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ヴァンパイア編。
48.約束通り、君の悪夢を食べに行くよ。
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懐かしい、魔力の波動を感じた。
これは、旧い知り合いのものだ。
双子の彼らの・・・弟の方だね。これは。
彼、割と壊れてるんだよね。
まあ、かなり素直だから、ある意味可愛いけど・・・って、やってることは全く可愛くないか。
子孫を殺して歩いてるんだから、彼の子孫側からすると、特大に迷惑な存在だね。
様子を見に行って軽く話したけど・・・
彼の八つ当りで、街にいた吸血鬼達が燃やされていた。灰も残さず、徹底的に燃やすのが彼の流儀。おそらくは、復活も叶わないだろう。
可哀想に、単なる八つ当りで消されてしまった。
彼は相変わらず・・・
本当に、碌なことをしない奴だ。
まあ、嫌いじゃないけどね。
彼は自分に素直で、嘘を吐かないから。
俺は他者の感情を察知するのに長けている。彼の感情は、苛烈に過ぎるが、とても真っ直ぐだ。その真っ直ぐさが、怖くもあるけれど。
嫌いじゃないからこそ、俺は忠告する。
なのに、奴には全く聞く気が無い。
小さい子とかさ? 虐待だとか、殺すのはいい加減やめればいいのにね。
そんなことを続けても、兄の方は絶対に戻って来ない。それを、何時まで経っても理解しようとしない…できない彼は、憐れだと思う。
それに巻き込まれた方は、堪ったもんじゃないだろう。もう、彼らに弓引いた最初の子供達は、とっくの昔に死んでいるのにさ?
自分で殺したクセに・・・まだ、止まらない。
少し前。彼らの因縁に、小さな女の子が巻き込まれた。兄に関わった為、弟の恨みを買ったというか・・・随分と酷い扱いを受けた。
あれは酷いね。本当に酷かった。
小さな子供にすることじゃない。
殴られ、蹴られ、首を絞められ、骨を砕かれ、奴の炎に焼かれて・・・何度も与えられる恐怖と激痛。そしてなにより酷いのは、死にかける度に、奴の血で再生させられたことだ。
酷い悪夢だったよ。全く・・・
あんなに弱い子が、奴の血に耐えられる筈も無く・・・可哀相に。あの子は、壊れてしまった。
何度も、壊された…奴に。
完全に命が潰える前に、あの子の父親と、元兇の片割れの方の彼、そして俺とであの子の命を繋いだ。
身体が死なないよう父親が維持し、奴の血を抑えるのを彼が。そして、離れかけていた魂を繋ぎ留めたのが俺だ。あれは、我ながらいい仕事をしたと思う。
まあ、それが果たして、本当にあの子の為になったかはわからないけど・・・
だってあの子は、酷い悪夢に魘されるようになったんだから。
奴のせい・・・そして、彼女を無理矢理救った俺達のせいで、ね?
悪夢を食べたり、配ったりするのは俺の領分。だから、あの子の夢を食べてあげた。
けれど、それだけじゃあ駄目だった。
奴…イリヤに与えられた血が、多過ぎた。
それに、あの子は・・・元々可哀想なくらいに辛い記憶を持っていた。それは、あの子の幸せな記憶と切り離せなくて・・・
それまで食べてしまうと、あの子があの子でなくなる可能性が高かった。
何度も壊されたあの子を、俺はそれ以上壊したくなかったんだ。あの子があの子でなくなることを、あの子の父親も望まなかったから。
そして結局、あの子の悪夢は封印するに留めて・・・中途半端に残したままだ。
可哀想なことを、したと思う。
けれど、俺は、あのときのあの子の父親の気持ちも、イリヤがしたことへの償いをしたいアークの気持ちも、全部わかってしまったから。
それから、あの子に再会したのはおよそ五十年後。
思わず目を疑ったよ。
だってあの子は、あんな場所にいるような・・・いていいような子じゃないんだから。俺は、悪夢を食べる為にあそこにいたんだけど。
幻獣の子なんかを、売買する人間の組織。そこに、あの子が来たんだ。一人で。
父親はなにをしている、と言いたくなったね。あれだけあの子を失うことを恐れていたクセに…と。
まあ、あの子の記憶を軽く覗くと、父親とは別居中。狼に育てられていることがわかったけど・・・
父親との別居を、イリヤ対策か・・・と。そう、納得できてしまった辺りが悲しい。
まあ、それはそれとして…狼の家でもなんらかのトラブルに巻き込まれたようだった。あの子…彼女に、悪意が纏わり付いていたからね。
つくづく、運の悪い子だと思った。
そこでもまあ、色々とあって・・・
狼の保護者が来るまで、俺が彼女を保護することにしたんだ。
