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ヴァンパイア編。
108.酒瓶を掴んだ白い手を、ぴたぴたと叩く肉球。
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「よう、雪路。これやるよ」
食堂に来たひゆうがぽんと自分に放ったのは、小さな酒のボトル。
「ひゆうが御厨に酒ー? 珍しいねー」
ひゆうは酒が好きだ。毎日飲むことはないが、海賊襲撃の後や酒が大量に手に入った後には、一度に大量に飲む。そして、翌日はよく二日酔いでダウンしている。※一度に大量の酒を飲むと急性アルコール中毒で死ぬ危険があります!
なんでも、酒があると飲みたくなるので自分用のストックはしないようにしているという。
だから、翌日以降に酒があるのが珍しい。しかも、それを自分に持って来るなど、初めてだ。
「製菓用? に使う酒だそうだ」
「製菓用? 成る程ねー」
リキュールの類のようだ。
製菓用の酒は、香り付けを主としている為、あまり味に期待はできなかったりする。
少し飲んでみて、ひゆうにはあまり美味しくなかったのかもしれない。ちょっと減ってるし。
「どれどれ?」
リキュールの蓋を軽く開けると、それだけで、とてもいい匂いがした。
ふわふわとして、とても、いい気持ちになるような、匂い、が・・・
舐めたい衝動に駆られ、一口。
口の中いっぱいに広がるふわふわした心地よさ。
もう一口飲むと、ふわふわぽかぽかと、幸せな気分が身体中に広がって・・・
「にゃ~ん」
※※※※※※※※※※※※※※※
「お、おい、雪路?」
酒を舐めた途端、とろんとした表情で顔を赤くした雪路が、鳴いた。そして・・・
「ぅな~」
黒と茶色の斑に白が入る三色毛並み。そして、二股に分かれた尻尾の先がちょこんと白い三毛猫が瓶へすりすりと頬擦りしている。
猫になって酒瓶に懐いてるっ!?
「どうした雪路っ!?」
「な~ん」
ゴロゴロと喉を鳴らし、至福の表情の猫。
「もしかしてお前、酔ってンのか?」
いや、あの酒は一口、二口で酔う程の強い酒じゃなかった筈だ。俺も味見したが、なんともなかったぞ? そして雪路は、あまり酒に強くはないが、あの程度でぐでんぐでんになる程弱くもない筈だ。一体、なにがどうした!?
と、とりあえず、こういうときはジンだっ!?
酒瓶を抱えた三毛猫の首をひっ掴み、ジンのところへ行こうとした。ら、
「やっほー、雪君」
アルが来た。そして、パチパチと瞬く翡翠。
「・・・なにしてんの?」
酒瓶を抱えた三毛猫を掴む俺。どう見ても、明らかに変だ。それは判っている。
「いや、これは・・・」
「ぅに~、ア~ル~? お前も飲むか~?」
間延びした上機嫌なアルトが言った。
「・・・もしかして、酔ってんの? 雪君」
「にゃははっ、ふわふわしていい気分だぜ~♪」
「ヒュー? 雪君、そんなに飲んだの? こないだ、自分でそんなに飲まないって言ってたのに」
三毛猫を見下ろし、首を捻るアル。
「いや、雪路がこの製菓用の酒を一口飲んだら、いきなりこんな風になったんだ」
「製菓用の酒?」
「おう、雪路が持ってる瓶だ」
首を掴まれてぶら下げられても、三毛猫はすりすりと抱えた酒瓶に懐いている。
「雪君、それちょっと貸して」
「ぅにゅ~? アルも飲め~。美味いぞ~♪」
「ありがと」
酒瓶を掴んだ白い手を、ぴたぴたと叩く肉球。
「・・・キウイのリキュール?」
「は? キウイ?」
「キウイ~? にゃははー♪」
「ほいよ、雪君。返す」
雪路へと瓶を返すアル。
「アルは飲まなゃい~?」
「オレは飲んでも酔わないからね。というか、キウイで酔うのは本当なんだな」
しげしげと雪路を見詰めるアル。
「は? どういう意味だ? アル」
「猫が木天蓼で酔うのは知ってる?」
「マタタビ~? そんなの、どこにもにゃいぞ~」
俺を見上げる翡翠に頷く。
「? ああ、それは有名だが・・・?」
「キウイフルーツはマタタビ科の植物だよ」
「へ?」
「つまり、猫にマタタビ酒状態なワケ。OK?」
「・・・マジかっ!?」
「実際に酔ってンじゃん。雪君」
驚く俺を余所に冷静なアルト。
「いや、それは、そうだが・・・」
「ぅな~」
ゴロゴロと、幸せそうに喉を鳴らす雪路。
「ミクリヤさーん、手伝いに来、た…っ!?!?」
と、食堂に入って来たカイルが固まった。
「ひ、ヒュー? そ、その猫…」
「お、おう。雪路だ」
「か、可愛いっ!?」
「は?」
「み、ミクリヤさんっ!」
「ぅにゅ~? カイル~?」
「なでなでしてもいいっ?」
手をわきわきさせて雪路に迫るカイル。
「ブラッシングしたいっ! 今すぐさせてっ! っていうかするからっ!?」
ターコイズの瞳がギラギラと光り、雪路の毛並みを舐めるように凝視している。
「髪フェチモード…」
ぼそりと呟くアルト。どことなく嫌そうだ。
「は? 髪フェチ?」
「ヒューっ!? ミクリヤさん貸してっ!?」
と、バッと俺の手から雪路をかっ拐うカイル。そしてテーブルに着くと、いつの間に取り出したのか、酒瓶に懐く雪路の毛並みをブラシで梳かし出した。
「はぁ~…柔らかい毛並み♥️」
「ぅなぁ~」
とろんとした恍惚の表情のカイルと、雪路。
「なっ、カイルまでどうしたっ!?」
「だから、髪フェチなんだってば。まさか、毛皮までイケるとは・・・いや、普通に猫好きか?」
カイルを見て、アルが首を傾げる。
「あ、ああ。髪フェチは知らんが、カイルは猫も好きらしいぞ? 偶に港に来る猫に餌やってるからな」
「ふ~ん」
「ああ…ミクリヤさん、可愛いっ♥️」
「にゅ~? もっと、撫でろ~」
「はいっ、ミクリヤさん♪」
ちびちびと酒を舐めながら瓶に懐く偉そうな猫と、至福の表情で猫を撫でる妖精。それを興味深そうにしげしげと眺める翡翠。
「なんなんだ? この、ワケのわからん状況は」
「ん? キウイのリキュールのせいでしょ」
「・・・俺のせい、か…?」
「ヒューがあれあげたの?」
「製菓用って、書いてあったからな・・・」
__________
実際に、キウイで猫科の動物は酔っ払うそうですよ?ライオンとか…全部が酔うワケではなく、個体差があるようですが。
食堂に来たひゆうがぽんと自分に放ったのは、小さな酒のボトル。
「ひゆうが御厨に酒ー? 珍しいねー」
ひゆうは酒が好きだ。毎日飲むことはないが、海賊襲撃の後や酒が大量に手に入った後には、一度に大量に飲む。そして、翌日はよく二日酔いでダウンしている。※一度に大量の酒を飲むと急性アルコール中毒で死ぬ危険があります!
なんでも、酒があると飲みたくなるので自分用のストックはしないようにしているという。
だから、翌日以降に酒があるのが珍しい。しかも、それを自分に持って来るなど、初めてだ。
「製菓用? に使う酒だそうだ」
「製菓用? 成る程ねー」
リキュールの類のようだ。
製菓用の酒は、香り付けを主としている為、あまり味に期待はできなかったりする。
少し飲んでみて、ひゆうにはあまり美味しくなかったのかもしれない。ちょっと減ってるし。
「どれどれ?」
リキュールの蓋を軽く開けると、それだけで、とてもいい匂いがした。
ふわふわとして、とても、いい気持ちになるような、匂い、が・・・
舐めたい衝動に駆られ、一口。
口の中いっぱいに広がるふわふわした心地よさ。
もう一口飲むと、ふわふわぽかぽかと、幸せな気分が身体中に広がって・・・
「にゃ~ん」
※※※※※※※※※※※※※※※
「お、おい、雪路?」
酒を舐めた途端、とろんとした表情で顔を赤くした雪路が、鳴いた。そして・・・
「ぅな~」
黒と茶色の斑に白が入る三色毛並み。そして、二股に分かれた尻尾の先がちょこんと白い三毛猫が瓶へすりすりと頬擦りしている。
猫になって酒瓶に懐いてるっ!?
「どうした雪路っ!?」
「な~ん」
ゴロゴロと喉を鳴らし、至福の表情の猫。
「もしかしてお前、酔ってンのか?」
いや、あの酒は一口、二口で酔う程の強い酒じゃなかった筈だ。俺も味見したが、なんともなかったぞ? そして雪路は、あまり酒に強くはないが、あの程度でぐでんぐでんになる程弱くもない筈だ。一体、なにがどうした!?
