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ヴァンパイア編。
129.アルゥラから離れろっ!!!
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それは、身の内から骨を、無理矢理引き摺り出されるような・・・不快でおぞましい感覚。
「あ゛ぁ゛ァ゛ァあぁァアぁぁぁァっ!?!?」
痛い、痛い、痛いっ!?
痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!
骨を、神経を、無理矢理露出させられる酷い激痛。過敏な神経には、揺らぐ空気さえ痛覚に障る。
・・・薄く嗤う口元。金色の瞳、そして上から伸ばされて・・・ゆっくりと降りて来る、彼の、白い…手が・・・額、から、厭だ! やめて! …を引き摺り出して、・・・痛い! 『アレク』熱い、『アレクシア』赤い、『やめろ』血が、『思い出すな』溢れて、『忘れていろ』止まらない。『頼むから、思い出すな!』父上の声と、見覚えの無い…けれど知っている筈の誰かの姿が、脳裏に浮かんでは消える。頭が痛い。『アレクシア!』辛そうな、父上の、声…が・・・『アレク!』・・・
ぬるりと、額から流れる血。ドクドクと、脈動に合わせて走る激痛。
「っ…ハッ、ハッ……」
痛みからの貧血で朦朧とする意識。
「アハハハハハハハハっ!? 凄い凄いっ!? 本当に君は・・・よくそれで、生きていたよね?」
愉しげに見下ろすのは、いつかの金色の瞳。音は遠くなって行くのに、彼の声は耳が拾う。
「本当に、ローレルは諦めが悪いな?」
・・・一度目は、半ばから折られた・・・
「まあ、アークが手を貸したみたいだし・・・」
ゆるりと吊り上がる薄い唇。
「全く、二度もアークに血を貰うだなんてさ? 君って、本当にムカつくよ。ルチル」
・・・二度目は、根本から砕かれた・・・
頬へ添えられた白い手に、上を向かされる。
「あぁ…アークの血…」
嬉しげに細められた金色の瞳が、赤く染まる。寄せられる白皙の面。
「ん…ふっ…」
額から鼻筋、顎を伝い垂れ落ちそうになった血が、れろりと熱い舌に舐め取られる。
「は、ぁ…美味し…」
熱い吐息と酔うような恍惚の表情。赤く輝く金眼に、全身がざわりと粟立った。
「んっ…ねぇ…君…」
血の伝う顎から唇、
「…昔より、色々と…」
唇から鼻筋を、
「…混ざってない?」
ドクンドクンと、脈動に合わせて痛む額の方へ、ゆるゆると舌が這い上がって行き・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「……………、…レク様っ、アレク様っ!!!」
悲痛な女の悲鳴と、アルゥラの絶叫とを頼りに猛ダッシュで駆け付けた先には・・・
恍惚とした表情で、床に座り込むアルゥラへ無理矢理に愛を交わそうとしている黒髪の少年の姿。
「っ!? アルゥラから離れろっ!!!」
口付けをさせてなるものかと、咄嗟に手にしていた物を蹴り付け、そのガキの顔面を狙う。
「! なんだ?」
次いで、全力で跳躍。
「は? フランスパン?」
サッと腕を振るってフランスパンを床へ払い落としたガキの顔面の高さを狙い、速度と体重と遠心力とを乗せた足で薙ぐ。
「っ!?」
蹴りを避けようと、身体を反らせるガキ。その一瞬の、アルゥラから手が離れた隙を突き、俺は身体を反転させ、アルゥラをかっ拐う。
「よしっ! 無事かっ、アルゥラっ!?」
見下ろしたアルゥラの、額から伸びるのは、歪な・・・半ばから折れ、深紅の結晶で覆われた、白い角。
「な、んだ・・・これ、は?」
こんなの、見たことが無い。
だって、彼らの急所は、額から生える角だ。
俺は、それを刈って彼らを殺したことがある。
「ぅっ、ぐ…」
小さく呻き、ぐったりと緩慢な動作で血を流す額を押さえる白い手。
「…痛む、のか? アルゥラ?」
辛うじてアルゥラの意識はあるようだが、どうすればいいのか判らない。
「へぇ・・・これはまた、珍しい。まだ生き残っていたのか」
ガキが、言った。
「まあ、そんなことどうでもいいんだけど、なんでバイコーンがユニコーンを庇う? 君らを滅ぼしたのはユニコーンだろ?」
ガキの言う通り、俺らバイコーンを滅ぼしたのは、ユニコーン共だ。
「元々亜種のクセに、純血を名乗る愚か者共」
原種であるバイコーンを穢れとして討ち滅ぼし、その存在の全てを無かったことにし、亜種である自らを純血として標榜し、穢れ無き至高の存在として崇めるクソ共。
あの連中は、絶対に赦さない・・・
心底から憎い。殺したい。いや、殺す。
絶対に復讐してやるっ!!!
どろどろとした昏く、黒い感情が湧き上がり、荒れ狂って沸々と煮え滾る。
抑え切れない程に、昏く、重く、深い憎悪。
しかしっ・・・
「っ・・・アルゥラはっ、ユニコーンなんかじゃないっ!? あのクソ共と一緒にするなっ!?」
俺はもう、間違えない。
アルゥラは、あの連中じゃない。
自分でヴァンパイアだと言った。
だから、アルゥラはヴァンパイアだ。
ユニコーンじゃないアルゥラは、俺の復讐相手足り得ない。
「ふぅん・・・なら、それを返してよ。それは、僕のモノなんだから。さっさと渡して消えろ」
金色の瞳が、剣呑に光る。
「僕の血筋のモノを、どう扱おうが僕の勝手だ」
ガキの、血筋? アルゥラが?
アルゥラは、ヴァンパイアで・・・
「・・・真祖、か? ・・・だがっ、しかしっ! 幾らアルゥラが魅力的だからと言って・・・確かに? アルゥラの貴重且つ美しいドレス姿っ…しかも、胸元や裾が破けて蠱惑の白い谷間や生足なんかがチラリズムしているセクシーな姿がとてつもなくエロいからと言ってっ!? 欲情するのはわかるが、無理矢理襲うだなんて男の風上にも置けないぞっ!!! 力尽くでアルゥラを手に入れようなどとは、最低のクズ野郎の所業だっ!!!」
ビシッ! と、ガキへ言ってやる。
「・・・は?」
__________
ということで、アルの正体は角を折られたユニコーンで、トールがバイコーンでした。
ちなみに、折られた角はイリヤとアークの血の血晶で保護されてます。アークがやりました。
ユニコーンは元々、バイコーンの変種だったという説があるのです。そして、バイコーンがその邪悪さ故に滅ぼされて、ユニコーンの方が聖獣として残ったとか・・・
そしておそらく、トール登場の辺りから気付いていた方もいるかと思われますが・・・
その辺りから二人の正体を予測していた方は、讃えます。ぜひ、幻獣マスターという称号をお受け取りください。
それにしても、トールはなかなか締まりませんね。一応、彼は真剣なんですが・・・
「あ゛ぁ゛ァ゛ァあぁァアぁぁぁァっ!?!?」
痛い、痛い、痛いっ!?
痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!
骨を、神経を、無理矢理露出させられる酷い激痛。過敏な神経には、揺らぐ空気さえ痛覚に障る。
・・・薄く嗤う口元。金色の瞳、そして上から伸ばされて・・・ゆっくりと降りて来る、彼の、白い…手が・・・額、から、厭だ! やめて! …を引き摺り出して、・・・痛い! 『アレク』熱い、『アレクシア』赤い、『やめろ』血が、『思い出すな』溢れて、『忘れていろ』止まらない。『頼むから、思い出すな!』父上の声と、見覚えの無い…けれど知っている筈の誰かの姿が、脳裏に浮かんでは消える。頭が痛い。『アレクシア!』辛そうな、父上の、声…が・・・『アレク!』・・・
ぬるりと、額から流れる血。ドクドクと、脈動に合わせて走る激痛。
「っ…ハッ、ハッ……」
痛みからの貧血で朦朧とする意識。
「アハハハハハハハハっ!? 凄い凄いっ!? 本当に君は・・・よくそれで、生きていたよね?」
愉しげに見下ろすのは、いつかの金色の瞳。音は遠くなって行くのに、彼の声は耳が拾う。
「本当に、ローレルは諦めが悪いな?」
・・・一度目は、半ばから折られた・・・
「まあ、アークが手を貸したみたいだし・・・」
ゆるりと吊り上がる薄い唇。
「全く、二度もアークに血を貰うだなんてさ? 君って、本当にムカつくよ。ルチル」
・・・二度目は、根本から砕かれた・・・
頬へ添えられた白い手に、上を向かされる。
「あぁ…アークの血…」
嬉しげに細められた金色の瞳が、赤く染まる。寄せられる白皙の面。
「ん…ふっ…」
額から鼻筋、顎を伝い垂れ落ちそうになった血が、れろりと熱い舌に舐め取られる。
「は、ぁ…美味し…」
熱い吐息と酔うような恍惚の表情。赤く輝く金眼に、全身がざわりと粟立った。
「んっ…ねぇ…君…」
血の伝う顎から唇、
「…昔より、色々と…」
唇から鼻筋を、
「…混ざってない?」
