ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

133.俺は男とは話さんっ!

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「!」

 なにかが、来る。

 物凄い速さで、ここへ近付いている。

 それを確かめる為、ドレスの縫製を中止し、パッと甲板へと移動する。

 夜明け前の白んで来た空の反対側から、

「見えないわね・・・」

 と言った側から、なにかが近付いて、!

「っ!? バカ馬っ!?」

 なんでバカ馬がここに?

 とりあえず、船を移動・・・

「? は? なんでバカ馬が?」

 小娘の、気配? アルは、あのバカ馬をとても嫌っていた。追い掛けられているのかしら?

 空を見上げるが、アルの姿は見えない。相当高い高度を飛んでいるのかしら?

「・・・なんにせよ、迂闊に船を出すワケには行かないわね」

 むしろ、あのバカ馬の方へ動かす・・・までもなく、バカ馬が船へと猛然と突っ込んで来た。

 そして、

「とうっ!?」

 大きく高く跳ね上がり、

「今すぐ医者を出せーっ!?!?」

 バリトンを響かせて甲板へ着地した。

 その腕には、目を閉じたアルの姿。

「っ! ジンっ!?」

 大声でジンを呼ぶ。と、

「どうかした・・・って、アルちゃんっ!?」

 いぶかしげな顔で出て来たジンが、血相を変えてバカ馬の方へ向かう。

「なにがあったっ!?」
「主な怪我は、右肩の脱臼と右腕の痣。右腕の方はもしかしたらヒビが入っているかもしれない。一応、右肩は入れたが、筋肉や腱が心配だ。以上」

 バカ馬はそう言うと、そっとアルをジンへ渡す。

「早く診てやってくれ」
「わかった」

 ジンが意識の無いアルを連れて素早く医務室へ移動した。すると、

「どういうことだ?」

 緑みを帯びた飴色を、剣呑に光らせた低い声。そして、音も無くアーミーナイフを構えたギラギラと光る猫の瞳が、バカ馬…トールを捉える。
 いつでも斬り掛かれるように。

「俺は男とは話さんっ!」

 キッパリとした馬鹿馬鹿しい言葉に、ざわりと殺気立つヒューとミクリヤの二人。

「だが、美女モドキに、可憐な人魚のお嬢さんからの伝言があるから特別だ。一度しか言わん」

 トールは物怖じせず堂々と告げる。

 誰が美女もどきよっ!? と、怒鳴り付けたいところだけど、それは堪える。

「・・・聞きましょう」

 と、アタシが応えると、

「アルゥラを・・・『アル様の親族を名乗り、迎えに来る純血の方へは絶対に渡さないでくださいませ。アル様をお守りください。お願い致します』以上が、人魚のお嬢さんからの伝言だ」

 低いバリトンが百合娘の言伝を伝えた。

 緊張を孕み、しんとする甲板。
 潮騒の音が、やけに響く。

 アルは仕事だと言って、純血のヴァンパイア達のいるパーティー会場へ向かったという。
 カイルとジンが言っていた。

 そして、怪我をして意識を失った状態で、トールへ抱えられて帰って来た。

 更には、百合娘の伝言。

 純血共となにかあったと考えるのが自然だ。

「・・・なにがあった」

 低い声が言う。しかし、

「・・・」

 トールは答えようとしない。

「なんか言えよ、おい」
「・・・」
「だんまりってンなら、力付くでも話させる」

 スラリと抜いた剣を、トールへ向けるヒュー。

「・・・」

 そして、それでも黙り続けるトールの背後へ、ミクリヤが音も無く回り込む。

「いい度胸だ」

 剣呑に光る緑みを帯びた飴色の瞳。

※※※※※※※※※※※※※※※

 アルゥラが可憐な人魚のお嬢さんと着替えに行って、少し経ってから・・・

「大変不本意且つ、非常に心配が尽きませんが、あなたへお願いしたいと思います。どうか、アル様を・・・アマラ様の船までお連れください」

 可憐な人魚のお嬢さんが一人でパーティー会場へ現れ、深々と俺へ頭を下げた。

「わたくしへ払える対価なら、なんなりと仰ってください。最大限努力致します」

 魅惑的なソプラノが切々と頼む。

「そうだな・・・なら、お嬢さんのキスを」

 と、冗談めかして言ってみたら、決死の表情で俺を見上げる可憐な人魚のお嬢さん。

「では」
「いやいや、お嬢さん? 今のは冗談だ冗談。本気にしないでくれ。俺は、女が大好きだからな。無理強いするのは嫌いなんだ。特に、既に好きな奴がいる女に、無理矢理手を出すことはしない」
「え?」

 驚いたように見開くアクアマリンの瞳。

「女の嫌がることをしないのが信条なんだ。ま、女の方から誘って来るなら別だがな?」

 パチンとウインクをすると、スッとまた元のように温度を下げるアクアマリンの瞳。

「そうですか」
「ああ。ところで、お嬢さん。今更だが、俺の名前はトゥエルナキス・デザイン・ヴァイオレットだ。気軽にトール♥️って呼んでくれ。勿論、ハートマークは忘れずにな?」
「・・・では、バイコーンの殿方」

 低くなるソプラノ。

「フッ、お嬢さんは恥ずかしがり屋さんのようだな? だが、俺をバイコーンと呼ぶのはやめてほしいんだ。ユニコーンのクソ共が、殺しに来るかもしれないからな。アルゥラも、自分をユニコーンだとは絶対に名乗らないだろう? 俺も普段は、自分を水棲馬ケルピーだと称している」

 水棲馬ケルピーは全くの別種ではあるが、バイコーンと似たような特性を持つ種族だからな。角さえ出さなければ、判別が難しいだろう。無論、俺は人間を喰うことはしないが。

「・・・理解しましたわ。では、ヴァイオレットさん。で、宜しいでしょうか?」
「ああ、それでいい。お嬢さんは?」
「わたくしはリリアナイト・ローズマリーと申しますが、名前を呼ばれたくありません」
「それじゃあ、人魚のお嬢さん」
「はい」
「アルゥラを、船へ連れて行ってほしいというのは、あの美女モドキのいる船でいいんだな?」
「美女もどき・・・まあ、アマラ様はお美しい方ですわね。ええ。その船ですわ。そして、もう一つお願いがあります」

 溜息を吐きながら頷き、俺を見上げる人魚のお嬢さん。アクアマリンの真剣な色。

「なんだ? 俺は基本、女の頼みは断らないぜ」
「・・・本当に、女性がお好きなのですね」

 呆れの入った、けれど少し優しい声が言う。

「アルゥラも、女に甘いだろう? 似たようなもんだ。無論、俺の方が女好きは上だがな!」

 女好きは、バイコーンやユニコーンの種族特性だからな。それはもう、治しようがない!

「・・・そうですか。では、今夜のことは他言無用でお願い申し上げます。アル様の血統、そして真祖の君とのご関係、この場で起きた出来事。全てを秘してくださいませ」
「わかった。まあ、元々よくわかってはいないが、アルゥラがあの真祖のガキに酷いことをされたというのは、判る。それらを含め、アルゥラのことを他言するつもりは端から無い」
「そうですか。配慮に感謝致しますわ。では、アマラ様…ヴァイオレットさんの言う、美女擬きの方へ伝言をお願い致します」

 ホッとしたという風な人魚のお嬢さん。余程アルゥラのことが心配だったらしい。

「任せとけ!」
「では・・・アル様の親族を名乗り、迎えに来る純血の方へは絶対に渡さないでくださいませ。アル様をお守りください。お願い致します。以上です」

※※※※※※※※※※※※※※※

 そして、人魚のお嬢さんから託された、気を失っているアルゥラを抱えてこの船へ来たワケだが・・・

 俺は男とは話さんと言ったのに、それを理解しないアホ野郎共がなぜか、殺気立っている。

 ピリピリと突き刺さる怒気混じりの殺気。

 なぜだ? せん。

「ハッ、そうか! 俺は前々からわかっていたが・・・さてはお前ら、頭が悪いなっ!」
「あ゛?」

 瞬間、鋭い殺気が迸った。しかし、

「なんだ? 遅ぇ」

 背後から襲い来る小さい野郎を半身になって避け、前から来る更に遅い刃を軽く蹴って逸らす。

「チッ…」
「なっ!?」
「バっカじゃねぇのお前ら。そんな遅ぇ攻撃が俺に当たるワケねぇだろ? せめてアルゥラくらいの速度出せよ。まあ、それでも食らってやらんがな! あと、俺は男には優しくしねぇ!」

 まあ、俺は一応ユニコーンと、女へ非道な真似をするクソ共以外は殺さないと決めているが・・・

 誰が馬鹿正直に攻撃を食らうか!
 当然、逸らすくらいはする。その余波で腕や肩を傷めようが、そんなことは知らん!
 男にそんな配慮はしてやらん!
 馬鹿共の自業自得だ!

 男なんぞどうでもいいわっ!!!
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