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ヴァンパイア編。
59.・・・説明、してもらおうじゃない。
しおりを挟む「うわ…悪女だね。君は。」直後の話です。
__________
「ん…ふ、ぅ・・・はぁ…」
甘く熱い吐息と、濡れた音が部屋に響く。
「は、ぁ…アル♥️・・・ん…」
濃い蜜色の肌を晒した半裸の女が、意識の無い白い少女の両手に指を絡めて押さえ付け、上に乗って一方的にその唇を貪っていた。
「なにをしているっ!」
思わずカッとなって、白い少女を引き寄せる。
この船の中はアタシの領域だ。その中に在るモノは、アタシの手許へ引き寄せることができる。
腕の中に引き寄せた白い少女…小娘は、服がはだけて胸元が露になっている。
下着は脱がされていない。よかった。青白い顔の口元が淫魔の唾液で汚されていて、なんとも言えない。
そんな姿をなるべく見ないように、シーツも引き寄せて小娘をパッと包み、腕の中に抱き寄せる。
ぐったりとしていて、やはり意識が無い。
濡れた顔をそっとシーツで拭う。
そして、込み上げる怒りのまま、ベッドの上の半裸の女を強く睨み付ける。
「ふふっ、いけない子ね? 婚約者同士の逢瀬を邪魔するなんて。悪い子」
ぺろりと自分の唇を舐めて笑う色気過剰の女が、気怠げに裸の胸を片腕で覆い隠す。
「どっちが? 意識の無い小娘を一方的に犯そうとする淫魔の邪魔をすることが、悪いことか?」
「ヤだな? 勘違いはしないでほしい。本番はしないから、女になっているんだよ。あたしは上を脱いでるけど、アルの服は、脱がせてはいないだろう? 悪いけど、その子のことを本当に心配しているなら、邪魔をしないでくれないか?」
片手を挙げ、敵対の意志が無いことを女が示す。茶化すような口調が改まった。
確かに、淫魔は半裸だけど、アルはまだ服を着ている。シャツは全開だったけど、パンツはそのまま。ベルトも外されてはいない。裸足だけど・・・
「なにを言っている?」
「君がアルを心配しているのはわかってる。だけど、今邪魔される方が、アルの為にならない」
金の混じる紫の瞳があたしを見詰める。その瞳に巫山戯た色は無い。欲情の色も、だ。
「どういう意味だ」
低く、問い掛ける。
「その子が不眠気味なのは?」
冷静な声が聞く。
「・・・知っている」
アルがあまり寝ていないことは知っていた。夜には出掛け、戻るのは夜中から朝方にかけて。そして少し部屋に戻り、また出て、ミクリヤのいる食堂に入り浸り。昼間は起きていて、夜も起きている。何時寝ているんだとは、思っていた。
そんな小娘にガタが来たのは、ヒューがやらかした後だ。アルの頭を撫でようとして、おそらくは小娘のトラウマを刺激した。あの後から、小娘の調子が格段に悪くなった。
小娘の弟を名乗るイフリートのガキが来て、また持ち直していたようだが、最近になって、また小娘の様子がおかしくなって来ていた。
なにがあったかは知らないが、手紙一枚寄越して後に数日間音信不通で、相当酷い…不細工な貌《かお》をして帰って来たことは記憶に新しい。
最近また、物騒な貌をしていて・・・
「弟君が、アルを強制的に寝かせたことは?」
「知っている」
「俺のも、そういうこと。というか、俺のは、もう少し踏み込んだことだね。悪夢を食べるんだ」
「淫魔じゃ、なかったのか?」
「知らない? 淫魔は夢魔の一種なんだよ」
種族を偽っていた、ということか・・・
いや、嘘ではない。と、言っている。
事実を一部、伏せていただけ。
明かしたのは、このヒトなりの誠意か? けど、
「襲う必要は?」
「キスは身体を繋げる代わり。肌の接触が多いと、精神を繋ぎ易いからね。唾液は眠りを付与し続ける為と、あたしがアルに潜り易くする為。体液を使うのが手っ取り早くて馴染ませ易い。そういう風に見えるだけで、襲ってはいないよ。あたしとこの子の付き合いは、割と長いからね。この子が小さいときから、この子の悪夢を食べているんだ」
「小さい、頃から・・・」
腕の中の小娘を見下ろす。
「そう。そして、その悪夢の原因が、最近活動を再開してね。俺は様子を見に来たんだ」
「悪夢の、原因?」
トラウマを植え付けた相手か?
