ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
130 / 179
ヴァンパイア編。

121.早くダンスを終えて頂けませんことっ!?

しおりを挟む
「あの女嫌いの貴公子がっ…」「誰だあの女は……」「冷血の君は確か、妹御にしか……」「黒髪の……」「妹君の代わり……」「妹も混血だとか」「あの混ざりモノはブライトに」「ああ、だから……」「それで」「どうせたわむれに決まっている」「所詮は愛玩用」「やはりアダマスは変り者の……」「当主も他種族の女と……」

 わー、兄さん驚かれてるー…
 っていうか、愛玩とか、姉さんの代わり、ね…
 純血共、発想からして下衆げすなんだが?

 まあ一応、そういう風に思わせる為に姉さんに寄せた変装なんだけど、思ったよりも気分悪ぃな。

 そして、オレを見詰めてぼーっとしている兄さん。いい加減放してほしいと思う。

「…フェンネル様?」

 高い声作るのもなぁ。
 あと、この令嬢な喋り方、舌噛みそう。

「っ…はい、どうしましたか?」

 一拍遅れて反応する兄さん。なんだろ?

「フェンネル様こそ、どうされましたか?」
「愛しい貴女が、僕を呼んでくれることが嬉しくて。どうか、もっと僕の名前を呼んでください」

 にこりと微笑む兄さん。

 フェンネル、と呼ばれて喜んでいるらしい。まあ、普段は兄さんとしか呼ばないからな。

 というか、そんなことより、恥ずかしいんだよね。ここ、衆人環視なんだからさ?

「そんなことより、早くお放しください」
「放したく、ありません」

 いや、切なげに言われても困るんだけど?

 次の段取り的には、確かダンスだった筈。女側から誘うことはあまり宜しくないとされているんだが、仕方ないか。

 曲は開始の合図で始まっているけど、最初に主催側の要人が踊らないと、ダンスは始まらない。

 一応、仮面舞踏会マスカレイドも舞踏会だからね。

 男が苦手なリリに踊らせるワケには行かない。

 というワケで、ダンスを始めてしまおう。

 そしてオレは、さっさと引っ込んでリリを愛でつつ癒されたいと思う!

 ここは居心地が悪い。疲れる。
 兄さんが他の連中相手にしている間に・・・

「? ・・・!」

 というか、今思ったんだが、兄さんが招待客を相手にしてる間に、オレ帰れるんじゃね?

 よし決めた! さっさと引っ込もう!

「では、踊りませんか?」

 首を傾げて聞くと、

「っ、これは失礼を。貴女に見蕩みとれていたとはいえ、まだダンスを申し込んでいませんでしたね。では、レディ。僕と踊っては頂けませんか?」

 ハッとしたようにオレから離れ、にこりと微笑みながら手を差し出す兄さん。

「はい」

 兄さんの手に手を重ねて微笑む。

 兄さんに引き寄せられて、ホールド。
 あ、そうだ。今日は女役だった。危ない。
 危うく兄さんをリードするところだったぜ。
 リリや鈴蘭スズと踊るときは男役だからな。女役で踊るのは久々だ。大丈夫かな?

 一歩を踏み出し・・・

 最初は久々過ぎてちょっとぎこちなかったけど、兄さんがやたら張り切ってリードしてくれるから、段々と足運びを思い出して来た。

 ワルツのリズムに乗ってくるくると踊る。

 色々と外野は煩いが、オレ達が踊りを開始したからか、他の招待客の方もちらほらと踊り始めている。

「やはり、動いている方が気が紛れますか?」

 耳元に小さく囁くテノール。

「?」
「先程より、表情が柔らかくなったので」

 にこりと微笑む口元。

 一応、お互いアイマスク付けてんだけどね? まあ、機嫌くらいは普通に判るか。

 そりゃあね、そこそこ楽しくない。
 いろんな陰口や嘲笑、侮り、嘲り、そして好奇の視線なんかはかなり気分悪い。

 ホンっト…ぶっ飛ばしたくなるぜ…
 我慢するけどね! どうせ喧嘩売ったって、純血のヒト達には勝てないの判ってるからさ。

 馬鹿な若い純血と一対一ならかく、これだけの人数がいる中で喧嘩売ったら瞬殺確定だろう。無謀なことは、するものじゃない。

 そして、踊るヒトが増えると、オレを凝視して来るいやな視線減るし。

「やはり貴女は、ダンスがお上手ですね」
「それは・・・フェンネル様がわたしをリードしてくださるから、です…」

 兄さんに引っ張られなかったら、女役で動くのを忘れてたからね。危うく兄さんに恥を掻かせるところだったぜ。

「っ…貴女は全く…可愛いことを言ってくれますね? 愛していますよ」
「っ…」

 嬉しげに笑んだ唇が、頬を掠める。

「けれど、あまり僕を困らせないでください」
「?」

 いや、衆人環視でなにしてンのっ!? って言いたいのはオレの方なんだけどっ?

吸血キスを、したくなってしまいます」

 熱を帯びたテノールの囁き。仮面アイマスクの奥、セピアに灯る赤い燐光に、血の気が引く。

「…フェンネル、様?」
今は・・我慢しますよ? 今は、ですけど・・・後で、たっぷりと吸血キスをさせてくださいね?」

 にこりと微笑む口元に覗いた白い牙。

 やベェ・・・後が怖いっ!? 物凄くっ!?

 早く帰ろうっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 ・・・アレク様とっ、フェンネル様が身を寄せ合ってダンスをっ!?

 ああっ、なんて妬ましいっ!?

 リリもアレク様と踊りたいというのにっ!?

 無論、アレク様は燕尾かタキシードで、リリを優しくリードしてくださいます♥️

 まあ、麗しいドレス姿でも構いませんが♥️

 ですがっ・・・今回は衆人環視のパーティーです。

 幾ら無礼講の仮面舞踏会マスカレイドとはいえ、他の参加者がいますからね。女性同士でパートナーを組むワケには行かないのです。

 ああっ、フェンネル様が憎いですわっ!?

 なんですのっ? あんなにアレク様へ密着してっ!? しかもっ、黙って見ていれば先程からっ・・・

 アレク様へ不要なキスばかりっ!?!?

 見せ付けてくれますわねっ!?!?
 わたくしへの嫌がらせですかっ!?
 当て付けなのですかっ!?
 全くっ、フェンネル様は本っ当におヒトが悪いのですからっ!?

 ・・・そして、二重の意味で不愉快です。

 わたくしが、フェンネル様を見ているのだと、リリがアレク様へ嫉妬をしているのだという、見当違いのさざめきが、酷く不愉快ですわ。

 全く、勘違いも甚だしいですこと。わたくしが好きなのは、フェンネル様ではありません。

 その誤解が非常に腹立たしいですわ。

 リリが愛しているのはアレク様ですのに!!!

 アレク様が、好きなのですっ!?

 フェンネル様など眼中にありませんわっ!?

 まあ、面倒なので主張は致しませんが。

 ダンスが終わればアレク様はリリのところへ来て頂くので、それまでの我慢ですっ!?

 わたくしをダンスに誘いたそうにしている殿方もおりますが、鬱陶うっとうしいので空間を操作して、殿方を一定距離以上には近付けておりません。

 この船は、わたくしの領域テリトリーですからね。

 アレク様がリリの下へ来られたら、この空間操作でお守り致しますわ♥️

 無粋な殿方など、一歩も近寄らせませんっ!

 ですからっ、フェンネル様!
 早くダンスを終えて頂けませんことっ!?

※※※※※※※※※※※※※※※

 血…の、匂い。が、する…

 君、の…?

 ああ、そんな…ところに、いたの?

 待って、て…

 今、行く。から、さ…

 ああ、でも…その、前に…

 血を、飲まないと・・・

 なんでも、いい…から。血、を…

「? なんだ? 汚ならしい蝙蝠だな」

 血、を・・・

「ヒッっ!? な、なにを・・・っ!?!?」

※※※※※※※※※※※※※※※

「?」

 気のせいでしょうか?
 今、悲鳴のようなものが聴こえたような…?

 まあ、純血の方々の集りですからね。

 仲の悪い方々も関係無く招待致しましたから、パーティー開始早々、仲の悪い方同士で殺し合いでも始めているのでしょう。

 血なまぐさいことですね。

 少し気にはなりますが・・・
 まあ、いいでしょう。

 そんなことより、アレク様ですわっ!?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...