ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

49.どっちが冒涜者だか? 全く・・・

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 ・・・ヤバい。

 そろそろ本格的に金欠だ。財布が、心許ない。

 買い食いとかができない。

 まあ、結構金になる物は持ってるよ?
 気軽に売れない程・・・高価な物ばかりをさ?

 宝石や貴金属類、ASブランドの刀剣類、雛型のゼロ番などの貴重品・・・まともに売れる物が無い。いや、元から売るつもりも無いんだけどね?

 最低額何百万とかの宝石で買い物は普通に無理。

 血液のストックも無いと、不貞寝ふてねもできないんだよねー。起きたとき困るしさ? まさか、血か精気を・・・って、船のヒト達襲うワケにも行かないだろう。

 なんかいい獲物いないかな?と、ビンゴブックを捲る。が、この地方は聖女信仰が強い土地柄か、強盗や殺人などの凶悪犯は少ない。人外の犯罪者も、この地域には少ない。
 代わりに、詐欺やら怪しい宗教が多い。

「はぁ・・・」

 奇跡や、治癒? 聖女の再来? 病気の治る水? お布施がどうたら・・・とかさ?

 聖女の名を悪用する詐欺師共の横行・・・

 彼女リュースの娘としては、全く面白くねぇ。

※※※※※※※※※※※※※※※

 ということで、資金調達がてら怪しい宗教団体へアタックしに来てみたワケだ。

 まずはここ。

 なんだっけ? 祈るだけで救われる・・・だとか、死期の心を安らかに? という団体。

 祈るのはいいけど、金取るってどうよ? しかも、なに? 多く寄付したら、聖女の加護? 意味不明なんだけど? ということで、行ってみよー!

 無論、最初はこっそりと潜入したよ?
 けど、八つ当りも兼ねてるからさ。
 ここ最近の鬱憤うっぷんを晴らさせてもらおうと、来るなら来い! で、バッタバッタと警備の人間やら狂信者共を薙ぎ倒している最中だ。

「よ、っと」

 通路の真ん中。オレを殺す気で振るわれた槍を、壁に向かって跳んで避ける。更に壁を蹴り、身体を捻って天井を足場に、空中でくるんと前転。

「なっ!?」

 警備兵の肩へ踵落とし。

「ぐっ、がァァっ!?!?」

 ゴキリと鈍い音。肩の骨が砕けたようだ。
 よし、進もう。

 勿論、手加減はしている。
 まだ、誰も殺していない。せいぜいが骨折程度。

 ちなみに、服装は目立たないよう黒尽くめのアサシンスタイル。髪の毛もまとめて黒いキャスケットの中に突っ込んでいる。靴も、消音の軽量仕様に交換して来た。
 いつものブーツよりも少し速く走れる。金属を仕込んでいることは変わらないが、軽量仕様なので殺傷力は低めだ。
 あと、変な仮面。一応、顔バレ防止の為に黒いアイマスク的なやつを装備した。
 ぶっちゃけ、かなりの不審人物だと思う。
 まあ、仕方ないけどさ。

 目標は、教祖的な中心人物と、宝物庫。
 中心人物を潰すついでに金品を頂く予定だ。
 一応、被害者の人達に返すべきだとは思うけどさ? まあ、団体を潰す手間賃ってやつ。
 悪いとは思うけど、オレも慈善じゃないんだ。現金も欲しいし、八つ当りも込みだからね。

「止まれっ! ここは通さんぞっ!!」

 通路を抜けると、少し開けた場所。広間か? に辿り着いた。剣を持った人間が五人。少なくね?

 とりあえず、剣を壊すか。ソードブレイカーとマインゴーシュを取り出す。

 ソードブレイカーとは、その名前の通りに剣を破壊する為の剣のことだ。
 刃が、根本近くから二つか三つ程に枝分かれした特殊な形状。その枝分かれした根本で剣を受け止め、それを梃子てこの原理でパキッと折る為の剣。武器破壊の為の武器となる。一応、普通に剣としても使えるよ? 少し見た目がゴツくて、扱いにくいけど。
 オレのこれは、二つに枝分かれしたやつ。

 マインゴーシュというのは、左手という意味を持つ短い短剣のこと。刀身が三十センチも無いが、柄に手首をカバーする覆いが付いていたりする。
 これはどちらかというと、サブウェポン的な扱いが多いかな?右手で長剣を、左手にマインゴーシュを構えるスタイルが多い。
 二刀流のときに、盾代わりにしたりね?
 サブや盾扱いで短いけど、頑丈で切れ味もいい。リーチの短さに油断していると、マインゴーシュにグサリ・・・ということも少なくない。
 実は、長剣をサブに。マインゴーシュをトドメの本命に使う剣士がいたりもするからね。

 まあ、今回は切れ味を披露する気は無いけどね?
 ソードブレイカーを左手に、マインゴーシュを右手に構える。左手という意味だからって、右で使えないことはないからさ?

 そして、ダッシュ。

 剣が振るわれる前に、ソードブレイカーに剣を挟み込み、グッと手首を返し、相手の剣を水平に。そして、マインゴーシュの柄を叩き込む。

 はい、一人目。

 パキンっと澄んだ音を起てて呆気なくへし折れる剣。ご愁傷さまだ。
 剣は、露骨に品質での差が出るからな。ま、品質の差をものともしない達人なら別だが・・・そんな奴は非常に少ない。
 驚き顔で固まり、隙だらけになった警備兵の首へと回し蹴り。意識を刈り取る。

「なっ!? や、やれっ!!」

 うん。遅いから。
 振るわれた剣をギンっとソードブレイカーで受け止め、今度は剣を折らずに腕を振り抜いて相手を振り回し、別の警備兵へとぶつける。

「「うぐっ!?」」

 はい、二人脱落。

 まあ、ヴァンパイアとしてはかなり非力な方で、最近負けっ放しな感じだけど・・・人間の男程度の相手なら、膂力では負けない。一応、鍛えている人間の男以上の腕力はあるんだ。

 人外には怪力なヒトが多いから、その程度あんまり意味無いし、全く自慢にならないけどね・・・

 そして、またダッシュ。

 剣を掻い潜り、相手の懐へ。正拳ならぬ、マインゴーシュの手首カバーをガツンと顎へ叩き込む。

 はい、残りは一人。

「おのれ、こうなれば刺し違えてでも!!」

 なーんかこの人間、軽く目ぇイっちゃってンだよね。どうするかなぁ?

 ガギン! と、ソードブレイカーで剣を受け止める。と、折られることを警戒したのだろう。刃の間に挟み込む前に、ざっと剣を退いて離れて行く相手。ヒットアンドアウェイか。

 …割と、剣を使えるようだしさ?

 武力を持つ狂信者って怖いんだよねー。
 ということで、腕を潰そう。

 ソードブレイカーを仕舞い、ナイフを投げる。

「ふんっ、こんなものっ…」

 顔面を狙ったナイフ二本が弾かれ、

「ぅぐっ!?」

 両足を狙ったナイフはヒット。

 残念。ナイフは四本でした。
 次いで、絲でナイフを引き戻す。と、同時に体勢を崩した相手に向かってダッシュ。

「ぐっ、がっ!?」

 擦れ違い様にマインゴーシュを振るい、スパッと両腕の腱を斬り、返すその柄で後頭部をガツン! 倒れる相手。とろりと床を流れる血。

「ふぅ・・・」

 おっさんの血に興味は無い。が、失血死されても後味が悪い。仕方ないから、止血しよう。両腕、両足を拘束がてらにぐるぐると止血。

 あとは放置しても構わないだろう。

 さて、行くか。

 広間を抜けると、頑丈な扉。
 押すと、鍵が掛かっているようで開かない。

 鍵穴に水を入れ、余分な水を抜いて鍵の形に凍らせる。合鍵の完成。それを回すとガチャリ。
 鍵の外れた扉を開く。

 中は、礼拝堂のような場所。

「なんの用でしょうか。冒涜者よ」

 よく通る低い声が響いた。
 白を基調とした、如何にもな教祖の格好。

 どっちが冒涜者だか? 全く・・・

「お前が教祖か?」
「我が教団の教祖はの聖女様。わたしが教祖などとは、畏れ多い。あなたの目的はなんですか? もしも俗世の浅ましき・・・」

 なんか言ってンな。よくわからんことを。

 聖女は神が遣わした奇跡…云々うんぬん

 いや、それ全く違うから。
 手前ぇらが勝手に祭り上げてンな、オレの愛しいヒトだから。その、愛しいヒトの名前を騙《かた》って、金儲けに利用とか? ンなのゆるすワケねぇだろ。

「黙れ?」

 アイマスクを外し、教祖へ視線を向ける。バッと距離を詰め、

「そ、の顔はっ・・・聖女様っ!?」

 驚愕の顔の、その瞳を覗き込む。
 そして、支配する。

「他人をおとしいれようとしたり、あざむこうとすると、舌が動かなくなる」

 強く、深く暗示を掛ける。
 こういう、弁舌を武器にするタイプは、それを封じられるとなにもできなくなる。
 ついでに、宝物庫の場所を聞く。
 アイマスクを直して、と。

「つか、祈るだけで救われる筈ないだろ。本気で他人を救いたいなら、医者にでもなれっての。さあ、眠れ。起きたら、オレの顔を忘れろ」

 パチン、と指を鳴らすと倒れる教祖。

 さ、宝物庫へ行こうっと。

※※※※※※※※※※※※※※※

 そして、やって来た宝物庫。

「あれ? アルゥラ」

 なんかいたしっ!?!? とりあえず、

「死ね!」
「ハッハッハ、アルゥラも盗賊か? お揃いだな?」

 投げたナイフが軽く避けられる。笑顔でっ! 絲で引き寄せるも、またサッと避けられる。

「それにしてもアルゥラ、泥棒は静かに、這入はいる場所の連中に気付かれずにこっそりやるもんだぜ? 相変わらずうっかりさんだな? アルゥラは。まあ、そういうところも可愛いけどなっ!」

 蘇芳の瞳がパチンとウインク。

 ああ゛、殺してぇっ!

 つか、オレは教団潰しに来たんだから、騒ぎ起こしてなんぼだってのっ!

「そんなうっかりさんなアルゥラを、俺が確りサポートして外までエスコートするから安心してくれ。大船に乗ったつもりで任せろ!」

 胸を張って差し出される褐色の手の平。が、

「うをっ!」

 突き刺そうとしたマインゴーシュを避ける。

「チッ…」
「ふっ、そう照れなくてもいいんだぜ? 大丈夫、アルゥラの愛はちゃんと俺に伝わってるからさ」

 バッと両手を広げ、役者張りの恥ずかしい台詞。

 もう本っ当、ヤだ。
 コイツ早く死なねーかな?

 ウザい馬鹿を無視して、脱出しよう・・・としたら、付いて来られたっ!?

「待てよ、アルゥラ。盗賊の先輩として、エスコートしてやる。無論、感謝は要らないぜ? だから、愛を籠めてトール♥️って呼んでくださいっ! 是非ともっ、ハートマークは忘れずにっ!」
「・・・死ね」
「ふっ、俺はな? アルゥラ。アルゥラからトール♥️って、ハートマークで呼んでもらって、いちゃラブな感じになるまでは死ねないんだっ!!」

 本気で頭悪い感じのことを、真顔で主調する馬鹿。しかもナイフを避けながら。

 なんでオレ、こんな馬鹿をれないんだ?

 こんな、馬鹿を・・・

「さあ、俺の胸に飛び込んでおいで!」

 気持ち悪い。

「消えろっ!」

 こうして、更なる八つ当りに拠って・・・
 この夜は、複数の宗教団体を壊滅させた。

「俺の華麗な怪盗振り、格好よかっただろ? 惚れてもいいんだぜ? アルゥラ」
「消え失せろっ、変態野郎がっ!?」
「ハッハッハ、またな? アルゥラ」

※※※※※※※※※※※※※※※

 数ヵ月後、とある宗教団体の施設に、無償で怪我や病気を治療する病院が建てられたという。

 宗教団体の施設だった為、周辺住人は大層怪しんだが、意外にもまともな治療がされ、しかも無償。その為、この病院は後に貧民の救いの場として活躍したという。

 なんでも、ある朝教祖が目覚めたら、神の啓示が頭に響いたとか・・・詳細は不明。
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