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ヴァンパイア編。
106.いいぞー! もっと踊れー! 歌えー!
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追い付いたアマラの船に船板を渡し、奪った戦利品を甲板へと並べて行く。
重たい物は大体ひゆうとジンの二人が運ぶ。
二人は自分よりも怪力だ。
その代わり、食料は二人には触らせない。
食料庫から運んで来た食材を日の下で確認。
「・・・あ、これ要らんわ」
鮮度の悪い…腐っている物やカビた物は不要。ポイポイと、どんどん弾いて行く。
「うわ、この袋の小麦粉全滅かよ? 勿体無ぇ」
海上での貴重な食料に黴を生やさせるとか、この船の料理番は無能に違いない。
食材を無駄にするような馬鹿は、もっとぶん殴っておけばよかったぜっ! 全くっ!!!
まあ、誰が料理番なのかはわからんし、今から殴りに行くのは面倒なのでやめておくが。
とりあえず、頑張れば食えなくもないが、特に困窮しているワケでもない今は、無理をして食う必要が無い。傷んだ食材は置いて行く。
孤児だった昔は・・・ゴミでもなんでも漁って食ったもんだけどなぁ。残飯や傷んだ物や腐りかけた物でもなんでも食って、飢えを凌いだ。
そんなことをしなくても食べられるようになった今は、きっと昔よりも腹が弱くなっていそうだ。
「雪路、それは運ばないのか?」
ひゆうの声に顔を上げる。
「うん。傷んでるから要ーらない」
「そうか。なら、そろそろ船移れ。離れるぞ」
「わかったー」
ひゆうに返事をして、選別した食材を運び出す。
運び終わると、船板を外して海賊船を放置。
荷運びの間、並走していた海賊船からゆっくりと離れると、海賊船は海流に乗って流されて行った。
ま、あと数時間もすれば船底に拘束して転がした海賊共が起きて、自分達でどうにかするだろう。
「さて、と・・・」
運び出した荷物を広げ、にんまりと笑うひゆう。
「飲むぞっ!? 雪路、なんか食い物くれっ!」
こうして、いつものように酒盛りが始まる。
「なははっ、少し待っててー」
酒の肴を用意すべく厨房へと向かう。
今回の海賊共は、いい酒を豊富に持っていたようでひゆうがご機嫌だ。
ひゆうは鬼らしく、酒好きのザル。
ジンはあまり飲まないが、飲めないワケではないようだ。深酒にならない程度には飲む。
アマラもイケる口だ。甘めの酒を好む。
自分も、酒は嫌いじゃない。
鬼に比べると弱いけどな。
カイルは…飲ませることを躊躇わせる容姿なので、ひゆうが禁止している。
そして、さっきの様子だとアルもザルなのだろう。ウォッカを一瓶一気して全く酔わないとか、化け物だ。元々人間じゃないけど・・・
酒に酔わない種族というのも、なかなか珍しい。
厨房に向かう途中、カイルが面白くなさそうな顔でぼんやりと箒を動かしていた。
「カイル、どうしたのー?」
「…へ? え? あ、ミクリヤさん?」
パッと自分を見る驚いたようなカイル。
「そこ、もうゴミ無いよー?」
「え? ぁ…そう、ですね…」
よくわからないが、カイルはなにか落ち込んでいるようだ。
「・・・カイル、御厨の手伝いしてー」
「あ、はい」
カイルを厨房に引っ張って行き、料理を手伝わせる。落ち込んでいるときは手を動かすに限る。
※※※※※※※※※※※※※※※
ミクリヤさんに言われて、食材を刻む。
どんどん刻んで行く。
今日は海賊を撃退した日の恒例、酒盛りをするので沢山料理を用意するのだろう。
一心不乱に手を動かして食材を刻んでいると、モヤモヤとした気分が段々と晴れてく気がして来た。
そして、甲板から音楽が流れて来た。
なんだか、ウキウキして来た。
妖精は、音楽に合わせて歌ったり踊ったりするのが大好きだ。甲板に行ったら踊ろう♪
※※※※※※※※※※※※※※※
戦利品のチェロケースが気になったので開けて見てみると、弦が切れてしまっていた。
「替えの弦、持ってるかな? アマラ」
「アマラがチェロを弾くんですか? あれ、スカートでは大変だと思うけど」
