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ヴァンパイア編。
41.変態はヒドくないか?
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彼はこの日も、娼館でたっぷりと酒を浴びる程飲んでいた。可愛く、妖艷で、清楚を装い、小悪魔のような美しい女達を愛でながら。
普段なら、そのまま娼館に一泊。彼女達と愉しく過ごして朝を迎えるのだが、なぜか今日は出て来てしまった。
なぜだろうか?
気紛れ?
よくわからないが、気のままに動く。
その方が、結果的にいいということを知っている。
例えば、ふと動いたことで敵の攻撃を躱せたり、偶々家に戻る気分じゃなかったら、集落の焼き討ちから逃れることができたりなど・・・
彼の直感は鋭かった。
多分、なにかがあるのだろう。そう思って、夜風に吹かれながら深い蒼色の夜空を見上げた、ら・・・
「っ!?」
建物の屋上を軽やかに跳び移り移動する影に・・・身体が、震えた。
ああ、見付けた。
昏い衝動が、胸の内から沸き上がる。
見付けてしまったからには、もう・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「?」
なんだか、あとをつけられている気がする。
聖女の街にテンションだだ下がりで、不貞寝を決め込もうとしたら、ここのところの貧血で血液のストックが心許なくて、ツイてねぇ…とか思いつつ、血液を補充しに街へ出て来たのだが・・・
気晴らしに建物の屋上を移動していたのがまずかったのか? 背後に追跡者の気配。
なんというか、心当たりが多過ぎる。
エレイス関係か、通り魔か・・・まあ、アダマス関係は確率としては低いが。オレの存在は秘匿されているからな。追って来ているのは、ヴァンパイア…でもないな。気配が違う。
よくわからん。が、とりあえず撒くか。
スピードを上げる。
「・・・」
暫く走っているが、撒けない。
オレ、足速いんだがな?
長距離なら兎も角、短距離なら狼にも負けないくらいの速度が出せる。
それを、飛んでるワケでもなく、地上から追い続けられるって・・・相手もかなり、足が速い。
う~ん…どうするか・・・
このまま船までついて来られるのは嫌だし・・・
飛ぶか…と思ったら、向こうから仕掛けて来た。
長身の影が加速して高く跳ね、建物の屋根へと着地。オレの前へと回り込んだ。
つか、先行しているオレの前に出るって、どういう足だよ? それなりの速度で、なかなかの距離を走っている筈なのに、更に加速してオレの前にって、短距離なら、養父さんやレオ達でも本気で走らないと無理だぞ・・・
「初めまして、かな。お嬢さん」
しかも、女だってバレてる。初対面なら、鼻が利く相手でもない限りは男だと思われるのに。
厄介だな。ツイてないときはとことんツイてない。
「・・・」
「なあ、俺のこと、わかるか?」
「?」
初めまして、と言ったのに、自分をわかるか? などという意味不明な挨拶。なんだ? この男は…
闇に溶けるようなストレートの黒髪と褐色の肌。・・・ジプシー系の容姿?
もしかしてコイツ、カイルが言ってた変質者か?
「ふっ、ハハハハハハっ…ああ、その様子だと、俺らのことなんか、全くわからない…か」
声を上げて嗤う男。侮蔑と寂寥感、昏い憎悪とが混ざった複雑な感情。
「そうか。そうだよなぁ? アンタらは、自分達こそが正しいと主張して、俺らの存在の全てを、無かったことにしたんだからなあっ!!」
叩き衝けられる怒り。意味がわからない。なんなんだ? この男は・・・
チリっと額が疼く。
「っ…」
「なあ、お嬢さん。不用意だとは思わないか?」
ふっ、とオレの目の前に移動する男。
見下ろすのは、少し垂れ目気味な昏い蘇芳の瞳。右目の下には泣き黒子。
「!」
慌てて、後ろへ退がる。が、すぐさま距離を詰められる。チッ…瞬発力が高い。
「逃げるなよ?」
※※※※※※※※※※※※※※※
逃げようとする彼女。
だが、逃がさない。普段、森の奥からは滅多に出て来ない奴ら。それが今、俺の目の前にいる。
しかも、一人で、だ。
漸く巡って来た、復讐のチャンス。
俺の種族は、彼女の種族に滅ぼされた。
だから、その生き残りである俺には、復讐する権利がある。違うか?