「案の定、アルの具合が悪いというワケだ。忘れさせるから、アルを渡してくれないか?」
濃い蜜色の手が差し出される。アルを渡せと。
「・・・アルの、許可は?」
「必要無い。むしろ、それを思い出させることの方が、アルの自我を危うくする」
「・・・後で、ちゃんと説明しなさいよね」
暫し逡巡し、アルを渡すことにする。
「ありがとう」
「・・・っ」
ほっとしたように優しく微笑む淫魔…夢魔に、なにも言えなくなって、小娘の部屋を後にする。
だって、仕方ないじゃない。
思い出すと自我を危うくさせる程のトラウマなんて、思い出さない方がいいに決まっている。
※※※※※※※※※※※※※※※
船を沖に向けてから数時間後。
船底のアタシの部屋がノックされた。
「どうぞ」
「ハァイ♥️人魚ちゃん」
入って来たのは、色気過剰の…淫魔を名乗っていた、夢魔だ。
今はちゃんと服を着ている。
「・・・アルは?」
「寝てるわ。安定させたから大丈夫よ。暫くは起きないでしょうけど」
「・・・どれくらい?」
「最低でも一週間、かしら?」
「追っ手というのは、アルのトラウマの原因?」
「ええ。可能な限り、接触を避け続けるのが無難ね。そうじゃないと、命も危ないから」
「・・・説明、してもらおうじゃない」
金の混じる紫を睨み付ける。
「困ったわねぇ・・・」
「・・・アルの胸元の紅い痣。あれって、ヴァンパイアの所有印なんじゃないの?」
「へぇ…見たんだ? アルの胸元。谷間。人魚ちゃん、そんな格好してるけど、男の子なのに? ああ、違うか。やっぱり男の子、なのねぇ…」
男と繰り返し、ドレス姿のアタシを冷ややかに見やる視線に、慌てて口を開く。
「目に入ったのっ! 別にあたしだって見たくて見たワケじゃないわよ! 不可抗力…よね?」
見てないわよ? チラッとしかっ!
パッと、紅い色があったんだもの。
白く、滑らかな肌に・・・っ!?
「だ、だってあれ、シャツがほぼ全開だったんだもの…っていうか、アンタのせいでしょうが!! アタシ悪くないわよ! それにアンタだって男でしょ!」
「今は女よ? 正真正銘の、ね」
「・・・なに? 喧嘩売ってンの?アンタ……」
「いーえ、全く?」
ムカつくわね。でも、話が進まないから、アタシが大人の対応をしてやろうじゃない。
「・・・ところで、その追っ手っていうのは、その所有印を付けた相手なのかしら? 確かヴァンパイアやら吸血鬼は、所有印を付けた相手を粘着ストーカーの如く追い回すのよね?」
「…まあ、そうかもしれないわねぇ・・・」
遠い目をする夢魔。
「兎に角、アルが目を覚ますまであたしの滞在を認めてほしいわね」
「小娘が目を覚ますまで? その後、アンタはどうするのよ?」
「ん~・・・考え中、かしら? ほら、あたし猫君にものすっご~く嫌われてるじゃない?」
「ああ、ミクリヤ・・・アンタ、ミクリヤになんかしたの?」
「猫君本人になにかというワケじゃなくて・・・」
すっと夢魔の姿が少年へと変わる。
「目の前で何人か壊したから、かな? あと、この姿で小さいときのアルにディープキスとか? あ、勿論軽めだよ? けど、そのせいで俺、猫君にはショタ野郎だと思われたらしくてさ? 猫君、ずっとアルのこと男の子だと思ってたからねぇ? というか、アルもアルでずっと訂正しなかったみたいだしさ」
若干低くなった声が言う。
「俺はむしろ、幼児趣味は嫌いなんだけどねぇ?」
「・・・まあ、なんとなくわかったわ」
自称淫魔…それも、マインド・クラッシャーとか言われてる危ない奴が、小さい子供にディープキスとかすりゃ、滅茶苦茶嫌われて当然だわ。
「つか、小娘も小娘で、よくアンタを受け入れたわね? 頭おかしいんじゃないの?」
「そこは俺の人徳、かな?」
「無いからミクリヤに嫌われてンでしょ」
「じゃあ、アルの懐の深さってやつ? あの子、小さい頃から無駄に漢前だったからねぇ」
「ああ、なんかそれわかるわ」
こうして、夢魔とアタシは話し合った。
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