誰が為の異端審問か。

月白ヤトヒコ

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ステラ、今日出掛けないか?

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「ね、コルド。なんで昨日、ローズねーさんとこに行ってたの?」
「・・・」

 朝っぱらから・・・

「なにその嫌そうな顔?黙ってないでなんか言ってよ?コルド」
「・・・ふゎ…」
欠伸あくびするな!」

 ムッとするソバカス顔。

「・・・ぇ」
「え?なに?もっと大きな声で」
「…朝からウルセぇ」
「っ、コルドっ!」
「チビの言う通り、朝っぱらうるせぇっての。黙ってろ、お節介野郎が」
「レイニーは昨日、コルドと一緒だったでしょ?理由知ってんじゃないの?」
「あ?一々手前ぇに言う必要ねーだろ。バカか」
「だって、コルドが言わないんだもん!」
「ああ?ンなの知るかボケ」

 ホリィとレイニーの言い合いが続く中、ちょんちょんと袖が引かれた。

「ん?あ、ステラ」

 手を引っ張られ、手の平にステラの指先が走る。

『喧嘩?』

 ステラの手を取り、

『いつもの言い合い』

 と書く。

『朝から元気だね』
『全くだ』

 ステラは多分、オレと同じくらいの歳の女の子。四歳くらいのときに星の綺麗な夜に…以下略。本当はちゃんと別の名前があったかもしれないが、耳が聴こえなくて本人も話せなかった為、本名不明。

 文字は、うちに来てからオレが教えた。
 言いたいことが伝えられない…伝わらないというのは、もどかしくて非常にストレスが溜まるものだ。それはオレもわかるし・・・
 耳が聴こえなくても『話せる』ということがわかったステラは、文字を覚える前に比べると、とても明るく、非常に『お喋り』になった。
 その結果、ステラには妙に懐かれた。

『ステラ、今日出掛けないか?』
『どこに?』
『お茶、作りに行こう』
『おばあちゃんのとこね?』

 ステラに頷く。
 娼館でねーちゃん達が飲むハーブティーがそろそろ切れそうだから、作っとけというメモが昨日の手紙類に入っていた。

 ウェンにステラを借りると伝えて、午前中はばーちゃんとこでハーブ摘み。
 昼にはステラを家に戻して・・・

『ホリィ、いいの?』

 今日の予定を考えていたら、ステラが聞いた。

『いいよ。ウルサいから』

 なめらかに動いていた手が一瞬止まり、

『ローズねーさんのことで喧嘩?』

 と動いた。ステラは耳が聴こえない分、周りを観察するのが上手い。スノウよりも空気が読める。

 首を振り、

『面倒だから喧嘩はしない』

 と返す。

『ちゃんと話した方がよくない?』
『理由を言わないのはホリィの方だ』

 困ったような顔をするステラ。
 オレも、ホリィには困っている。

 まだヤイヤイ言い合っているレイニーとホリィを捨て置き、ウェンにステラを借りる許可を取る。

「おう、連れてけ。ステラも偶には外に出した方がいいだろ。暗くなる前には戻って来い」
「わかってる。けど、偶に外出た方がいいのはウェンもだからね?歩かないと、足萎えるよ」
「・・・偶には出てる」

 ぷいと目を逸らすウェン。

「散歩なら付き合うよ。いつでも声掛けて」
「・・・そのうちな」

 うん。これは外出る気ねぇな。
 今度、レイニーとホリィに頼んで無理矢理引っ張り出した方がいいかもしれん。

 まあ、今日のところは勘弁しといてやる。

「ンじゃ、行って来る」
「おう、行って来い」

 ひらりと手を振るウェンに、にこにこと行って来ます代わりに大きく手を振るステラ。

 玄関を出ると、目を輝かせたステラが興奮気味にオレの手を引っ張る。

『犬!犬!犬!おっきい!』

 玄関口に寝そべった銀灰色の狼犬が、興奮するステラをなんだ?という風に見上げる。

『なんで犬がっ?』

 口をパクパクさせるステラ。
 ステラは、スノウと違って犬が好きだ。

『預かった。名前はファング』

 と小石で地面に書いて説明。

『触ってもいい?』

 そわそわと瞳を輝かせ、ファングを見るステラ。銀灰色の毛皮の、見事なもふもふっ振りに心を奪われたようだ。

『ちょっと待って』

「ファング。これ、ステラ。多分同い年くらいだけど、妹みたいな感じ。耳聴こえないから。で、昨日君を見て泣き喚いたスノウと違って、君に触りたいんだって。いい?」

 あおい瞳がちらりとステラを見上げ、ふっと溜息に似た音を漏らし、尻尾を一振り。

 これは多分、OKだろう。

『ステラ。触ってもいいけど、怒らせると危ないから、よく気を付けてね?』

 うんうん頷き、わしゃわしゃと銀灰色の毛皮を撫で回すステラ。ファングは…なんだかとても、迷惑そうな顔に見える。

 しばらく待って、幸せそうなステラの肩を叩き、

『そろそろ行くよ』

 と促すと、ステラの残念そうな顔。

『撫でるのは後でもできるでしょ』

 沈んだ顔がパアッと輝き、早く行こうという風にぐいぐいと引っ張られる。

『笛持った?』

 質問に、首から提げた笛をパッと持ち上げ、

『危ないときは?』

 吹く仕種しぐさ

 ステラは耳が聴こえなくて話せない。声は出せるが、言葉にならない。だから、防犯の為に笛を持たせている。まあ、持ってるのはステラだけじゃないけど・・・

『誰か呼ぶ』
『OK。行こう』

 ステラの手を引いて歩くオレ。その後ろを、一定の距離を保って付いて来るファング。それを見て、ステラがにこにこと嬉しそうに歩く。
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