元々、可愛い子は好きだからね。男女問わずに。
そんな俺と彼女は、趣味が近くて意気投合した。
俺は、彼女と話せることが嬉しかった。自分が救った子だからね。元気そうで安心したんだ。
彼女が、悪夢に魘されるまでは。
睡眠時間に彼女の悪夢を食べてあげて・・・
そこで俺は初めて、彼女に酷いことをしたのかもしれないと、思ったんだ。
だって、救った側はそれで満足かもしれないけど、辛い記憶を背負うのは、救われた側の・・・彼女なんだと、気付かされた。
悪いことをしたと、思う。
けれど、あのとき・・・どうすることが正解だったのか、未だにわからないんだ。
彼女を助けたい父親とアーク。俺も、小さい君を見殺しになんかしたくなかった。
その結果、君は今も苦しんでいる。
君の悪夢はもう、俺のものでもある。
辛いことは、わかり切っている。
イリヤが活動を再開した。
だから、それに呼応して、君はイリヤの悪夢を見ていることだろう。
イリヤは、君を殺したと思っている。だけど、無意識にかな? 君を追い掛けている。
イリヤが血を分けた君は、ここにいたんだから。
その、意味を・・・
イリヤはまだ、わかっていない。
わかろうとしない。
イリヤのすることは、したことは間違っている。
いい加減、気付けばいいのに・・・
本当に・・・イリヤは愚かしい。
だけど、その方が君の為ではある。
俺は君に言った。「君の悪夢は俺が食べてあげる」と。
責任を、取らなくてはいけないよね。
月色の髪に翡翠の瞳の可愛い君。
傷だらけで、それでも優しくて綺麗な君。
君はもう、大きくなっているよね?
「約束通り、君の悪夢を食べに行くよ。アル」
※※※※※※※※※※※※※※※
「?」
「アル君どうかしたー?」
「いや、なんでもない・・・」
なんかこう・・・誰かに呼ばれたような…?
「多分、気のせい」
今日は、やけに額が疼く。
気分が悪い。
弱いのは厭だ。動いてないと、胸がじりじりとするような焦燥感に苛まれる。
「おい、アル? 頭、痛いのか?」
心配そうな雪君に首を振る。
「大丈夫。さあ、雪君。遊ぼうか」
これは、旧い知り合いのものだ。
双子の彼らの・・・弟の方だね。これは。
彼、割と壊れてるんだよね。
まあ、かなり素直だから、ある意味可愛いけど・・・って、やってることは全く可愛くないか。
子孫を殺して歩いてるんだから、彼の子孫側からすると、特大に迷惑な存在だね。
様子を見に行って軽く話したけど・・・
彼の八つ当りで、街にいた吸血鬼達が燃やされていた。灰も残さず、徹底的に燃やすのが彼の流儀。おそらくは、復活も叶わないだろう。
可哀想に、単なる八つ当りで消されてしまった。
彼は相変わらず・・・
本当に、碌なことをしない奴だ。
まあ、嫌いじゃないけどね。
彼は自分に素直で、嘘を吐かないから。
俺は他者の感情を察知するのに長けている。彼の感情は、苛烈に過ぎるが、とても真っ直ぐだ。その真っ直ぐさが、怖くもあるけれど。
嫌いじゃないからこそ、俺は忠告する。
なのに、奴には全く聞く気が無い。
小さい子とかさ? 虐待だとか、殺すのはいい加減やめればいいのにね。
そんなことを続けても、兄の方は絶対に戻って来ない。それを、何時まで経っても理解しようとしない…できない彼は、憐れだと思う。
それに巻き込まれた方は、堪ったもんじゃないだろう。もう、彼らに弓引いた最初の子供達は、とっくの昔に死んでいるのにさ?
自分で殺したクセに・・・まだ、止まらない。
少し前。彼らの因縁に、小さな女の子が巻き込まれた。兄に関わった為、弟の恨みを買ったというか・・・随分と酷い扱いを受けた。
あれは酷いね。本当に酷かった。
小さな子供にすることじゃない。
殴られ、蹴られ、首を絞められ、骨を砕かれ、奴の炎に焼かれて・・・何度も与えられる恐怖と激痛。そしてなにより酷いのは、死にかける度に、奴の血で再生させられたことだ。
酷い悪夢だったよ。全く・・・
あんなに弱い子が、奴の血に耐えられる筈も無く・・・可哀相に。あの子は、壊れてしまった。
何度も、壊された…奴に。
完全に命が潰える前に、あの子の父親と、元兇の片割れの方の彼、そして俺とであの子の命を繋いだ。
身体が死なないよう父親が維持し、奴の血を抑えるのを彼が。そして、離れかけていた魂を繋ぎ留めたのが俺だ。あれは、我ながらいい仕事をしたと思う。
まあ、それが果たして、本当にあの子の為になったかはわからないけど・・・
だってあの子は、酷い悪夢に魘されるようになったんだから。
奴のせい・・・そして、彼女を無理矢理救った俺達のせいで、ね?
