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ヴァンパイア編。
87.人魚ちゃんのお姉さんはコワい子だねぇ。
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「さあ、アル。お洋服、脱いじゃいましょう♪」
「や、別に服の上からで」
「だって、そしたら正確な採寸ができないわ♥️」
「ちょっ、ルーっ!?」
「あんっ、白くてすべすべの肌♥️」
「ひゃ、ちょっ、どこ触ってンだっ!?」
「脇腹♪」
「擽ったいからっ!」
「動いちゃ、ダ・メ♪」
「くっ…ルーっ!」
「敏感なのねっ♪可愛い♥️」
カーテンの奥から聞こえるのは、ウキウキとセクハラをかます夢魔の声と、戸惑う小娘の声。
「ちょっとアンタ達っ! アホやってないでさっさと測りなさいよっ!?」
全く、悪巫山戯も大概にしてほしいわ。
こっちは、小娘に着せたいドレスを真剣に考えて選んでるってのに。
作っただけで、まだ一回も袖通してないドレスも沢山あるのよねー? 小娘の肌や髪の色、瞳の色、雰囲気なんかを総合的に考えて・・・
小娘にはどんなドレスが似合うのかしら?
ああ、楽しみだわっ♥️
とりあえず、露出の少ないデザインのドレスなのは確定済みで・・・
「人魚ちゃんに怒られちゃった♪」
「とか言いつつ、腰を撫でるな」
「ふふっ」
「おい、夢魔っ・・・」
思わず出た低い声に、
「冗談はこれくらいにして、測るのはスリーサイズだけでいいのかしら?」
夢魔が巫山戯るのをやめたようだ。
「は? ンなワケないでしょ? なに言ってンの? 首の太さ、長さ、左右の首から肩にかけて。肩幅、肩から肘、肘から手首まで。そして肩から手首にかけての全体的な腕の長さ、二の腕、肘、手首の太さ。それからアンダーバスト、トップバスト、ウエスト、ヒップ、骨盤。足全体の長さ、ウエストから膝まで、膝から足首まで。とりあえずはまあ…ざっとこんなとこね」
「あら、本格的」
「…オーダー並みの採寸・・・」
「当然でしょ。そうじゃないと、身体のラインとドレスのシルエットが綺麗に出ないもの」
「職人気質な・・・姉さんみたい」
「あら? アンタの姉はなにしてるヒト?」
「姉さんは・・・絲から紡いで布を織るんだ。で、その布で洋裁と和裁。オレの普段着は大体が、姉さんが作ってくれたやつだよ」
ワサイ? なにかしら? けどまあ・・・
「アンタの姉の方がアタシより凝ってるわよ」
「まあね。でも、姉さんの家系は機織りの家系だからね。代々服飾のプロなんだよ。アマラは趣味でしょ?趣味でそこまでやるヒト、見たこと無くてさ」
「人魚達は人間が嫌いだもの。だから、欲しいなら自分で作るしかないのよ」
アタシの服作りは全部独学だ。ドレスを買って来て、それを解いて一から勉強した。
「それにしても、小娘。アンタの姉は随分とお優しいことね? 羨ましい」
「? アマラもお姉さんいるの? どんなヒト?」
うちの馬鹿姉は・・・
ああ、思い出すだけでゾッとするわ・・・
あの女、相当エグいマッドなのよねー・・・
アタシの姉は、頭ピンクのおバカ人魚じゃなくて、真性の変人タイプ。マッドサイエンティスト。
あの馬鹿姉の、一番のお気にいりの遊びは、解剖することだった。アタシ達人魚が、なかなか死なないことを利用して、自分で自分を解剖とか・・・
ドン引きだ。
斯く言うアタシも、あの馬鹿姉に結構な頻度で解剖されたワケだけど・・・
なんでも、自分で自分を解剖すると、手足なら兎も角、内臓が見えないだとか…あと、激痛で集中できないやら、麻酔使うと手足の感覚や思考が鈍るだの・・・「だから、解剖させてくれ。弟よ。大丈夫だ。少し痛いくらいで、人魚は簡単には死なないからな」そういうヤバいことを、笑顔でのたまうような姉だ。
どう考えても頭おかしいわ。おぞましい。
まあ、あの馬鹿姉が頭おかしかったから、頭ピンクの盛ってる普通の人魚共がアタシに寄って来なかったってのもあるけど・・・
つか、あの文言はどうかしてるわ。「私の弟と子作りしたければ、被検体としてその身を差し出せ。さすがに、自分の中身だけではデータが足りない。もっとサンプルが必要でな?一度の解剖につき、アマラと一回。無論、麻酔無しで頼む。切口もなるべく治さないようにしてくれ」だとかなんとか・・・本当に、色々と最低過ぎる。
マッドなクズ女だ。
まあ、その最低な馬鹿姉のお陰で、アタシに寄って来る女共は相当数減ったけど・・・
なにを思ったか、あの馬鹿姉が陸に上がって行方不明になった途端、頭ピンク女共がアタシに群がって来て・・・不覚にも、あの馬鹿姉にちょっとだけ感謝してしまったわ。
毎日毎日、寝ても覚めても・・・四六時中、頭ユルい盛った肉食ピンク女共が数百人単位でアタシを狙ってて、集落を出るまで気の休まる暇が一切無かった。
あんなマッドの変態馬鹿姉でも、防波堤になってくれてたんだ・・・ってね?
