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ヴァンパイア編。
28.…お帰り、アル。
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・・・思わず、逃げてしまったっ!?
つか、油断し過ぎだろ。オレ…
まあ、周囲の大人がめっちゃオレに気を使ってたんだろうけどさ?
養父さんも養母さんもレオも、父上とかさ?兄さんも姉さんも、弟も…姉さんの母親も弟の母親も、誰も、家族はオレに、正面…上からは手を出さなかった。
訓練やら、必要なとき以外には・・・
今でも、上からの攻撃は苦手だ。時々、身体が竦んで動けないときがある。まあ、動かないとマズいから、気合いでどうにか動くんだけどさ?
上からの手は、怖い。
「ハァ、ハァ…うわ、手ぇ震えてるし…」
心臓もバクバク煩い。
「なんか、頭痛くなって…来た・・・」
ドクドクと、脈拍に合わせて痛む額を押さえる…
・・・薄く嗤う口元。金色の瞳、そして上から伸ばされて・・・ゆっくりと降りて来る、彼の、白い…手が・・・頭、に・・・厭だ! やめて! 痛い! 『アレク』熱い、『アレクシア』赤い、『やめろ』血が、『思い出すな』溢れて、『忘れていろ』止まらない。『頼むから、思い出すな!』父上の声と、見覚えの無い…けれど知っている筈の誰かの姿が、脳裏に浮かんでは消える。頭が痛い。『アレクシア!』辛そうな、父上の、声…が・・・『アレク!』…だから、忘れ…ない、と・・・
・・・『そう。忘れておきなよ』・・・艶やかな、声。が…『君の悪夢は、あたしが食べてあげるから大丈夫よ。その代わり、大きくなったら俺と…』囁き、『もっといいことしようね? アル』熱くて、柔らかい感触が、唇に…落ちた・・・
…落ち、る?
「・・・っ!?」
バッと強風に煽られ、姿勢を崩してハッとする。
「うわっ! ヤバっ、落ちるっ!」
いつの間にか、かなり高度が下がっていたようだ。
危ない危ない。
頭痛は、治まった…のか?よくわからない。
まあ、鈍く疼いている気はするが…許容範囲。っていうか、物凄く気分悪ぃ…
「・・・」
あ、駄目だ。吐く。
上昇を諦めて低空飛行に切り替える。そして、海面すれすれに・・・
さようなら、お昼ご飯。そしてすまん、雪君と食材。折角作ってくれたというのに・・・
胃液まで吐いて、吐き尽くして…
気分は最悪だ。飛ぶ元気もないぜ。
ということで、水死体ごっこ中。ぷかぷかと海に浮いている。勿論、吐いた場所ではない。意地で移動した。
海水を操作して、服やあちこちに仕込んだ刃物が濡れないようにはしている。海水はべたべたするし、刃物が錆びると面倒だからな。
「はぁ・・・」
昔…よく覚えていないが、どこぞの通り魔に襲われ、頭…額を割られたそうだ。その前後の記憶が数年分程飛んでいるが・・・
全く、酷い変態もいたものだ。
そういう変態は、滅びればいいと思う。心から。
その後遺症だろうか? 時々、酷く頭が痛む。
気圧だとか気温差など・・・一番多いのが、大気中の魔力の揺らぎなどの影響での頭痛。
それは・・・酷いときには、死ぬ程痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて・・・
のたうち回って、理性が飛ぶ。
そのとき、オレは暴れ回るらしい。
なんか、痛む頭をどうにかしようと、あちこちにぶつけようとして・・・大変だとか。
で、強制的に寝かされるワケだ。
まあ、それでもすぐに頭が痛いと起き出して、また暴れるようだけど・・・暴れたら強制的に寝かして、また暴れて・・・頭痛がましになるか、暴れる程の体力が無くなるまでそれがずっと繰り返される。
このときの記憶は、あまり無い。激痛と断片的な記憶。養父さんや養母さん、レオや父上の辛そうな顔…とか。本当に、心底から厭なことをさせていると思う。オレだって、家族のそんな顔は見たくなんかない・・・
させているのはオレなんだけどさ……
※※※※※※※※※※※※※※※
眩しい。
そして、たぷたぷと身体が揺れている。目を開くと、蒼い夜空には煌々とした満月が浮かんでいた。
「…お月さん・・・」
柔らかくも眩しく照らす月光が降り注ぐ。
どうやら、水死体ごっこ中に寝てた…というか半分気絶か? をしてしまったようだ。
船を飛び出して、割と時間が経っている。
「はぁ・・・怠…」
掠れた低い声。とはいえ、このまま水死体ごっこでぷかぷか浮いているワケにも行かないだろう。
「戻る…か・・・」
呟いて、気付く。どこに?
