ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

42.復讐しようと思ってるんだ。

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 いとが、避けられた。
 この絲は、魔力を通すことで伸縮する姉さんが作った絲。蜘蛛の絲なので、ヘタな金属製のワイヤーなんかよりも頑丈だ。無論、殺傷力も抜群・・・なんだが、勘のいい奴だ。
 おそらく、目と反射神経もいいのだろう。
 変態のクセに。

 まあ、あれだ。
 無駄に足が速くて、目と勘と反射神経がいいという変態。そして、ビンゴブックでも見た覚えがない顔。こんな奴に付き合ってられるか。割に合わん。
 さっさと逃げよう。

 牽制けんせいでナイフを投げ、避けられる。これは想定内。この隙に、思い切り跳ぶ。垂直に…

「っ!?」
「言っただろう? 逃げるなよ」

 低い声が、通り過ぎた。羽根を広げる前に、男の方がオレよりも高い位置に跳んでいる。伸ばされる褐色の腕。捕まって、堪るか。
 咄嗟とっさに男へと蹴りを繰り出した。ら、

「っ!」

 スッと足を出され、受け止められるようにすねがぶつけられ、下へと押し戻された。
 建物の屋上へと着地する。
 クソっ・・・
 なんなんだ、コイツ。
 オレの攻撃を避けるだけで、反撃して来るワケでもない。逃げようとするオレを、捕らえるような動きをやたら繰り返す。
 さっきから、気持ち悪い。
 なぜか額が疼いて、苛つく。

 そして、男が降って来る。

「さて、お嬢さん」
「・・・」
「大人しく…は、無理だよな? やっぱり」

 ンなの当然だ。誰が大人しくするか。
 決めた。足を潰そう。
 屋上を蹴り、低い体勢で男へ向かう。
 ナイフを構え、狙うのはその足。

「っと、危ねぇ」

 刻もうとしたら、サッと避けられた。ムカつく。が、今ので奴の足に絲を引っ掛けた。それを、グッと引く。と、

「っ!?」

 奴の着ているズボンの布地が裂け、その足に赤い筋が走り、肉に食い込んで赤が流れる。が、

「チッ・・・」

 絲が戻って来ない。足を落とすつもりだったのに、途中で止まった。と、男がニヤリと笑った。

「っ!?」

 そして男が、絲を足に食い込ませたまま、足を引いた。慌てて絲を放すが、マズい。今のでバランスが崩された。瞬間、男が跳躍。一気に距離を詰められ、腕を掴まれる。

「ク、ソっ…!」

 掴まれたのはナイフを持つ腕。絲を放した手は空。苦し紛れの蹴りを繰り出す。が、その足を膝裏で挟まれ、絡め取られる。そして、身体が引き倒されて、景色が反転…した。

「放し、やがれっ!」

 気付いたら、蒼い夜空をバックにした男の顔が真上にあった。両手首を片手で掴まれ、頭上で押さえ付けられていた。有りていに言うと、押し倒されているという体勢。最悪だ。

「やっと捕まえた。本当に物騒なお嬢さんだな? お陰で、危うく足が落とされるとこだぜ」

 足が、動かない。男が膝立ちで、オレの両足をグッと押さえ込んでいる。

「っ・・・」
「なあ、お嬢さん。夜中に一人で出歩いて、不用意だとは思わないか? こうして、俺みたいな悪い奴もいるんだぜ?」

 男がオレを覗き込む。それは、くら蘇芳すおうの瞳。たぎるのは、昏い感情。深く深く、沸き上がる憎悪と憤怒ふんぬの感情。

「俺はさ、お嬢さん。アンタらが憎いんだよ。憎くて憎くて憎くて憎くて・・・堪らない。だから、復讐しようと思ってるんだ」

 ・・・エレイス関係…だろうか?コイツの身内が、狩られた…とか?それでその復讐?

「なあ、お嬢さん。手伝ってくれないか?」

 憎いと言った口の端が、吊り上がる。

「俺の子を、産んでくれ」
「冗談じゃねぇっ!」
「クッ、クックッ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」

 いきなり狂ったようにわらい出す男。

「だろうなっ!? そう言うと思ってたぜっ!? だから、復讐なんだよっ!! アンタらが否定し滅ぼした、俺の子を、アンタらに産ませて俺の血を残すっ! それこそが俺の復讐だっ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」

 狂気染みた瞳が、オレを見下ろす。

「自分から足を開けば、優しくしてやる。俺、女に無理強いするのは嫌いなんだよ」

 優しく、頬を撫でる熱い指先に、ゾッとする。

「っ!」

 プツリ、と下からシャツのボタンが外されて行き、肌がゆっくりと外気に晒される。初めて経験する、女としての、明確な危機。

「ああ、真っ白で綺麗な肌だ」

 兄さんやシーフは、こんなことしない。
 熱っぽい視線や手が触れることはあるが、オレが本気で嫌がることはしない。して来ない。

「なんだ? 紅い痣? 吸血鬼の、所有印?」
「っ!?」
「ハっ! 敵に捕らわれたら、自死する程誇り高いのがアンタらじゃなかったのかよっ!? そうまでして生き残りたかったのか? なあ、聖女様?」
「・・・聖、女?」

 思考が、停止する。
 なんで、聖女が出て来る?

「ハハハハハハハっ、ああ、そうだな? 違うか。クッ、クックッ…ハハハハハハハハハハハハハハっ!! なあ、吸血鬼の所有印まで付けられて生き恥を晒すくらいなら、俺にも媚びてみせろよ? できんだろ? 優しくするぜ? ここに…」

 熱い手が、オレの腹をそっと撫でる。

「たっぷり注いでやるよ。愛し合おうぜ、聖女様? ああ、楽しみだ。俺の子を産んだアンタを、あの連中がなんて言うのか・・・妥当なところだと、穢れた忌み子を殺せ、一族の恥晒し、浄化しろ、辺りか?」
「・・・」

 額が、疼く。
 ドクドクと脈打つ鼓動。
 怒りで、頭が真っ白になる。
 嫌な、いやで厭で厭で厭で厭で厭で厭で厭で厭で堪らないあの声と、記憶が蘇る。
 それらは、オレの愛しいヒトを・・・リュースを、傷付け、蝕んで、壊した言葉。
 オレからリュースを奪った言葉だ。
 ゆる、さない…赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない!!!

「・・、・…・・、す」
「なんだ? お嬢さん」
「…ろ…す・・・殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・手前ぇ、殺してやるっ!?!? オレの存在を、誰かが勝手に否定すんなっ!!!!」
「っ!?」

 全力で、殺す。
 奴がオレへと触れている場所の、血流を攪拌かくはん

「っ、ぐ、が、アァぁぁァあァぁぁっっ!?!?!?」

 男が絶叫を上げ、胸を掻きむしる。

 普段は決まった一方向にしか流れない血流を、無理矢理シェイクした。オレに触れている面積が大きい程、血管と心臓に強い負荷が掛かり、身体中を激痛が襲うだろう。血液が逆流し、毛細血管が破裂し、皮膚の中に血が溜まる。

 緩んだ拘束から抜け出し、男を蹴り上げる。

「ぐはっ!? ・・・っ! はっ、ハッハッ…」

 目や鼻、耳、口から血を滲ませたり吐いたりして、浅い呼吸を繰り返す男を見下ろす。肺に血が溜まっているのかもしれない。苦しそうだ。

 さあ、殺さなきゃ。

 ナイフを振り下ろし、男の胸へと突き立て、

「がっ、は、ぁ・・・」

 更にナイフの柄へ踵を叩き込む。
 やがて、男の呼吸が止まった。

「は、ぁ・・・ハァ、ハァ…」

 疲れた。座り込む。
 服、はだけたままだけど、動きたくねー。
 寝転がりたい。

 純血のヒト達はどうだか知らないが、オレは他人の身体の血流を操作するのは、非常に疲れる。許可が無い場合は、特にだ。

 体内の血流をいじるのは、時速数百キロで流れる川を操るのと似たようなこと。それを逆流させるのは、かなりの労力が必要となる。
 こと他人の血流に到っては、完璧にき止めたり、わざと流れを乱すことの方が難しい。圧力とかさ?血圧って、結構凄いんだ。
 普通に、治す方がまだ楽。