そして、俺の種族を滅ぼしたクセに、その事実さえ知らない目の前の彼女が、腹立たしい。
薄い色の長いプラチナブロンドに、翠の瞳。格好は男物の服で、雰囲気も相当違ってはいるが、その顔は、あの絵に描かれていた・・・聖女だ。
「・・・」
困惑したような彼女を見下ろす。
復讐。どんなことが、復讐になるか考えた。
男は殺すと決めている。
だが、俺は女が好きだ。愛している。女は、女であること自体が既に尊い。
俺に女は殺せない。殺したく、ない。
だから・・・
「っと、危なっ・・・」
彼女の、俺の首を刈ろうとした蹴りを軽く上半身を反らして躱す。と、彼女が空中で身を捻り、回し蹴りが踵落としへと変化して俺へ迫る。それを、上半身を更に倒して地を蹴り、バク転で避ける。
成る程、それで男装か。
「危ないなぁ」
その隙に彼女が大きく跳び退さり隣の屋上へと、距離を取られる。しかし、甘い。その程度の距離では俺から逃げることはできない。いや、逃がさない。取られた分の距離を、一度の跳躍で詰める。
「!」
驚きに見開く翠の瞳。浮かぶのは銀色の瞳孔。ああ、綺麗な顔だ。滑らかな白い肌。細い顎。薄く色付く唇。幼さを残した少女の顔に、華奢な首筋、細い肩。長いプラチナブロンドが背中に靡く。
「寄る、なっ!?」
女の子にしては低め、硬質な響きのアルトの拒絶の言葉と共に振るわれる、閃く銀色の軌跡。
「物騒だな」
パッと散る数本の俺の黒髪。彼女の白い手には、いつの間にかナイフが握り込まれている。
「なんだ、手前ぇは」
あれ? …イメージと違うな?前に見たときは、もっと女の子らしい娘だと思ったんだが・・・
まあ、いい。
「今から、お嬢さんに酷いことをする悪い奴」
「変態か?」
侮蔑の声と表情。
「変態はヒドくないか? けど、多分…正解」
その認識は正しい。彼女へと手を伸ばす。
「っ!」
と、その腕が蹴られた。今のはいい判断。ナイフなら、腕を掴もうと思っていたのに、残念だ。しかも、なかなかのいい蹴り。びりびりと腕が痺れる。
「そうか、消えろ」
鋭い眼差しと、低い声。閃く手が、ヒュッとナイフを飛ばした。一、二、…合計四本。しかも、脳天、心臓、そして両膝の位置に、微妙に時間差で、だ。なかなかえげつない。ナイフを最小限の動きで躱し・・・
「…外したか…」
ぼそりと冷えた声。に、背筋がぞわりとした。思わずその場から、バッと跳び退く。と、
「チッ…」
不機嫌な舌打ちで腕を引く白い手。俺の後方から、ヒュッとナイフが彼女へと戻って行く。
おそらく、極細の糸がナイフに付いているのだろう。外したか、と言ったのはフェイント。
ナイフも、例え避けられたとしても、引き戻したときに糸が当たる位置に追い込むよう計算して投げているのだろう。あの場にいたら、間違いなく糸かナイフに刻まれていた。
なかなか、ではなく、相当えげつない。
近距離には体術とナイフでの格闘。
中距離には投げナイフと糸を使った攻撃。
なかなか物騒なお嬢さんだ。
なら、近付くのがベストだろう。
普段なら、そのまま娼館に一泊。彼女達と愉しく過ごして朝を迎えるのだが、なぜか今日は出て来てしまった。
なぜだろうか?
気紛れ?
よくわからないが、気のままに動く。
その方が、結果的にいいということを知っている。
例えば、ふと動いたことで敵の攻撃を躱せたり、偶々家に戻る気分じゃなかったら、集落の焼き討ちから逃れることができたりなど・・・
彼の直感は鋭かった。
多分、なにかがあるのだろう。そう思って、夜風に吹かれながら深い蒼色の夜空を見上げた、ら・・・
「っ!?」
建物の屋上を軽やかに跳び移り移動する影に・・・身体が、震えた。
ああ、見付けた。
昏い衝動が、胸の内から沸き上がる。
見付けてしまったからには、もう・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「?」
なんだか、あとをつけられている気がする。
聖女の街にテンションだだ下がりで、不貞寝を決め込もうとしたら、ここのところの貧血で血液のストックが心許なくて、ツイてねぇ…とか思いつつ、血液を補充しに街へ出て来たのだが・・・
気晴らしに建物の屋上を移動していたのがまずかったのか? 背後に追跡者の気配。
なんというか、心当たりが多過ぎる。
エレイス関係か、通り魔か・・・まあ、アダマス関係は確率としては低いが。オレの存在は秘匿されているからな。追って来ているのは、ヴァンパイア…でもないな。気配が違う。
よくわからん。が、とりあえず撒くか。
スピードを上げる。
「・・・」
暫く走っているが、撒けない。
オレ、足速いんだがな?
長距離なら兎も角、短距離なら狼にも負けないくらいの速度が出せる。
それを、飛んでるワケでもなく、地上から追い続けられるって・・・相手もかなり、足が速い。
う~ん…どうするか・・・
このまま船までついて来られるのは嫌だし・・・
飛ぶか…と思ったら、向こうから仕掛けて来た。
長身の影が加速して高く跳ね、建物の屋根へと着地。オレの前へと回り込んだ。
つか、先行しているオレの前に出るって、どういう足だよ? それなりの速度で、なかなかの距離を走っている筈なのに、更に加速してオレの前にって、短距離なら、養父さんやレオ達でも本気で走らないと無理だぞ・・・
「初めまして、かな。お嬢さん」
しかも、女だってバレてる。初対面なら、鼻が利く相手でもない限りは男だと思われるのに。
厄介だな。ツイてないときはとことんツイてない。
「・・・」
「なあ、俺のこと、わかるか?」
「?」
初めまして、と言ったのに、自分をわかるか? などという意味不明な挨拶。なんだ? この男は…
闇に溶けるようなストレートの黒髪と褐色の肌。・・・ジプシー系の容姿?
もしかしてコイツ、カイルが言ってた変質者か?
「ふっ、ハハハハハハっ…ああ、その様子だと、俺らのことなんか、全くわからない…か」
声を上げて嗤う男。侮蔑と寂寥感、昏い憎悪とが混ざった複雑な感情。
「そうか。そうだよなぁ? アンタらは、自分達こそが正しいと主張して、俺らの存在の全てを、無かったことにしたんだからなあっ!!」
叩き衝けられる怒り。意味がわからない。なんなんだ? この男は・・・
チリっと額が疼く。
「っ…」
「なあ、お嬢さん。不用意だとは思わないか?」
ふっ、とオレの目の前に移動する男。
見下ろすのは、少し垂れ目気味な昏い蘇芳の瞳。右目の下には泣き黒子。
「!」
慌てて、後ろへ退がる。が、すぐさま距離を詰められる。チッ…瞬発力が高い。
「逃げるなよ?」
※※※※※※※※※※※※※※※
逃げようとする彼女。
だが、逃がさない。普段、森の奥からは滅多に出て来ない奴ら。それが今、俺の目の前にいる。
しかも、一人で、だ。
漸く巡って来た、復讐のチャンス。
俺の種族は、彼女の種族に滅ぼされた。
だから、その生き残りである俺には、復讐する権利がある。違うか?
そして、俺の種族を滅ぼしたクセに、その事実さえ知らない目の前の彼女が、腹立たしい。
薄い色の長いプラチナブロンドに、翠の瞳。格好は男物の服で、雰囲気も相当違ってはいるが、その顔は、あの絵に描かれていた・・・聖女だ。
「・・・」
困惑したような彼女を見下ろす。
復讐。どんなことが、復讐になるか考えた。
男は殺すと決めている。
だが、俺は女が好きだ。愛している。女は、女であること自体が既に尊い。
俺に女は殺せない。殺したく、ない。
だから・・・
「っと、危なっ・・・」
彼女の、俺の首を刈ろうとした蹴りを軽く上半身を反らして躱す。と、彼女が空中で身を捻り、回し蹴りが踵落としへと変化して俺へ迫る。それを、上半身を更に倒して地を蹴り、バク転で避ける。
成る程、それで男装か。
「危ないなぁ」
その隙に彼女が大きく跳び退さり隣の屋上へと、距離を取られる。しかし、甘い。その程度の距離では俺から逃げることはできない。いや、逃がさない。取られた分の距離を、一度の跳躍で詰める。
「!」
驚きに見開く翠の瞳。浮かぶのは銀色の瞳孔。ああ、綺麗な顔だ。滑らかな白い肌。細い顎。薄く色付く唇。幼さを残した少女の顔に、華奢な首筋、細い肩。長いプラチナブロンドが背中に靡く。
「寄る、なっ!?」
女の子にしては低め、硬質な響きのアルトの拒絶の言葉と共に振るわれる、閃く銀色の軌跡。
「物騒だな」
パッと散る数本の俺の黒髪。彼女の白い手には、いつの間にかナイフが握り込まれている。
「なんだ、手前ぇは」
あれ? …イメージと違うな?前に見たときは、もっと女の子らしい娘だと思ったんだが・・・
まあ、いい。
「今から、お嬢さんに酷いことをする悪い奴」
「変態か?」
侮蔑の声と表情。
「変態はヒドくないか? けど、多分…正解」
その認識は正しい。彼女へと手を伸ばす。
「っ!」
と、その腕が蹴られた。今のはいい判断。ナイフなら、腕を掴もうと思っていたのに、残念だ。しかも、なかなかのいい蹴り。びりびりと腕が痺れる。
「そうか、消えろ」
鋭い眼差しと、低い声。閃く手が、ヒュッとナイフを飛ばした。一、二、…合計四本。しかも、脳天、心臓、そして両膝の位置に、微妙に時間差で、だ。なかなかえげつない。ナイフを最小限の動きで躱し・・・
「…外したか…」
ぼそりと冷えた声。に、背筋がぞわりとした。思わずその場から、バッと跳び退く。と、
「チッ…」
不機嫌な舌打ちで腕を引く白い手。俺の後方から、ヒュッとナイフが彼女へと戻って行く。
おそらく、極細の糸がナイフに付いているのだろう。外したか、と言ったのはフェイント。
ナイフも、例え避けられたとしても、引き戻したときに糸が当たる位置に追い込むよう計算して投げているのだろう。あの場にいたら、間違いなく糸かナイフに刻まれていた。
なかなか、ではなく、相当えげつない。
近距離には体術とナイフでの格闘。
中距離には投げナイフと糸を使った攻撃。
なかなか物騒なお嬢さんだ。
なら、近付くのがベストだろう。
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