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ヴァンパイア編。
97.…それじゃ、考えておいてね? アル。
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・・・疲れた。
いや、もうあれ、試着じゃなくて普通に本格的な仮縫いになったし・・・
仮縫いって、疲れるんだよね・・・
変なポーズで固定、絶対動くな!ってやつ。
本気でマネキン扱いされたし。
お陰で、肩とか背中がバキバキだ。
もう既に筋肉痛が・・・
鈴蘭といい、アマラといい・・・
なんていうかこう、熱量? あの、ファッションとやらに対する情熱はどこから来るんだろ?
オレには真似できん。
そもそも、服はTPOに合ってて、特におかしくなけりゃなに着てもいいと思うんだがな?
オレは、可愛い女の子…男の子でも可…を見るのは好きだが、自分が着飾りたいワケじゃない。
ヒラヒラやフリフリで、荒事ができるか。
テラテラやキラキラは、目立つじゃないか。
コルセット? なにそれ拷問?
オレ自身は、動き易い格好が好きなんだ。
・・・世の令嬢方はホント凄い。
暑い寒い痛いキツいツラいなどを、この服を美しく着たい! と、ド根性で我慢する。我慢できる。
敬服するぜ、全く。
※※※※※※※※※※※※※※※
「疲れてるの?」
重い足取りで階段を上がって来るアル。
「ん~・・・まあ、少し」
気怠げな返事が返る。
どうやら、もう怒ってはいないようだ。というか、疲れててそれどころじゃないのかな?
「運んであげようか?」
手を差し出す。
「いや、いい」
「そう? 残念」
「? なにが?」
「なんだろうね?」
不思議そうに見上げる翡翠が可愛い。
断られたが、白い手を引き寄せて抱き締める。ほんのり低い体温と、華奢な身体を。
「クラウド?」
抵抗はされない。本当にもう、怒っていない。
「ふふっ、愛してる」
「? ありがとう?」
どうやら…というか、やっぱり俺は、アルを甘やかすのが好きなようだ。
俺のこれは、恋ではない。
アルを愛でて、優しくすることが好きだ。アルに触れ、抱き締めて、撫でて、キスをする。
それだけで俺は、満足する。
アルが欲しいとは思わない。
むしろ、アルに俺を与えたいと思う。
俺は、アルが生きていることが嬉しい。
熱く燃え上がるような感情を伴わないこれは、きっと恋じゃない。
俺は、アルが好きで、アルを愛している。
「ねぇ、アル」
頬へ手を添え、
「? なに、クラウド」
じっと、銀の浮かぶ翡翠を覗き込む。
「君は、ヴァンパイアでいたい?」
「? ・・・どういう、意味だ?」
きょとんと、俺に言われたことの意味が一瞬わからなくて、けれどそれを理解した瞬間に、低くなるアルトの声と険しくなる視線。
アルは、ヴァンパイアのハーフだ。
アークとイリヤの子孫で、純血のヴァンパイア。ローレル・アダマスと、とある種族の…人間に聖女と祭り上げられたリュースという女性との間に生まれた子供。
けれどアルは、母親であるリュースの一族に混血だと疎まれ、忌まれた。狂ったような否定と、殺意と共に・・・そして、アルに対するその狂ったような殺意と否定とで、リュースを追い詰めて壊した連中を、非常に憎んでいる。
アルはあの連中を、絶対に赦さない。赦せない。嫌悪している。軽蔑している。憎悪している。殺したいと思っている。壊したいと思っている。
普段は熾火のように、ひっそりと心の奥深くへと仕舞い込んでいるその感情が・・・
どす黒く、どろどろと重苦しくも激しい怒りと憎悪が鎌首をもたげ、翡翠の瞳を昏い炎が燃え上がらせる。
その、昏く激しいアルの憎悪と憤怒は、奇しくもあの馬の子…トールと似た感情だ。
アルは、嫌悪するだろうけど・・・
アルとトールは、ある意味では似た者同士。
俺には、表裏の関係のようにも思える。
「クラウド」
剣呑さを孕む低いアルトが、俺を呼ぶ。
きっとアルは、今の問い掛けを、ヴァンパイアではなく、母親の種族にならないか? という意味で取ったのだろう。けど、そうじゃない。
「夢魔に、成らない?」
「は?」
アルの記憶はもう、俺のモノでもある。
アルの感情は、手に取るように理解る。
そんな俺が、アルの厭がることをするワケないじゃないか。不可抗力なら仕方ないとして、俺は、君を愛しているんだから。
「???」
昏い感情と剣呑さがさっと失せる。まあ、あの感情が無くなったワケではないが・・・
表に出て来るのは、強い困惑と戸惑い。
アルは、ヴァンパイアハーフだ。そして・・・可愛い可愛い、俺の愛し子。
「ふふっ」
驚きで思考が停止したアルの唇に、そっと触れるだけのキスを落とす。と・・・
「ああっ!? またこんなとこで公序良俗違反してるっ!? 公共の場でイチャ付くのはやめてって言ってるのにっ!? 何度言ったらわかるのさっ!?」
ぷりぷりと怒るボーイソプラノ。箒を持って俺を指差すのは、妖精の子。
「あ~あ、見付かっちゃった♥️」
「見付かっちゃった、じゃないよっ!?全く。はい、クラウドはさっさとアルから離れるっ! っていうか、さっきアルがベタベタするなって言ってたのに。さっきの今で、もうこれなワケ?」
怒ったり呆れたりと、感情豊かな可愛い子だ。
「仲直りしたからね」
「え? もう? アル、結構怒ってたよね?」
「うん。でも、もう怒ってないみたい」
「そうなの? アル」
「・・・」
「アル?」
「アル、妖精君が呼んでるよ?」
聞こえていない様子のアルを呼ぶと、驚いたようにパチパチと妖精君を見やる翡翠。
「え? あ、カイル? なに? どうしたの?」
「いや、どうした? は、アルの方でしょ。なに? クラウドと二人切りのがよかった? 僕、邪魔?」
ぼーっとしたようなアルの返事に、ムッとしたようなボーイソプラノが返す。
「そんなことないよ? むしろ、俺はいつでもどこでも、アルとイチャイチャして見せ付けたいけど♥️」
別に恥ずかしいことはしていないし。
「だからっ、そういうのやめてってばっ!? もうっ、さっさと離れるっ!?」
「ふふっ、はいはい。わかったよ」
ぷりぷり怒る妖精君の言葉で、アルを放す。
「…それじゃ、考えておいてね? アル」
そっと耳元に小さく囁いて、
「さて、人魚ちゃんにお土産持って行こうっと」
人魚ちゃんのところへ向かう。
さっき、人魚ちゃんに約束した宝石類を、馬の子に貢がせたからね。それを渡しに行かなきゃ♪
いや、もうあれ、試着じゃなくて普通に本格的な仮縫いになったし・・・
仮縫いって、疲れるんだよね・・・
変なポーズで固定、絶対動くな!ってやつ。
本気でマネキン扱いされたし。
お陰で、肩とか背中がバキバキだ。
もう既に筋肉痛が・・・
鈴蘭といい、アマラといい・・・
なんていうかこう、熱量? あの、ファッションとやらに対する情熱はどこから来るんだろ?
オレには真似できん。
そもそも、服はTPOに合ってて、特におかしくなけりゃなに着てもいいと思うんだがな?
オレは、可愛い女の子…男の子でも可…を見るのは好きだが、自分が着飾りたいワケじゃない。
ヒラヒラやフリフリで、荒事ができるか。
テラテラやキラキラは、目立つじゃないか。
コルセット? なにそれ拷問?
オレ自身は、動き易い格好が好きなんだ。
・・・世の令嬢方はホント凄い。
暑い寒い痛いキツいツラいなどを、この服を美しく着たい! と、ド根性で我慢する。我慢できる。
敬服するぜ、全く。
※※※※※※※※※※※※※※※
「疲れてるの?」
重い足取りで階段を上がって来るアル。
「ん~・・・まあ、少し」
気怠げな返事が返る。
どうやら、もう怒ってはいないようだ。というか、疲れててそれどころじゃないのかな?
「運んであげようか?」
手を差し出す。
「いや、いい」
「そう? 残念」
「? なにが?」
「なんだろうね?」
不思議そうに見上げる翡翠が可愛い。
断られたが、白い手を引き寄せて抱き締める。ほんのり低い体温と、華奢な身体を。
「クラウド?」
抵抗はされない。本当にもう、怒っていない。
「ふふっ、愛してる」
「? ありがとう?」
どうやら…というか、やっぱり俺は、アルを甘やかすのが好きなようだ。
俺のこれは、恋ではない。
アルを愛でて、優しくすることが好きだ。アルに触れ、抱き締めて、撫でて、キスをする。
それだけで俺は、満足する。
アルが欲しいとは思わない。
むしろ、アルに俺を与えたいと思う。
俺は、アルが生きていることが嬉しい。
熱く燃え上がるような感情を伴わないこれは、きっと恋じゃない。
俺は、アルが好きで、アルを愛している。
「ねぇ、アル」
頬へ手を添え、
「? なに、クラウド」
じっと、銀の浮かぶ翡翠を覗き込む。
「君は、ヴァンパイアでいたい?」
「? ・・・どういう、意味だ?」
きょとんと、俺に言われたことの意味が一瞬わからなくて、けれどそれを理解した瞬間に、低くなるアルトの声と険しくなる視線。
アルは、ヴァンパイアのハーフだ。
アークとイリヤの子孫で、純血のヴァンパイア。ローレル・アダマスと、とある種族の…人間に聖女と祭り上げられたリュースという女性との間に生まれた子供。
けれどアルは、母親であるリュースの一族に混血だと疎まれ、忌まれた。狂ったような否定と、殺意と共に・・・そして、アルに対するその狂ったような殺意と否定とで、リュースを追い詰めて壊した連中を、非常に憎んでいる。
アルはあの連中を、絶対に赦さない。赦せない。嫌悪している。軽蔑している。憎悪している。殺したいと思っている。壊したいと思っている。
普段は熾火のように、ひっそりと心の奥深くへと仕舞い込んでいるその感情が・・・
どす黒く、どろどろと重苦しくも激しい怒りと憎悪が鎌首をもたげ、翡翠の瞳を昏い炎が燃え上がらせる。
その、昏く激しいアルの憎悪と憤怒は、奇しくもあの馬の子…トールと似た感情だ。
アルは、嫌悪するだろうけど・・・
アルとトールは、ある意味では似た者同士。
俺には、表裏の関係のようにも思える。
「クラウド」
剣呑さを孕む低いアルトが、俺を呼ぶ。
きっとアルは、今の問い掛けを、ヴァンパイアではなく、母親の種族にならないか? という意味で取ったのだろう。けど、そうじゃない。
「夢魔に、成らない?」
「は?」
アルの記憶はもう、俺のモノでもある。
アルの感情は、手に取るように理解る。
そんな俺が、アルの厭がることをするワケないじゃないか。不可抗力なら仕方ないとして、俺は、君を愛しているんだから。
「???」
昏い感情と剣呑さがさっと失せる。まあ、あの感情が無くなったワケではないが・・・
表に出て来るのは、強い困惑と戸惑い。
アルは、ヴァンパイアハーフだ。そして・・・可愛い可愛い、俺の愛し子。
「ふふっ」
驚きで思考が停止したアルの唇に、そっと触れるだけのキスを落とす。と・・・
「ああっ!? またこんなとこで公序良俗違反してるっ!? 公共の場でイチャ付くのはやめてって言ってるのにっ!? 何度言ったらわかるのさっ!?」
ぷりぷりと怒るボーイソプラノ。箒を持って俺を指差すのは、妖精の子。
「あ~あ、見付かっちゃった♥️」
「見付かっちゃった、じゃないよっ!?全く。はい、クラウドはさっさとアルから離れるっ! っていうか、さっきアルがベタベタするなって言ってたのに。さっきの今で、もうこれなワケ?」
怒ったり呆れたりと、感情豊かな可愛い子だ。
「仲直りしたからね」
「え? もう? アル、結構怒ってたよね?」
「うん。でも、もう怒ってないみたい」
「そうなの? アル」
「・・・」
「アル?」
「アル、妖精君が呼んでるよ?」
聞こえていない様子のアルを呼ぶと、驚いたようにパチパチと妖精君を見やる翡翠。
「え? あ、カイル? なに? どうしたの?」
「いや、どうした? は、アルの方でしょ。なに? クラウドと二人切りのがよかった? 僕、邪魔?」
ぼーっとしたようなアルの返事に、ムッとしたようなボーイソプラノが返す。
「そんなことないよ? むしろ、俺はいつでもどこでも、アルとイチャイチャして見せ付けたいけど♥️」
別に恥ずかしいことはしていないし。
「だからっ、そういうのやめてってばっ!? もうっ、さっさと離れるっ!?」
「ふふっ、はいはい。わかったよ」
ぷりぷり怒る妖精君の言葉で、アルを放す。
「…それじゃ、考えておいてね? アル」
そっと耳元に小さく囁いて、
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人魚ちゃんのところへ向かう。
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