 久々の全力、キっツいわ・・・
 シーフの血、飲んどこ。

「はぁ・・・たりぃ…」

 胸元を見下ろす。心臓の真上に、紅い痣。
 月桂樹ローレルの葉に囲まれたダイヤモンドのマークは、父上の所有印だ。
 高位のヴァンパイアが、獲物や格下の者へと刻み付け、それが自分のモノだと周囲へ主張する証。

 あまり好きではないが、万が一のときの保険だそうだ。ハーフは、あまり純血種のヴァンパイアには好まれない。殺せ!という過激派も、少なからずいる。そういう連中に、万が一殺されそうになっても、父上の所有印が在れば、余程の馬鹿かうちへ相当恨みを持つモノ以外は手出しをしないだろう。

 なにせ父上は、真祖の血統の純血種。最高位に近いヴァンパイアの一人なのだから。

 で、見た奴は殺せと言われている。
 勿論、身内以外は、だ。
 はぁ……ボタン閉めよ。

※※※※※※※※※※※※※※※

 ああ、死んだ。
 朦朧もうろうとする意識の中、考える。

 彼女のこれは、なんだ?
 この能力は、あの連中には無い能力。

 なぜ、彼女がそれを使える?

 わからない。が、彼女は吸血鬼の所有印があった。
 吸血鬼の所有印は見たことがある。
 希に、娼婦に付いていることがあるからだ。
 そういう女は、手を出すと厄介なので、あまり触れないようにしていた。
 しかし、あの連中は別・・・だと思ったんだ。
 保身より、憎悪の方が勝ってしまった。
 それは、まあいい。

 そんなことより、彼女は、吸血鬼に成った、のか?
 だから、あんなことができた?

 いや、そもそも俺は、勘違いをしていたのか?
 彼女は、もしかして・・・
 あの、聖女と呼ばれていた少女の・・・娘、か?

 だと、すれば・・・彼女、は…

 ある、意味…俺、の…理想、の・・・

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・ドクン、と脈打つ鼓動。

 胸に刺さったナイフを、ずるりと引き抜く。

「・・・か、ハッ…」

 ゴポリとした血の塊が、再開した呼吸に押し上げられ、気道をせり上がる。苦しい。

「っ!?」

 バッと俺へ視線を向ける驚愕した翡翠。

「ハッ、ぁ…はぁ、ハァ・・・」

 ああ、久々に殺された。
 少しの間、死んでいた。
 ずるりと、額の両側から角が出る。そして、心臓、血管、その他の臓器や各器官を修復。
 あの連中は、治癒能力を自分の外へ向けるのが得意だったが、俺らは自分を修復するのが得意。
 要は、かなりしぶとい。
 おそらく、心臓が止まってしまっても、ある程度身体が元の形を保っていれば、仮死状態から息を吹き返すことができるのだろう。
 俺の経験則だが・・・
 こんな俺らを滅ぼしたのだから、連中の自分達こそが至上であるという執念は凄まじい。

「・・・お前は、なんだ」

 硬質なアルトが訊いた。

「・・・アンタは、あの連中じゃ、ないようだな」
「っ!! オレを、あんなクソ共と一緒にするなっ!?!? オレは、ヴァンパイアだっ!!!」

 翡翠の瞳が、赤く燃え上がった。憎悪に・・・
 ああ、彼女は俺と同じ…なのか。
 あの連中を、憎んでいる。とても・・・

「そう…か。ごめん。アンタを、傷付けるつもりだったけど、そんな風に…傷付けるつもりじゃなかったんだ。本当に、ごめん」
「殺してやる!」

 サッと移動し、座り込む彼女の頬をつうと伝った雫を指先でそっと掬い、離れる。

「ごめん・・・」

 そして獣型に変身し、この場を後にした。
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