ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
144 / 179
ヴァンパイア編。

135.とりあえず、これは聞かせて。

しおりを挟む
「手前ぇら、いい加減、しつこいンだよっ!!」

 逃げるバカを、カトラスを振り回して追い掛ける。もう、怪我をさせてしまうだとかの配慮は一切しない。奴には、全く当たらないからだ。

「手前ぇがさっさと話しゃ済むことだろっ!?」

 そう。男とは話さんなどという馬鹿馬鹿しいことを今すぐ止め、さっさとアルのことを話せばいい。
 だというのに、このバカが逃げ回ってばかりで、一向に話す気配が無い。

 そして、追い付けない。

「このっ、下衆げす野郎がっ…!」

 雪路も半ば意地になって追い掛けているが、二人掛かりでもあのバカを捕らえられない。

 今なら、アルがコイツにマジ切れしていた理由も、非常によくわかる。兎角とかくこのバカは、他人を苛つかせるのが上手い。

「仲間の心配をしてなにが悪いっ!? アルの奴に聞いても、いつもはぐらかしやがンだよ!」

 そう言ったときだった。

 蘇芳すおうの瞳が、初めて俺を見た。瞬間、剣へと衝撃が走り、ガクンと右腕が下がった。

「っ!?」

 気付いたときには、カトラスが奴のブーツに踏まれて甲板へと固定されていた。右腕が肩の方からじんと痺れている。傷めたかもしれない。

「はあ? 馬鹿か手前ぇらは」

 低い声が言ったときには、褐色の腕に胸倉が掴まれていた。たった今までへらへらして、俺と雪路をバカにした態度だったのに、目前で見下ろすくらい赤に浮かぶのは、冷たい怒り。

「仲間だから、心配しているから、自分達になんでも曝け出せってのは、暴論じゃねぇのかよ? それは単なる自己満足だろうが。手前ぇらの心配とやらが、なんの役に立つ? それとも、手前ぇらが心配すりゃアルゥラが治るとでも?」
「それはっ・・・」
「ハッ、そりゃあ凄いことだな? だったら、幾らでもアルゥラの心配してくれよ。さぞや早く、アルゥラが良くなってくれるだろうな」
「っ・・・」

 ヒヤリとした鋭く低い声に、なにも返せない。雪路も悔しげに顔を歪めている。

「俺はな、女が嫌がることはしねぇって決めてンだよ。女の嫌がることをするのは、クズのやることだからな。俺は、アルゥラを・・・・・傷付けないと・・・・・・誓った・・・。そもそも、アルゥラが話さないことを、他人が勝手に語っていい筈が無ぇだろ。それに・・・女は多少秘密めいていた方が魅力的だっ!! そして、女のその秘密ごと愛する格好いい俺っ!!! フッ、さすがは男の中の男だぜっ・・・」

 途中から変なことを言い、自己陶酔し出したトール。なんつうか、こう・・・コイツにクズ呼ばわりされるとは、酷く屈辱的だ。

「そんなことも判らねぇバカな手前ぇらとは違って、俺は度量が広いからなっ!」

 ・・・心っ底っ、殴りてぇっ!?

「! っ、と」

 握り締め、振り切った拳があっさりと避けられる。既に胸倉は放され、トールは退っている。

「チッ・・・」

 なぜコイツに、攻撃が当たらないのか・・・

 アルが躍起になっていた理由が、非常によくわかる。かく、ぶん殴らないと・・・というか、痛い目に遭わせねぇと気が済まん!

 きっと雪路も、俺と同じ気持ちなのだろう。猫の瞳がギラギラとしている。

※※※※※※※※※※※※※※※

 少し止んでいたドタバタが、また始まった。

 それでも、アルちゃんは身動みじろぎ一つしない。
 まあ、前にクラウド君の血を飲んだ後には、ゆっくりと仮死状態になって、数日間は目を覚まさなかったんだけど・・・

五月蝿うるっさいわね」

 苛立たしげに呟くハスキー。

 朝だから不機嫌なのかもしれない。アマラは基本、昼夜逆転の生活してるし。

 まあ、五月蝿いというのは同感だ。

 あのバカ共は・・・

 アルちゃんの寝ているベッドのカーテンをしっかりと閉める。これでよし。

 ドアの方へ向かい、カチャリと開ける。と、

「「「ジンっ!? アルの様子はっ!?」」」

 バッと俺を見るヒュー、ミクリヤ、カイルの三人。そして、暗い赤色の視線。

「アルゥラは?」

 カイル以外のバカ共を一瞥し、

「五月蝿いんだよ君達はっ! 怪我人が寝てるってのに、ドタバタ騒ぐなっ!」

 怒鳴り付ける。

「「っ!?」」

 ギクリと、気まずげな顔でトールを追う足を止めるヒューとミクリヤの二人。

「トール、聞きたいことがある。少しいいか?」
「・・・」

 医務室を顎で差すと、無言で後に続くトール。静かにドアが閉められる。

「アルちゃんに、なにがあった?」
「・・・」

 答えない。なので質問を変える。

「アルちゃんは頭痛を起こした?」
「・・・ああ」

 低く、沈痛な面持ちで頷くトール。やはり、コイツのアルちゃんへの心配は本物のようだ。

「そして、あの淫魔のヒトの血を飲んだ?」
「知らん」
「頭を怪我していたりはしない? 額の辺りから、血の匂いがした。傷は無いようだけど」
「・・・そう、か」

 瞑目するように閉じる暗い赤。

「アルは、どのくらい酷かった?」

 トールを鋭く見詰めるアイスブルー。

「・・・痛みに耐性が無い奴なら、ショック死か発狂するレベルの痛み……だそうだ」
「・・・それで薬が効かないんじゃ、地獄の苦痛を味わうんだろうな」

 アルちゃんの、苦しげな顔を思い出す。

「・・・今まで、アルゥラはどうしていた」

 低く沈んだバリトンが聞いた。

「頭痛が始まると、自傷しないよう肉体的ダメージで意識を刈り取っていたらしい」
「っ!?!? アルゥラ・・・」

 ギシッ、と歯を強く噛み締める音がした。

「・・・トール。とりあえず、これは聞かせて。アンタが言っていた、可憐な人魚とやらは無事なの?」
「なぜ美女モドキが人魚のお嬢さんの心配をする」
「同族だから。そしてわたしは、あの子にアルを任されたから」
「・・・怪我をしてふらついてはいたが、自分で動けていた。とても、痛そうだったが・・・」
「・・・人魚が怪我?」

 眉を寄せるアマラ。

「ん? ああ。彼女も心配だが・・・」
「へぇ・・・それじゃあ、リリアナイトあの子の船はどこの海域にあったの?」
「? 聞いてどうする」

 トールがアマラを見た。

「そこへ近付かない為。わたしは、リリアナイトあの子からアルを預かった。だからわたしには、アルに対する責任がある。そして、この船の進路と運行を決めているのはわたしだ。知らないと、アルを危険に晒す可能性がある。答えてもらわないと困る」

 暗い赤を見据える真剣なアイスブルー。パチンと細い指が鳴ると、地図が現れた。

「わかった。船があったのは・・・」

 そしてトールが、地図を指して鬼百合ちゃんの船があった海域を答えた。

「・・・そう。なら、その辺りの海域には近付かなければいいのね」

 苦々しげな美貌がじっと地図を見下ろす。

「ありがとう。もう行っていいわ」

 アマラが言うと、

「アルゥラが目を覚ますまでは、滞在したい」

 トールが滞在許可を求めた。

「騒がしくしないこと。船の物を壊さないこと。アルへ近寄らないこと。この医務室には立ち入り禁止。それが条件。守れないなら、許可はしない」
「わかった。それでいい」

 アマラの条件に頷いたトールが、静かに部屋を出て行った。あのバカなら、もう少しごねると思ったけど・・・案外あっさり条件を飲んだな?

 なぜかと考えていたら、

「このバカ小娘がっ・・・」

 低いハスキーがアルちゃんを罵った。

「どうかした? アマラ」
「なにが内陸部に向かう、だっ! 確りと、パーティー会場はあの百合娘の船じゃない! オマケに、海にいる人魚・・・・・・が、怪我をして痛そう? そんなこと有り得ないでしょっ!?」
「アマラ?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...