2 / 13
わたくしも、殿下のことを愛していますわ。
しおりを挟むどうにかこうにか、挽回できたと思っていた。
彼女は俺を許してくれたし、その後にちゃんと婚約者らしい態度と、そして愛を伝える努力を続けて、その結果が昨日の結婚式なのだと、そう思っていた。
なのに、なのにっ・・・やっぱり、彼女は俺のことを許してなんかいなかった。
故の、さっきの『悍ましい』という発言なのだろう。
思わず、彼女を睨め付ける。きっと、今の俺はとても恨めしいという貌をしている。
だというのに、彼女は・・・
「まあ、そんな悲しそうなお顔をして、どうしたのです?」
いつものように、優しい眼差しで俺を見詰めて微笑んだ。
「俺のことが嫌いならっ、嫌いだと言えばいいじゃないかっ!! そんなに嫌なら婚約だってっ・・・解消すればよかったじゃないかっ!!」
我ながら子供っぽいと思う。
「あらあら、困りましたわね・・・でも、殿下が仰ったのですよ?」
「なにをだっ!?」
「『お前のように、年増のクセに家の権力で無理矢理婚約者の座を奪い取り、俺が嫌がっているのに辞退もしないような厚顔で不遜な女なんかとは、絶対に結婚したくない。もし無理矢理結婚させられたとしても、お前なんか絶対に愛さないからな』、と。わたくしにそう仰いましたわ」
「っ!?」
そ、それは・・・途轍もなく、覚えがある。確か、小さい頃にそんなことを言った覚えがある。
今なら、判る。彼女が、家の力を使ったワケでもない、無理矢理俺の婚約者に収まったワケでもなかったということが。
俺と彼女との婚約は、他国の情勢が不安定になったから結ばれたものだ。周辺諸国の情勢が不安定になり、貴族派筆頭公爵家の彼女と、俺との婚約が結ばれた。
我が国が、他国の情勢不安の煽りを受けたり、他国へと付け込まれないようにするため。だから、俺がどんなに嫌がっても、絶対に覆らなかった婚約。
今は、以前程の不穏さはなくなったと言える。だが、それでもやはり油断はできない。
だから、彼女が本当は俺のことを許していなくても、本当は俺のことを嫌っていても、国のために王太子である俺に嫁ぐしか選択肢が無かったと、そう判っているのに・・・
元は全て、なにも理解していなかった俺が悪いというのに。八つ当たりのように彼女を責める俺は、小さな頃となにも変わっていない。
彼女の侍女が、俺に冷たい視線を向けている。ああ、こんなところも子供の頃と変わらないな、なんて自嘲で胸が一杯になる。
でも、俺は、変わったんだ。彼女に惹かれて。今では、彼女のことを溺愛していると言っても過言ではない。
「昔は、そう言ったかもしれないが・・・今は、君を愛している。君のことが好きなんだ。昔のことを許してほしいとは言わない。だけど、頼む。俺に、やり直す機会をくれないか?」
彼女に跪いて、乞う。
「あらあら、困りましたわ。わたくし、殿下のことを嫌ってはいませんのよ?」
にっこりと、彼女は優しく微笑む。いつもの、包み込むような笑顔で。
「わたくしも、殿下のことを愛していますわ」
「っ!? そ、それならっ……」
愛していると言われ、現金にも嬉しくなる。しかし、
「なので、殿下と夫婦になるのは無理です。つきましては・・・お飾りの正妃を立派に務め上げますのでご安心くださいませ」
「なぜだっ!?」
そう詰め寄った俺に、
「それは、わたくしの問題でもあるのですが・・・」
彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
441
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる