【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
13 / 13

わたくし、愛されていたのね・・・

しおりを挟む


 とうとう、お姉様と殿下の結婚する日がやって来た。

「それじゃあ、わたくしは明日からお飾りの王妃として公務を果たしますわ」
「・・・はい」
「もう、そんな不安そうなお顔をしなくて大丈夫よ。殿下は、あなたのことが好きなんだから。ね? 自信を持ってちょうだい」
「いえ、殿下のことを不安に思っているワケじゃなくて。その、お姉様は……? これからどう過ごされるのですか?」

 殿下に嫌われているというお姉様が、結婚してから殿下に冷遇されるんじゃないかと、ずっと不安で心配に思っていた。

「わたくしは離宮に籠って、基本的には公務のとき以外には殿下とお顔を合わせることはありませんよ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「そう、なんですか?」
「ええ。それに、近隣諸国の情勢が落ち着いて来たら、わたくしは殿下と離縁するつもりです」
「え? お姉様っ?」
「わたくしは、殿下に嫌われていましたからね。離縁が成立すれば、殿下も清々することでしょう」
「そ、そんなことは……」

 ない、とは言い切れない。お姉様が殿下に冷遇されていたのは有名なことだ。

「それに、わたくしは殿下と寝所を共にするつもりはありません。お世継ぎができないという名目で、早かったら数年後には離縁することになるでしょう」
「そんな! お姉様はそれでいいのですかっ!?」

 子供を生めない女だというそしりを、お姉様は自ら被るつもりだ。

「ええ。だってわたくし・・・ず~っと反抗期だった三歳児の子をがんばって、歯を食い縛って育て上げた気分なの! だからわたくし、もうしばらく子育てするのはいいわ」
「へ? さ、三歳児っ?」
「ええ。もう、ず~~っと前から、イヤイヤ期の困ったちゃんな駄々っ子三歳児を育てている気分だったのよね! だから、暫くは子育てからは解放されて、のんびり過ごしたいと思っているのよ」

 頬に手を当て、はぁ~と深い溜め息を吐くお姉様。

「こ、子育て?」
「ええ」

 ずっと反抗期。イヤイヤ期の駄々っ子三歳児と聞いて・・・もしかしてそれは、幼少期より婚約者であるお姉様を嫌い、みみっちい嫌がらせを繰り返していたという殿下のことが頭を過ぎった。

「だから、なにも心配しなくていいのよ? 男の子も、女の子も育て上げた気分だもの」
「男の子と、女の、子・・・?」
「ええ」

 にっこりと、それはそれは清々しい笑顔で微笑むお姉様。

 きっと、もしかしなくても、お姉様が育てあげた気分だという女の子は・・・わたくし、でしょうね。

 まぁ、おうちに帰れない分、寂しい思いをしていた分、優しくしてくれるお姉様にべったりと甘えて……甘やかされていた自覚はある。

 そう、なのね・・・

 わたくしが、勝手にお姉様をお姉様と呼んでいただけで、お姉様はわたくしを娘のように思って、根気強く育て上げたという気分だったのね・・・

 わたくし、愛されていたのね・・・お姉様に。二つしか変わらないというのに。

 わたくしの実のお姉様達の方が、『お姉様』より幾つも年上なのに。娘のような気分で。

 今ではもう、『お姉様』の方が、実のお姉様達よりも身近な存在だ。

「わたくしが不良息子のように思っている殿下のことを好きだと言ってくれて、殿下のためにたくさんたくさんつらいお勉強をがんばってくれる、素敵なお嫁さんを育て上げた気分なの」

 あら? 実の娘、ではなくて不良息子のお嫁さんというお義母様な気分でしたのね?

「それに・・・騙すような真似をしてごめんなさいね? 実は、あなたの側妃教育は少し前に及第していて。ちょっと前からは少し、王太子妃教育に入っていたの」
「え?」
「ふふっ、これからも、殿下のことを支えて行ってあげてくださいね?」

 イタズラっぽく、チャーミングな笑顔。ああ、きっと……このイタズラっぽい笑顔が、本来のお姉様の年相応な笑顔なのだろう。今まで、わたくしが一度も見たことのなかった……お姉様が見せてくれなかった可愛らしい笑顔。

 お姉様が尊いっ!

「・・・わかりましたわ、お姉様」

 長い間、殿下に冷遇されて。それでも、国のためにとつらいことをずっと我慢して来たお姉様。そのお姉様を、殿下から自由にして差し上げるため。

「わたくし、がんばります!」

 こうして、わたくしはお姉様を自由にして差し上げるため、まずは殿下の側妃として召し上げられた。

 わたくしが側妃に上がっても、お姉様は今までと態度を変えずに、わたくしを可愛がってくれました。

 ただ、わたくしがお姉様と過ごしていると、なぜかそわそわした様子の殿下が側に来て、お茶だったり食事の席だったりに、割って入ろうとして来ます。

 すると、お姉様はにこにこと笑いながら、

「わたくしはお邪魔なようなので、失礼致しますわ」

 と、席を辞する。

 お姉様が行ってしまうと、殿下はなぜか寂しそうなお顔をする。まぁ、多分わたくしも、でしょうけど。

 こうして、お姉様が殿下のお飾りの正妃として公務をして過ごし――――

 わたくしの王太子妃教育が一段落して、わたくしと殿下との子供が生まれた頃。

 お姉様は、正妃の座を退いた。

 ああ、いよいよお姉様が殿下から解放されるのね……と、喜びたいけれど寂しさが勝つという複雑な感情でいたら――――

「もう少し、周辺諸国が落ち着くまで待つわ」

 と、お姉様は離宮に留まってくれた。

 子育ては暫くしたくないと言っていたのに、お姉様はわたくしと殿下の子を可愛がってくれる。

「孫が生まれるって、こういう気分なのね!」

 と、柔らかい笑顔で。お姉様は、まだまだ十二分にお若いというのに・・・もう、おばあ様のご気分ですか。

 それからは、お姉様の公務をわたくしが肩代わりをするようになって――――

 お姉様が、表舞台からゆっくりと遠ざかって行った。

 全ての公務、表舞台に立つ仕事をわたくしがこなせるようになると、お姉様はひっそりと殿下と離縁の手続きをして、

「お姉様、今まで本当にお疲れ様でした。これからはごゆっくりとお過ごしください」
「ええ、ありがとう。それじゃあ、元気でね? 幸せになるのよ?」

 と、晴れやかな笑顔で離宮を出て行った。

 暫くして、お姉様が年上の男性と結婚して、とても大事にされて、幸せに暮らしていると聞いて・・・本当に嬉しくなった。

 わたくしも、お姉様には幸せになってほしかったから。

 殿下……いえ、陛下とはそれなりに仲良くやれている。

 当初、彼に抱いていた恋愛感情とは少し違っていて。お姉様に子供扱いされて、お姉様のことを大好きになった者同士の関係、と言ったところではあるけれど。

 世継ぎである子供達は無論のこと。多分、わたくしも、それなりに陛下に大事にされている。

 最初に思い描いていた……今だと赤面ものの、当時のアホみたいなお花畑で考えていた、『幸せな暮らし』とは違っているけど。

 お姉様がわたくしと殿下を育ててくれたお陰で、『今の幸せ』があるのだと思います。

 ――おしまい――

。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・✽


 おまけ。


 とある日のお茶会にて。


 三女ちゃん「お、お姉様、殿下は駄々っ子三歳児だそうですが……ちなみに、わたくしは幾つくらいだと思っておりましたの?」( ; ・`д・´)…ゴクリ

 公爵令嬢「そうですわね……甘えん坊で可愛らしい、おしゃまな七歳の女の子と言ったところかしら?」(*´艸`*)

 三女ちゃん「な、七歳……っ? まぁ、殿下よりはわたくしの方が年上ですわね! で、では、わたくしと殿下とでは、どちらが可愛いと思ってますかっ!?」(*>ω<)ノ

 公爵令嬢「それは勿論、あなたの方が可愛らしいに決まっているわ。あのクソガキ三歳児には、散々煮え湯を飲ませられましたからね。それに比べ、あなたは最初から素直で、わたくしに懐いてとても可愛かったもの♪」(*´∇`*)

 三女ちゃん「よっしゃっ! わたくし殿下に勝ちましたわっ!」゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚

 殿下「く、クソガキ三歳児……」orz

 三女ちゃん「あら、そんなところで蹲ってどうしたのですか? 殿下」( *¯ ꒳¯*)ドヤァ

 殿下「い、いや、その、お、俺もお茶を一緒にと……」(;゚Д゚)

 公爵令嬢「あらあら、ではお邪魔しては申し訳ないので、わたくしは失礼致しますわ。後は若いお二人でお過ごしくださいな♪」( *´艸`)

 殿下「ああっ……」Σ(´□`; )

 三女ちゃん「ふふっ、殿下よりもわたくしの方がお姉様に可愛がられていてよ♪」(((*≧艸≦)ププッ

 殿下「お、お前だって子供扱いを」(*`Д´)ノ

 三女ちゃん「わたくしの方が殿下よりも、四つも年上でしたわ!」(*`艸´)





 公爵令嬢「ふふっ、やっぱり二人は仲良しさんなのね。可愛らしいわ♪」(*´艸`*)


__________


 以上、蛇足を最後まで読んでくださってありがとうございました♪

しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

yui
2025.07.16 yui
ネタバレ含む
解除
Rinshi
2025.03.07 Rinshi
ネタバレ含む
解除
BLACK無糖
2023.08.14 BLACK無糖

1回読んでビックり。なるほど 、ママ方面へ進化した主人公は新鮮……だが、良いやん……年上ママ系美人(; ・`д・´)ゴクリンコ
2回目は主人公の容姿をウ〇娘のスーパーク〇ークで妄想しながら、あらあらウフフされて〜!褒めそやされてえ〜!お茶してえ〜!と妄想炸裂。

アレですね、ざまぁ対象の2人がママの波動によって更生されていって、失恋しつつ新たな関係を築くっていう青春ですね。
お子ちゃまの価値観と恋愛から躓いた令嬢を優しく導いていく主人公とわんわん泣いて誤ちに気づきひと皮剥けた令嬢のシーンが好き。

主人公が結婚したのを知った殿下と令嬢、しんみり語り合ってそう。
お子ちゃまの恋愛から大人同士で同志に成った二人のやり取りも見てみたかったかな。
歳食ったらまた二人で恋したら良い。

2023.09.01 月白ヤトヒコ

無糖犬さん。感想をありがとうございます♪

諸事情により、お返事を大変お待たせ致しました。ご容赦ください。<(_ _*)>

あいにくとウ○娘は知らないのですが、実は公爵令嬢ちゃん。上品で優しいママ風……に見えて、中身はちょい腹黒な肝っ玉母ちゃんだったりします。ꉂ(ˊᗜˋ*)

一応ざまぁではあるんですが、にこにこ微笑みながらしっかりと更正させました。(*`艸´)

書いてる奴も、わんわん泣いて公爵令嬢ちゃんに懐く三女ちゃんのシーンが好きです♪

公爵令嬢ちゃんの結婚は、殿下はガチへこみ。三女ちゃんは寂しいと思いながらも祝福してますね。殿下が横槍入れるなら、自分が止める! とか思ってます。(笑)

実はこの二人は絶対に別れられないので、なんだかんだ仲良くやって行きますね。( *´艸`)

また恋愛し直すというのも素敵ですね。惜しむらくは、書いてる奴にその腕がないことです。(´ε`;)ゞ

解除

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

私の名前を呼ぶ貴方

豆狸
恋愛
婚約解消を申し出たら、セパラシオン様は最後に私の名前を呼んで別れを告げてくださるでしょうか。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。