虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 翌朝。

「・・・?」

 なにやら漂って来るいい匂いというか、香ばしい……食欲を誘う匂いで目が覚めた。

 鈍く痛む身体をのそのそと起こして身支度。

 これは筋肉痛だな。昨日、キアンに付き合ってかなりの速度で森を歩いたから。あれ、普通に付いて行けるのって、かなり野歩きになれている人くらいなものだと思う。

 そして、部屋を出て匂いのする方へ向かうと・・・

「なーんかいい匂いすんだよなー。な、な、なんの匂いだと思うよ?」
「さあ? だが、朝食……にしては、食堂の方じゃないぞ?」

 と、二人の話す声。

「お、ハウウェルも匂いに誘われて起きたん? 一緒行こうぜ」

 頷いて、匂いのする方へ向かうと・・・

 テラスの方からもくもくと立ち上る煙。

「え? なにこの煙?」
「……まさか、火事かっ?」

 わたしも一瞬そう思って慌ててテラスへ出た。けど、

「……なにしてんの? 君」

 立ち上る煙の原因と思しき物体の前に陣取っているのは、色黒の男。

「ん? おお、麗しき同志よ。相変わらず朝が弱いのだな! 不機嫌そうな表情でも、その麗しさが損なわれることがないのはさすがと言うべきか? 仕立て屋と眼鏡も一緒とは……さてはお前ら、この匂いにつられたか?」

 ニヤリと笑うキアン。

「・・・や、意味不明なこと言ってないで、なにしてんの?」
「ふっ、見てわからぬか?」
「保存食作りです!」

 パッと立ち上がったエリオットが答える。

「お、フィールズいたん? 見えんかったわ」

 どうやらしゃがんでいたので見えなかったようだ。手には薪を持っているから、火加減の調整でもしていたのか。

「はいっ、おはようございます皆さん!」
「煙……保存食……ああ、燻製?」
「ああ、昨日の獲物やら、日持ちしない食材などをいぶしている最中だ」
「ふーん。おはよう」

 香ばしい匂いは燻製だったのか。

「できたら馳走してやろう」
「それはどうも」
「マジ? 朝ごはん?」
「いや、あと数時間程は掛かる。第一段が……昼頃ならば、食えるであろう」
「楽しみですね~」
「昼飯かー。んじゃ、朝ごはん食ってくるわ」
「いってらっしゃ~い」

 と、テッドとリールと一緒に朝食。

「な、な、今日ってなにするん?」
「……さあ?」
「昨日は、リールとフィールズと一緒にカードゲームやらボードゲームして遊んだんだけどさ、そういうのってやっぱ人数いねーとつまんねーじゃん? イケメンにーちゃん、誘ったら付き合ってくれるかな?」
「ま、キアンは割と付き合いはいい方……って言うか、そういう遊びをしてたら『俺も交ぜるがいい』とかって言って、乱入して来る系の奴だし」
「え? マジ? つか、イケメンにーちゃん乱入まですんのっ?」
「うん。一年のとき、三年生に交じっているのを見て驚いたよ。そして、いつの間にか食べ物を賭けることになって、食料をごっそりと巻き上げられる。宿題とか掃除当番だとあんまり乗って来なかったけど、消耗品やら有料メニューの食券を賭けると、キアンの勝率がかなり高くなる」

 キアンは見知らぬ相手にも全く物怖じしない性質たちのようで、同級生は勿論のこと。一年のときには三年生に交ざり、自分の学年が上がってからは新一年からも色々と巻き上げていたし。『物乞い殿下プリンス』のあだ名は、全学年に知れ渡っていた程だ。

「……いかさまか?」
「どうだろう? 本人は、『食い意地のなせるわざだ!』って言ってるけど」
「……それはそれで説得力があるような?」

 と、首を捻るリール。

 多分、キアンは本当に勘がいいんだとは思う。あとは、目かな? 単純な視力と動体視力。そして、観察眼にも優れている。そういう人が、勝てると思ったときに勝負に打って出れば、勝率が高くなるのも当然のことだろう。

 ちなみに、賭け事とは言っても、金銭は賭けなかった。未成年だから……というよりは、騎士学校で金銭を賭けるのは普通にアウトだ。犯罪行為は退学処分の対象になる。

 喧嘩? そんなのは日常茶飯事の出来事だった。ストレス解消と称して、喧嘩を吹っ掛け捲っていろんな生徒に軽い怪我をさせても退学にはならなかった奴もいたし。まぁ、さすがに大怪我や後遺症が残るような酷い怪我をさせると責任を問われて退学になったり、慰謝料請求もされたりするけどね。

 軽い怪我で騒ぐ方がおかしいという環境。

「まぁ、遊びたいなら誘ってみれば?」

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