5 / 6
あなたがアタシの愛しい子なのは変わらないわ。おやすみなさい。
「……はぁ、あなたって子は全くもう……」
額を押さえて深い溜め息を落とす先生。まあ、わたしも自分が……所謂マッドサイエンティストの類だという自覚はあります。
「それに、この実験が成功すれば、『番関係』に悩んでいる方々の一助になるかとも思いまして。獣人の執着にうんざりしている、だとか。監禁されて精神を病んでしまった方などもいますし」
割と深刻なんですよね。『番』に関する悲劇は。
「まあ、獣共から逃れられるなら生殖器官なんて差し出しても構わないという、なりふり構わないヒトはそれなりにいるでしょうねぇ……」
「というワケです」
「経緯は、理解したわ。まあ、全っ然納得はしてないけどね! ひとまず、あなたの体調が思わしくなさそうだから、今お説教するのは勘弁してあげる」
どうやら、体調が戻るとお説教は免れないらしい。先生のお説教は長いんですよね。まあ、少々無茶をしたという自覚があるので甘んじて受けます。
「ねぇ、埋葬っていうのは? 嘘?」
「いえ、実際にお墓を作って埋めました」
摘出した子宮を燃やして、その灰を管理の厳しい……人族が運営する、獣人族の立ち入りが制限されている墓地へ埋めました。
管理者側に獣人がいると、下手をすると遺体ですら連れ去られてしまうと言いますからね。ご遺体を身近に置きたがるなら、まだマシな方。最悪、「一つになろう」と言って、番の遺体を食べてしまう獣人もいるのだとか……恐ろしい話です。
『番関係』解消実験のことを話すと、墓地の管理者は快諾してくれました。やはり、墓泥棒と言いますか……亡くなられた番のご遺体を掘り返して持って行こうとする獣人はいるようです。
「……あの小瓶の中身は?」
「適当にゴミを燃やした灰です」
以前にわたしが着ていた服の灰を詰めて渡しました。
「ふぅん……ゴミを後生大事に抱えて帰ったってワケ」
「はい。避妊薬で、生殖器官摘出の代わりになるかどうかも研究したいですね」
おそらく、一番『番』の認識から外れることができるのが生殖器官の摘出です。無くしたものは戻りませんし。まあ、部位欠損を治せるくらいの治癒魔術を扱えるヒトがいれば別ですが。手足や内臓の一部欠損なら兎も角。一臓器とは言え、丸ごとの損失は治すのが非常に難しいそうなので、あまり現実的ではないでしょう。
そもそも、『番』という認識は、現状で一番自身の子供が優れて生まれる確率が高い相手を本能で嗅ぎ分けて、『番』とする習性なのではないか? と思っています。
故に、『番』だと思って求婚し、子供まで生ませた後に、別の『番』が現れたというのも、ある程度説明が付きます。女性は妊娠、出産を経ると体質や体臭が変わりますし。匂いが『番』を識別する大きな要素であるならば、体質や体臭が変われば、『番』ではなくなることもあり得ます。
それを踏まえた上で、現状でのパートナーよりも、『新しい番』の方が優良な遺伝子を残せると本能が確信し、『番』が別のヒトへ変わることがある……というのが、わたしの推察です。
まあ、浮気性や心変わりで、『番』詐欺をしない、誠実だった獣人に『新しい番』が現れたという前提での、仮定ではありますが。
そんなことを考えていると、
「そう……あなた今、すっごく疲れた顔してるわよ。少し寝なさい」
先生がそっとわたしを抱き締めました。
「アタシが付いてるから、ね?」
ぽんぽんと、あやすように背中でリズムを刻む優しい手。ああ、子供の頃を思い出しますね。
「……怒って、いますか?」
「そうね。あなたの、ある意味自傷行為に少しだけ」
「……わたしを、嫌いになりましたか?」
「いいえ? 生殖器の一つや二つ減ったところで、身体欠損したところで、あなたがアタシの愛しい子なのは変わらないわ。おやすみなさい」
愛おしそうな優しい声と共に、柔らかい唇が額に落ちて――――
とろりとした眠気に負けました。
起きると……昔のように、また先生に世話を焼かれて、なぜか一緒に暮らすことが決定されていました。
「研究所を辞めて、また魔女の家で暮らす?」
と、冗談っぽく聞かれましたが……わたしが頷けば、きっと昔のように深い森の奥でわたしと一緒に暮らしてくれそうですね。
「いえ、まだ研究を続けたいです」
「わかったわ。それじゃあ、研究に飽きたときの楽しみにしましょう♪」
先生は、にんまりと麗しい笑顔を見せました。
❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅❆❅
あなたにおすすめの小説
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。