ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

68.・・・アルちゃんって、お嬢様じゃなかった?

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 アルちゃんが起きたのと、クラウド君が出て行ってから数日が経った。

 あの話をして、アルちゃんはどこか吹っ切れたというか、俺達との距離が少し縮まったような気がする。
 あと、ミクリヤと乱闘で怪我とか・・・確りと釘を刺しておいたし。

 だから・・・こないだ聞きそびれてからずっと気になっていたことを、

「アルちゃんってさ、クラウド君のこと、好き…なのかな?」

 アルちゃんに聞いてみた。

「?」
「いや、だってその…キスとか」

 クラウド君が出て行ったとき、図らずも…二人がキスとハグをしているのを見てしまった。というか、二人共、ミクリヤがいても関係無いとばかりに堂々としていたというか・・・
 かなり、恋人同士感が漂っていた気がする。クラウド君は、アルちゃんの婚約者候補だって言っていたし・・・シーフ君よりも、親密そうだった。
 こう……別れを惜しむ恋人同士というか・・・そういう風に見えた。まあ、俺の主観なんだけどね。

「キスは挨拶ですよ? あと、オレにとっては食事ですからね」
「・・・食事?」

 思いもよらぬ答えが返って来た。

「ええ。食事。エナジードレインとか、血を頂くことの一環です。それがなにか?」
「…仲、良いんだよね? クラウド君と」
「ええ。友達です」
「・・・友達、なの? クラウド君」
「? ええ。友達ですよ?」
「だって、キスしてた…よね?」
「挨拶でしょう? キスは。狼なら、顔を舐めたりしますし。似たようなもんです」
「似てる…かな?」
「親愛でしょう? あれは」
「キスは親愛、なの?」
「? ええ。親愛と食事ですよ?養母かあさんが口移しでご飯くれるのと似たようなものです」
「・・・アルちゃんてさ、いつからレオンハルトの家で暮らしてるの?」
「幼少期からですが? それがなにか」
「口移しって、生肉…だったりするの?」

 まさか、さすがにそれは無い…

「いや、それはさすがに・・・一回、狼型の養母さんに兎を生で食べさせられて吐きましたからね。養父とうさんとレオが、お腹壊すから生肉はやめとけって養母さんを説得してくれました」
「クレアさんっ!?」
「で、ヴァンパイアなんだから血だろうって。仕留めたての水牛を一頭持って来られて、思う存分飲みなさいって言われたときは困りましたね」
「…ねえ、アルちゃん。俺は、なににツッコミを入れればいいのかな?」
「そしたら、養父さんが生きてるやつに決まってるだろうって、養母さんが納得して・・・」
「…それで、どうなったの?」
「レオも、養母さんにやめろって言ってくれて、別のヴァンパイアハーフに、食事は人間と同じでいいっていうのを聞いてくれたんです」
「よかったね。アルちゃん」

 ふっと苦笑するアルちゃん。

「本当に。それで、血や精気が欲しいときには分けてくれるようになったんです」
「へぇ・・・って、それが口移し?」
「ええ。狼のヒト達って、傷の治り速いじゃないですか? 一々傷作るの面倒だって、舌噛み切って血を分けてくれるんです。養母さんとレオ」
「レオンハルトもっ?」
「? ええ。シーフもですが」
「待ってっ、それおかしくないっ!?」
「? だって、レオの筋肉、硬くて噛み切れないんですよ? 噛んでもすぐ治るし。アイツが軽く拳握ると、それでもう手首にオレの牙通らないんです。筋肉硬過ぎ。首も柔らかくないし、牙通らないからって力一杯噛むと痛いって文句言うし、オマケに余計な力入って更に牙が通らない。そしてすぐ治る。羨ましいやらムカつくやらで、レオの血なんざ要らん! って、喧嘩売って負けましたねー。昔」
「それ、どういう喧嘩なの?」
「取っ組み合い挑んで、あっさり鎮圧。馬乗りで押さえ付けられて、口ン中指突っ込まれて、おら飯だぞアル、さあ飲め! って感じですかねー?」
「なにしてんだレオンハルトはっ!!」
「で、養母さんにブッ飛ばされてレオが撃沈」
「え?」
「養母さんに血を飲まされて…飲まされ過ぎて吐いたりとか…そして、オレは学びました。食事を許否するのにも、武力が必要なんだと。つか、今考えても、幼児に奴の筋肉が噛み切れるとは思えないぜ。狼の咬筋力こうきんりょくを幼児に求めるなっての」

 もう、色々とおかしいよね? 最初からさ?

「やっぱり、アルちゃんが少しおかしいのは彼らが原因…だよね。どう考えても」
「? オレ、おかしいですか?」

 きょとんと首を傾げるアルちゃん。
 自覚、無いんだね・・・うん。わかってた。

「女の子っぽくない…よね? かなり…」

 相当控え目に言っても、大分だいぶだけど。

「まあ、そうですね。エレイスの家では、サバイバル全般と護身術を叩き込まれましたからね」
「・・・アルちゃんって、お嬢様じゃなかった?」
「まあ、身分的にはそうらしいですねー? オレは全くそういうつもり無いですけど」
「・・・」

 お嬢様どころか、女の子の自覚も薄いけどね…

「俺が血を分けてあげるって言ったら、キスしてもいいのかな? アルちゃんに」

 パチパチと瞬く銀色の浮かぶ翡翠。そして、考えるように眉が寄せられる。

「・・・う~ん…兄さ…レオに、殺されないくらいの実力、持ってます? ジンは」
「え? いや…どういう意味かな? それは」
「え~と、ですね・・・うちは、シスコンというか…その、みんな、オレに過保護というか…」

 困ったようにアルちゃんが言う。

 まあ、シスコンというか…「俺の妹に手を出したらぶち殺す。そのつもりでいろ」レオンハルトはそう言っていたけど・・・
 アルちゃんを自分のものだと、言葉ではなく態度で示していた。首筋を噛み、唾液を付けてマーキングして。

「ぶっちゃけ、オレに手ぇ出すと殺されますよ? シーフも、なんだかんだで結構面倒だし」

 スティングさんの言葉を思い出す。「俺の娘に手を出すな…と、言いたいところだが、まあその辺りも手前ぇらの自己責任だな。但し、この子には婚約者候補が複数いる。ンで以て、どの野郎もこの子に執着している。弱ぇ奴ぁ、殺されても知らん。その覚悟があンなら、特に文句は言わねぇよ」確か、そう言っていた。

 アルちゃんへの執着、か・・・
 シーフ君も、思いっ切りアルちゃんにベタベタしてたよなぁ。
 何度も結婚しようと言っていた、アルちゃんを見詰める灰色の浮かぶ熱っぽいエメラルド。
 あれは、姉弟の情・・・にはとても見えなかったけどね? 今思えば、シーフ君は…アルちゃんは自分のモノだと、全身で主張していたんだ。

 アルちゃんが、『姉弟の情』に収めたいんだろう。
 ハッキリと、弟と結婚して堪るかと言っていたし…

「アルちゃんは、結婚自体が嫌なの? それとも、相手が嫌なのかな?」
「え?」
「クラウド君が言っていたよ? 君の結婚相手として条件が一番いいのは自分だろうって。次点がシーフ君、かな? そんな感じのことを、ね」
「まぁ・・・多分、そうなんでしょうね。だから、クラウドが好きかっていう質問を? ジン」

 溜め息混じりに俺を見上げるアルちゃん。

「まあ、そんなところかな? クラウド君とアルちゃん、かなり仲良さそうだったから」
「まあ、クラウドは割と好きですよ? あのヒトと結婚したいとは思いませんけどね。勿論、シーフとも、ですけど」
「そっか。変なこと聞いてごめんね?」
「いえ」

 結論。アルちゃんは、俺が思っていたよりも、更に女の子らしくないことが判明した。

 あれだけシーフ君やレオンハルトに執着されている割に、それを判っていなさそうだ。
 アルちゃん自体の考え方が男の子っぽいというか、まだ子供・・・なのかな?
 まあ、この子の状況も状況だしなぁ・・・

 そして・・・

 スティングさんやクレアさんは、明らかにアルちゃんの育て方を間違えたと思います。
 想像以上に獣っぽい扱いを受けていたというか・・・もっと女の子扱いをしてあげてください。
 切にそう思います。
 特に、クレアさん・・・
 あなたがかなりヒドいです。
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