アルちゃんの声に顔を上げる。
「いや、アマラは弾かないよ。歌う方が好きなんだって。チェロを弾くのは俺の方」
「へぇ…弾けるんだ」
「後で合奏しようか? アルちゃん」
「ヴァイオリンとヴィオラは?」
「一応、弾けなくもないけどね? 俺はチェロの方が向いてるみたい。それにしても、海賊船にあったにしては随分と綺麗だな」
弦が切れていたから暫く使われてなかったのは間違いないだろうけど。
「埃被ってたんです。多分、楽器の価値が判る奴が全くいなかったんだろうな」
「ああ…それはまた、勿体無い。そうだ、アルちゃん。なんか弾いてよ」
「? いいですけど、さっき調子乗り過ぎて指つりそうになったんで、簡単な曲でいいかな?」
「指つるって…大丈夫?」
「つりそうになっただけ。平気」
と、ピアノの蓋を開けて、鍵盤に指を乗せるアルちゃん。そして、軽快なメヌエットが流れ・・・
「あ、来た」
「?」
ムスッとしたアマラが甲板に現れ、
「お退き、小娘」
ピアノを弾くアルちゃんの襟首を掴むと、
「へ? わっ!」
ぽいっと後ろへ投げた。
「ったく、狂った音で弾いてンじゃないわよ」
ぶつぶつと文句を言いながらピアノの屋根を開き、手にした工具で中の弦を弄り出す。
「え? アマラ、ピアノの調律できるの? 絶対音感持ってんの? すご~い!」
尊敬の眼差しでアマラを見上げるアルちゃん。
「ふっ、当然よ! アンタも手伝いなさい」
「OK」
胸を張って得意げなアマラに、声をかける。
「アマラ、ヴァイオリンとヴィオラとチェロもあるんだ。全部弦が切れてるけどね」
「そう。なら、全部張替えなさい」
ぽんと、それぞれの弦が放られる。
「わかった」
弦を受け止め、まずは一番小さいヴァイオリンから弦を張り直して行く。次にヴィオラ。チェロは最後にする。とりあえず、一度全部に弦を張ってから調律をしようと思う。
ハスキーな声の指示の下、ポーン、タンと、何度も何度もピアノの鍵盤が一つずつ叩かれる音とが響き出してから数時間。その合間に、弦を張り直したヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの調律の指示までこなすアマラは、本気で凄いと思った。
「これくらいでいいでしょ」
と、晴れやかな笑顔でピアノを見下ろすアイスブルーの瞳。
「さあ、弾くがいいわ! ジン、小娘」
上機嫌なハスキー。
軽やかなピアノが鳴り響き、俺はチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと楽器を変えながらアルちゃんの伴奏に合わせて弓を弾く。
そしてその合奏に、伸びやかなアルトのハスキーが歌詞のない唄を高らかに乗せて歌う。
いつの間にか、演奏に合わせて妖精のカイルと猫のミクリヤがくるくると舞い踊る。
「いいぞー! もっと踊れー! 歌えー!」
ヒューの囃す声。
演奏や唄、踊りに疲れたら、ミクリヤの料理と酒やジュースを飲み食い。
異国情緒溢れる竹でできた笛を奏でるヒュー。それに合わさるピアノの音。
「俺も踊るぜ!」
と、いきなり剣を抜いて剣舞を披露するヒュー。
「自分もやるぜーっ!」
ミクリヤがヒューに斬り掛かり、剣戟が開始。更に、悪乗りで剣の舞いを演奏するアルちゃん。
曲に合わせてヒートアップする二人の剣戟。
「ホント、バカなんだから」
ワインボトルを片手にクスクスと笑うアマラ。
「ほ、本気じゃないよねっ!?」
青い顔で心配そうなカイル。
こうして、ゆっくりと夜が更けて行った。
重たい物は大体ひゆうとジンの二人が運ぶ。
二人は自分よりも怪力だ。
その代わり、食料は二人には触らせない。
食料庫から運んで来た食材を日の下で確認。
「・・・あ、これ要らんわ」
鮮度の悪い…腐っている物やカビた物は不要。ポイポイと、どんどん弾いて行く。
「うわ、この袋の小麦粉全滅かよ? 勿体無ぇ」
海上での貴重な食料に黴を生やさせるとか、この船の料理番は無能に違いない。
食材を無駄にするような馬鹿は、もっとぶん殴っておけばよかったぜっ! 全くっ!!!
まあ、誰が料理番なのかはわからんし、今から殴りに行くのは面倒なのでやめておくが。
とりあえず、頑張れば食えなくもないが、特に困窮しているワケでもない今は、無理をして食う必要が無い。傷んだ食材は置いて行く。
孤児だった昔は・・・ゴミでもなんでも漁って食ったもんだけどなぁ。残飯や傷んだ物や腐りかけた物でもなんでも食って、飢えを凌いだ。
そんなことをしなくても食べられるようになった今は、きっと昔よりも腹が弱くなっていそうだ。
「雪路、それは運ばないのか?」
ひゆうの声に顔を上げる。
「うん。傷んでるから要ーらない」
「そうか。なら、そろそろ船移れ。離れるぞ」
「わかったー」
ひゆうに返事をして、選別した食材を運び出す。
運び終わると、船板を外して海賊船を放置。
荷運びの間、並走していた海賊船からゆっくりと離れると、海賊船は海流に乗って流されて行った。
ま、あと数時間もすれば船底に拘束して転がした海賊共が起きて、自分達でどうにかするだろう。
「さて、と・・・」
運び出した荷物を広げ、にんまりと笑うひゆう。
「飲むぞっ!? 雪路、なんか食い物くれっ!」
こうして、いつものように酒盛りが始まる。
「なははっ、少し待っててー」
酒の肴を用意すべく厨房へと向かう。
今回の海賊共は、いい酒を豊富に持っていたようでひゆうがご機嫌だ。
ひゆうは鬼らしく、酒好きのザル。
ジンはあまり飲まないが、飲めないワケではないようだ。深酒にならない程度には飲む。
アマラもイケる口だ。甘めの酒を好む。
自分も、酒は嫌いじゃない。
鬼に比べると弱いけどな。
カイルは…飲ませることを躊躇わせる容姿なので、ひゆうが禁止している。
そして、さっきの様子だとアルもザルなのだろう。ウォッカを一瓶一気して全く酔わないとか、化け物だ。元々人間じゃないけど・・・
酒に酔わない種族というのも、なかなか珍しい。
厨房に向かう途中、カイルが面白くなさそうな顔でぼんやりと箒を動かしていた。
「カイル、どうしたのー?」
「…へ? え? あ、ミクリヤさん?」
パッと自分を見る驚いたようなカイル。
「そこ、もうゴミ無いよー?」
「え? ぁ…そう、ですね…」
よくわからないが、カイルはなにか落ち込んでいるようだ。
「・・・カイル、御厨の手伝いしてー」
「あ、はい」
カイルを厨房に引っ張って行き、料理を手伝わせる。落ち込んでいるときは手を動かすに限る。
※※※※※※※※※※※※※※※
ミクリヤさんに言われて、食材を刻む。
どんどん刻んで行く。
今日は海賊を撃退した日の恒例、酒盛りをするので沢山料理を用意するのだろう。
一心不乱に手を動かして食材を刻んでいると、モヤモヤとした気分が段々と晴れてく気がして来た。
そして、甲板から音楽が流れて来た。
なんだか、ウキウキして来た。
妖精は、音楽に合わせて歌ったり踊ったりするのが大好きだ。甲板に行ったら踊ろう♪
※※※※※※※※※※※※※※※
戦利品のチェロケースが気になったので開けて見てみると、弦が切れてしまっていた。
「替えの弦、持ってるかな? アマラ」
「アマラがチェロを弾くんですか? あれ、スカートでは大変だと思うけど」
アルちゃんの声に顔を上げる。
「いや、アマラは弾かないよ。歌う方が好きなんだって。チェロを弾くのは俺の方」
「へぇ…弾けるんだ」
「後で合奏しようか? アルちゃん」
「ヴァイオリンとヴィオラは?」
「一応、弾けなくもないけどね? 俺はチェロの方が向いてるみたい。それにしても、海賊船にあったにしては随分と綺麗だな」
弦が切れていたから暫く使われてなかったのは間違いないだろうけど。
「埃被ってたんです。多分、楽器の価値が判る奴が全くいなかったんだろうな」
「ああ…それはまた、勿体無い。そうだ、アルちゃん。なんか弾いてよ」
「? いいですけど、さっき調子乗り過ぎて指つりそうになったんで、簡単な曲でいいかな?」
「指つるって…大丈夫?」
「つりそうになっただけ。平気」
と、ピアノの蓋を開けて、鍵盤に指を乗せるアルちゃん。そして、軽快なメヌエットが流れ・・・
「あ、来た」
「?」
ムスッとしたアマラが甲板に現れ、
「お退き、小娘」
ピアノを弾くアルちゃんの襟首を掴むと、
「へ? わっ!」
ぽいっと後ろへ投げた。
「ったく、狂った音で弾いてンじゃないわよ」
ぶつぶつと文句を言いながらピアノの屋根を開き、手にした工具で中の弦を弄り出す。
「え? アマラ、ピアノの調律できるの? 絶対音感持ってんの? すご~い!」
尊敬の眼差しでアマラを見上げるアルちゃん。
「ふっ、当然よ! アンタも手伝いなさい」
「OK」
胸を張って得意げなアマラに、声をかける。
「アマラ、ヴァイオリンとヴィオラとチェロもあるんだ。全部弦が切れてるけどね」
「そう。なら、全部張替えなさい」
ぽんと、それぞれの弦が放られる。
「わかった」
弦を受け止め、まずは一番小さいヴァイオリンから弦を張り直して行く。次にヴィオラ。チェロは最後にする。とりあえず、一度全部に弦を張ってから調律をしようと思う。
ハスキーな声の指示の下、ポーン、タンと、何度も何度もピアノの鍵盤が一つずつ叩かれる音とが響き出してから数時間。その合間に、弦を張り直したヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの調律の指示までこなすアマラは、本気で凄いと思った。
「これくらいでいいでしょ」
と、晴れやかな笑顔でピアノを見下ろすアイスブルーの瞳。
「さあ、弾くがいいわ! ジン、小娘」
上機嫌なハスキー。
軽やかなピアノが鳴り響き、俺はチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと楽器を変えながらアルちゃんの伴奏に合わせて弓を弾く。
そしてその合奏に、伸びやかなアルトのハスキーが歌詞のない唄を高らかに乗せて歌う。
いつの間にか、演奏に合わせて妖精のカイルと猫のミクリヤがくるくると舞い踊る。
「いいぞー! もっと踊れー! 歌えー!」
ヒューの囃す声。
演奏や唄、踊りに疲れたら、ミクリヤの料理と酒やジュースを飲み食い。
異国情緒溢れる竹でできた笛を奏でるヒュー。それに合わさるピアノの音。
「俺も踊るぜ!」
と、いきなり剣を抜いて剣舞を披露するヒュー。
「自分もやるぜーっ!」
ミクリヤがヒューに斬り掛かり、剣戟が開始。更に、悪乗りで剣の舞いを演奏するアルちゃん。
曲に合わせてヒートアップする二人の剣戟。
「ホント、バカなんだから」
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青い顔で心配そうなカイル。
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