ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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過去編。

是非とも、貴方の力を貸してほしい。

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「・・・それにしても、普通ってなんなのかしら? 普通の女性・・・普通、の女の子・・・」

 鬱蒼うっそうと生い茂った木々が日の光を遮る、暗い『外の森』の中を歩きながら考える。

 そもそも、私以外に女性がいないのというのがおかしいと思う。更に言えば、比較対象が無いというのに、普通というよくわからない曖昧なモノを私に求められても困る。

 まぁ、シリウス兄様のお母様と比較されているのかもしれないけど・・・もう、何十年と会っていないのだから仕方ない。顔も少々朧気おぼろげだ。

 というワケで、私はお父様やシリウス兄様の言う『普通』を知る為、森から出てみることにした。

 あの森に私以外の女性がいないのなら、他の女性がいるところへ行けばいいのだから。

 それにしても、『外の森』は『中の森』とは随分と様相が違っている。

 デコボコと地を這う木々の根や岩などの硬い場所、そして腐った葉っぱなどのふかふかした場所が入り交じり、整備されていない地面は少し歩き難い。けれど、そのデコボコとした不規則な獣道を転ばないように歩くのも、少し面白い。

 じめじめとしていて、あの『中の森』とは植生がまるっきり異なっていることも興味深い。

「♪~」

 陽射しを遮る針葉樹の暗い森。じめじめと湿った空気。そして、そんな森に妖精達。

 あの森に住んでいた妖精達は知能が低かった代わりに、基本的には悪いモノではなかった。融通の利かない頑固な幼児みたいな感じで、ちょっと面倒だけど可愛げがあった。

 けれど、ここの妖精達は少し意地悪そうだ。

 歩いている私を惑わそうとしているし、たちの悪い悪戯いたずらを仕掛けようと、手ぐすね引いて私の様子をニヤニヤ窺っている。そんな気配がする。

 まぁ、そんな悪戯なんかに簡単に引っ掛かるような私じゃないけど。

 落し穴は避けたし、草や石にも足は取られない。落ちて来る木の実や小枝にも、当たってなんかあげない。クスクスわらって響く声だって、全く怖くない。というか、ザワザワと木を揺らして音を起てている姿も丸見えだ。

 全然平気な顔で歩き続けていると、チッ! という悔しげな舌打ちの音がしたような気がして、妖精の気配がすぅっと遠くなった。
 どうやら、なかなか悪戯に引っ掛からない私をターゲットにするのはやめたようだ。
 彼らは、飽きっぽい性格なのかもしれない。

 これで少しは移動が速くなるかな?

 まあ、それはかく・・・女の子ってどこに行けば会えるのかしら?

 森にいるのは、妖精か動物、鳥、虫くらい。

 この森に住む妖精の女の子達は少々・・・私とは感性が異なる。気が合いそうにない。

 女の子、女の子・・・

 人魚、セルキー、ラミア、ハーピー、アルラウネ、デュラハン、リャナンシー、サキュバス、バンシー、シルキー・・・有名な女の子達と言えば、この辺りかしら?

 人魚と言えば海、なんだけど・・・

 人魚達は、少し前に陸のモノ達と色々あってから、気難しくなっているらしく、あまり他種族には会いたがらないのだという。

 セルキーなら、会ってくれるかしら?
 確か、普段は海豹アザラシの姿で海の中にいて、毛皮を脱ぐと女性に変身するのよね?
 北方の海に住んでいると聞いたことがある。

 他のヒト達はちょっと・・・難があったり、居場所を知らなかったりする。

 リャナンシーやサキュバスは美しい姿を持ち、男性の精気を食事としているのだという。
 女性の前に姿を見せることは滅多に無いらしい。

 ラミアは下半身が蛇の女性で、ハーピーは鳥の脚と翼を持つ美しい女性。
 どちらも気性が荒い性格なのだという。
 棲み家も、ちょっとわからない。

 バンシーやデュラハンは死を告げる妖精だ。
 首無しライダーのデュラハンは、自身と同じく首の無い馬に乗る、堕ちた戦乙女ヴァルキリーだとされていて、人間のいる場所に現れる。
 そして、あちこち彷徨さまよいながら、遭遇した人間に血をぶっかけるという。その血を浴びると病気になったり、死んでしまったりするらしい。
 バンシーは、泣きながら死を予告する女性。
 このヒト達はちょっと・・・あんまり、会いたくないかもしれない。

 アルラウネは下半身が植物の美しい女性。
 その身が万能薬になると、人魚みたいに乱獲されて数を減らしたのだと聞いた覚えがある。
 個体数が少ない上、隠れて暮らしているそうだ。見付けるのは難しいかもしれない。

 シルキーは『屋敷の女主人』と呼ばれる、人間の家に住んでいる家事好きの妖精だ。会うには人間の家がある場所まで行かないと、駄目だろう。

 やっぱり、消去法からすると、セルキーが一番会える確率が高いかもしれない。

 棲み家も判っていることだし。

 ということで、セルキーの住む北方の海へ向かうことにしよう♪

 北方の海だから・・・北へ向かえばいいのね!

 とりあえず、森を出ることから始めよう。

 そう思って、歩を進めていると――――

 き火の匂いがした。

「・・・誰か、いるのかしら?」

 珍しい。この森は、あの意地悪な妖精達が方向感覚を狂わせる為、『惑いの森』と称され、遭難すると命まで危ういと有名なのだそうだ。なので、それを知るモノはあまりこの森へ踏み入ることはない。

「・・・よし、見に行こう♪」

 この選択が、この後の私の運命を変えた決定的な出来事となった。

※※※※※※※※※※※※※※※

 あの、『外の森』の中で怪我をしていた人間の司祭を名乗った男の人間ひとを助けてから、あれよあれよという間に話が進んで行き――――

 なぜか私は今。人間の街の中の、『教会』と呼ばれている場所にいる。 

 なぜここにいるのかが、よくわからない。

 そして、洗礼がどうとか言って、ごてごてした格好の知らないおじさんが頭に触ろうとしたので、絶対にいやだと拒否した。

 額は家族でさえも触らせるのが厭な場所だというのに、見ず知らずの人間に触らせるなんて、冗談じゃない。酷く不愉快だ。今は出していないけど、角はユニコーンの急所なんだから!
 まあ、ユニコーンだなんて言ってないし、言うつもりも一切無いから、この人達は多分、私のことを人間だと思っているようだけど。

 すると、私を聞き分けの無い困った娘だという風な目で見て、懇々こんこんとよくわからないことを説かれた。神様がどうの、人間がどうのとか言っていたけど、サッパリ意味がわからない。厭なものは厭だと、突っぱねた。

 そもそも私は、人間じゃないし。人間ひとの信じる神さまなんて、大して興味が無い。

 けれど、なんだか・・・も、私の方が悪いことをしているのだと言わんばかりのこの人達の、上から諭すような口調や態度は、とてもお父様やシリウス兄様を彷彿とさせて、酷く胸がモヤモヤする。

 というか、そもそも私は、女の子に会う為に森を出たのだ。それなのに、なんでおじさん達に囲まれないといけないの?

 人間を初めて見たときには驚いたり、興味深かったりもしたのだけれど、なんというかこう・・・お父様やシリウス兄様と似た雰囲気のおじさん達ばかりに囲まれるのは、非常に気詰まりだ。

 全く楽しくない。

 おじさん達は私に、同じ年頃・・・・の女の子と会わせてあげると言ったのに。嘘吐きだ。
 まぁ、私は人間じゃないから、実際の同じ年頃・・・・の女の子は確実に無理だとしても……実は、おじさん達の年齢を聞いて、とても驚いてしまった。みんな私よりも、年下だということに。
 人間は早く老けてしまうとは聞いていたけど、たったの数十年生きただけで、すぐおじさんになってしまうのね、と・・・

 それは兎も角、私は普通の女性とやらが知りたくて森を出たのだ。人間の宗教を勉強するなんかじゃないというのに。全くもう。

 街へ行こうとしたら止められるし。

 一体なんなのかしら?

 そうこうしているうちに、私の世話係として教会へ女の子がやって来た。

 そして私は、酷く衝撃を受けてしまった。

 ――――ヤバい!!
 人間の女の子って、すっごく可愛い!!
 男性と違って小柄だし、いい匂いがする!!
 滑らかな肌は瑞々しくて柔らかそう!!

 見ているとこう・・・近くに行って愛でたい!! と、胸の奥から強い衝動が溢れ出る。

 生の人間の女の子、半端ない・・・か弱くて、可愛い♡すっごく、守ってあげたくなる♡

 これがきっと、乙女に弱いというユニコーンの本能というやつなのね! と、自分をユニコーンだと強く意識した瞬間だった。

 それから私は、私の下へやって来た可愛い女の子達を守ることに注力した。
 私の警護? だと言って側に付けられた騎士? の男性が、女の子達にちょっかいを掛けるのを阻止したり、中には女の子達に乱暴なことをしようとした馬鹿なひとに『天誅てんちゅう』を食らわせたりもした。
 具体的には、骨へヒビを入れたり砕いたりして激痛を与えた後、証拠隠滅も兼ねて一気に治療したり、ある程度治す。まぁ、一気に重傷な怪我を治すと体力的な問題で過労死しかねないけど・・・その辺りは、疲労困憊ひろうこんばいに留めるという絶妙な塩梅あんばいでのさじ加減だ。
 更に、この『天誅・・』のいいところは、怪我の治癒に体力を持って行かれ、女の子達へちょっかいを掛ける元気を無くすことだ。
 愚か者に痛い目を見せ、けれど怪我はちゃんと治すので証拠は残らない。

 我ながら、よくやったと思う。

 そんな風に日々女の子達に囲まれて過ごし――――まあ、おじさん達の怪我や病気を治してほしいという要請を受けつつ、基本的にはお金持ちだとか、地位? が偉いというおじさんが多くてげんなりしながらも――――私は、ある程度楽しく暮らしていた。

 あまり外を出歩くことは無かったが。

※※※※※※※※※※※※※※※

 そして、気付けば十数年が経っていた。

 私の側にいた女の子達は、いつの間にか私よりも年上に見える女性へと変わっていた。
 見た目が全く変わらず、少女のままの私は、聖女の奇跡だなんて言われていたらしい。

 そんな私を、聖女だと崇める人間ひとが増え、それと同時に気味悪がる人間ひとも増えて行った。

 たったの十数年。私には短い時間だった。けれど、人間ひとにとってはそうではないらしい。

 私はただ、『普通の女の子』という存在が知りたかっただけ。

 なのに、肝心の女の子達は私を崇めたり、気味悪がって近寄って来なくなってしまった。

 最初にこの街へ来たときみたいに、おじさん達に取り囲まれることが増えた。

「・・・つまらないわ」

 けれど、あの森には帰りたくない。

 どうしようかと、溜息を吐いたときだった。

「やあ、聖女。初めまして」

 窓の外から、見知らぬ男性が手を差し出した。

 深い藍色の夜空になびつややかな銀髪と銀灰色の瞳が月光を反射して、とても綺麗だと思った。

「わたしの名は、ローレル・ピアス・アダマス。是非とも、貴方の力を貸してほしい」

 その麗しい男性は――――純血のヴァンパイアだと、笑顔で私に名乗った。

__________

 アメリカなどではデュラハンは男の首無しライダーとして有名ですが、元々の伝説では自分の首を抱えた女騎士らしいです。堕ちたヴァルキリーだと謂われているそうです。

 そして、やっぱりリュースも女の子好き。ユニコーンなので。まあ、リュース的に女の子は愛でる対象ではあっても、恋愛対象ではなさそうですが。
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