140 / 179
ヴァンパイア編。
131.・・・相変わらず、度し難い程愚かだな。
しおりを挟む
とりあえず、状況は把握した。
けど・・・ああ、頭が痛い。
脈拍に合わせて、ガッツンガッツン! 痛覚神経をハンマーでぶん殴られている感じ。
この激痛、心臓が弱かったり、痛みへの耐性が低い奴なら、とっくにショック死か発狂しているレベルの痛みだって・・・
それに、頭が一番痛いから判り難かったけど、胸も痛い。あの徴が消えて火傷をしている・・・のは仕方ないとして、胸骨もヒビくらい入ってないか?
右肩は脱臼しているしさ?
あちこち、ぼろぼろじゃないか。
ふらふらする。
本当に、心底から気分は最悪だ。
女の子になんて扱いをするんだ。
まあ、想定していた最低最悪の状況でないことは、素直に僥倖だと言えるけど・・・
それにしても、あのイリヤに笑顔を向けられるだなんて、考えもしなかったよ。
全く・・・
「ところで、誰がクズだって?」
「君に決まってるだろう? イリヤ」
「減らず口」
「君とまともに会話をしてくれるような奇特な奴は、なかなかいないと思うんだけどな?」
イリヤは、会話自体が嫌いなワケじゃない。単に、気に入らない相手とは、会話をしないだけだ。それで必然的に、会話ができる相手が非常に少ない。
「・・・」
図星のようで、嫌そうな顔で口を閉じるイリヤ。
額に手をやり、俺の血を入れて血晶にする。
「それで、オレをどうするつもりだ? イリヤ」
「俺? 君、そんな喋り方をしてた?」
怪訝な顔をするイリヤ。
「悪い?」
「別に。どうでもいいよ。僕は君になんか興味無いし。どうでもいいんだから」
「あのさ、興味無いなら、放っといてくれない? 君が殺したいのは純血の連中だろ。オレは、君の殺意の対象には入らない筈だ」
イリヤが放っといてくれれば、こんなにぼろぼろになることも、俺が出て来ることも無かったのに。
「なにを言ってるの? ルチル。僕は、君自身には一切興味は無い。でも、君に流れているのはアークの血だ。そんな君を、僕が手放す筈ないだろう。恨むなら、ローレルを恨みなよ? 君を、アークに逢わせたっ…ローレルをさ!」
金眼に滾る憎悪の色。
「それで、オレをどうするつもり?」
「僕と来い。ルチル。君は僕のモノだ。僕から逃げるなんて、赦さない」
「オレを、殺したクセに」
「君は僕が血を与えて、名前まで付けた僕のモノなんだから、僕が君をどうしようと僕の勝手だ。アークを見付けるまで、僕の傍にいろ。ルチル」
ああ、本当に・・・
「・・・わかったよ。イリヤ」
君が昔から、何一つ変わってないことを。
本当に君は・・・
「アレク様っ!?」
「アルゥラっ!?」
上がる声を無視して歩を進めると、ゆるりと嬉しげに弧を描く薄い唇。
「君へ血を提供すればいいんだろう?」
手を開いて、血晶をイリヤへ差し出す。
「血晶? 手を出しなよ。飲ませろ」
金眼に点る、赤い煌めき。
「嫌だよ。君、ぼろぼろじゃないか。そんな状態で吸血なんかされたら、君に殺される。また君に殺されるなんて、絶対に厭なんだけど?」
「・・・殺しは、しない。まだ、君は・・・アークが、見付かるまでは・・・」
戸惑うような低い声。
「なら、我慢できるの?」
「・・・」
イリヤは不満そうに血晶を受け取ると、それを口へ含む。そして、ゴクリと飲み込んだ。
「? なんか、味が・・・?」
「・・・眠りなさい。イリヤ」
「・・・ルチル?」
「眠れ。深く。死んだように。深く深く。その意識を。奥底へと沈めろ」
「な、にを・・・?」
※※※※※※※※※※※※※※※
急激な、強い眠気、が・・・
ゆらり、と揺れる視界。
力が抜けて傾いだ身体が、細い片腕にふっと受け止められる。柔らかい感触と、ふわりと香る甘い血の匂い。
「おやすみなさい。イリヤ」
耳元に囁かれるのは、魔力の籠る言葉。
「いい夢を、魅せてあげる♥️」
どこか、聞き覚えのあるような・・・とても女らしい、色気を含んだ甘ったるい、声の、響き、が・・・?
「! お、前っ…ルージュ、エリアルかっ…」
「正解♥️この子の血で、あたしの血を包んだの。強力な眠りを付与した、俺の血を。普段の君ならいざ知らず、今の弱っている君になら、よく効くんじゃないかしら?」
クスリと、ルチルの声が妖艶に笑う。
「なん、で…お前、が…ルチル、に…」
とろりとした眠気に落ちそうになる意識の中、
「言ったでしょう? イリヤ。俺の子供達に手を出さないでって」
ルチルの声で、ルージュエリアルが言う。
「お前、の・・・?」
「ナイトメアのメアには、馬の嘶きって意味があることを、知らないワケじゃないでしょ?」
ナイトメア。
それは、夜に聞こえる馬の嘶きを意味する言葉。
その昔。夢魔は、馬の形をしていると信じられていた。悪夢を連れて来る、目には見えない、邪悪で淫蕩とされる、馬の形をした悪魔を指す言葉。
そしてバイコーンは、邪悪で淫蕩とされる、角が二本ある馬のこと。
ユニコーンは、そのバイコーンの亜種。
つまり・・・
「ルチル、は…お前、の・・・」
「そう。可愛い可愛い俺の子供の一人。だからこの子は、俺の血筋のモノとは相性がいい。こうして、意識を乗っ取ることができるくらいには、俺自身ともね?」
「っ・・・」
なぜか、湧き上がる怒り。
「返、せっ…ルチル…は、僕の…」
「・・・相変わらず、度し難い程愚かだな。君は」
怒気で一瞬散った眠気が、また襲って来る。
「だ、れ…がっ…」
「その感情の意味を知らない君が。ローレルもアークも、俺だって、とっくの昔に気付いていた。知っていた。理解してないのは君だけだ。イリヤ」
「・・・?」
音が、段々と遠くなって行く。
「初対面のバイコーンの子だって、人魚の子だって、すぐに判ったことを」
とろりと瞼が重く・・・
「そもそもヴァンパイアは」
意識が、
「……………の血を欲し」
閉じて行く・・・
「……………を…………で……………と願う……………、だろう? ねぇ、イリヤ。君は、アークとアルの………………………んだろうね? まあ、考えたことも無さそうだけど」
ルージュエリアルが、僕へなにを言ったのかはわからないままに・・・
「そんな・・・君みたいな愚か者に、俺の愛し子を渡して堪るか。寝てろ」
闇へと、ゆっくり堕ちて行く・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
__________
ということで、またまたネタバレ回です。
キーワードは、ヤンデレ・愛憎・執着。
イリヤは馬鹿ですねー。ローレルやアーク、夢魔のヒトが怒るワケです。
そして、夢魔のヒトが途中からアルを乗っ取ってました。
もしかして、アルって実は夢魔のヒトの子孫なんじゃ・・・と思っていた方もいるかもしれませんね。
ちなみに、ナイトメアがバイコーンの~というのは、書いてる奴のオリジナルです。呉々も鵜呑みにはしないでくださいね?
けど・・・ああ、頭が痛い。
脈拍に合わせて、ガッツンガッツン! 痛覚神経をハンマーでぶん殴られている感じ。
この激痛、心臓が弱かったり、痛みへの耐性が低い奴なら、とっくにショック死か発狂しているレベルの痛みだって・・・
それに、頭が一番痛いから判り難かったけど、胸も痛い。あの徴が消えて火傷をしている・・・のは仕方ないとして、胸骨もヒビくらい入ってないか?
右肩は脱臼しているしさ?
あちこち、ぼろぼろじゃないか。
ふらふらする。
本当に、心底から気分は最悪だ。
女の子になんて扱いをするんだ。
まあ、想定していた最低最悪の状況でないことは、素直に僥倖だと言えるけど・・・
それにしても、あのイリヤに笑顔を向けられるだなんて、考えもしなかったよ。
全く・・・
「ところで、誰がクズだって?」
「君に決まってるだろう? イリヤ」
「減らず口」
「君とまともに会話をしてくれるような奇特な奴は、なかなかいないと思うんだけどな?」
イリヤは、会話自体が嫌いなワケじゃない。単に、気に入らない相手とは、会話をしないだけだ。それで必然的に、会話ができる相手が非常に少ない。
「・・・」
図星のようで、嫌そうな顔で口を閉じるイリヤ。
額に手をやり、俺の血を入れて血晶にする。
「それで、オレをどうするつもりだ? イリヤ」
「俺? 君、そんな喋り方をしてた?」
怪訝な顔をするイリヤ。
「悪い?」
「別に。どうでもいいよ。僕は君になんか興味無いし。どうでもいいんだから」
「あのさ、興味無いなら、放っといてくれない? 君が殺したいのは純血の連中だろ。オレは、君の殺意の対象には入らない筈だ」
イリヤが放っといてくれれば、こんなにぼろぼろになることも、俺が出て来ることも無かったのに。
「なにを言ってるの? ルチル。僕は、君自身には一切興味は無い。でも、君に流れているのはアークの血だ。そんな君を、僕が手放す筈ないだろう。恨むなら、ローレルを恨みなよ? 君を、アークに逢わせたっ…ローレルをさ!」
金眼に滾る憎悪の色。
「それで、オレをどうするつもり?」
「僕と来い。ルチル。君は僕のモノだ。僕から逃げるなんて、赦さない」
「オレを、殺したクセに」
「君は僕が血を与えて、名前まで付けた僕のモノなんだから、僕が君をどうしようと僕の勝手だ。アークを見付けるまで、僕の傍にいろ。ルチル」
ああ、本当に・・・
「・・・わかったよ。イリヤ」
君が昔から、何一つ変わってないことを。
本当に君は・・・
「アレク様っ!?」
「アルゥラっ!?」
上がる声を無視して歩を進めると、ゆるりと嬉しげに弧を描く薄い唇。
「君へ血を提供すればいいんだろう?」
手を開いて、血晶をイリヤへ差し出す。
「血晶? 手を出しなよ。飲ませろ」
金眼に点る、赤い煌めき。
「嫌だよ。君、ぼろぼろじゃないか。そんな状態で吸血なんかされたら、君に殺される。また君に殺されるなんて、絶対に厭なんだけど?」
「・・・殺しは、しない。まだ、君は・・・アークが、見付かるまでは・・・」
戸惑うような低い声。
「なら、我慢できるの?」
「・・・」
イリヤは不満そうに血晶を受け取ると、それを口へ含む。そして、ゴクリと飲み込んだ。
「? なんか、味が・・・?」
「・・・眠りなさい。イリヤ」
「・・・ルチル?」
「眠れ。深く。死んだように。深く深く。その意識を。奥底へと沈めろ」
「な、にを・・・?」
※※※※※※※※※※※※※※※
急激な、強い眠気、が・・・
ゆらり、と揺れる視界。
力が抜けて傾いだ身体が、細い片腕にふっと受け止められる。柔らかい感触と、ふわりと香る甘い血の匂い。
「おやすみなさい。イリヤ」
耳元に囁かれるのは、魔力の籠る言葉。
「いい夢を、魅せてあげる♥️」
どこか、聞き覚えのあるような・・・とても女らしい、色気を含んだ甘ったるい、声の、響き、が・・・?
「! お、前っ…ルージュ、エリアルかっ…」
「正解♥️この子の血で、あたしの血を包んだの。強力な眠りを付与した、俺の血を。普段の君ならいざ知らず、今の弱っている君になら、よく効くんじゃないかしら?」
クスリと、ルチルの声が妖艶に笑う。
「なん、で…お前、が…ルチル、に…」
とろりとした眠気に落ちそうになる意識の中、
「言ったでしょう? イリヤ。俺の子供達に手を出さないでって」
ルチルの声で、ルージュエリアルが言う。
「お前、の・・・?」
「ナイトメアのメアには、馬の嘶きって意味があることを、知らないワケじゃないでしょ?」
ナイトメア。
それは、夜に聞こえる馬の嘶きを意味する言葉。
その昔。夢魔は、馬の形をしていると信じられていた。悪夢を連れて来る、目には見えない、邪悪で淫蕩とされる、馬の形をした悪魔を指す言葉。
そしてバイコーンは、邪悪で淫蕩とされる、角が二本ある馬のこと。
ユニコーンは、そのバイコーンの亜種。
つまり・・・
「ルチル、は…お前、の・・・」
「そう。可愛い可愛い俺の子供の一人。だからこの子は、俺の血筋のモノとは相性がいい。こうして、意識を乗っ取ることができるくらいには、俺自身ともね?」
「っ・・・」
なぜか、湧き上がる怒り。
「返、せっ…ルチル…は、僕の…」
「・・・相変わらず、度し難い程愚かだな。君は」
怒気で一瞬散った眠気が、また襲って来る。
「だ、れ…がっ…」
「その感情の意味を知らない君が。ローレルもアークも、俺だって、とっくの昔に気付いていた。知っていた。理解してないのは君だけだ。イリヤ」
「・・・?」
音が、段々と遠くなって行く。
「初対面のバイコーンの子だって、人魚の子だって、すぐに判ったことを」
とろりと瞼が重く・・・
「そもそもヴァンパイアは」
意識が、
「……………の血を欲し」
閉じて行く・・・
「……………を…………で……………と願う……………、だろう? ねぇ、イリヤ。君は、アークとアルの………………………んだろうね? まあ、考えたことも無さそうだけど」
ルージュエリアルが、僕へなにを言ったのかはわからないままに・・・
「そんな・・・君みたいな愚か者に、俺の愛し子を渡して堪るか。寝てろ」
闇へと、ゆっくり堕ちて行く・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
__________
ということで、またまたネタバレ回です。
キーワードは、ヤンデレ・愛憎・執着。
イリヤは馬鹿ですねー。ローレルやアーク、夢魔のヒトが怒るワケです。
そして、夢魔のヒトが途中からアルを乗っ取ってました。
もしかして、アルって実は夢魔のヒトの子孫なんじゃ・・・と思っていた方もいるかもしれませんね。
ちなみに、ナイトメアがバイコーンの~というのは、書いてる奴のオリジナルです。呉々も鵜呑みにはしないでくださいね?
1
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】カミに愛されし聖女との婚約を破棄するっ!?
月白ヤトヒコ
ファンタジー
国王である父は敬虔で、神へとよく祈っていることは知っていた。
だが、だからと言ってこの暴挙はどうかしていると言わざるを得ない。
父はある日突然、城へと連れて来た女性をわたしの婚約者へ据えると言い出した。
「彼女は、失われしカミを我が身へと復活せしめるという奇跡を起こせし偉大なる女性だ。公爵とも既に話は付いている。彼女を公爵家の養女とし、お前と婚姻させる。これは、彼女を教会から保護する為に必要な処置だ。異論は認めぬ!」
それまで賢君とは及ばずも暴君ではなかった父の豹変。なにか裏があると思ったわたしは、ぽっと出の神に愛されし聖女とやらを調べ――――
中毒性や依存性の見られると思しき、怪しい薬を作っていることが判明。
わたしは、彼女との婚約を破棄することにした。
という感じの、多分ギャグ。
ゆるゆる設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる