ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
173 / 179
過去編。

もっともっと傍にいてあげたかった。

しおりを挟む
 ああ、なんで?

 どうしてここへ、お父様とシリウス兄様が?

 小さく震える腕で、わたしより体温の低い小さな身体をぎゅっと抱き締める。

 風の魔術で音を遮断。

 お父様とシリウス兄様の言葉を聞かないように、聴こえないようにした。

 するとこの日は、いつの間にか二人は帰って行ったようだった。

 もう、来ないでほしいと祈るような気持ちで、願った。けれど・・・

 やはり、お父様とシリウス兄様はわたしのことを諦めてはいないようだった。

 聴こえる足音。

 大丈夫。大丈夫よ。お父様達は、ローレル様の張った結界を越えられない。

 ほら、足を止めた。

 これ以上は、近寄って来られない。

 ローレル様が来るまで、持ちこたえればいい。そうすれば、大丈夫な筈だから・・・

 お父様とシリウス兄様の言うことなんて、聞かない。あの森には帰らない。帰りたくない。

 アレ・・を聞かせたくなくて、小さな耳を強く塞ぐ。なにも聴こえないように。けれど・・・

けがれた忌み子を殺せ』

 愛しているの。愛しているわ。愛して・・・

『一族の恥晒しめ』

 貴方がとても大切なの。とてもとても・・・

『賤《いや》しい女』

 こんな、酷い言葉なんて聞かせたくなかった。

『穢れの浄化を』『大罪を犯せし女』『殺せアマンダ』『その子供を、アマンダ』『殺せ』『穢れの浄化を』『殺せ』『忌み子を消せ』『その子供を殺せば、お前は赦してやる』『アマンダ、その穢れを』『浄化』『アマンダ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

 ごめんなさい。ごめんなさい、ロゼット。

 愛しているの。本当に・・・

 わたしの愛しい・・・

 大切な大切な宝物ロゼット

※※※※※※※※※※※※※※※

『……』

愚かな娘アマンダ

 あぁ・・・来たのね。

 また、頭にが響く。

 お父様とシリウス兄様が来るようになって、もう何日が経ったのかしら?

 貴方には聴かせないようにしているけど・・・

 毎日毎日毎日……

『その子供を、アマンダ』『殺せ』『穢れの浄化を』『殺せ』『忌み子を消せ』『その子供を殺せば、お前は赦してやる』『アマンダ、その穢れを』『浄化』『アマンダ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

 お父様とシリウス兄様の強く命令するに、頭が塗り潰されそうになる。

 嫌なの。

 そんなこと、したくないの。

 絶対嫌!!!!

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……

 そんなの、いやっ!!

 ロゼットはなんかじゃない!!!!

 わたしはこの子を愛しているの。愛しているわ。ロゼットを愛、して・・・

 なの、に――――

「・・・リュースちゃん。ごめん、なさい・・・わたしのせい、で。生まれて来て、ごめんなさい」

 不安そうな、泣きそうな顔で、こんな酷い言葉を、言わせたくなんてなかったっ!!

 謝らせたくなんかなかったっ!?

「違う! 違うの! ロゼット、貴方は、なにも悪くないのっ!? そんなこと言わないでっ、お願い、だから、そんな、こと・・・」

 わたしは、あの日にあの森を出たことを、ローレル様と出逢ったことを、ロゼットを生んだことを後悔なんて絶対しない!!!!

 なのに、なのにわたしは、ロゼットにこんな、ことを言わせ、て・・・

 自分を否定、だなんて・・・

 わたしが、悪い、のにっ……

 わたし、が愚か・・だから・・・?

 ぷつりと、なにかが切れた気がした。

 ローレル様が来るまで、頑張って持ち堪えるつもりだった。けれど、それはいつ?

 ローレル様は、年に数度しかここへ来ない。

 わたしは、ローレル様が来るまで本当にこのに耐えられるの?

 ロゼットを、守り切れるの?

 愚か・・な、わたしに?

 いつも正しい・・・お父様とシリウス兄様に、間違ってばかりのわたしが・・・?

 あ、れ?

 わたしは、間違っている?

 わたしは、愚か・・だから、いつもいつもお父様とシリウス兄様に迷惑を掛けてばかりで・・・

 わたしが悪いから、こうしてロゼットにまでこんなに怖い思いをさせてしまって・・・

 わたしが駄目、だから・・・

 わたし、が間違っているから・・・?

 お父様とシリウス兄様が正しく・・・、て・・・?

 わたしはいつも、間違ってばかりで・・・

 正しい選択が、できなくて・・・?

 お父様とシリウス兄様が正しい・・・のだったら、わたしは二人の言うこと、を・・・

『その子供を、アマンダ』『殺せ』『穢れの浄化を』『殺せ』『忌み子を消せ』『その子供を殺せば、お前は赦してやる』『アマンダ、その穢れを』『浄化』『アマンダ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

 っ!?

 違う違う違う違う違う違う違う!!!!

 そんなことしないっ!?

 わたしは今、なに・・を考えた?

 ああ、駄目だ。駄目。駄目になる。

 お父様とシリウス兄様のを聴いていると、駄目になってしまう。

 頭が、おかしくなる。

 だって、正しい・・・のはいつだってお父様とシリウス兄様の方で、いつも悪い・・のは、いつも間違ってばかりなのは、わたしで・・・

 だからわたしは・・・

 っ!?!?!?

 あぁ・・・もう、駄目だわ。

 お父様とシリウス兄様が帰ったことを確認して、ロゼットを抱き上げて外へ出る。

 日の落ちた暗い森をふらふらと歩く。

「リュース、ちゃん?」

 不安そうな顔に微笑む。

「ちょっと、お散歩に行きましょう?」
「? うん」

 ロゼット。

 わたしが弱くて、ごめんなさい。

 守れなくてごめんなさい。

 貴方は、なにも悪くなんてないの。

 わたしが、わたしにっ……お父様やシリウス兄様に負けないような、もっともっとつよい意志があったなら・・・

 そんなこと、今更だってわかっていても・・・

 ざわざわと風に揺れる梢。ひんやりとした夜気に香るのは木々の放つ緑の匂い。

 ちらほらと木の陰に見えるのは、わたし達をこっそりと窺うこの森に住む妖精達。

 あぁ、もしかしたら妖精達がお父様達にわたしとロゼットのことを教えたのかもしれない。多くの善良な妖精達は、ユニコーンに好意的だから。

 もっと、妖精達にも注意すべきだったのかもしれない。今更、だけど・・・

 久々に二人で歩く森の中は、暗いのになぜかとても鮮やかで・・・

 そして、辿り着いた断崖でわたしは・・・

 ――――ロゼットを抱いたまま、飛び降りた。

「ロゼット。五つ数えたら、飛びなさい。そうすれば、貴方は助かるわ。そして、ローレル様の下へ行きなさい」

 そして最期に、

「愛しているわ。ロゼット」

 と告げて、手を放す。

「リュースちゃんっ!!!!」

 伸ばされた小さな手を避けると、ロゼットの悲鳴が鼓膜を震わせた。

 ロゼットにそんな顔をさせたかったワケじゃない。けど、でも・・・

 あぁ、ロゼットから手を放せてよかった。

 ロゼットの、蝙蝠のような翼がパッと広がるのを確認して、安堵と共に瞳を閉じる。

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 あぁ、もっとロゼットの成長する姿を見て、もっともっと傍にいてあげたかった。

 泣いた顔、怒った顔、喜ぶ顔、拗ねた顔、照れた顔、笑った顔、いろんなかおを見て・・・

 一緒にご飯を食べて、抱き締めて眠って、洋服を作ってあげて、お料理もお裁縫も、お掃除の仕方も、お菓子の作り方、妖精達と仲良くなる方法も教えてあげて・・・

 今でもとても可愛いロゼットは、きっと将来は物凄い美人さんになるわ。

 あまり傍にいられないローレル様に、ロゼットの成長する様子をお話して、一緒に笑い合いたかった。

 いつか、フェンネル君や椿さんに、「あなた達の妹なのよ」って紹介したかった。

 フェンネル君は素直じゃないから、ロゼットを可愛がってくれるかわからないけど、椿さんは小さな子供の面倒を看るのが得意だって言っていたから、ロゼットに良くしてくれると思うのよね。絲音しおんさんも、可愛がってくれるといいな。

 ロゼットは素直でいい子だから・・・

 ローレル様と、わたしの子。

 わたしの、緩く波打つ金髪とローレル様の真っ直ぐな銀髪とが混ざったような、白金色のプラチナブロンド。翡翠に銀のお月様みたいな瞳孔が浮かぶ、素敵な瞳の可愛いらしい女の子。

 傍にいてあげられなくて、ごめんなさい。

 大切な大切な、わたしの宝物ロゼット

 愛しているわ・・・

__________

 リュースが段々追い詰められて行く様子と、その最期でしたが・・・
 まだまだ鬱展開が続きます。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】カミに愛されし聖女との婚約を破棄するっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
国王である父は敬虔で、神へとよく祈っていることは知っていた。 だが、だからと言ってこの暴挙はどうかしていると言わざるを得ない。 父はある日突然、城へと連れて来た女性をわたしの婚約者へ据えると言い出した。 「彼女は、失われしカミを我が身へと復活せしめるという奇跡を起こせし偉大なる女性だ。公爵とも既に話は付いている。彼女を公爵家の養女とし、お前と婚姻させる。これは、彼女を教会から保護する為に必要な処置だ。異論は認めぬ!」 それまで賢君とは及ばずも暴君ではなかった父の豹変。なにか裏があると思ったわたしは、ぽっと出の神に愛されし聖女とやらを調べ―――― 中毒性や依存性の見られると思しき、怪しい薬を作っていることが判明。 わたしは、彼女との婚約を破棄することにした。 という感じの、多分ギャグ。 ゆるゆる設定。

処理中です...