と、とりあえず、こういうときはジンだっ!?
酒瓶を抱えた三毛猫の首をひっ掴み、ジンのところへ行こうとした。ら、
「やっほー、雪君」
アルが来た。そして、パチパチと瞬く翡翠。
「・・・なにしてんの?」
酒瓶を抱えた三毛猫を掴む俺。どう見ても、明らかに変だ。それは判っている。
「いや、これは・・・」
「ぅに~、ア~ル~? お前も飲むか~?」
間延びした上機嫌なアルトが言った。
「・・・もしかして、酔ってんの? 雪君」
「にゃははっ、ふわふわしていい気分だぜ~♪」
「ヒュー? 雪君、そんなに飲んだの? こないだ、自分でそんなに飲まないって言ってたのに」
三毛猫を見下ろし、首を捻るアル。
「いや、雪路がこの製菓用の酒を一口飲んだら、いきなりこんな風になったんだ」
「製菓用の酒?」
「おう、雪路が持ってる瓶だ」
首を掴まれてぶら下げられても、三毛猫はすりすりと抱えた酒瓶に懐いている。
「雪君、それちょっと貸して」
「ぅにゅ~? アルも飲め~。美味いぞ~♪」
「ありがと」
酒瓶を掴んだ白い手を、ぴたぴたと叩く肉球。
「・・・キウイのリキュール?」
「は? キウイ?」
「キウイ~? にゃははー♪」
「ほいよ、雪君。返す」
雪路へと瓶を返すアル。
「アルは飲まなゃい~?」
「オレは飲んでも酔わないからね。というか、キウイで酔うのは本当なんだな」
しげしげと雪路を見詰めるアル。
「は? どういう意味だ? アル」
「猫が木天蓼で酔うのは知ってる?」
「マタタビ~? そんなの、どこにもにゃいぞ~」
俺を見上げる翡翠に頷く。
「? ああ、それは有名だが・・・?」
「キウイフルーツはマタタビ科の植物だよ」
「へ?」
「つまり、猫にマタタビ酒状態なワケ。OK?」
「・・・マジかっ!?」
「実際に酔ってンじゃん。雪君」
驚く俺を余所に冷静なアルト。
「いや、それは、そうだが・・・」
「ぅな~」
ゴロゴロと、幸せそうに喉を鳴らす雪路。
「ミクリヤさーん、手伝いに来、た…っ!?!?」
と、食堂に入って来たカイルが固まった。
「ひ、ヒュー? そ、その猫…」
「お、おう。雪路だ」
「か、可愛いっ!?」
「は?」
「み、ミクリヤさんっ!」
「ぅにゅ~? カイル~?」
「なでなでしてもいいっ?」
手をわきわきさせて雪路に迫るカイル。
「ブラッシングしたいっ! 今すぐさせてっ! っていうかするからっ!?」
ターコイズの瞳がギラギラと光り、雪路の毛並みを舐めるように凝視している。
「髪フェチモード…」
ぼそりと呟くアルト。どことなく嫌そうだ。
「は? 髪フェチ?」
「ヒューっ!? ミクリヤさん貸してっ!?」
と、バッと俺の手から雪路をかっ拐うカイル。そしてテーブルに着くと、いつの間に取り出したのか、酒瓶に懐く雪路の毛並みをブラシで梳かし出した。
「はぁ~…柔らかい毛並み♥️」
「ぅなぁ~」
とろんとした恍惚の表情のカイルと、雪路。
「なっ、カイルまでどうしたっ!?」
「だから、髪フェチなんだってば。まさか、毛皮までイケるとは・・・いや、普通に猫好きか?」
カイルを見て、アルが首を傾げる。
「あ、ああ。髪フェチは知らんが、カイルは猫も好きらしいぞ? 偶に港に来る猫に餌やってるからな」
「ふ~ん」
「ああ…ミクリヤさん、可愛いっ♥️」
「にゅ~? もっと、撫でろ~」
「はいっ、ミクリヤさん♪」
ちびちびと酒を舐めながら瓶に懐く偉そうな猫と、至福の表情で猫を撫でる妖精。それを興味深そうにしげしげと眺める翡翠。
「なんなんだ? この、ワケのわからん状況は」
「ん? キウイのリキュールのせいでしょ」
「・・・俺のせい、か…?」
「ヒューがあれあげたの?」
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