ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

88.フェンネル君には重々気を付けて。

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 約、一月ひとつきの間、ずっと探し続けて・・・

 やっと見付けたっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 港に着いた翌日。

「というワケで、これから買い物に行くわ。付き合いなさい、小娘」
「へ?」

 珍しくも昼間っから出て来たアマラの言葉。

「ほら、行くわよ」
「行ってらっしゃい♪」

 と、白い手に引っ張られて街へ出た。手を振るクラウドに見送られて・・・

「ったく、人が多いわね。ゴミゴミしてて空気悪い。太陽出てて暑いし。紫外線はお肌の大敵なのに・・・干からびたらどうしてくれンのよ?」

 自分で買い物をすると言って出て来たというのに、ぶつぶつと文句ばかり。そして、つばの広い帽子にサングラス、絹のカーディガン、絹の日傘。これだけの完全防備なんだから、そうそう日焼けはしないと思う。

「え…と、アマラ? どこ行くの?」
「だから、買い物よ。買・い・物! 新しい布欲しいって言ったじゃない。アンタのドレス作ンだから、アンタがいないと始まらないでしょうが?」
「え? いや、待って。作る? なんで? アマラのドレスのサイズ直しじゃなかったの?」
「ふっ…等身大着せ替え人形よ? それも、超一級品の素材っ! 張り切るに決まってるじゃないっ!?」

 ドン!と胸を張るアマラ。

「ぇ~・・・張り切らなくていいよ?」
「お黙り小娘っ! アンタは黙って大人しく、アタシのマネキンしてればいいのっ!?」
「・・・はぁ…」

 こうして、布地を大量に扱う店へ突撃した。

 ああでもない、こうでもないと沢山の種類の布と睨めっこするアマラ。

「飽きた…」

 小さく呟いたとき。ふと、知っている匂いが空気にしたような気がして、辺りを見回す。

「おや? どうして貴女がここに? アレ…」

 店内を歩いて来るのは見知った顔。

「! どうもお久し振りですっ! ソーディのアルです! ご無沙汰してますね! アクセルさんっ!」

 名前を呼ばれる前に遮り、ずかずかと手を取って握手をする。と、驚いたようにまばたいた青の瞳が、何かを察したように柔らかく微笑んだ。

「はい。お久し振りですね。アルさん」

 にこにこと細められる青の瞳に、栗色の髪の毛。ヒトがよさそうな柔和な雰囲気のこのヒトは、アクセル・ブライト。姉さんの旦那さん。
 混血のオレ達を差別しないいいヒトだ。というか、差別してたら姉さんと結婚してないか・・・
 そもそも、ブライトは純血じゃない家系として有名だし。血を交ぜることで残った家。

 ちなみに、姉さんがオレをアレクと呼ぶので、このヒトも基本オレをアレクと呼ぶ。対外的には、アルかその他、ダイヤ、ASブランドにさん付けだ。

「本日はどうされましたか? アルさん」

 柔らかく見下ろす青の瞳。

「どう…というか、アクセルさんこそ」
「ここは、うちの店ですからね。視察ですよ」
「ああ、そうでしたか・・・」

 ダイヤとエレイスはある程度把握しているけど、ブライトの店はあまりわからない。

「ちょっとっ、どこ行ってンのアルっ! こっち来なさいよ…って、誰? アンタの知り合い?」

 少し離れたアマラがオレを呼ぼうと振り返り、アクセルさんを見てパチパチと瞬く。

「はい。初めまして。アクセル・ブライトと申します。貴方は、アルさんのお友達でしょうか?」

 オレと握手の手を放したアクセルさんがアマラへ向き直って微笑む。

「アクセル…ブライト…? って、服飾関係の大家たいか、ブライトの時期当主じゃないのっ!?」

 驚きの声を上げるハスキー。

「はい。よくご存知ですね」
「アタシはアマラ・コーラル。アルの…友人? よ」
「なんで疑問系?」
「ウルサいわね。いいじゃない。っていうかアンタ、どこでこんなヒトと知り合ったのよ?」
「ああ、ダイヤとブライトは提携してンの。耐刃や防刃の布。それから、帯剣ベルトとかの革製品。収納ケース。鞄とか、外側だね。れ物が無いと、持ち歩けないだろ? 抜身ぬきみではさ」
「はい。抜身の刃物は危ないですからね。ダイヤとは、設立時よりのお付き合いとなります」

 ダイヤ商会より、ブライトの方が古い。まあ、ダイヤの母体のアダマスは更にふるいけど。

「で、ばさみや針はうちが作ってンの」
「はい。ダイヤの刃物や針…鋏は切れ味が落ち難く、針も頑丈で曲がり難い良品質ですからね」
「知らなかったわ」
「ま、内部事情ってやつ? 知ってるヒト達だけが知っていればいいことだからね」
「ところで、アルさん達はお買い物ですか?」
「ええ。ドレスを作る布が欲しくて」
「それは素敵ですね。アルさんのお友達なら、お安くしますよ。どのような布をご所望ですか?」

 にこりと、アクセルさんの笑みが僅か深まる。どうやら、アマラを客としてロックオンしたようだ。

 実はこのヒト、柔和な上に聞き上手、そして話させ上手というしたたかな商人だからなぁ。
 情報収集も上手かったりする。口をすべらせる方へ持って行く話術が巧みだ。

 伊達に、兄さんの気合いの入った嫌がらせの数々をなして来てるワケじゃない。
 肝も、かなり据わってるヒトだし。

「この子に合う色と雰囲気。ニュアンスの布よ」
「ああ…それなら、張り切って選びましょう!」
「へ? アクセルさん?」
ようやくアルさんが着飾ってくれる気になったのですっ…ここは、是非とも大盤振る舞いしましょう!」

 穏やかな声に熱が入る。

「いきなりどうしたっ?」
「美しいヒトをより美しく。それがブライトのモットーですよ? アルさん」
「…あら? 判るの?」

 判る、とは性別のことだろう。

「はい。アルさんとは、百年近くのお付き合いになりますからね」

 知り合ったのは、ASブランド立ち上げ当時からになる。鞘やベルトなどの関係だ。

 そして、五十数年前に姉さんと結婚。
 で、甥っ子…龍胆リンドウの身体があまり丈夫ではないと判ってからオレとシーフは、十年くらいブライトの家に居候していたワケだ。
 アクセルさんとはその頃に、シーフ共々以前よりも仲良くなった。兄さんが嫉妬するくらいに…アクセルさんには、申し訳ないと思っている・・・

 まあ、あれだ。負けるな、アクセルさん。

 オレが表立って庇うと、余計に兄さんがこじれるので、影ながら応援している。

「では、布地きじを色々と用意しましょう」

 と、アクセルさんがアマラとオレを商談用の部屋へ案内する。ビップ待遇だ。

 そしてアクセルさんは、アマラが店員さんに布の説明を受けている間、暇しているオレの相手をしてくれるらしい。お茶とお菓子が用意された。

「…はぁ・・・」
「アルさん? どうしました? あまり乗り気ではないようですが」
「まあ…約束したから仕方なく、ですよ」
「それはそれは…」

 クスリと笑うアクセルさん。彼は、オレが着飾ることをあまり好まないことを知っている。

 少し前に龍胆リンに血をあげにブライトの家に行ったとき、「リン兄様にばかり構うのはズルいです。アレク姉様」と、ねた妹の鈴蘭スズランにファッションショーに付き合わされて、龍胆リンと二人一緒に軽く目が死んでいたときのことを思い出したのかもしれない。

 叔母のオレを姉様と呼んでくれる可愛い姪っ子だが、ファッションショーを開くのが趣味で他人を着飾るのも大好きという、服飾屋にとっては実に頼もしい女の子らしい女の子だ。

 まあ、鈴蘭スズは丈夫な子なので、自然と龍胆リンに構う時間が増えるてしまうのは仕方がない。血をあげた後に、半日以上のファッションショーはキツかったけど、たまの姪っ子サービスというやつだ。

 ちなみに、リンは姉さんに生き写しで、スズはアクセルさんに似た美幼女。
 二人共、非常に可愛いっ! 大好きだっ!

 スズがアクセルさんに似ているので、兄さんとのはつ対面では滅茶苦茶ハラハラしたけど…「鈴蘭は椿に似て美人ですね。椿に似て!」と圧力のある笑顔で言ってスズを可愛がったので安心した。見ている限りでは、普通に姪を愛する伯父の可愛がり方なので、二重の意味でも安心した。

 少し甘々な感じはするけど・・・
 たぶん、オレも似たようなもんだろう。

 兄さんも一応、甥姪の前では、アクセルさんを射殺しそうな視線を送らないくらいの分別はあるらしい。後で、二人が見えないところでアクセルさんへの八つ当りが酷かったらしいけど・・・

 頑張れ、アクセルさん。

「ところで、アルさん」
「はい?」
「近頃、お変わりはありませんか?」

 じっと、覗き込むような青の瞳。

「? なにかあったんですか?」
「…いえ。お変わりないようならば、いいのです」
「?」
「近々、フェンネル様の主催で、アダマスの株主総会が行われるようですよ?」
「マジかっ!?!?」
「はい。そのようです」
「…はぁ…ぅ~…」

 思わず漏れた溜息に、揃う苦笑。
 お互い苦労しますね? という青い視線。

 方向性は大分違うが、オレとアクセルさんは、兄さんが怖い者同士。お互いに親近感がある。

「教えてくれてありがとうございます。いきなり招待状届くよりは、覚悟できるから…」

 株主総会なので、アダマスの関係者が集まるワケだが…ああ、兄さん怖い・・・

 けど、このヒトの場合はガチで命懸けだ。

「頑張りましょう…アクセルさん」

 小さく言うと、

「…はい。アレクさんも、フェンネル君には重々気を付けて」

 極々小さな声でこっそりと返された。

「がんばります…」

 それからはむぐむぐとお菓子を食べながら、身内じゃない振りで当たり障りのないやり取り。

 外で逢うと面倒だ。少し、もどかしい気分。
 まあ、オレはちょいちょい言葉砕けてたけど。

 アクセルさんって実は案外、タヌキ商人だったりするからなぁ。兄さんよりも少し年上だし。

 そして、

「よし買ったっ!!」

 という、達成感溢れるハスキーな声で、アクセルさんとのお茶会はお開きとなった。

「ふっ、いい買い物をさせてもらったわ」

 やたら爽やかなイイ笑顔のアマラへ、

「こちらこそ、偶にふらりと現れて、あちこちの店で大量に布地を買って頂ける上得意様の、美しい真珠の君の噂は予々かねがね伺っていましたからね。じかにお会いできて光栄ですよ。アマラさん」

 にこにこと微笑むアクセルさん。

「へぇ…アマラ、有名なんだ?」
「知らないわよ」
「上得意だって」
「まあ、買うときは一度に大量に買い溜めするからじゃない?」
「買い溜めというよりは、買い付けのレベルだと伺っておりましたが?」
「買い付けって・・・」

 そういえば、船底の部屋は倉庫になってる部屋が多いとカイルが言っていたな。

「本日も大量にお買い求め頂き、ありがとうございます。荷物は後程船へお届けにあがります」
「ええ。目印にこの子出しとくわ」
「え? オレ?」
「なによ? 文句あンの?」
「…わかったよ」
「では、アルさん。後程」
「? はい」

※※※※※※※※※※※※※※※

「さあ、行くわよっ!」
「…次はどこに?」
「喉渇いたからお茶に決まってるじゃない。アンタがブライトの若様とお茶してる間、アタシは値下げ交渉頑張ってたンだからっ」
「そうですか…」

 安くするって値段を、更に値下げさせたのか…

 本当に上得意な客…なのか? なんかこう…伝説の値切り客的な感じで有名だったりとか?

「そういえば、真珠の君ってアマラのこと?」
「ああ、現金で払うのって面倒じゃない? だから、高い買い物のときは真珠で払うの」
「マジかっ!?」
「? なに驚いてンの?」
「・・・」

 真珠は、鉱脈のある金と違って、海でしか採れない天然の宝石。沿岸地方でも高級品だが、内陸部の場所に拠っては、金以上の価値がある物だ。

 伝説の値切り客どころか、伝説のカモ・・・?

「…アマラ。真珠の価値、判ってる?」
「勿論よ。アンタ、アタシをバカにしてンの? 真珠は、下手な王族でも手が出ない超高級品よ」
「…ああ、知って」
「だから、形の悪いクズだまバラ撒いてンの。昔、集めてたから。数万個くらいあるわよ?」
「は?」
「だから、金融業なんでしょ。人魚アタシらは」
「・・・判ってたけど…こう、聞くと驚く…」
「アタシ的には、アンタとブライトの若様の繋りに驚いたわよ。仲良さそうだったじゃない」
「そりゃあね? 一世紀近くも付き合いがあれば。それも、長年お互いお得意様同士の関係だし」
「ふぅん…アンタって、確か経営にはノータッチって言ってなかった?」
「ブライトは、他より断然ハーフに優しい家だからね。積極的に仲良くしといた方がいい」
「…そう」

 苦い顔をするアマラ。

「で、どこでお茶するの?」
人間ひとが少なくて落ち着けるとこ、よ」

 アマラが示したのは、最高級ホテル。
 確かに、人は少ないだろう。
 一回のお茶で、数万が飛んで行く場所だからな。

 ホテルへ向かって歩いていると・・・

「アルゥラっ!? 逢いたかったぜっ!!」

 非常に不快且つ神経に障る声がした。

__________

 真珠の価値ですが、養殖技術が確立するまでは内陸部の国では本当に金以上の価値があったそうです。日本人はすごいですね。

 あと、トールの再登場。冒頭の、探してた…はアクセルじゃなくてトールです。
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