悪夢を食べたり、配ったりするのは俺の領分。だから、あの子の夢を食べてあげた。
けれど、それだけじゃあ駄目だった。
奴…イリヤに与えられた血が、多過ぎた。
それに、あの子は・・・元々可哀想なくらいに辛い記憶を持っていた。それは、あの子の幸せな記憶と切り離せなくて・・・
それまで食べてしまうと、あの子があの子でなくなる可能性が高かった。
何度も壊されたあの子を、俺はそれ以上壊したくなかったんだ。あの子があの子でなくなることを、あの子の父親も望まなかったから。
そして結局、あの子の悪夢は封印するに留めて・・・中途半端に残したままだ。
可哀想なことを、したと思う。
けれど、俺は、あのときのあの子の父親の気持ちも、イリヤがしたことへの償いをしたいアークの気持ちも、全部わかってしまったから。
それから、あの子に再会したのはおよそ五十年後。
思わず目を疑ったよ。
だってあの子は、あんな場所にいるような・・・いていいような子じゃないんだから。俺は、悪夢を食べる為にあそこにいたんだけど。
幻獣の子なんかを、売買する人間の組織。そこに、あの子が来たんだ。一人で。
父親はなにをしている、と言いたくなったね。あれだけあの子を失うことを恐れていたクセに…と。
まあ、あの子の記憶を軽く覗くと、父親とは別居中。狼に育てられていることがわかったけど・・・
父親との別居を、イリヤ対策か・・・と。そう、納得できてしまった辺りが悲しい。
まあ、それはそれとして…狼の家でもなんらかのトラブルに巻き込まれたようだった。あの子…彼女に、悪意が纏わり付いていたからね。
つくづく、運の悪い子だと思った。
そこでもまあ、色々とあって・・・
狼の保護者が来るまで、俺が彼女を保護することにしたんだ。
元々、可愛い子は好きだからね。男女問わずに。
そんな俺と彼女は、趣味が近くて意気投合した。
俺は、彼女と話せることが嬉しかった。自分が救った子だからね。元気そうで安心したんだ。
彼女が、悪夢に魘されるまでは。
睡眠時間に彼女の悪夢を食べてあげて・・・
そこで俺は初めて、彼女に酷いことをしたのかもしれないと、思ったんだ。
だって、救った側はそれで満足かもしれないけど、辛い記憶を背負うのは、救われた側の・・・彼女なんだと、気付かされた。
悪いことをしたと、思う。
けれど、あのとき・・・どうすることが正解だったのか、未だにわからないんだ。
彼女を助けたい父親とアーク。俺も、小さい君を見殺しになんかしたくなかった。
その結果、君は今も苦しんでいる。
君の悪夢はもう、俺のものでもある。
辛いことは、わかり切っている。
イリヤが活動を再開した。
だから、それに呼応して、君はイリヤの悪夢を見ていることだろう。
イリヤは、君を殺したと思っている。だけど、無意識にかな? 君を追い掛けている。
イリヤが血を分けた君は、ここにいたんだから。
その、意味を・・・
イリヤはまだ、わかっていない。
わかろうとしない。
イリヤのすることは、したことは間違っている。
いい加減、気付けばいいのに・・・
本当に・・・イリヤは愚かしい。
だけど、その方が君の為ではある。
俺は君に言った。「君の悪夢は俺が食べてあげる」と。
責任を、取らなくてはいけないよね。
月色の髪に翡翠の瞳の可愛い君。
傷だらけで、それでも優しくて綺麗な君。
君はもう、大きくなっているよね?
「約束通り、君の悪夢を食べに行くよ。アル」
※※※※※※※※※※※※※※※
「?」
「アル君どうかしたー?」
「いや、なんでもない・・・」
なんかこう・・・誰かに呼ばれたような…?
「多分、気のせい」
今日は、やけに額が疼く。
気分が悪い。
弱いのは厭だ。動いてないと、胸がじりじりとするような焦燥感に苛まれる。
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「大丈夫。さあ、雪君。遊ぼうか」
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