ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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過去編。

Lost memory~弟切草~

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 アークに会って、その血を分けて貰い、強い魔力と血に酔って気を失う。

 わたし自身の血で大分薄められているとはいえ、おそらくは父上よりも強いヴァンパイアである彼の血の香りに、籠る魔力に、くらくらして気分が悪くなる。

 わたしはあんまり、血を美味しいとは思わなかった筈だった。父上曰く、わたしはリュースちゃん寄りなのだと。

 なのに、アークに血を与えられるうち、段々と血に惹かれるようになって来ている。

 血の匂いを、いい匂いだと感じるようになって来た。

 アークはいつも、血を分けてくれるときに躊躇うような顔をする。わたしに、何度も聞く。

「大丈夫? やめたくなったら、いつでも言ってね?」
「苦しくない?」
「つらくない?」
「他の方法も考えてみない?」

 と、金色の瞳に心配そうな色を湛えて。

 確かに、アークの血を飲む度に気分が悪くなって、意識が朦朧として倒れてしまっている。苦しい、のだと思う。

 けれど、アークの血を飲むことはわたしがユニコーンでなくなる為に必要なこと。

「大丈夫、アーク。お願い」

 わたしは、ユニコーンでなんかいたくない。

 わたしは、あの連中が大嫌いだ。憎くて堪らない。

 愛しいリュースちゃんを追い詰めたユニコーンである彼らと・・・同じ種族であることの方が、苦しくて耐え難い。

 そんなことを幾度か繰り返して――――

 ある日、アークがわたしに言った。

「ねぇ、アル」
「なに? アーク」
「君の・・・角を、封じてもいいかな?」

 真剣な金眼に頷く。

「うん」
「後悔、しない? もう、馬の姿になれないかもしれないよ?」

 幾度も聞かれたことを、確認される。

 アークは、わたしへ負担を掛けることをいとっているのだろう。仮令たとえそれを、わたしの方が望んでいることだとしても。

 きっとアークは、とても優しいヒトなのだと思う。

「元々、馬になることは少なかったから平気」

 馬になって思う存分駆け回ることは、とても爽快な気分になれることらしい。「好きなように走らせてあげられなくてごめんなさい、ロゼット。大きくなったら、一緒に走りましょうね」と、申し訳なさそうにリュースちゃんに謝られたことを思い出した。

 でも、もうそれも要らない。別に、馬の姿になれなくても全然構わない。
 リュースちゃんがいないなら、それはもう、わたしには意味が無いことだから。

「・・・そう。わかった。それじゃあ、ごめんね。角に触ってもいい?」

 多分、嫌だと言えば、アークはやめてくれるだろう。他の手段を模索してくれるかもしれない。でも、それはわたしが嫌だ。

 意を決して頷くと、前髪が掻き上げられて額が露わになる。目を閉じて額に集中すると、ぐぐっと頭蓋の内側から角が伸びて行くような感覚と少しの解放感。

 牙や爪を、自分の意志で伸ばすのと少しだけ似ているかもしない。爪や牙は見えなくなることはないけど、任意で伸び縮みすることができるし。

 目を開けると、上から下りてくる白い手。

 はっきり言うと、額……特に、角に触れられることは非常に不快だ。

 正面から手をかざされると、ざわざわと全身が粟立つ。自分で許可を出したことだとしても。

 角に触れられるのは、無理矢理従わされている感がして酷くいやだ。

 おそらくこれが、ユニコーンの本能とやらなんだと思う。だからこそ余計に、この不快感に抗おうと思う。わたしが、ユニコーンでなくなる為に。

 そして、ぷつりとアークが人差し指を自分の親指の爪で切り裂いた。漂うのは魔力溢れるかぐわしい血の香り。

 目を奪うような鮮やかな真紅が白い指先に雫を作り、落ちずにそのまま留まる。

 美味しそうな真紅をたたえた指先が、角に触れてするりとなにかを描くように動く。

 すると、強烈な嫌悪感と共に、自分の中のなにかがぐっと奥へと強く抑えられるような、ぐるぐるとした不快な感覚がして――――

「・・・アル、もういいよ。大丈夫? 気持ち悪くなったりしてない?」

 と、覗き込む金色の瞳と目が合った。

「・・・うん、だいじょうぶ」

 返事をすると、ほっとしたような溜息が落ちた。

「よかった・・・どこかおかしかったり、痛いところとかはない?」
「多分、だいじょうぶだとおもう」

 なんだか額が気になって撫でてみると、角が無かった。血も付いていない。
 さっき、奥へと抑えられたように感じたのは、角だったのかもしれない。
 なんとなくだけど、角が出せないような気がする。

 そして、気付いた。少し、感覚が鈍くなっているようだ。

 アークがわたしに触れているというのに、その感情が伝わって来ない。
 ついさっきまで、アークの不安そうな、あまり気が進まないという気持ちがわかっていたのに。

 今は、こんなに近くにいるのに、その気持ちが胸に伝わって来ない。近くにいるのに相手の感情が伝わって来ないというのは、どこか不思議な感覚だ。

 アークは、常に罪悪感を抱えていた。それは、わたしにだったり、父上にだったり……別の誰かへ向けての罪悪感。そして、寂しさ。

「なにか異変があったら、すぐにローレル……父上に教えるんだよ? 約束、できる?」
「わかった」
「うん、いい子だね。それじゃあ、アル。さよなら」

 にこりと、どこか儚い笑みで別れを告げて、アークは寂しそうに去って行った。

 またね、とは言わずに。

 それからはアークと会うこともなくなって――――

 精神感応の感覚が鈍くなったことと、角を出せなくなったこと、馬の姿になれなくなったこと以外には、わたしに特段変化はなかった。

 食事だって、普通の食事。ヴァンパイア寄りになったらしいとはいえ、特に血液が欲しくなるようなこともない。

「酷く喉が渇く感覚に陥ったら、必ず教えろ」

 と、父上にはキツく言われているけど。

 そして、父上と四六時中一緒にいることも少なくなって行った。

 父上が遠くに離れていたある日のこと。

 その日わたしは、一人で外を歩いていて――――

 黒髪に金色の瞳をした彼に、出遭った。

__________

 弟切草の花言葉は、『迷信』『敵意』『秘密』『恨み』などです。
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