ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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過去編。

……僕の血を、分けてあげる。

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 前回の話だった『Remember memory~イフェイオン~』の順番を、過去編の一番最初に持って行きました。

 ややこしいことしてすみません。

__________

 あの子・・・から、久々に連絡があって――――

 慎重に周囲を警戒しながら、逢いに向かった。

 人外の気配のしない、とある人工林で再会。

 銀の髪に銀灰色の瞳の懐かしい姿。

「やあ、随分と久々だね。元気だった?」
「・・・ええ。お陰様で」

 数百年振りに逢った彼は、金のような銀のような淡い色の髪に白い肌をした、小さな女の子をその腕に抱いていた。色素の薄い小さな女の子は、見てすぐに彼の娘なのだと判った。

 確か、彼には他にも子供がいた筈。大きくなったなぁ、と感慨深いものがある。

「初めまして。僕はアーク。君は?」

 女の子と目を合わせ、微笑む。

 翡翠に浮かぶのは銀の瞳孔。その瞳は、彼と同じ色を湛えていて――――

「ほら、アレク」

 初めて聞くような柔らかい彼の声に促され、

「・・・アレクシア・ロゼット」

 小さな声が答えた。

「アレクシア・ロゼット、か。いい名前だね。それじゃあ、アルって呼んでもいいかな?」

 女の子…アルは、こくんと頷いてくれた。

「よろしくね、アル。それで? ただ僕に娘を紹介したいってワケじゃないんだろう? ローレル」

 久々に逢う、いつの間にか大きくなった自らの血筋の子供を見上げて聞いた。

「当然だ。用も無く貴方を呼び付ける筈がない。俺だって、こんなリスクは取りたくなかった……」

 悔しそうに歪む顔。

「父上?」
「……アレクの母親は、ユニコーンだ」

 不安そうに見上げる翡翠に深い溜め息を吐き、ローレルが口を開く。

「それはまた……」

 アルを見てすぐに、純血のヴァンパイアの子ではない気配だと気付いたけど……

「もう、いない。アレクを、あの連中から隠したい。どうすればいいか、教えてくれ。アーク」

 もう、いない……か。

 この子が、ローレルと同じ色のくらさを瞳に湛えている意味が、判ってしまった。

 ローレルと同じく、喪失と痛み、そして……絶望と怒りを知っている瞳だ。

 まだ、こんなに小さいのに・・・

 ユニコーンは角のある馬で、一角獣とも呼ばれる。その角には高い解毒作用があって、毒や病を癒す能力が備わっている。
 そして、その角の高い解毒作用から聖獣と崇められることもある一方で、彼らは一度怒ると手が付けられない程に怒り狂うことから、七つの大罪の憤怒ふんぬに呼応する悪魔ともされており、その性質は傲慢であるという。

 まぁ、ユニコーン達は自らが悪魔呼ばわりされていることについては絶対認めないだろうし、性格についてはそれぞれに個人差があると思うけど……

 ユニコーンは、少し前にバイコーン達を滅ぼしてから、随分と排他的になっているからなぁ。
 元からプライドが高くて、他種族を見下すような傾向があったけど、より拍車が掛かった感じだ。

 そして、下手をするとヴァンパイア以上に純血・・を至高としているかもしれない。

 ユニコーンは元々バイコーンの亜種だから、守る意味の無い純血・・だとは思うけど……

 そんなときに、ユニコーンとの子供か。

 確かに、ユニコーン彼らに見付かると危険だろう。

 この子の、アルの絶望を思うと……胸が痛む。

「……そう、だね。隠した方がいいとは、僕も思う。彼らとはもう、二度と関わるべきじゃない」

 バイコーン達を殲滅せんめつさせたユニコーン達には、既に障り・・が出始めている筈。

「バイコーンの呪いか、自らの傲り故にか……いずれ彼らは、報いを受ける。だからこそ、この子は……アルは、ユニコーン達に関わらせちゃいけない」

 ユニコーンに関われば、きっと不幸になる。

「その方がこの子の為だ。でも……」
「でも?」
「……あんまり勧めたくない方法だけど……角を封じれば、彼らから上手く隠せると思う。但し、角はユニコーンの弱点だ。それを封じて、この子にどんな悪影響があるかは、僕にも判らない」
「……アレクは、どちらかと言うと、ヴァンパイア俺らじゃなく、ユニコーン寄りだ。頼む」

 ローレルにとっては、僕を呼び出した時点で既に苦渋の決断だったのだろう。

「・・・アルは、いいの? ユニコーン達に見付からない代わりに、苦しい思いをするかもしれない。もう、馬の姿になることはできないかもしれない」

 ローレルではなく、アルに聞く。実際に苦しい思いをするかもしれないのは、アルだ。

「……角なんて要らない。わたしは、ユニコーンでなんか、いたくない」

 自らの半分を強く否定する瞳には、深く激しい憎悪の炎が灯っている。

 まだ、こんなに小さいのに……

 ああ、この子は…アルは確かにローレルの子なのだと、実感した。

 イリヤに家族を殺され、復讐してやると言って……今も尚、その機会を窺って牙を研いでいるローレルの瞳と、よく似ている。

「……わかった。それじゃあ、君の角を封じる前に、君をヴァンパイアこちら側へ傾けよう。酷く気は進まないけど……僕の血を、分けてあげる」
「アークっ!?」

 慌てるローレルに、僕と同じ顔をした彼の顔が脳裏にチラ付く。

 過るのは、少しの不安。けれど――――

「・・・多分、この子は大丈夫」

 彼が……イリヤが殺して回るのは、僕らの血に連なる純血のヴァンパイア子供達だから。

 混血ハーフであるこの子は、その対象にはならない筈。

「だが、アレクはっ」
「うん。僕らの血は、真祖の血だ。このまま僕の血をあげることは、できない。だから、ローレル」

 幾らその血統とは言え混血ハーフで、しかもまだこんなに幼いアルには、強い劇薬となることは必至。

「君とアルの血も使う」

 そして、できるだけ魔力を抜いた僕の血を一滴。そしてそれを、同じく魔力を抜いたローレルの血で薄める。更に、アルの血で稀釈して、飲ませた。

「……ぁ、う……くらくら、す、る……」

 魔力にか、血にか、アルは酩酊状態に陥ってぐったりと気を失ってしまった。けれど、その気配はヴァンパイアに少し近付いた。

 こうして、幾度か会ってアルには魔力を抜いて稀釈した僕の血を与えた。

 そして――――

「それじゃあ、角を封じるけど……いい?」
「いい。角なんて要らない」

 相変わらず、深い悲しみと憎悪の宿る瞳。

「わかった。ごめんね、アル」

 僕は、彼女の角を封じた。
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