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犬が大好きな人?
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ほてほてと無言で暫く歩いていると、
「ホリィっ!」
ホリィに抱き付く小さな影。
「スノウ」
小柄な男の子…ではなく、男物のシャツとズボンを着た、ブラウンの髪と瞳の地味な女の子だ。
「ホリィ、またコルドと喧嘩でもしたの?ま、どうせコルドの方が悪いに決まってるけど。コルドってホント、名前の通り冷たいんだから。口も態度も悪いし、ホリィもコルドなんて放っとけばいいのに」
スノウはうちで一番のチビ。
そして、一番のお喋りでウルサい奴でもある。ある意味、女の子らしい女の子というか…ホリィとは別の意味でかなりウザい。
「ほら、先行けよ」
ホリィの手を解いて、スノウと行けと促す。
煩いのは好きじゃない。
「コルド・・・あのね、スノウ。喧嘩なんかしてないし、コルドも悪くないよ」
一瞬の不満げな顔。けれど、すぐにスノウに向き直るホリィ。
「え~ウソぉ。だって、いつもならホリィが、コルドを引っ張ってるじゃない。逆のときは、なんかあったときでしょ?」
「え?」
驚いたようなホリィ。
まあ、スノウの言い分もあながち間違ではない。よく引っ張られているのはオレの方だし。
「どうせ、コルドがまたなにかイジワルなこと言ったんでしょ」
「違」
「どうでもいいけど、ちんたらしてねーでさっさと歩けよ。日が暮れる」
ホリィの言葉を遮る。
「ほら、またイジワル言う」
別に、イジワルなつもりはないが、スノウの中ではいつもオレが悪いようだ。
言い方が悪いと言われればそうかもしれないが、スノウに嫌われても特に問題を感じない。
進んで仲良くしようとも思わない。
多分、相性が悪いのだろう。
尤も、うちでスノウの相手を根気強くできるのはホリィしかいないが・・・
だからスノウがホリィに懐くのだとも言える。
一番上は怖いから嫌い。二番目は口も態度も悪くてイジワルだから嫌いと、オレよりも嫌われている。そして、三番目がホリィ。その次がオレ。そして、五番目は…耳が聴こえなくて話が通じないから嫌いだそうだ。
我が儘というか、なんというか・・・
五番目…ステラは、スノウ以外となら会話ができる。まあ、口で喋ることはできないので筆談でだが、ステラは割とお喋りだ。ステラと話したいなら、文字を覚えればいい。
他のみんなは読み書きがちゃんとできる。というか、それぞれに曰くが付いている為、院長が読み書きを確りと教えてくれた。まあ、オレは院長に教わる前に、自分で全部覚えたらしいけど・・・
できないのはスノウだけだ。読み書きを教える前に、院長が死んだからな・・・
けど、ステラと本当に話したいと思う事なら、文字を覚えればいい。だが、それをしないのはスノウの方だ。勉強が嫌いらしい。
読み書きができて損はない。というか、読み書きをできない方が圧倒的に損をするだろう。だからさっさと覚えろと言うと、「あたしはコルドみたいに頭が良くないの」と返す。まあ、この返しからも判るように、スノウは本当に頭が悪いのだと思う。
努力をしないのと、頭が良くないというのは別のことだ。むしろ、それを言い訳にして努力をしないことの方が余程馬鹿だろう。
スノウ本人が自分で言う通りにバカ扱い…主に二番目の兄かオレが…をしてあげると、なぜかイジワルだとか酷い奴だと言われる。不思議だ。
「ホント、コルドってイジワルなんだから。じょーちょってのがケツラク?してるんじゃない?」
ぶーぶーと文句を言って進まないスノウに、困った顔のホリィ。
なぜここで、オレに対するような強引さを発揮しないのか…全く。
「ウルサい。黙って歩け」
日が落ちて来て、ちらほらと女の子達が出て来ている。さっさと帰らないと、本格的にマズい時間になる。スカートを着ているホリィといたら、辻に立つ花売りと勘違いされて、どこぞの変態に声を掛けられる可能性がある。
「なんでコルドはそうやってえらそうにめーれーするの?」
「・・・」
馬鹿な迷信のお陰で、梅毒患者が処女を狙っているから。とは、約七歳のスノウにはさすがに言えない。
梅毒の流行を抑制する為、一度は政府が売春の取り締まりを強化したはいいが…その後に民衆から突き上げを食らい、政府は愚かにも、売春できる女性の年齢を公的に引き下げたのだ。十六歳から十四歳へと。
しかも、処女とヤれば病気が治るという馬鹿過ぎる迷信が巷に流布していて…十四歳どころか、年齢一桁の幼女や、果ては子供なら男でもいいと狙う、クズなクソ野郎共が巷を闊歩している。
性病予防なら禁欲が一番だろうに。女買う金があんなら金貯めて病院行けと言いたい。むしろ、撒き散らしているクソ馬鹿共は去勢すればいいのに。
噂に拠ると、年齢引き下げを実施した途端に、処女を高値で買った政府の高官もいたとか…迷信を信じて実行する役人とか、マジで最悪過ぎる馬鹿もいるし。
特に、誰も庇護する者のいない孤児は狙い目だそうだ。
そんなクズなクソ野郎共に遭遇しないうちに、さっさと帰るべきだろう。
なんの為にスノウに男装をさせているのか、その意味がなくなる。
ちなみに、ちらほらと辻に出て来ている少女達は、通称花売り。所謂娼婦だ。
中には明らかに十四歳未満の女の子もいるが、需要と供給の問題や、親に無理やりさせられてたり、小遣い稼ぎやら遊びというのも混じっているのだろう。
無理やりなどは可哀想だと思うが、かといってオレらができることはなにも無いし、彼女達と同じ花売りだと勘違いをされたくもない。
花売りは、やらなくて済むのなら、しない方が絶対にいいとコルドは思う。
オレにはせいぜい、変な事件に巻き込まれないよう祈るくらいしかできないし。
約十歳のオレがその辺りの事情を辛辣に理解している辺り、最近の治安の悪さが窺い知れる。
ちなみに、ホリィはそんなクズなクソ野郎共を相手に美人局的なことをして金を巻き上げている。だからスカート姿で街を歩いているのだ。実は、うちで一番荒事に強いのはホリィだったりもする。人は見かけに寄らないのだ。
「…知ってるか?この辺りに、犬があまりいないワケ」
仕方ないから、別のことで脅す。
「え?犬がいないことはいいことよ。みんな、犬が嫌いなんでしょ?」
犬が嫌いなスノウらしい言い分だ。
まあ、下手に野良犬がいるよりはいない方が安全ではあるが。野犬になると人を襲うし、病気とかも怖い。
「実はな、スノウと違って、犬が大好きな奴がこの辺りにいるんだよ」
「犬が大好きな人?犬が好き過ぎて、いっぱいペットにしてるの?」
「いや、犬が好き過ぎて…夜な夜な犬を殺して食う奴が住んでるらしいぜ?」
「え?」
「しかもな、ソイツが食うのは、実は犬ばかりじゃなくて…」
わざと声を潜めて言う。
「な、なによ?」
「暗くなっても家に帰らない子供を狙って…食い殺すらしいぜ?」
「っ!?か、か、帰るっ!?」
さっと足を動かすスノウ。さっきまでの威勢は何処へやら?全く…
まあ、犬を食い殺すというホームレスがいる話は本当だが…さすがに、子供を食い殺すというのは尾ヒレだろう。
今朝発見されたという殺人事件も物騒だし……用心に越したことはない。
「ホリィっ!」
ホリィに抱き付く小さな影。
「スノウ」
小柄な男の子…ではなく、男物のシャツとズボンを着た、ブラウンの髪と瞳の地味な女の子だ。
「ホリィ、またコルドと喧嘩でもしたの?ま、どうせコルドの方が悪いに決まってるけど。コルドってホント、名前の通り冷たいんだから。口も態度も悪いし、ホリィもコルドなんて放っとけばいいのに」
スノウはうちで一番のチビ。
そして、一番のお喋りでウルサい奴でもある。ある意味、女の子らしい女の子というか…ホリィとは別の意味でかなりウザい。
「ほら、先行けよ」
ホリィの手を解いて、スノウと行けと促す。
煩いのは好きじゃない。
「コルド・・・あのね、スノウ。喧嘩なんかしてないし、コルドも悪くないよ」
一瞬の不満げな顔。けれど、すぐにスノウに向き直るホリィ。
「え~ウソぉ。だって、いつもならホリィが、コルドを引っ張ってるじゃない。逆のときは、なんかあったときでしょ?」
「え?」
驚いたようなホリィ。
まあ、スノウの言い分もあながち間違ではない。よく引っ張られているのはオレの方だし。
「どうせ、コルドがまたなにかイジワルなこと言ったんでしょ」
「違」
「どうでもいいけど、ちんたらしてねーでさっさと歩けよ。日が暮れる」
ホリィの言葉を遮る。
「ほら、またイジワル言う」
別に、イジワルなつもりはないが、スノウの中ではいつもオレが悪いようだ。
言い方が悪いと言われればそうかもしれないが、スノウに嫌われても特に問題を感じない。
進んで仲良くしようとも思わない。
多分、相性が悪いのだろう。
尤も、うちでスノウの相手を根気強くできるのはホリィしかいないが・・・
だからスノウがホリィに懐くのだとも言える。
一番上は怖いから嫌い。二番目は口も態度も悪くてイジワルだから嫌いと、オレよりも嫌われている。そして、三番目がホリィ。その次がオレ。そして、五番目は…耳が聴こえなくて話が通じないから嫌いだそうだ。
我が儘というか、なんというか・・・
五番目…ステラは、スノウ以外となら会話ができる。まあ、口で喋ることはできないので筆談でだが、ステラは割とお喋りだ。ステラと話したいなら、文字を覚えればいい。
他のみんなは読み書きがちゃんとできる。というか、それぞれに曰くが付いている為、院長が読み書きを確りと教えてくれた。まあ、オレは院長に教わる前に、自分で全部覚えたらしいけど・・・
できないのはスノウだけだ。読み書きを教える前に、院長が死んだからな・・・
けど、ステラと本当に話したいと思う事なら、文字を覚えればいい。だが、それをしないのはスノウの方だ。勉強が嫌いらしい。
読み書きができて損はない。というか、読み書きをできない方が圧倒的に損をするだろう。だからさっさと覚えろと言うと、「あたしはコルドみたいに頭が良くないの」と返す。まあ、この返しからも判るように、スノウは本当に頭が悪いのだと思う。
努力をしないのと、頭が良くないというのは別のことだ。むしろ、それを言い訳にして努力をしないことの方が余程馬鹿だろう。
スノウ本人が自分で言う通りにバカ扱い…主に二番目の兄かオレが…をしてあげると、なぜかイジワルだとか酷い奴だと言われる。不思議だ。
「ホント、コルドってイジワルなんだから。じょーちょってのがケツラク?してるんじゃない?」
ぶーぶーと文句を言って進まないスノウに、困った顔のホリィ。
なぜここで、オレに対するような強引さを発揮しないのか…全く。
「ウルサい。黙って歩け」
日が落ちて来て、ちらほらと女の子達が出て来ている。さっさと帰らないと、本格的にマズい時間になる。スカートを着ているホリィといたら、辻に立つ花売りと勘違いされて、どこぞの変態に声を掛けられる可能性がある。
「なんでコルドはそうやってえらそうにめーれーするの?」
「・・・」
馬鹿な迷信のお陰で、梅毒患者が処女を狙っているから。とは、約七歳のスノウにはさすがに言えない。
梅毒の流行を抑制する為、一度は政府が売春の取り締まりを強化したはいいが…その後に民衆から突き上げを食らい、政府は愚かにも、売春できる女性の年齢を公的に引き下げたのだ。十六歳から十四歳へと。
しかも、処女とヤれば病気が治るという馬鹿過ぎる迷信が巷に流布していて…十四歳どころか、年齢一桁の幼女や、果ては子供なら男でもいいと狙う、クズなクソ野郎共が巷を闊歩している。
性病予防なら禁欲が一番だろうに。女買う金があんなら金貯めて病院行けと言いたい。むしろ、撒き散らしているクソ馬鹿共は去勢すればいいのに。
噂に拠ると、年齢引き下げを実施した途端に、処女を高値で買った政府の高官もいたとか…迷信を信じて実行する役人とか、マジで最悪過ぎる馬鹿もいるし。
特に、誰も庇護する者のいない孤児は狙い目だそうだ。
そんなクズなクソ野郎共に遭遇しないうちに、さっさと帰るべきだろう。
なんの為にスノウに男装をさせているのか、その意味がなくなる。
ちなみに、ちらほらと辻に出て来ている少女達は、通称花売り。所謂娼婦だ。
中には明らかに十四歳未満の女の子もいるが、需要と供給の問題や、親に無理やりさせられてたり、小遣い稼ぎやら遊びというのも混じっているのだろう。
無理やりなどは可哀想だと思うが、かといってオレらができることはなにも無いし、彼女達と同じ花売りだと勘違いをされたくもない。
花売りは、やらなくて済むのなら、しない方が絶対にいいとコルドは思う。
オレにはせいぜい、変な事件に巻き込まれないよう祈るくらいしかできないし。
約十歳のオレがその辺りの事情を辛辣に理解している辺り、最近の治安の悪さが窺い知れる。
ちなみに、ホリィはそんなクズなクソ野郎共を相手に美人局的なことをして金を巻き上げている。だからスカート姿で街を歩いているのだ。実は、うちで一番荒事に強いのはホリィだったりもする。人は見かけに寄らないのだ。
「…知ってるか?この辺りに、犬があまりいないワケ」
仕方ないから、別のことで脅す。
「え?犬がいないことはいいことよ。みんな、犬が嫌いなんでしょ?」
犬が嫌いなスノウらしい言い分だ。
まあ、下手に野良犬がいるよりはいない方が安全ではあるが。野犬になると人を襲うし、病気とかも怖い。
「実はな、スノウと違って、犬が大好きな奴がこの辺りにいるんだよ」
「犬が大好きな人?犬が好き過ぎて、いっぱいペットにしてるの?」
「いや、犬が好き過ぎて…夜な夜な犬を殺して食う奴が住んでるらしいぜ?」
「え?」
「しかもな、ソイツが食うのは、実は犬ばかりじゃなくて…」
わざと声を潜めて言う。
「な、なによ?」
「暗くなっても家に帰らない子供を狙って…食い殺すらしいぜ?」
「っ!?か、か、帰るっ!?」
さっと足を動かすスノウ。さっきまでの威勢は何処へやら?全く…
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