家には、帰れない。
レオや養父さん養母さんのところにも、実家にも…
戻れない。戻れば、受け入れてもらえるだろう。彼らは、優しい。けれどきっと、オレの自由は大幅に制限されることになる。
幽閉か結婚か。
結婚相手の選択肢が、無さ過ぎる。
父上や養父さんなんて、冗談ではない。
まあ、父上や養父さんにはそういう趣味は無いそうで、結婚と言っても、形式だけの妻とやらになるらしいが・・・養母さんの心境はどうなんだろうか? と思えば、「クレアも承諾した」と聞いて…養母さんマジかっ!? って感じだよ。
レオもなぁ・・・家族だし。婚約者候補とやらに名前が出たせいで、非常に顔を合わせ辛い。
「ったく、父上め…」
おそらく、結婚を選べば、オレのことを公表するつもりなのだろう。娘ではなく、結婚相手として。二百数十年もこそこそ隠れて来たというのに・・・今更、表舞台に立つ気は無いんだがな?
父上の考えは、よくわからない。つか、混血との政略結婚だなんて、父上にはデメリットしかないだろうに。いろんなとこに喧嘩売る気か? 反対する連中を、軒並み叩き潰すというくらいにしか、政略的な意味は無い筈だし。
ホントあのヒトも、情が深いんだか浅いんだかなぁ・・・まあ、大事にされているとは思うよ? 偶に突き放されるけど…こんな面倒なオレを、すごく手間掛けて生かしてくれるしさ。
一応、オレの存在が公にならないであろう相手候補も二人いるが・・・奴は絶対に脚下。もう一人は・・・友達なら兎も角、結婚相手にはしたくない相手だ。というか、あのラインナップに、何故このヒトが入って来るのか不明だし。
あんまり会ったことないのに、何故かオレによくしてくれたんだよなぁ。かなりよくわからないヒトだが・・・まあ、趣味が割と似てることもあって、嫌いじゃないんだけどね?
「はぁ・・・」
養父さんの言っていた、「本気で嫌なら、身内以外の身方を作れ」という言葉を思い出す。
そう。本気で嫌なら、帰らなければいい。
父上や養父さんとの結婚なんて、冗談じゃない。なら、どうするか?
こんなところで、帰る場所が無いだとかうじうじしても、意味は無い。嫌なら、逃げろ。
逃げる為のお膳立て…足の確保は、養父さんがしてくれた。なら、オレはその足を使うべきだ。
「…よし、戻るか」
と、その前に、体力回復しないと。
リリの血晶を取り出し、口に含んで舐め溶かす。
リリの血は美味しい。人魚の血はオレの体質と合っていて、消化吸収がし易い。
そしてもう一つ、別の血晶を取り出して舐める。弟の血晶。奴はアホだし、言うと非常に調子に乗るから言わないが、奴の血も、オレと相性がいい。奴は、半分聖霊のようなモノで・・・リリの血の次くらいには、美味しい。ムカつくことに。
体力を回復したので、水死体ごっこをやめる。
水面の張力に干渉し、海の上に立つ。そして、海面を蹴って跳ぶ。同時に、翼膜の羽根を広げて飛ぶ。
※※※※※※※※※※※※※※
満月の浮かぶ蒼い空を空中散歩。
「さて、アマラの船は何処か…」
海を見下ろす。と、不自然な波の動きを見付けた。
「? これは・・・」
その不自然な波の動きを辿って行くと、唄が聴こえて来た。高く高く伸び上がる、歌詞の無い唄声がオレを誘う。「さあ? どうすンの小娘? 帰って来るの? 来ないの?」というアマラの声が聞こえて来るような唄だ。言葉が無い分、感情に訴えかけて来る。
「全く、親切なことで・・・」
満月の煌々とした明かりに照らされ、淡いブルーのナイトドレスを纏う美貌の人魚が船上で高らかに唄う。その光景は、とても美しい。
甲板に降り立つと、人魚の唄がやんだ。少し残念だが、まだ唄の余韻が耳に残っている。潮騒に溶け込むような、高く伸びやかな唄声が・・・
「あら、小娘。戻ったの? てっきり、もう戻って来ないと思ってたわ」
気を使わない。という風を装ったアマラの配慮。
「綺麗な唄ですね。アマラ」
初めて、唄っているところを見せてくれた。
「当然でしょ。人魚の声が美しいのは。それにしても、酷い顔ね? 青い顔で不細工だし。女の癖に裸足とか、信じらんないわ」
「はは…」
雪君と遊んでから、靴を履く前に船を飛び出したからな。
「まあいいわ。今夜は満月だもの。気分がいいわ。今からお茶なの。付き合いなさい、小娘」
甲板の上にはテーブルとティーセット。アマラが、慣れた様子でお茶を淹れ始める。
「ほら、さっさと座んなさいよ。立ってられると落ち着かないじゃない」
「あ、はい。ありがとうございます」
甘く香るお茶はカモミール。精神安定作用か。
「うちの馬鹿がなんかやらかしたみたいだけど・・・どうすんの小娘」
アイスブルーの瞳が、少し緊張したようにオレを見詰める。甲板には、複数の気配。まあ、あんな風に飛び出したら気になるのもわかるけどね。
「…そう、ですね・・・もう少し、ここに置いてもらえると助かりますね」
「そう。なら…お帰り、アル」
ぼそりと呟き、ぷいとそっぽを向くアマラ。
「ありがとうございます。アマラ」
アマラの、そっぽを向いた白い頬がうっすらと赤みを帯びる。案外可愛いヒトだ。素直じゃないけどね?思わず声に含まれた笑みに、じっとりとしたアイスブルー。
「…アンタのその喋り方、胡散臭いのよ」
「そうですか?」
「普通に喋れば?」
「普通に、ね。これでいい?アマラ」
「どこぞの馬鹿共にも、そういう風に喋ってあげれば?」
それには、黙って微笑んでおく。
「アンタって、案外根に持つタイプなのね」
それは見解の違いだろう。初対面で斬り掛かって来た相手を信用をするのは、難しいと思う。
アマラに警戒を解いたのは、おそらくアマラが、オレを裏切らないからだ。人魚との約束で。もし、裏切るようなことがあっても、アマラにはオレを傷付けることができない。
カイルも同様の理由。はっきり言って、カイルは弱い。オレを殺せるだけの力が無い。拠って、警戒に値しない。
あと、可愛いしさ?
オレ、可愛い子が好きなんだよね。年下や女の子にも甘いってよく言われるけど、仕方ないだろう?可愛いんだからさ。
雪君は、まあ…一応幼馴染ってやつだからね。オレの数少ない、古い友達。
ヒューとジンは強い。だから、警戒する。
「今回の件は、オレの落ち度だからね。特にヒューを責めるつもりは無いよ」
「全く、可愛くない小娘だこと」
「そりゃどうも」
つか、油断し過ぎだろ。オレ…
まあ、周囲の大人がめっちゃオレに気を使ってたんだろうけどさ?
養父さんも養母さんもレオも、父上とかさ?兄さんも姉さんも、弟も…姉さんの母親も弟の母親も、誰も、家族はオレに、正面…上からは手を出さなかった。
訓練やら、必要なとき以外には・・・
今でも、上からの攻撃は苦手だ。時々、身体が竦んで動けないときがある。まあ、動かないとマズいから、気合いでどうにか動くんだけどさ?
上からの手は、怖い。
「ハァ、ハァ…うわ、手ぇ震えてるし…」
心臓もバクバク煩い。
「なんか、頭痛くなって…来た・・・」
ドクドクと、脈拍に合わせて痛む額を押さえる…
・・・薄く嗤う口元。金色の瞳、そして上から伸ばされて・・・ゆっくりと降りて来る、彼の、白い…手が・・・頭、に・・・厭だ! やめて! 痛い! 『アレク』熱い、『アレクシア』赤い、『やめろ』血が、『思い出すな』溢れて、『忘れていろ』止まらない。『頼むから、思い出すな!』父上の声と、見覚えの無い…けれど知っている筈の誰かの姿が、脳裏に浮かんでは消える。頭が痛い。『アレクシア!』辛そうな、父上の、声…が・・・『アレク!』…だから、忘れ…ない、と・・・
・・・『そう。忘れておきなよ』・・・艶やかな、声。が…『君の悪夢は、あたしが食べてあげるから大丈夫よ。その代わり、大きくなったら俺と…』囁き、『もっといいことしようね? アル』熱くて、柔らかい感触が、唇に…落ちた・・・
…落ち、る?
「・・・っ!?」
バッと強風に煽られ、姿勢を崩してハッとする。
「うわっ! ヤバっ、落ちるっ!」
いつの間にか、かなり高度が下がっていたようだ。
危ない危ない。
頭痛は、治まった…のか?よくわからない。
まあ、鈍く疼いている気はするが…許容範囲。っていうか、物凄く気分悪ぃ…
「・・・」
あ、駄目だ。吐く。
上昇を諦めて低空飛行に切り替える。そして、海面すれすれに・・・
さようなら、お昼ご飯。そしてすまん、雪君と食材。折角作ってくれたというのに・・・
胃液まで吐いて、吐き尽くして…
気分は最悪だ。飛ぶ元気もないぜ。
ということで、水死体ごっこ中。ぷかぷかと海に浮いている。勿論、吐いた場所ではない。意地で移動した。
海水を操作して、服やあちこちに仕込んだ刃物が濡れないようにはしている。海水はべたべたするし、刃物が錆びると面倒だからな。
「はぁ・・・」
昔…よく覚えていないが、どこぞの通り魔に襲われ、頭…額を割られたそうだ。その前後の記憶が数年分程飛んでいるが・・・
全く、酷い変態もいたものだ。
そういう変態は、滅びればいいと思う。心から。
その後遺症だろうか? 時々、酷く頭が痛む。
気圧だとか気温差など・・・一番多いのが、大気中の魔力の揺らぎなどの影響での頭痛。
それは・・・酷いときには、死ぬ程痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて・・・
のたうち回って、理性が飛ぶ。
そのとき、オレは暴れ回るらしい。
なんか、痛む頭をどうにかしようと、あちこちにぶつけようとして・・・大変だとか。
で、強制的に寝かされるワケだ。
まあ、それでもすぐに頭が痛いと起き出して、また暴れるようだけど・・・暴れたら強制的に寝かして、また暴れて・・・頭痛がましになるか、暴れる程の体力が無くなるまでそれがずっと繰り返される。
このときの記憶は、あまり無い。激痛と断片的な記憶。養父さんや養母さん、レオや父上の辛そうな顔…とか。本当に、心底から厭なことをさせていると思う。オレだって、家族のそんな顔は見たくなんかない・・・
させているのはオレなんだけどさ……
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眩しい。
そして、たぷたぷと身体が揺れている。目を開くと、蒼い夜空には煌々とした満月が浮かんでいた。
「…お月さん・・・」
柔らかくも眩しく照らす月光が降り注ぐ。
どうやら、水死体ごっこ中に寝てた…というか半分気絶か? をしてしまったようだ。
船を飛び出して、割と時間が経っている。
「はぁ・・・怠…」
掠れた低い声。とはいえ、このまま水死体ごっこでぷかぷか浮いているワケにも行かないだろう。
「戻る…か・・・」
呟いて、気付く。どこに?
家には、帰れない。
レオや養父さん養母さんのところにも、実家にも…
戻れない。戻れば、受け入れてもらえるだろう。彼らは、優しい。けれどきっと、オレの自由は大幅に制限されることになる。
幽閉か結婚か。
結婚相手の選択肢が、無さ過ぎる。
父上や養父さんなんて、冗談ではない。
まあ、父上や養父さんにはそういう趣味は無いそうで、結婚と言っても、形式だけの妻とやらになるらしいが・・・養母さんの心境はどうなんだろうか? と思えば、「クレアも承諾した」と聞いて…養母さんマジかっ!? って感じだよ。
レオもなぁ・・・家族だし。婚約者候補とやらに名前が出たせいで、非常に顔を合わせ辛い。
「ったく、父上め…」
おそらく、結婚を選べば、オレのことを公表するつもりなのだろう。娘ではなく、結婚相手として。二百数十年もこそこそ隠れて来たというのに・・・今更、表舞台に立つ気は無いんだがな?
父上の考えは、よくわからない。つか、混血との政略結婚だなんて、父上にはデメリットしかないだろうに。いろんなとこに喧嘩売る気か? 反対する連中を、軒並み叩き潰すというくらいにしか、政略的な意味は無い筈だし。
ホントあのヒトも、情が深いんだか浅いんだかなぁ・・・まあ、大事にされているとは思うよ? 偶に突き放されるけど…こんな面倒なオレを、すごく手間掛けて生かしてくれるしさ。
一応、オレの存在が公にならないであろう相手候補も二人いるが・・・奴は絶対に脚下。もう一人は・・・友達なら兎も角、結婚相手にはしたくない相手だ。というか、あのラインナップに、何故このヒトが入って来るのか不明だし。
あんまり会ったことないのに、何故かオレによくしてくれたんだよなぁ。かなりよくわからないヒトだが・・・まあ、趣味が割と似てることもあって、嫌いじゃないんだけどね?
「はぁ・・・」
養父さんの言っていた、「本気で嫌なら、身内以外の身方を作れ」という言葉を思い出す。
そう。本気で嫌なら、帰らなければいい。
父上や養父さんとの結婚なんて、冗談じゃない。なら、どうするか?
こんなところで、帰る場所が無いだとかうじうじしても、意味は無い。嫌なら、逃げろ。
逃げる為のお膳立て…足の確保は、養父さんがしてくれた。なら、オレはその足を使うべきだ。
「…よし、戻るか」
と、その前に、体力回復しないと。
リリの血晶を取り出し、口に含んで舐め溶かす。
リリの血は美味しい。人魚の血はオレの体質と合っていて、消化吸収がし易い。
そしてもう一つ、別の血晶を取り出して舐める。弟の血晶。奴はアホだし、言うと非常に調子に乗るから言わないが、奴の血も、オレと相性がいい。奴は、半分聖霊のようなモノで・・・リリの血の次くらいには、美味しい。ムカつくことに。
体力を回復したので、水死体ごっこをやめる。
水面の張力に干渉し、海の上に立つ。そして、海面を蹴って跳ぶ。同時に、翼膜の羽根を広げて飛ぶ。
※※※※※※※※※※※※※※
満月の浮かぶ蒼い空を空中散歩。
「さて、アマラの船は何処か…」
海を見下ろす。と、不自然な波の動きを見付けた。
「? これは・・・」
その不自然な波の動きを辿って行くと、唄が聴こえて来た。高く高く伸び上がる、歌詞の無い唄声がオレを誘う。「さあ? どうすンの小娘? 帰って来るの? 来ないの?」というアマラの声が聞こえて来るような唄だ。言葉が無い分、感情に訴えかけて来る。
「全く、親切なことで・・・」
満月の煌々とした明かりに照らされ、淡いブルーのナイトドレスを纏う美貌の人魚が船上で高らかに唄う。その光景は、とても美しい。
甲板に降り立つと、人魚の唄がやんだ。少し残念だが、まだ唄の余韻が耳に残っている。潮騒に溶け込むような、高く伸びやかな唄声が・・・
「あら、小娘。戻ったの? てっきり、もう戻って来ないと思ってたわ」
気を使わない。という風を装ったアマラの配慮。
「綺麗な唄ですね。アマラ」
初めて、唄っているところを見せてくれた。
「当然でしょ。人魚の声が美しいのは。それにしても、酷い顔ね? 青い顔で不細工だし。女の癖に裸足とか、信じらんないわ」
「はは…」
雪君と遊んでから、靴を履く前に船を飛び出したからな。
「まあいいわ。今夜は満月だもの。気分がいいわ。今からお茶なの。付き合いなさい、小娘」
甲板の上にはテーブルとティーセット。アマラが、慣れた様子でお茶を淹れ始める。
「ほら、さっさと座んなさいよ。立ってられると落ち着かないじゃない」
「あ、はい。ありがとうございます」
甘く香るお茶はカモミール。精神安定作用か。
「うちの馬鹿がなんかやらかしたみたいだけど・・・どうすんの小娘」
アイスブルーの瞳が、少し緊張したようにオレを見詰める。甲板には、複数の気配。まあ、あんな風に飛び出したら気になるのもわかるけどね。
「…そう、ですね・・・もう少し、ここに置いてもらえると助かりますね」
「そう。なら…お帰り、アル」
ぼそりと呟き、ぷいとそっぽを向くアマラ。
「ありがとうございます。アマラ」
アマラの、そっぽを向いた白い頬がうっすらと赤みを帯びる。案外可愛いヒトだ。素直じゃないけどね?思わず声に含まれた笑みに、じっとりとしたアイスブルー。
「…アンタのその喋り方、胡散臭いのよ」
「そうですか?」
「普通に喋れば?」
「普通に、ね。これでいい?アマラ」
「どこぞの馬鹿共にも、そういう風に喋ってあげれば?」
それには、黙って微笑んでおく。
「アンタって、案外根に持つタイプなのね」
それは見解の違いだろう。初対面で斬り掛かって来た相手を信用をするのは、難しいと思う。
アマラに警戒を解いたのは、おそらくアマラが、オレを裏切らないからだ。人魚との約束で。もし、裏切るようなことがあっても、アマラにはオレを傷付けることができない。
カイルも同様の理由。はっきり言って、カイルは弱い。オレを殺せるだけの力が無い。拠って、警戒に値しない。
あと、可愛いしさ?
オレ、可愛い子が好きなんだよね。年下や女の子にも甘いってよく言われるけど、仕方ないだろう?可愛いんだからさ。
雪君は、まあ…一応幼馴染ってやつだからね。オレの数少ない、古い友達。
ヒューとジンは強い。だから、警戒する。
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