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ヴァンパイア編。
39.穢したかったのに・・・
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むかしむかし、大きな教会のあるまちに、うつくしい聖女さまがすんでいました。
きんいろのかみと、みどりいろのひとみをもつ、たいへんうつくしい女の子です。
聖女さまはキセキの力で、けがをした人や、びょうきで苦しんでいる人をたすけていました。
とおくのまちや、うみをこえて聖女さまのキセキの力をもとめてまいにち人々がやってきます。
おやさしい聖女さまは、すくいをもとめるみんなに、キセキをあたえつづけたのです。
そんなある日、聖女さまのうわさをききつけたわるい悪魔が、聖女さまをとおくの国へさらって、だれにもみつけられないよう、聖女さまをどこかへかくしてしまったのです。
聖女さまをお守りする騎士たちがひっしにたたかい、悪魔をやっつけて聖女さまをとりもどしました。しかし、そのたたかいでたくさんの人たちがきずついてしまいました。
聖女さまは、じぶんのためにたたかってくれた人たちのけがをいっしょうけんめいなおしました。
すると、そんな聖女さまをみて、とおくの国の王子さまが聖女さまを好きになったのです。
こうして聖女さまは、とおくの国の王子さまとけっこんして、とおくの国のお妃さまになり幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
※※※※※※※※※※※※※※※
金髪の聖女様と、王子様が並んだ表紙の絵本は・・・確か、こんな話だったと思う。
美術館へ行くと、ジンが言ってた通り、聖女様の絵や彫刻が展示品の目玉らしい。
「へぇ…この人が聖女様」
泉を湛えた森林に、美しい少女の立ち姿が描かれている。緩く波打つ淡い蜂蜜色の長い金髪に、翠の瞳。ミルクのように真っ白い肌。柔らかく微笑む唇は瑞々しい薄紅色。白い簡素なワンピースを纏う汚れ無き乙女・・・と言ったところかな? 多分、十六、七くらい。綺麗な人だ。
なんでも、聖女様は元々森の中で暮らしていたらしい。ある日、その森に入った神父様が怪我をして、そこへ偶々通り掛かった聖女様が神父様の怪我をあっという間に治したことが、聖女と呼ばれるきっかけになったという。
そして、神父様の強い薦めで聖女様は人の多い場所…つまり、この街へとやって来た。
それからは、この街の教会を拠点にして、怪我人や病人を救い続けたという。
この絵は、聖女様が暮らしていたという森を想像して描かれたらしい。
そして、聖女様を象った石膏像を見る。なんだか、絵よりもこっちは幼い雰囲気。ふんわりした…少し、浮世離れした女の子という感じかもしれない。勿論、絶世の美少女だよ?
こんな子が聖女様、か・・・
まあ、偶にいるんだよね。奇跡とやらを起こせちゃう人間って・・・
その奇跡を起こせる人間が、幸せになれるのかはまた別の話なんだけどさ?
ジンから聞いた話に拠ると、この綺麗な女の子は、悪魔に拐われちゃったらしいし…
絵本のようにめでたしめでたしじゃ、全然ない。
なんか、可哀想だよね・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
彼は、絵の中の少女を見詰める。
背中に流れる緩く波打つ淡い金色の髪。柔らかく細められた翠の瞳は濡れたよう。滑らかな白い頬。ほっそりとした顎。小さく微笑む薄紅の唇は、まるで誘うよう。
簡素なワンピースを押し上げる膨らみは、決して小さくはないが、大き過ぎもしない。そして、絞られたワンピースの形から想像できるほっそりとした腰は、更にそこから曲線を描いている。
可憐で清楚な少女から女へと変わる過程の、絶妙なバランスを切り取った絵だと言えるだろう。
この、汚れを知らないという慈愛の表情が堪らない。この少女は一体、どんな女になるのだろう?という想像を掻き立てる。
彼は女が大好きだ。
生物としての女を、愛してやまない。女は、女であること自体が尊く美しい。
しかし・・・絵としては、楽しめる。が…
この少女が聖女、か・・・
そんなモノじゃないだろうに。
彼には、この無垢な少女の白さが非常に腹立たしい。いや、腸が煮え繰り返るようだ。
憎悪する。嫌悪する。忌々しい。
赦せない。赦せない。赦せない。赦せない・・・赦したく、ない。絶対に・・・
けれど、『女』自体は好きなのだ。
そう。この少女が、あの一族のモノでなければ、純粋に愛らしくも美しい少女の絵として眺められる。
彼の一族を、滅ぼしたモノでなければ・・・
彼は、この少女を知らないが、知っている。
一度、見たことがある。
人間に利用されて窶れていた少女。
聖女だと祭り上げられ、権力者共に金品と引き換えに治癒を強要され、利用されていた憐れな娘。
治癒能力を、人間共に晒すからそうなったのだ。
慈悲深くも、不用意で愚かな娘。
その憐れな娘は、彼の一族を滅ぼしたモノの血筋。
だから、利用しようとした。
まあ、その前にどこぞの輩に拐われたが・・・
あの娘は、復讐には使えなかった。
穢したかったのに・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
聖女様の絵を、異様な視線で見詰める男がいる。
肩まで掛かる長めの黒髪、褐色の肌に暗い赤色の瞳の…長身の男だ。なんかこう、危ない目付きっていうかさ? ヤバ気な雰囲気。
きっと変なヒトに違いない。
関わらないようにしよう。
__________
一応、二人が見ているのは同じ絵ですよ?
きんいろのかみと、みどりいろのひとみをもつ、たいへんうつくしい女の子です。
聖女さまはキセキの力で、けがをした人や、びょうきで苦しんでいる人をたすけていました。
とおくのまちや、うみをこえて聖女さまのキセキの力をもとめてまいにち人々がやってきます。
おやさしい聖女さまは、すくいをもとめるみんなに、キセキをあたえつづけたのです。
そんなある日、聖女さまのうわさをききつけたわるい悪魔が、聖女さまをとおくの国へさらって、だれにもみつけられないよう、聖女さまをどこかへかくしてしまったのです。
聖女さまをお守りする騎士たちがひっしにたたかい、悪魔をやっつけて聖女さまをとりもどしました。しかし、そのたたかいでたくさんの人たちがきずついてしまいました。
聖女さまは、じぶんのためにたたかってくれた人たちのけがをいっしょうけんめいなおしました。
すると、そんな聖女さまをみて、とおくの国の王子さまが聖女さまを好きになったのです。
こうして聖女さまは、とおくの国の王子さまとけっこんして、とおくの国のお妃さまになり幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
※※※※※※※※※※※※※※※
金髪の聖女様と、王子様が並んだ表紙の絵本は・・・確か、こんな話だったと思う。
美術館へ行くと、ジンが言ってた通り、聖女様の絵や彫刻が展示品の目玉らしい。
「へぇ…この人が聖女様」
泉を湛えた森林に、美しい少女の立ち姿が描かれている。緩く波打つ淡い蜂蜜色の長い金髪に、翠の瞳。ミルクのように真っ白い肌。柔らかく微笑む唇は瑞々しい薄紅色。白い簡素なワンピースを纏う汚れ無き乙女・・・と言ったところかな? 多分、十六、七くらい。綺麗な人だ。
なんでも、聖女様は元々森の中で暮らしていたらしい。ある日、その森に入った神父様が怪我をして、そこへ偶々通り掛かった聖女様が神父様の怪我をあっという間に治したことが、聖女と呼ばれるきっかけになったという。
そして、神父様の強い薦めで聖女様は人の多い場所…つまり、この街へとやって来た。
それからは、この街の教会を拠点にして、怪我人や病人を救い続けたという。
この絵は、聖女様が暮らしていたという森を想像して描かれたらしい。
そして、聖女様を象った石膏像を見る。なんだか、絵よりもこっちは幼い雰囲気。ふんわりした…少し、浮世離れした女の子という感じかもしれない。勿論、絶世の美少女だよ?
こんな子が聖女様、か・・・
まあ、偶にいるんだよね。奇跡とやらを起こせちゃう人間って・・・
その奇跡を起こせる人間が、幸せになれるのかはまた別の話なんだけどさ?
ジンから聞いた話に拠ると、この綺麗な女の子は、悪魔に拐われちゃったらしいし…
絵本のようにめでたしめでたしじゃ、全然ない。
なんか、可哀想だよね・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
彼は、絵の中の少女を見詰める。
背中に流れる緩く波打つ淡い金色の髪。柔らかく細められた翠の瞳は濡れたよう。滑らかな白い頬。ほっそりとした顎。小さく微笑む薄紅の唇は、まるで誘うよう。
簡素なワンピースを押し上げる膨らみは、決して小さくはないが、大き過ぎもしない。そして、絞られたワンピースの形から想像できるほっそりとした腰は、更にそこから曲線を描いている。
可憐で清楚な少女から女へと変わる過程の、絶妙なバランスを切り取った絵だと言えるだろう。
この、汚れを知らないという慈愛の表情が堪らない。この少女は一体、どんな女になるのだろう?という想像を掻き立てる。
彼は女が大好きだ。
生物としての女を、愛してやまない。女は、女であること自体が尊く美しい。
しかし・・・絵としては、楽しめる。が…
この少女が聖女、か・・・
そんなモノじゃないだろうに。
彼には、この無垢な少女の白さが非常に腹立たしい。いや、腸が煮え繰り返るようだ。
憎悪する。嫌悪する。忌々しい。
赦せない。赦せない。赦せない。赦せない・・・赦したく、ない。絶対に・・・
けれど、『女』自体は好きなのだ。
そう。この少女が、あの一族のモノでなければ、純粋に愛らしくも美しい少女の絵として眺められる。
彼の一族を、滅ぼしたモノでなければ・・・
彼は、この少女を知らないが、知っている。
一度、見たことがある。
人間に利用されて窶れていた少女。
聖女だと祭り上げられ、権力者共に金品と引き換えに治癒を強要され、利用されていた憐れな娘。
治癒能力を、人間共に晒すからそうなったのだ。
慈悲深くも、不用意で愚かな娘。
その憐れな娘は、彼の一族を滅ぼしたモノの血筋。
だから、利用しようとした。
まあ、その前にどこぞの輩に拐われたが・・・
あの娘は、復讐には使えなかった。
穢したかったのに・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
聖女様の絵を、異様な視線で見詰める男がいる。
肩まで掛かる長めの黒髪、褐色の肌に暗い赤色の瞳の…長身の男だ。なんかこう、危ない目付きっていうかさ? ヤバ気な雰囲気。
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関わらないようにしよう。
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