったわたしは、ぽっと出の神に愛されし聖女とやらを調べ――――
中毒性や依存性の見られると思しき、怪しい薬を作っていることが判明。
わたしは、彼女との婚約を破棄することにした。
という感じの、多分ギャグ。
ゆるゆる設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる