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過去編。
Lost memory~紫苑~
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『わたし』の一番最初の記憶は、幸せそうに微笑む『彼女』の顔だった。
「愛しているわ」
甘やかな優しい声が、愛おしそうに紡ぐ言葉。
「大好きよ。わたしの・・・」
緩く波打つ淡い色の長い金髪。細められる翠の瞳。頬へと触れる優しい指先。
彼女は慈しむように、とても幸せそうに、わたしへと微笑んでくれた。
それが、『わたし』の始まりの記憶。
※※※※※※※※※※※※※※※
小さな家の中で二人きり。
掃除、洗濯、炊事など、家のことを一人でこなす彼女。ふわふわと揺れる淡い色の金髪。『わたし』はその後ろをヒヨコのようによたよたと付いて回り、手伝いにならない…むしろ、邪魔にしかならないようなことをしていたように思う。
それでも彼女は愛おしそうな眼差しを向け、
「ありがとう、××××」
と、『わたし』へ優しく微笑む。
食料は森で採取。彼女に抱かれ、ときには手を引かれ、二人で森の中をゆったりと歩く。
木々の木洩れ日をキラキラと弾き返す淡い金髪。柔らかく見下ろす翡翠の瞳。微笑む表情。
巡る季節。
服が小さくなったら、
「ふふっ、大きくなったのね」
愛おしげな眼差しで微笑んだ彼女は、嬉しそうにチクチクと『わたし』の服を繕う。
彼女の作った食事を食べ、彼女の作った服を着て、彼女と一緒に過ごす。
※※※※※※※※※※※※※※※
穏やかで、のんびりとした日々。
そんな日々が続く中、時折家にやって来る訪問者がいた。それは、銀色の髪に銀灰色の瞳の男。
「××××、×××、二人共元気だったか?」
柔らかく息災を問うすっきりと低い声。
彼女が『わたし』を呼ぶのとは違う名で『わたし』を呼び、愛おしげに微笑む男に抱き上げられる。頭を撫でる優しい手。けれど、触れられるのが厭な額に触れることはしない。
そんな彼がこの小さな家へやって来るのは、年に数回程のこと。
長くて数日間、短いと数時間程度の滞在で彼は去ってしまう。この小さな家で過ごす三人の時間を、惜しむようにして・・・
「また来る。××××、×××」
切ない声で彼女と『わたし』とを抱き締めて、けれどそうやってすぐに帰ってしまう彼のやって来る日を、彼女はとても心待ちにする。
「××××様はね…………、あのとき私を…………てくれて、だから今の私があるのよ」
彼が帰ると――――甘やかな声が彼の名を呼び、大切そうに、愛おしそうに、彼女が彼との思い出を『わたし』に語る。柔らかい笑顔に、ほんの少しの切なさを含んで。
「早くお逢いしたいわ。××××様」
白い頬が、薄紅色に染まる。
「ねぇ、××××。あなたも早く逢いたいでしょう? あなたには、寂しい思いをさせていると思うの。ごめんなさいね、××××」
寂しい? そんなの、わからない。でも、『わたし』には貴女がいたから・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
銀髪の彼が蝙蝠のような羽根を背中に生やし、ふわりと舞い降りる。
それを見て、『わたし』も飛びたいと思った。すると、ぴょこんと背中に蝙蝠のような小さな黒い羽根が出た。それがパタパタと羽撃く。
「まあ! 凄いわ××××! ××××様とお揃いね! 見て見て、××××様! ××××に羽根が生えたわ! ほら、飛べるかしら? ねぇ、××××!」
『わたし』以上に嬉しそうな彼女が、『わたし』を抱き上げてくるくると嬉しそうに回る。
「さすがにまだ無理だろう」
『わたし』よりもはしゃぐ彼女に微笑む彼。
それから家に入り――――
「×××、これをどう思う?」
彼に示されたのは、紅い石。それがふるりと揺れて膨れ上がり、彼の手の平の上でとろりとした深紅の液体へと変わる。
「飲みたいと思うか?」
じっと見詰める銀灰色の瞳に首を振り、
「そうか・・・まぁ、お前は××××寄りなのかもしれないな。大きくなればどうなるか判らないが・・・とりあえず、血液が飲みたくなったら、絶対に教えろ。ヴァンパイアとしての渇きや飢餓感は、××××にはわからない感覚だろう。約束だ。×××」
真剣な表情で言い募る彼と約束を交わす。
「××××も、気を付けてやってくれ。×××が血を欲するようなら、直ぐに俺を呼べ。軽く舐める程度なら兎も角、ハーフである×××の許容量がまだ判らないから、下手に血をやるのはやめろ。あまり血に酔うと、×××が困ることになる」
「はい。わかりました」
※※※※※※※※※※※※※※※
年に数回、ふらりとやって来て、たくさんのお土産を手にし、愛おしげな眼差しで見下ろす銀色の髪の彼との短い時間の触れ合い。
そして彼が帰り、寂しげに見送る彼女の姿。
また、森の中の小さな家に彼女と二人切り。
でも、寂しくはなかった。
『わたし』は、彼女と彼に愛されていたから。
けれど――――
彼女と『わたし』で偶に来る彼を待つ穏やかな、そして愛しい日々は過ぎ行き――――
それが、唐突に終わった。
__________
この『Lost Memory』の話だけ、いつもとサブタイを変えてます。
紫苑の花言葉。『追憶』『君を忘れない』『遠方にある人を思う』
「愛しているわ」
甘やかな優しい声が、愛おしそうに紡ぐ言葉。
「大好きよ。わたしの・・・」
緩く波打つ淡い色の長い金髪。細められる翠の瞳。頬へと触れる優しい指先。
彼女は慈しむように、とても幸せそうに、わたしへと微笑んでくれた。
それが、『わたし』の始まりの記憶。
※※※※※※※※※※※※※※※
小さな家の中で二人きり。
掃除、洗濯、炊事など、家のことを一人でこなす彼女。ふわふわと揺れる淡い色の金髪。『わたし』はその後ろをヒヨコのようによたよたと付いて回り、手伝いにならない…むしろ、邪魔にしかならないようなことをしていたように思う。
それでも彼女は愛おしそうな眼差しを向け、
「ありがとう、××××」
と、『わたし』へ優しく微笑む。
食料は森で採取。彼女に抱かれ、ときには手を引かれ、二人で森の中をゆったりと歩く。
木々の木洩れ日をキラキラと弾き返す淡い金髪。柔らかく見下ろす翡翠の瞳。微笑む表情。
巡る季節。
服が小さくなったら、
「ふふっ、大きくなったのね」
愛おしげな眼差しで微笑んだ彼女は、嬉しそうにチクチクと『わたし』の服を繕う。
彼女の作った食事を食べ、彼女の作った服を着て、彼女と一緒に過ごす。
※※※※※※※※※※※※※※※
穏やかで、のんびりとした日々。
そんな日々が続く中、時折家にやって来る訪問者がいた。それは、銀色の髪に銀灰色の瞳の男。
「××××、×××、二人共元気だったか?」
柔らかく息災を問うすっきりと低い声。
彼女が『わたし』を呼ぶのとは違う名で『わたし』を呼び、愛おしげに微笑む男に抱き上げられる。頭を撫でる優しい手。けれど、触れられるのが厭な額に触れることはしない。
そんな彼がこの小さな家へやって来るのは、年に数回程のこと。
長くて数日間、短いと数時間程度の滞在で彼は去ってしまう。この小さな家で過ごす三人の時間を、惜しむようにして・・・
「また来る。××××、×××」
切ない声で彼女と『わたし』とを抱き締めて、けれどそうやってすぐに帰ってしまう彼のやって来る日を、彼女はとても心待ちにする。
「××××様はね…………、あのとき私を…………てくれて、だから今の私があるのよ」
彼が帰ると――――甘やかな声が彼の名を呼び、大切そうに、愛おしそうに、彼女が彼との思い出を『わたし』に語る。柔らかい笑顔に、ほんの少しの切なさを含んで。
「早くお逢いしたいわ。××××様」
白い頬が、薄紅色に染まる。
「ねぇ、××××。あなたも早く逢いたいでしょう? あなたには、寂しい思いをさせていると思うの。ごめんなさいね、××××」
寂しい? そんなの、わからない。でも、『わたし』には貴女がいたから・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
銀髪の彼が蝙蝠のような羽根を背中に生やし、ふわりと舞い降りる。
それを見て、『わたし』も飛びたいと思った。すると、ぴょこんと背中に蝙蝠のような小さな黒い羽根が出た。それがパタパタと羽撃く。
「まあ! 凄いわ××××! ××××様とお揃いね! 見て見て、××××様! ××××に羽根が生えたわ! ほら、飛べるかしら? ねぇ、××××!」
『わたし』以上に嬉しそうな彼女が、『わたし』を抱き上げてくるくると嬉しそうに回る。
「さすがにまだ無理だろう」
『わたし』よりもはしゃぐ彼女に微笑む彼。
それから家に入り――――
「×××、これをどう思う?」
彼に示されたのは、紅い石。それがふるりと揺れて膨れ上がり、彼の手の平の上でとろりとした深紅の液体へと変わる。
「飲みたいと思うか?」
じっと見詰める銀灰色の瞳に首を振り、
「そうか・・・まぁ、お前は××××寄りなのかもしれないな。大きくなればどうなるか判らないが・・・とりあえず、血液が飲みたくなったら、絶対に教えろ。ヴァンパイアとしての渇きや飢餓感は、××××にはわからない感覚だろう。約束だ。×××」
真剣な表情で言い募る彼と約束を交わす。
「××××も、気を付けてやってくれ。×××が血を欲するようなら、直ぐに俺を呼べ。軽く舐める程度なら兎も角、ハーフである×××の許容量がまだ判らないから、下手に血をやるのはやめろ。あまり血に酔うと、×××が困ることになる」
「はい。わかりました」
※※※※※※※※※※※※※※※
年に数回、ふらりとやって来て、たくさんのお土産を手にし、愛おしげな眼差しで見下ろす銀色の髪の彼との短い時間の触れ合い。
そして彼が帰り、寂しげに見送る彼女の姿。
また、森の中の小さな家に彼女と二人切り。
でも、寂しくはなかった。
『わたし』は、彼女と彼に愛されていたから。
けれど――――
彼女と『わたし』で偶に来る彼を待つ穏やかな、そして愛しい日々は過ぎ行き――――
それが、唐突に終わった。
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