「・・・今、行方不明中」
「え?」
「ちなみに、真性の変人タイプよ」
「へぇ…心配?」
「いえ、全く。むしろ、あの変態が他人様へ迷惑を掛けてないかが、心配だわ」
「変態って・・・お姉さんでしょ? アマラの」
「そうよ。解剖大好きで、マッドサイエンティストな変態クズ人魚よ」
「…解剖好きのマッドな人魚・・・? あ、オレそのヒト知ってるかも」
「はっ!? マジでっ?」
「うん。面識は無いけど、あれだよ。エレイスにいる。解剖好きのマッドな人魚のヒトが、内陸部で人魚の遺骸を回収してるって聞いたことがある」
解剖好きのマッドな人魚。他にそんな人魚がいるとは思えない。非常に高い確率でアタシの姉だ。
思いもかけないところから、馬鹿姉の情報が提供されたものだわ・・・
というか、本気で驚いた。あの馬鹿姉が、そんなことをしていただなんて・・・
人魚の望まぬ人魚の一部。不老不死の霊薬になるからと、奪い取られた人魚達の肉体と命。髪の毛、鱗、血液、歯、皮膚、内臓、骨など・・・無念だったろう人魚達の身体と想い。
それらを、海へと還すのが人魚達の悲願だ。
とはいえ、人魚は陸に上がると弱い。
だから、今の人魚は、人魚の望まぬ人魚の一部を回収するのを、アダマスとエレイスに手伝ってもらっている。その代わりに、海底にある金銀財宝をアダマスへ資金提供しているのだ。
あのマッドサイエンティストに、そんな感傷があったとは驚きだわ。
港近郊や、沿岸地域なら兎も角、好き好んで内陸部へ行こうという人魚はいない。
やっぱり、あの馬鹿姉は真性の変り者だ。
まあ、あの馬鹿姉も人魚の王族候補だった女だ。
人魚の男は、生れたときから王族候補になることが決まっている。けれど、女は、純粋な能力の強さで王族候補が決まる。
馬鹿姉は、純粋に強かった。現存する人魚の中でも一、二を争う程の実力を持つ。けれど、そのマッドな性格が災いして、王族候補を外された。
あの馬鹿姉を王族候補から外したヒトは、英断だったと語り種にされる程だ。
「なんかさ、組んだ狼に解剖させてくれってしつこく迫るらしくて、ものすっご~く敬遠されてるって。レオと養父さんが、絶対にあの危ないマッド人魚には近付くなって教えてくれた」
「…あんの馬鹿姉っ・・・」
小娘の言葉に、思わず顔を覆う。
「人魚ちゃんのお姉さんはコワい子だねぇ」
「逢いたいなら、連絡付けようか? アマラ」
「要らないわよ。どうせ、顔見たら挨拶代わりに解剖させてくれって言うような女だもの」
「・・・ぅわぁ…」
小娘の、ドン引きしたような声。
「・・・アンタだって、弟を虐げてンでしょうが…」
せめてもの抵抗として呟く。しかし、
「や、さすがに解剖とか非道なことしないから」
「っ・・・」
全く以て言い返せないわっ!?
