ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

132.次に逢ったとき、凄く恨まれてそうだよ。

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「さて、と・・・」

 とりあえず、イリヤをどうにかしようかな?

「まずは・・・」

 水蒸気を引っ張り、空中に二メートル程の水球を作る。更にそれから不純物を除き、純水へ。

「…っいっしょっ! っと・・・」

 そして、その純水の水球へとぷん! とイリヤを放り込む。片腕だとキツいな? 全く・・・

「ふぅ・・・」

 それにしても、頭が痛い。角を仕舞おう。

「っ!? ぅ…ぐっ・・・っ!?!?」

 イリヤに折られ、砕かれたアルの角は・・・アルから抜いたイリヤの血と、そのイリヤの血を操作する為に、ほんの少しだけ混ぜられたアークの血とでコーティングされている。
 折れて砕けた真白い角を覆う、真紅の血晶けっしょう

 頑丈な真祖の血晶で保護されてはいるが、これは言わば神経過敏な疵痕きずあと。露出しているだけで、空気さえも痛覚に障る。


「っ…くっ、ああぁっ!?」

 そしてこれは、イリヤとアークの血晶だから、当然この角は、あの二人へ反応する。

 イリヤへ引き摺り出され、イリヤへ反応し続けていて、仕舞うのも一苦労だ。

 例えるなら・・・折れて飛び出た骨を、筋肉の中へ戻すような感覚・・・だろうか?

 しかも、自分の手で・・・

 ものすっっっごく痛いっ!!!

「ハァ、ハァ・・・は、ぁ・・・」
「大丈夫かっ、アルゥラっ!?」

 痛みに拠る貧血でふらついたところを、逞しい腕が支えてくれた。

「っ・・・あぁ、ありがとう」

 馬の子の声に礼を言う。

「っ・・・どなた、ですの?」

 掠れたソプラノの声。ふらふらと立ち上がった人魚の子が、真っ直ぐにあたしを見据える。

「あたしは夢魔のルー。大体の話は聞いていただろう? アルやこの馬の子の先祖に当たる」
「・・・それは、わかりましたわ。ですが、アレク様はどうなされたのです? 真祖の君からお守り頂いたことは感謝致します。ですが、アレク様をっ・・・お返し、くださいませ」

 震えるソプラノの声。

「そんなに怖がらなくてもいいよ。まあ、残念ながら、アルはまだ返してあげられないけどね」
「っ!? どうして、でしょうか?」
「うん。今ね、ものすっっごく頭痛いから。痛み耐性低いと、ショック死とか、発狂するレベルの痛み。さすがに今変わると、アルが可哀想だからさ」

 それに、今変わるとバーサクするか、ぶっ倒れるかだろう。アルの限界は近いけど、今ここで、イリヤを放って倒れるワケには行かない。

「っ…そう、ですか・・・」

 潤んだアクアマリンの瞳が伏せられる。

「イリヤをなんとかしなきゃいけないんだ。手伝ってくれるかな? 人魚ちゃん」
「どう、されるのですか?」
「とりあえず、氷漬けにしようと思ってね。イリヤを殺すことはできないから」
「殺さないのか? 明らかにやべぇだろコイツ」

 馬の子が口を挟む。

「違う。殺せない・・・・んだよ。俺は元々、直接戦闘が苦手なんだ。それに、これはアルの身体だ。イリヤと戦えるワケがない。幾ら今の彼が弱っているとはいえ、殺せるだけの火力自体が無いんだよ。中途半端に攻撃して、寝た子を起こすような真似はできない」
「そう、ですか・・・」
「それで、どうするんだ?」

 うん。わかってた。
 馬の子は、頭が残念だって・・・

「とりあえず、手を貸してくれるかな?」
「任しとけ!」
「水を寄せてくれる?」
「おう!」
「わかりましたわ」

 馬の子と人魚ちゃんとで、大量の水を寄せる。そして、その水から不純物を除いて純水へ。

 純水の球の中で瞳を閉じ、揺蕩たゆたうイリヤ。

「で、この純水から空気を抜いて圧縮」

 イリヤを潰す勢いで圧縮する。どうせイリヤは、水圧くらいでは死なないだろうし。

 どんどん圧縮する。

 圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮・・・

 水の分子結合を強固にし、温度変化を経ずに、水を凝固させて個体へと至らせる。

 そして、透き通った球体の氷がイリヤを閉じ籠める。氷の揺り篭の完成だ。

 透き通った球体の氷は非常に固く、溶け難い。

「これなら、数百年は安心かな」
「数百年…ですか」
「そう。数百年くらい。氷が溶けなければ、ね? 次に逢ったとき、凄く恨まれてそうだよ。全く」
「で、これをどうすんだ?」
「人魚ちゃんにお願いしようかな」
「承りました。お任せください」

 わかっていたという風に頷く人魚ちゃん。

「それじゃ、肩を入れてくれる?」

 馬の子を見上げて言う。

「・・・わかった。痛いだろうが、我慢してくれ」

 渋い顔でアルの右腕をそっと掴むと、右肩へと置かれる褐色の熱い手。そして、

「行くぞ?」
「お願い」

 歯を食い縛り、深く息を吐いた。瞬間、

「っ!?!?」

 ゴキンっ! と、鈍い音と共に肩へ走る激痛。

「・・・ぅ・・・」

 痛みに貧血を起こすと、

「大丈夫か?」

 心配そうに覗き込む蘇芳すおうの瞳。

「ああ、ありがとう」

 イリヤの血が活性化しているせいで、傷の治りは早い。胸の火傷や胸骨のヒビもある程度よくなって来ている。けど、脱臼は骨を入れないと治らない。そして、肩の腱や筋肉が傷んでいる。

「・・・」

 服もなぁ…このドレス、かなり仕立てがいいのに。ぼろぼろだ。勿体無い。

 ワインレッドのハイネックのノースリーブドレス。だというのに、胸元は裂けてるし、スカート部分には太腿までの破いたスリットが・・・

 さっきっから、馬の子がじろじろ見ている。
 あたしの身体なら好きに見てくれて構わないんだけど、アルはきっと、凄く嫌がるだろう。

「人魚ちゃん」
「はい。なんでしょうか? ルー様」
「着替えたいな」
「着替えるのかっ!? なんて勿体無いことをっ!? ハッ! いや、着替えるんなら俺が手伝うぜっ!」
「最っ低ですわね」

 低温のソプラノで、人魚ちゃんが生ゴミを見るような視線を馬の子へ向ける。

「そうだっ! お嬢さんも手が必要なら是非言ってくれ! むしろ、俺に手伝わせてくださいっ!? 二人共、怪我が酷いだろう?」
「・・・結構ですわ。アレク様のお着替えの手伝いは、わたくしがさせて頂きます。あなたはそこで、真祖の君を見張っていてくださいませ」
「フッ、成る程な。アルゥラの着替えを覗く為、このガキが復活するかもしれないからなっ!?」

 本気でそれを言っている馬の子に、

「・・・」

 人魚ちゃんが無言で指を鳴らす。

※※※※※※※※※※※※※※※

 と、あたしと人魚ちゃんは別室へいた。

「アレク様は、どうされているのですか?」

 着替えを手伝ってくれながら、人魚ちゃんがあたしを見上げて質問する。

「寝てる、かな?」

 イリヤのことを思い出すことをスイッチとして、あたしと交代するよう仕込んでいた。
 ローレルがイリヤに対して仕込んでいたしるしを真似てみたけど、それが効を奏した。

 アルをあんなイリヤへは、渡したくない。

 それは、あまりにアルが憐れだ。

 イリヤがあれ程に愚かじゃなければ・・・

 まあ、ローレルは絶対にゆるす筈もないけど。

 そしてあたしは、できればアルには、イリヤのことは忘れていてほしいと思っているが・・・

「そう、ですか・・・アレク様がご無事なら、リリはなにも申しません」
「ありがとう、人魚ちゃん」
「ルー様。リリは・・・真祖の君を、海底へ連れて行けば宜しいのですね?」
「お願いするよ」
「はい。新しい船は、アレク様の兄君へおねだりすることに致します。そして、アレク様」

 そっと伸ばされた小さな手が、頬を包む。

「リリの、我が儘でっ・・・このような事態へ陥ってしまい、本当にっ…申し訳、ありませんっ」

 ぐしゃぐしゃの顔で涙を零すアクアマリン。

「ごめっ…なさっ、アレク、様っ…」

 嗚咽混じりのソプラノ。

「人魚ちゃんは悪くないよ。遅かれ早かれ、いずれはこうなっていたと思う。それが、今だったというだけのこと。今回目覚めてからのイリヤは、無意識にずっと・・・アルを追っていたから」

 本人はアークを追っているつもりだっただろうけど・・・イリヤが辿っていたのはアルの軌跡。

 まあ、アルに混ざったアークの血・・・だとも言えるが。
 むしろアルには、アークの血よりもイリヤの血の方が多く混ざっている。

 そして、今のアルに混ざっているのは、それだけでもないんだけど・・・

 全く、あの無自覚は本当に、度し難い。

「泣かないで? アルもきっと、そう言う」

 人魚ちゃんの目尻へ口付け、涙を拭う。と、

「っ・・・アレク様、へ…海のご加護、を」

 顔を上げた人魚ちゃんが、そっとキスをした。

「アマラ様の、船まで・・・お送り、したかったの、ですけど・・・申し訳、ありません……」
「うん。わかってる。ありがとう」

 そしてあたしは、

「アルを、お願い・・・ね?」

 目を閉じた。
__________

 夢魔のヒトは、イリヤのしたことを最低だと思っていますが、イリヤ自体のことを嫌っているワケではありません。
 夢魔のヒトは博愛なので。
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