【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ

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わたくしも、殿下のことを愛していますわ。

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 どうにかこうにか、挽回できたと思っていた。

 彼女は俺を許してくれたし、その後にちゃんと婚約者らしい態度と、そして愛を伝える努力を続けて、その結果が昨日の結婚式なのだと、そう思っていた。

 なのに、なのにっ・・・やっぱり、彼女は俺のことを許してなんかいなかった。

 故の、さっきの『おぞましい』という発言なのだろう。

 思わず、彼女をめ付ける。きっと、今の俺はとても恨めしいというかおをしている。

 だというのに、彼女は・・・

「まあ、そんな悲しそうなお顔をして、どうしたのです?」

 いつものように、優しい眼差しで俺を見詰めて微笑んだ。

「俺のことが嫌いならっ、嫌いだと言えばいいじゃないかっ!! そんなに嫌なら婚約だってっ・・・解消すればよかったじゃないかっ!!」

 我ながら子供っぽいと思う。

「あらあら、困りましたわね・・・でも、殿下が仰ったのですよ?」
「なにをだっ!?」
「『お前のように、年増のクセに家の権力で無理矢理婚約者の座を奪い取り、俺が嫌がっているのに辞退もしないような厚顔で不遜な女なんかとは、絶対に結婚したくない。もし無理矢理結婚させられたとしても、お前なんか絶対に愛さないからな』、と。わたくしにそう仰いましたわ」
「っ!?」

 そ、それは・・・途轍もなく、覚えがある。確か、小さい頃にそんなことを言った覚えがある。

 今なら、判る。彼女が、家の力を使ったワケでもない、無理矢理俺の婚約者に収まったワケでもなかったということが。

 俺と彼女との婚約は、他国の情勢が不安定になったから結ばれたものだ。周辺諸国の情勢が不安定になり、貴族派筆頭公爵家の彼女と、俺との婚約が結ばれた。

 我が国が、他国の情勢不安の煽りを受けたり、他国へと付け込まれないようにするため。だから、俺がどんなに嫌がっても、絶対に覆らなかった婚約。

 今は、以前程の不穏さはなくなったと言える。だが、それでもやはり油断はできない。

 だから、彼女が本当は俺のことを許していなくても、本当は俺のことを嫌っていても、国のために王太子である俺に嫁ぐしか選択肢が無かったと、そう判っているのに・・・

 元は全て、なにも理解していなかった俺が悪いというのに。八つ当たりのように彼女を責める俺は、小さな頃となにも変わっていない。

 彼女の侍女が、俺に冷たい視線を向けている。ああ、こんなところも子供の頃と変わらないな、なんて自嘲で胸が一杯になる。

 でも、俺は、変わったんだ。彼女に惹かれて。今では、彼女のことを溺愛していると言っても過言ではない。

「昔は、そう言ったかもしれないが・・・今は、君を愛している。君のことが好きなんだ。昔のことを許してほしいとは言わない。だけど、頼む。俺に、やり直す機会をくれないか?」

 彼女に跪いて、乞う。

「あらあら、困りましたわ。わたくし、殿下のことを嫌ってはいませんのよ?」

 にっこりと、彼女は優しく微笑む。いつもの、包み込むような笑顔で。

「わたくしも、殿下のことを愛していますわ」
「っ!? そ、それならっ……」

 愛していると言われ、現金にも嬉しくなる。しかし、

「なので、殿下と夫婦になるのは無理です。つきましては・・・お飾りの正妃を立派に務め上げますのでご安心くださいませ」
「なぜだっ!?」

 そう詰め寄った俺に、

「それは、わたくしの問題でもあるのですが・・・」

 彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。

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