ドクンドクンと、脈動に合わせて痛む額の方へ、ゆるゆると舌が這い上がって行き・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「……………、…レク様っ、アレク様っ!!!」
悲痛な女の悲鳴と、アルゥラの絶叫とを頼りに猛ダッシュで駆け付けた先には・・・
恍惚とした表情で、床に座り込むアルゥラへ無理矢理に愛を交わそうとしている黒髪の少年の姿。
「っ!? アルゥラから離れろっ!!!」
口付けをさせてなるものかと、咄嗟に手にしていた物を蹴り付け、そのガキの顔面を狙う。
「! なんだ?」
次いで、全力で跳躍。
「は? フランスパン?」
サッと腕を振るってフランスパンを床へ払い落としたガキの顔面の高さを狙い、速度と体重と遠心力とを乗せた足で薙ぐ。
「っ!?」
蹴りを避けようと、身体を反らせるガキ。その一瞬の、アルゥラから手が離れた隙を突き、俺は身体を反転させ、アルゥラをかっ拐う。
「よしっ! 無事かっ、アルゥラっ!?」
見下ろしたアルゥラの、額から伸びるのは、歪な・・・半ばから折れ、深紅の結晶で覆われた、白い角。
「な、んだ・・・これ、は?」
こんなの、見たことが無い。
だって、彼らの急所は、額から生える角だ。
俺は、それを刈って彼らを殺したことがある。
「ぅっ、ぐ…」
小さく呻き、ぐったりと緩慢な動作で血を流す額を押さえる白い手。
「…痛む、のか? アルゥラ?」
辛うじてアルゥラの意識はあるようだが、どうすればいいのか判らない。
「へぇ・・・これはまた、珍しい。まだ生き残っていたのか」
ガキが、言った。
「まあ、そんなことどうでもいいんだけど、なんでバイコーンがユニコーンを庇う? 君らを滅ぼしたのはユニコーンだろ?」
ガキの言う通り、俺らバイコーンを滅ぼしたのは、ユニコーン共だ。
「元々亜種のクセに、純血を名乗る愚か者共」
原種であるバイコーンを穢れとして討ち滅ぼし、その存在の全てを無かったことにし、亜種である自らを純血として標榜し、穢れ無き至高の存在として崇めるクソ共。
あの連中は、絶対に赦さない・・・
心底から憎い。殺したい。いや、殺す。
絶対に復讐してやるっ!!!
どろどろとした昏く、黒い感情が湧き上がり、荒れ狂って沸々と煮え滾る。
抑え切れない程に、昏く、重く、深い憎悪。
しかしっ・・・
「っ・・・アルゥラはっ、ユニコーンなんかじゃないっ!? あのクソ共と一緒にするなっ!?」
俺はもう、間違えない。
アルゥラは、あの連中じゃない。
自分でヴァンパイアだと言った。
だから、アルゥラはヴァンパイアだ。
ユニコーンじゃないアルゥラは、俺の復讐相手足り得ない。
「ふぅん・・・なら、それを返してよ。それは、僕のモノなんだから。さっさと渡して消えろ」
金色の瞳が、剣呑に光る。
「僕の血筋のモノを、どう扱おうが僕の勝手だ」
ガキの、血筋? アルゥラが?
アルゥラは、ヴァンパイアで・・・
「・・・真祖、か? ・・・だがっ、しかしっ! 幾らアルゥラが魅力的だからと言って・・・確かに? アルゥラの貴重且つ美しいドレス姿っ…しかも、胸元や裾が破けて蠱惑の白い谷間や生足なんかがチラリズムしているセクシーな姿がとてつもなくエロいからと言ってっ!? 欲情するのはわかるが、無理矢理襲うだなんて男の風上にも置けないぞっ!!! 力尽くでアルゥラを手に入れようなどとは、最低のクズ野郎の所業だっ!!!」
ビシッ! と、ガキへ言ってやる。
「・・・は?」
__________
ということで、アルの正体は角を折られたユニコーンで、トールがバイコーンでした。
ちなみに、折られた角はイリヤとアークの血の血晶で保護されてます。アークがやりました。
ユニコーンは元々、バイコーンの変種だったという説があるのです。そして、バイコーンがその邪悪さ故に滅ぼされて、ユニコーンの方が聖獣として残ったとか・・・
そしておそらく、トール登場の辺りから気付いていた方もいるかと思われますが・・・
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