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しおりを挟むキアンが語り出した。
「この国には、入るまでが少々難儀したが、騎士学校へ入ってからは気楽なものでな。目に見えて刺客が減り、毒殺の危険も減り、無茶振りの命令も無く・・・」
「な、なんつーか、めっちゃハードですね、人生が・・・」
「まあ、生まれて此の方、なかなか刺激的な日々が続いてはいるな!」
キアンの日常にドン引きしているテッドに、悠然とした笑み。
「まあ、異国の疎まれし貴人ということで敬遠されてはいたが。ある程度の安全が確保されると、当面の懸念は食料だった。寮や食堂での食事は無料ではあったが、食事時間以外の嗜好品……所謂、菓子などの類は個人での購入と言われてな。学費は辛うじて払ってもらえたが、俺の自由にできる金は無かった。仕送りなど期待するだけ無駄。しかし、成長期というものはやたら腹が減る。というワケで、校内の敷地で食えそうなものを片っ端から口に入れて確かめていたときだった。やたら麗しい美少女……」
「は?」
思わず低い声が出ると、
「美少女と見紛うばかりの少年が、その麗しき顔に焦りを浮かべて近付き、『なに口に入れてるのっ!? ぺっしなさい、ぺっ!?』と、俺にハンカチを差し出したのだ」
言い直したキアンがククッと楽しそうに笑う。
「あれには呆気に取られたぞ。なにせ、『ぺっしなさい』などと叱られたのは、幼少期にじいとばあや以来だ。ぽかんとしている俺にハンカチを押し付けて、『お腹空いてるならこれあげるから、変なもの口に入れちゃ駄目だからね。お腹壊しちゃうでしょ』と言って、菓子をくれたというのが出逢いだ」
「……完璧に子供扱いだな。仮にも一国の王族を……」
「ハハハっ、なんかハウウェルってなにげにおかんっぽいとこあるよなー。フィールズにもしょっちゅう鼻拭けってハンカチ渡してるし。泣いてると頭撫でて宥めたりとかしてさー」
「ああ、麗しき同志は顔に似合わず、なかなかの世話焼きだな。しかも、無自覚の」
「君が、そこら辺のものなんでも口に入れるなんて、幼児みたいなことしてたからでしょ。手も泥が付いてて汚かったし」
あれは……そう、あれだ。
見知らぬ異国の留学生が、そこらの雑草を毟って口へ入れているのを見て・・・外へ遊びに出るようになったばかりのスピカが、地面に落ちているものを拾って、口に入れようとしたのを思い出した。それで慌てて止めたんだよね。
初対面にもかかわらず、思わず言ってしまった、「ぺっしなさい」というのはまぁ、完璧に子供……三歳児扱いで間違ってはいない。それに、好奇心でなんでも口に入れるのは今も変わってないみたいだし。
「まあ、そういうワケで、なんだかんだ世話を焼かれたのだ」
「それから、腐れ縁が始まったんだよ」
というか、そんなアホみたいな出逢い方をしたせいで、後からキアンが王族だと知っても『拾い食いをする残念な奴』という認識が消えなかったワケなんだけど。
しかも、キアンやレザンとはやけにグループを組まされた覚えがある。
更に言うと、最初に食べ物をあげたのがいけなかったのか、その後やたら食べ物を集られた。一体何度、非常食やらおやつをキアンに奪われたことかっ・・・
「ふっ、麗しき同志と巡り逢えた縁に、俺は感謝しているぞ?」
「な、なんかイケメンにーちゃんがハウウェル口説いてるみたいなんだけどっ!?」
「……まさか、ハウウェルは男だぞ」
「ん? 誰かに好意を持つのに、男女の別など些末なことだろう?」
「はいはい、キアンはそうやって人を揶揄うのが好きなんだよ。本気にしないの」
なんて話していると、バシャバシャと跳ねる水音がして、
「ハウウェル先輩ーっ!」
馬に乗ったエリオットが手を振りながらこちらへ向かって駆けて来た。
どうやら、馬に乗って遠くまで見回りに行っていたようだ。
__________
ネイサン的に、キアンは三歳児とおんなじ扱い。(笑)
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