ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

86.じゃあ、迷惑料ってことで。取っといて。

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 なんなんだろう?

 物騒な気配に駆け付けてみればミクリヤとアルちゃんが斬り合っていて、それを止めようとしたらカイルがキレて、転ばされた。

 挙げ句、食堂を荒らしていない俺が後片付け…

 理不尽だと思う。

 そして、一言も喋らないミクリヤ。

 ヒューに聞こうとしても、カイルがさっさと手を動かせと言って、聞けない。

 まあ、ヒューの方も同様のよう。
 俺になにか聞きたそうだけど・・・

「ちょっとアンタっ! サボんないでよねっ!? ヒューも、余所見よそみしてないでよ!」

 という具合いだ。
 掃除が終わるまで、話はできない。

 というか・・・

 ひっくり返った椅子や壊れた椅子、ヒビの入ったテーブル、靴跡の付いた壁や天井、割れた照明・・・
 割れた食器は、粉々だが少量。しかし、曲がったフォークと粉々の陶器が、床を傷付けている。

 ちなみに、床は俺達が片付け。カイルは、壁や天井を拭いている。浮かばせた雑巾で。屋敷妖精ブラウニーは、家の中では家事に特化した魔術が使えるらしい。あと、悪戯いたずらや邪魔に特化した魔術や呪いのたぐいも・・・
 カイルは掃除が好きなので、手が届かない場所以外にはあまり魔術を使わない。
 邪魔や悪戯も、使っているのを見たことが無かった。今回は、ぐちゃぐちゃにされた食堂が腹に据え兼ねたのかもしれない。

 それにしても・・・

 これ、アマラがキレるだろうなぁ。
 船の修繕全般はアマラがやっているし、家具や照明も、各個人の部屋以外の内装は全部アマラの趣味だ。まあ、この船は元々アマラのものだし。

 壊すと、怒られる。
 そして、弁償させられるんだ。

 前に厨房を爆破したときなんか、設備を丸々換えさせられて・・・あれは高かったっ!?

 特に、床だ。床板の張り替えは面倒だし。アマラが自分でやるからなぁ・・・

 何年も前のことなのに、未だにネチネチ言われ続けられている。弁償したのに・・・オマケに、当時の最新設備にさせられたのに・・・

 ちょっと間違って、料理が爆発しただけなのに、あれから厨房は立ち入り禁止になるしさ?

 ミクリヤもきっと、弁償させられるだろう。

 そして、片付けが粗方終わると、ミクリヤは静かに厨房へ戻って行った。

 その後、厨房からはドスンドスンと激しい音が響いているが・・・なにをしてるんだか?

 まあ、俺はどうせ厨房には入れないし、ミクリヤは放っといて、ヒューに事情を聞くとしよう。

※※※※※※※※※※※※※※※

「なにしてくれてンのアンタ達はっ!?」

 怒られている。アマラに呼び出されて・・・雪君は調理中らしいので、今は一人で怒られている。

 食堂の惨状を見てしまったらしい。

 テーブルや椅子、照明、床板の弁償を求められた。まあ、悪いのはオレと雪君だ。
 怒られるのは仕方ない。
 弁償も仕方ない。

「…払うけどさ、アマラ」
「なによっ!?」

 吊り上がったアイスブルーが見下ろす。

「オレ今、あんまり持ち合わせ無くて…」
「出してみなさいよ」

 差し出される手の平。あ、案外手大きい…の上に、そっと貴金属類を乗せる。

「? ・・・え?」
「今出せンのは…エメラルドの指輪、ホワイトサファイアのペンダントトップ、ガーネットのイヤリング、オパールのブローチ…くらいかな?」
「・・・そういえばアンタ、お嬢様だったわね…」
「? あ、これ? 自前のじゃないよ。こないだ、宗教団体潰したとき掻っ払って来たやつだし」

 数十から数百万とかの品ならかく、自前の物は数千万から億くらいの価値だ。
 普通に、出せない。というか、兄さんから贈られた宝飾品を売るとか・・・考えただけで恐ろしい。
 シーフが作ったのも、やたら出来がいいし・・・面倒な手続きなどが必要になる為、おいそれと売れる代物じゃない。値段や買い手が付くのに、時間が掛かる品と言えばわかるだろうか?
 芸術的価値の付与する貴金属になるらしい。

 すぐに現金が欲しいときには売れない・・・

「・・・そういうことさらっと言うとか、引くわ。しかも、現役お嬢様が強盗・・・宗教団体って、簡単に潰せるようなもんじゃないわよ普通」

 どこか苦い顔のアマラ。

「? 足りない?」
「そういうことじゃないわよ。っていうか、それならこれ、盗品ってことなんじゃないの? 全部」
「あ、その辺りは大丈夫」

 結晶配列とか、ちょっといじったし。不純物などの内包物インクルージョンを取り除いたり、形や位置を少し変えたから、鑑定書を元にして再鑑定をされたとしても、よく似た別物という鑑定結果が出るだろう。
 もしくは、元より価値が上がったりとか?

「絶対に足は付かないから、安心して?」

 胸を張って言える。

「・・・どこから来るのよ、その根拠は?」
「心配なら、台座変えたりする? カッティングまで変えると、全然別物になるけど? 石、小さくなるし・・・それか、熱処理で色変える? どっちにしても、価値が変わっちゃうけどね」
「・・・それ、本気で裏ルートのやり口…」
「? なんか問題あった?」
「むしろ、問題しかないわよ・・・」

 呆れたようなハスキーの溜息。

「? 足りない?」
「だから、そういうことじゃないの」
「??」
「…もういいわ。むしろ、多いわよ」
「そう? じゃあ、迷惑料ってことで。取っといて」
「・・・他にもあるの?」
「一応ある」

 けど? と、言い終わる前に、アイスブルーの瞳がギラっと強く光った。

「見せなさいっ!?」
「え~と、どこ置こう?」
「ふっ」

 パチンとアマラが指を鳴らすと、大きめの黒いテーブルが現れた。

「さあ、出しなさいっ! 見せなさいっ!?」

 目がギラギラしている。とても・・・

「貴金属、好きなの?」
「嫌いな奴がいるワケないでしょっ!?」

 断言された。反論は許される雰囲気じゃない。

「え~と・・・それより価値が低くてもいい?」

 アマラの手に乗せた物を指して聞く。

「構わないからつべこべ言わず出す!!」

 なにやら、スイッチを押してしまったようだ。
 カイルは髪フェチでアマラは宝石好きか・・・

 テーブルの上に、宝飾品を出して行く。

 ダイアモンド、トパーズ、ルビー、アメジスト、オニキス、トルマリン、アクアマリン、シトロン、瑪瑙、翡翠、ラピスラズリ・・・
 ペンダント、ネックレス、チョーカー、ピアス、イヤリング、指輪、アンクレット、ブレスレット、ブローチ、カメオ、宝石だけなど・・・

「ふっ、フフフ…オーホッホッホッ!?」

 アマラの高笑いが響く。

「さあっ、付けるわよっ!?」
「へ?」
「ぐずぐずしないでボタン外すっ!?」

 アマラに手を取られ、有無を言わせずシャツのボタンが外されて袖がまくられる。
 手首にブレスレット、指には指輪、耳にはイヤリングを当てられ・・・

「ちょっと、襟元もボタン外しなさいよ? ネックレスが付けられないじゃない」

 不満げなハスキーが言った。

「や、オレの手掴んでンの、アマラだからね?」
「あら? そうだったわね。ほら、早く外す!」

 アマラの手が放され、早くと急かされる。

「や、オレ別に」
「早くしなさいよっ! 宝石は、実際に肌に乗せてこそ映えるんだからっ!」
「・・・あんまり開けたくないんだけど? 露出するのは嫌いなんだよ」

 というか、父上の所有印があるから、胸元が開いたデザインの服は着られないし。
 絶対に見せたくないし、見られたくもない。
 見られたら、消さないといけないしさ?

「・・・ったく、仕方ないわね?鎖骨さこつまででいいわよ。ほら、さっさとボタン外す」
「・・・」

 仕方ないので、二つ程ボタンを外す。いつも一段目は開けているので、三段目まで開けたことになる。

「・・・落ち着かない」
「お黙り」

 と、オレの首元へペンダントやネックレスを当てるアマラ。眼光が鋭い。

「♪~」

 ご機嫌そうな鼻歌。楽しそうだ。
 しかし、さすが人魚。鼻歌もかなり上手い。

「やっぱり、アンタには淡い色が似合うわね」

 じっと首元を見詰めるアイスブルー。ふわりとした豪奢ごうしゃな巻き毛が肩口に垂れる。
 淡い蜂蜜色のハニーブロンド。

「…綺麗な髪」

 リュースと似た色の髪の毛。好きな色だ。毛質は違うけどね? リュースの髪の毛はもっと、柔らかそうなウェーブでふわふわとしていた。

「え? そんなの当然・・・って、近いわよアンタ」
「ん? お…」

 アマラの髪の毛を見ていたオレと、オレの首元を見下ろしていたアマラ。確かに、近い。

 図らずも見詰め合ってしまう距離。

 キラキラと意志の強そうなアイスブルー。長い睫毛とキリッとした眉も、淡い蜂蜜色。滑らかな白い肌、通った鼻筋、赤い唇。

 本当に、迫力美人だ。

「・・・なによ?」
「ん? 綺麗だなって」
「っ…アンタはっ・・・実は女ったらしよね!」

 ムッとしたようなハスキー。

「? 女の子は好きだよ?」
「悪かったわね、女じゃなくてっ!?」
「オレは綺麗なヒトも、可愛い子も大好きだよ。男女は特に問わない」

 綺麗なものを眺めるのは好きだ。

「っ・・・言うじゃない。…近いわよ」
「? っていうかさ、オレに顔寄せて来てンのはアマラの方なんだけど?」

 屈んでるというか、覗き込まれている。それで、近いと文句を言われてもね?

「お黙り!」

 と、姿勢を正すアマラ。

「ね、アマラ」
「なによ?」
「貧血とか、大丈夫?」
「海にいる人魚になに言ってンのよ? 生意気」

 ビッと、ほっぺたを軽く引っ張られた。そして見下ろすアイスブルー。

「ああ、そうだ。採寸していい?」
「は?」
「アタシに触られんの嫌ならあの夢魔呼ぶわ」
「いや、なんでいきなり採寸?」
「は? なにアンタ、アタシの血を値切る気っ!? 着せ替え人形、忘れたとは言わさないわよっ!?」
「忘れてはないけど…」

 気乗りはしないと言ったところだ。

「アタシのドレスだとサイズ合わないから、丈詰めたりしなきゃいけないのよ」
「え? アマラ、裁縫するの?」
「当然じゃない。これ、誰が縫ったと思ってンの?」

 ドレスの裾をつまみ、胸を張るアマラ。

「マジで? 布から作ってンの? すごーい!」
「当然よっ! もっと褒め称えなさいっ!?」
「すごーい。新作作るの頑張ってねー? それじゃあ、オレはこれで」
「ふんっ、逃がさないわよっ!」

 肩へ置かれた白い手。
 次の瞬間、部屋が変わっていた。広いテーブルに、長い布や定規、はさみ、紙の束などがところ狭しと置かれている。

「あれ? ここは…?」

 艶やかな声。

「アタシの工房よ」
「どうしたの? 人魚ちゃん」

 ルーがアマラを見詰める。

「決まってるじゃない! 採寸よ。手伝いなさい」

 ポイっとルーへメジャーを投げ、

「ほら、あっち。カーテン引いたら見えないから、小娘の採寸アンタがやってちょうだい」

 オレの背中を押すアマラ。

「ふふっ、いいわ。たのしそう♥️」

 にこりと微笑むルー。

 駄目だ。逃げられそうにない・・・
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