と、無駄口を叩きながら採寸が進んで・・・
「そろそろ布地とか木材欲しいのよねー。誰かさん達が暴れたせいで、食堂を修理とかしなきゃいけなくて。陸に行こうかしら?」
「・・・ごめんなさい…」
「あら、あたしも、欲しい物があるの。だから、後でどの辺りへ行くか相談しましょ? 人魚ちゃん」
「わかったわ」
どうやら、もう陸地へ行ってもいいらしい。
要相談付きだけど・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
本格的な採寸とアクセサリーやドレスのことで、長時間のお喋り。アマラから解放されたのは、数時間後・・・というか、もう半日以上経っている。
ルーは、アマラと話があると工房に残った。
工房を出ると、ほわほわといい匂いが漂っている。香ばしいパンとバターの香りがする。
どうやら雪君はパンを焼いているようだ。
いいな。焼き立てのパン・・・
食べたいから雪君に謝りに行こうっと。
食堂へ向かうと、綺麗に・・・ではなくて、それなりに片付けられていた。
ひっくり返った椅子は直され、壊れた椅子や割れたテーブルが隅の方にまとめてある。壊れた照明が外され、無事なテーブルに燭台が点っている。
壁や天井の足跡も無い。
しかし、破壊の跡は残っている。片付けを手伝っていない分、申し訳ない気分になる。
カイルにも謝らないとなぁ・・・
「・・・」
オレの足音か気配か…を察知した雪君が、仏頂面で厨房から顔を出す。
「や、雪君。さっきは」
「謝るなっ!!」
ごめん、と言う前に強い口調で遮られた。
「?」
「…悪かった。お前には、謝る」
「オレには?」
「クラウドの野郎には絶っ対ぇ謝らん!」
「ぷはっ…ふふっ…ま、いいんじゃない? 別に、無理に仲良くしろとは言わないしさ」
顔を赤くする雪君が可愛い。
「笑うな!」
「はいはい。それで、なに焼いてるの?」
「バターロールだ。食うか?」
「いいね、美味しそう」
「今、クロワッサンも仕込んでる」
「おお、いつ焼くの?」
「あと、三回くらいはバター折り込みたいから・・・六時間後くらいか?」
「そんなに掛かるの?」
「デニッシュ生地は時間掛かンだよ」
「へぇ…」
__________
アマラのお姉さんが出ているのは「誰が為の異端審問か。」という話です。
多分こちらを先に読んでいる方には、彼女が出て来たらすぐにわかるかと思われます。
イリヤとフェンネルとは違った意味で、病んでいて狂っているキャラが出ています。
暴力、虐待、グロがあります。鬱展開、狂愛耐性があって興味のある方は覗いてみてください。
「や、別に服の上からで」
「だって、そしたら正確な採寸ができないわ♥️」
「ちょっ、ルーっ!?」
「あんっ、白くてすべすべの肌♥️」
「ひゃ、ちょっ、どこ触ってンだっ!?」
「脇腹♪」
「擽ったいからっ!」
「動いちゃ、ダ・メ♪」
「くっ…ルーっ!」
「敏感なのねっ♪可愛い♥️」
カーテンの奥から聞こえるのは、ウキウキとセクハラをかます夢魔の声と、戸惑う小娘の声。
「ちょっとアンタ達っ! アホやってないでさっさと測りなさいよっ!?」
全く、悪巫山戯も大概にしてほしいわ。
こっちは、小娘に着せたいドレスを真剣に考えて選んでるってのに。
作っただけで、まだ一回も袖通してないドレスも沢山あるのよねー? 小娘の肌や髪の色、瞳の色、雰囲気なんかを総合的に考えて・・・
小娘にはどんなドレスが似合うのかしら?
ああ、楽しみだわっ♥️
とりあえず、露出の少ないデザインのドレスなのは確定済みで・・・
「人魚ちゃんに怒られちゃった♪」
「とか言いつつ、腰を撫でるな」
「ふふっ」
「おい、夢魔っ・・・」
思わず出た低い声に、
「冗談はこれくらいにして、測るのはスリーサイズだけでいいのかしら?」
夢魔が巫山戯るのをやめたようだ。
「は? ンなワケないでしょ? なに言ってンの? 首の太さ、長さ、左右の首から肩にかけて。肩幅、肩から肘、肘から手首まで。そして肩から手首にかけての全体的な腕の長さ、二の腕、肘、手首の太さ。それからアンダーバスト、トップバスト、ウエスト、ヒップ、骨盤。足全体の長さ、ウエストから膝まで、膝から足首まで。とりあえずはまあ…ざっとこんなとこね」
「あら、本格的」
「…オーダー並みの採寸・・・」
「当然でしょ。そうじゃないと、身体のラインとドレスのシルエットが綺麗に出ないもの」
「職人気質な・・・姉さんみたい」
「あら? アンタの姉はなにしてるヒト?」
「姉さんは・・・絲から紡いで布を織るんだ。で、その布で洋裁と和裁。オレの普段着は大体が、姉さんが作ってくれたやつだよ」
ワサイ? なにかしら? けどまあ・・・
「アンタの姉の方がアタシより凝ってるわよ」
「まあね。でも、姉さんの家系は機織りの家系だからね。代々服飾のプロなんだよ。アマラは趣味でしょ?趣味でそこまでやるヒト、見たこと無くてさ」
「人魚達は人間が嫌いだもの。だから、欲しいなら自分で作るしかないのよ」
アタシの服作りは全部独学だ。ドレスを買って来て、それを解いて一から勉強した。
「それにしても、小娘。アンタの姉は随分とお優しいことね? 羨ましい」
「? アマラもお姉さんいるの? どんなヒト?」
うちの馬鹿姉は・・・
ああ、思い出すだけでゾッとするわ・・・
あの女、相当エグいマッドなのよねー・・・
アタシの姉は、頭ピンクのおバカ人魚じゃなくて、真性の変人タイプ。マッドサイエンティスト。
あの馬鹿姉の、一番のお気にいりの遊びは、解剖することだった。アタシ達人魚が、なかなか死なないことを利用して、自分で自分を解剖とか・・・
ドン引きだ。
斯く言うアタシも、あの馬鹿姉に結構な頻度で解剖されたワケだけど・・・
なんでも、自分で自分を解剖すると、手足なら兎も角、内臓が見えないだとか…あと、激痛で集中できないやら、麻酔使うと手足の感覚や思考が鈍るだの・・・「だから、解剖させてくれ。弟よ。大丈夫だ。少し痛いくらいで、人魚は簡単には死なないからな」そういうヤバいことを、笑顔でのたまうような姉だ。
どう考えても頭おかしいわ。おぞましい。
まあ、あの馬鹿姉が頭おかしかったから、頭ピンクの盛ってる普通の人魚共がアタシに寄って来なかったってのもあるけど・・・
つか、あの文言はどうかしてるわ。「私の弟と子作りしたければ、被検体としてその身を差し出せ。さすがに、自分の中身だけではデータが足りない。もっとサンプルが必要でな?一度の解剖につき、アマラと一回。無論、麻酔無しで頼む。切口もなるべく治さないようにしてくれ」だとかなんとか・・・本当に、色々と最低過ぎる。
マッドなクズ女だ。
まあ、その最低な馬鹿姉のお陰で、アタシに寄って来る女共は相当数減ったけど・・・
なにを思ったか、あの馬鹿姉が陸に上がって行方不明になった途端、頭ピンク女共がアタシに群がって来て・・・不覚にも、あの馬鹿姉にちょっとだけ感謝してしまったわ。
毎日毎日、寝ても覚めても・・・四六時中、頭ユルい盛った肉食ピンク女共が数百人単位でアタシを狙ってて、集落を出るまで気の休まる暇が一切無かった。
あんなマッドの変態馬鹿姉でも、防波堤になってくれてたんだ・・・ってね?
「・・・今、行方不明中」
「え?」
「ちなみに、真性の変人タイプよ」
「へぇ…心配?」
「いえ、全く。むしろ、あの変態が他人様へ迷惑を掛けてないかが、心配だわ」
「変態って・・・お姉さんでしょ? アマラの」
「そうよ。解剖大好きで、マッドサイエンティストな変態クズ人魚よ」
「…解剖好きのマッドな人魚・・・? あ、オレそのヒト知ってるかも」
「はっ!? マジでっ?」
「うん。面識は無いけど、あれだよ。エレイスにいる。解剖好きのマッドな人魚のヒトが、内陸部で人魚の遺骸を回収してるって聞いたことがある」
解剖好きのマッドな人魚。他にそんな人魚がいるとは思えない。非常に高い確率でアタシの姉だ。
思いもかけないところから、馬鹿姉の情報が提供されたものだわ・・・
というか、本気で驚いた。あの馬鹿姉が、そんなことをしていただなんて・・・
人魚の望まぬ人魚の一部。不老不死の霊薬になるからと、奪い取られた人魚達の肉体と命。髪の毛、鱗、血液、歯、皮膚、内臓、骨など・・・無念だったろう人魚達の身体と想い。
それらを、海へと還すのが人魚達の悲願だ。
とはいえ、人魚は陸に上がると弱い。
だから、今の人魚は、人魚の望まぬ人魚の一部を回収するのを、アダマスとエレイスに手伝ってもらっている。その代わりに、海底にある金銀財宝をアダマスへ資金提供しているのだ。
あのマッドサイエンティストに、そんな感傷があったとは驚きだわ。
港近郊や、沿岸地域なら兎も角、好き好んで内陸部へ行こうという人魚はいない。
やっぱり、あの馬鹿姉は真性の変り者だ。
まあ、あの馬鹿姉も人魚の王族候補だった女だ。
人魚の男は、生れたときから王族候補になることが決まっている。けれど、女は、純粋な能力の強さで王族候補が決まる。
馬鹿姉は、純粋に強かった。現存する人魚の中でも一、二を争う程の実力を持つ。けれど、そのマッドな性格が災いして、王族候補を外された。
あの馬鹿姉を王族候補から外したヒトは、英断だったと語り種にされる程だ。
「なんかさ、組んだ狼に解剖させてくれってしつこく迫るらしくて、ものすっご~く敬遠されてるって。レオと養父さんが、絶対にあの危ないマッド人魚には近付くなって教えてくれた」
「…あんの馬鹿姉っ・・・」
小娘の言葉に、思わず顔を覆う。
「人魚ちゃんのお姉さんはコワい子だねぇ」
「逢いたいなら、連絡付けようか? アマラ」
「要らないわよ。どうせ、顔見たら挨拶代わりに解剖させてくれって言うような女だもの」
「・・・ぅわぁ…」
小娘の、ドン引きしたような声。
「・・・アンタだって、弟を虐げてンでしょうが…」
せめてもの抵抗として呟く。しかし、
「や、さすがに解剖とか非道なことしないから」
「っ・・・」
全く以て言い返せないわっ!?
と、無駄口を叩きながら採寸が進んで・・・
「そろそろ布地とか木材欲しいのよねー。誰かさん達が暴れたせいで、食堂を修理とかしなきゃいけなくて。陸に行こうかしら?」
「・・・ごめんなさい…」
「あら、あたしも、欲しい物があるの。だから、後でどの辺りへ行くか相談しましょ? 人魚ちゃん」
「わかったわ」
どうやら、もう陸地へ行ってもいいらしい。
要相談付きだけど・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
本格的な採寸とアクセサリーやドレスのことで、長時間のお喋り。アマラから解放されたのは、数時間後・・・というか、もう半日以上経っている。
ルーは、アマラと話があると工房に残った。
工房を出ると、ほわほわといい匂いが漂っている。香ばしいパンとバターの香りがする。
どうやら雪君はパンを焼いているようだ。
いいな。焼き立てのパン・・・
食べたいから雪君に謝りに行こうっと。
食堂へ向かうと、綺麗に・・・ではなくて、それなりに片付けられていた。
ひっくり返った椅子は直され、壊れた椅子や割れたテーブルが隅の方にまとめてある。壊れた照明が外され、無事なテーブルに燭台が点っている。
壁や天井の足跡も無い。
しかし、破壊の跡は残っている。片付けを手伝っていない分、申し訳ない気分になる。
カイルにも謝らないとなぁ・・・
「・・・」
オレの足音か気配か…を察知した雪君が、仏頂面で厨房から顔を出す。
「や、雪君。さっきは」
「謝るなっ!!」
ごめん、と言う前に強い口調で遮られた。
「?」
「…悪かった。お前には、謝る」
「オレには?」
「クラウドの野郎には絶っ対ぇ謝らん!」
「ぷはっ…ふふっ…ま、いいんじゃない? 別に、無理に仲良くしろとは言わないしさ」
顔を赤くする雪君が可愛い。
「笑うな!」
「はいはい。それで、なに焼いてるの?」
「バターロールだ。食うか?」
「いいね、美味しそう」
「今、クロワッサンも仕込んでる」
「おお、いつ焼くの?」
「あと、三回くらいはバター折り込みたいから・・・六時間後くらいか?」
「そんなに掛かるの?」
「デニッシュ生地は時間掛かンだよ」
「へぇ…」
__________
アマラのお姉さんが出ているのは「誰が為の異端審問か。」という話です。
多分こちらを先に読んでいる方には、彼女が出て来たらすぐにわかるかと思われます。
イリヤとフェンネルとは違った意味で、病んでいて狂っているキャラが出ています。
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