歳時記カフェ

青西瓜

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【35 2月3日 節分の日】

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・【35 2月3日 節分の日】


 お風呂上がり。
 ちょっとテイとクラをビックリさせたくて、脱衣所に秘密裏に用意していたモノを私は装着した。
 さぁ、テイ! 特にクラ! いっぱい日本を楽しんでね!
「わぁぁあああ! 鬼だぞー!」
 私が鬼のお面を付けながら、手はちょっと爪を立てるようにかざして、襲うように歩くと、こたつの上のテーブルに座ってみかんを食べていたクラが、猫がビックリした時のようにピョンと跳ねた。
 テイは呆然と口を開いていたが、ハッとしてから、こう言った。
「寧、君がどんな姿になっても俺は愛するよ」
「いやお面だから大丈夫だよ」
 と言いながら、お面を外した私。ホッと胸をなで下ろしたクラ。
 私は節分の説明をザックリすることにした。
「節分の日は鬼へ向かって、鬼は外、福は内と言いながら豆を投げるお祭りなの。ほら、こたつの上に殻付きのピーナッツの袋があるでしょ。それを私に向かって投げて」
 するとテイが小首を傾げながら、
「豆ってピーナッツ?」
「大豆を投げる地域もあるけども、ここはピーナッツだよ。ピーナッツのほうが片付けがしやすいし、なんといっても投げたあとも殻を割れば中身を綺麗に食べることができるからね」
 するとクラが楽しそうに、ピーナッツの袋を開けて、
「そうと分かれば……鬼は外ー! 福は内ー!」
 そう言ってクラが山なりにピーナッツを私に向かって投げ始めた。
 私はまたすぐにお面を付けて、
「うわぁぁあああ、負けてしまいそうだぁぁぁああ」
 と、やられている演技をしていると、テイがピーナッツを投げずにそのまま近付いてきて、
「優しくでも寧にモノを投げつけられないよ、俺が鬼役をやる」
「いいよ、これくらい。テイは初めての節分でしょ? たっぷり楽しんでよ」
「ううん、寧にモノを投げつけるなんて俺が許せないだけなんだ、寧に投げつけるのは投げキッスだけだよ!」
 と言って投げキッスをして、この人滑稽だなぁ、と思った。
 まあいいか、と思いながら鬼のお面を手渡すと、すぐさまテイは付けて、
「わぁぁああ! 鬼だぞぉぉおおお!」
 と言った刹那、クラは急にストレートの、剛速球のピーナッツをテイに向かって投げ始めて、テイは慌てながら、
「違う! 違う! さっきまで山なりだっただろ!」
 でもクラは笑いながら、
「テイ鬼には強くやらなきゃ!」
 と言ってビュンビュン投げている。
 まあテイも痛そうではないので、私もそれなりの速度で投げつけることにした。
 全然テイに不満は無いけども、投げる祭りなので。
 ちょっとやったところで、
「さすがにだぁぁああ」
 と言ってテイが玄関から外に出て行き、すぐに戻ってくると、鬼のお面を外していた。
 さすがにだぁ、だったんだ、と私は脳内で反芻していた。
「じゃあテイ、今度はこたつに移動してきて」
 と誘導して、私は棚から大豆を取り出した。
 それを見たテイが、
「さすがに大豆の剛速球はキツイよ! 俺もう鬼のお面していないし!」
「そうじゃなくて、大豆を歳の数だけ食べるというイベントもあるのっ」
 そう言いながら、私は自分の目の前に小皿に大豆を二十個入れた。
 それを見ていたクラが、
「寧の年齢って二十歳なんだっ」
 と言ったので、私はニッコリ微笑みながらこう言うことにした。
「乙女は永遠の二十歳なのっ」
 本当は二十六なんだけども、まあ別にいいでしょう。そういう意気込みでやらせて頂いています。あんまいっぱい食べるとお腹いっぱいになるし。
「テイとクラはそう言えば何歳なの?」
 となんとなしに聞くと、テイもクラも俯いてしまったので、まあそういうもんだったりするか、と思って、
「じゃあ全員永遠の二十歳だね」
 と言って、みんなの小皿に大豆を二十個入れた。
 年齢を言いたくない理由は人それぞれだと思うし、別にテイが何歳でも私は好きだから別に詮索しなくていいかな。
 見た目から察するに、相当若そうだし……もしかすると年下の可能性もあるな、と思ったところで、そう言えばテイってお酒を飲んでいるところ見たことないな、とは思った。
 私も飲まないほうだから、あんま気にしたことなかったけども、テイが年下って可能性あるのか。ある程度日本の文化を知っているみたいだし、二十歳以下はお酒を飲んじゃいけないということを知っていてもおかしくない。
 もし下に十歳とか離れていたら……よっしゃ、私絶対年齢言わない。よしっ、というかもはや『よっしゃ』案件だ。
 大豆を三人でモグモグ食べたところで、ついに最後のイベントだ。
「私たちも恵方巻食べようか」
 カフェのために作った分とは別の、家用にも恵方巻を作っていたので、それを棚から出してきた。
 三本作っていたんだけども、改めて見ると、
「ちょっと長過ぎるよね、切っ……」
 と言ったところでクラが恵方巻をくわえてモグモグ食べ始め、それに合わせてテイも長いまま、ほおばったので、これは早く言わなきゃと思って、
「恵方巻食べてる時! 喋っちゃダメだからね! 喋らず願いを想うことによって叶うというイベントだから!」
 と言うと、テイもクラも目を見開いて驚いた。
 私は恵方巻を短く切って、食べ始めた。
 するとクラが恵方巻を丸呑みしてから、こう言った。
「食べたから喋っていいんだよね、巻物って美味しいよね、海苔とご飯だけでも美味しいのに、中に桜でんぷとかかんぴょうとか、甘めの玉子とか。それぞれ別の方向性の甘みが混ざり合ってホッコリするし、きゅうりの青々しいアクセントも香りが良いし、まぐろの旨味が合わさって、本当に最高だよ」
 私は切ってほおばったので、すぐに食べ終えて、
「巻物の美味しさって日本生活が短い人は意外と分からないものだから、クラは分かってすごいね」
「勿論! 海苔とご飯が至福だよね!」
「そうそう、正直この組み合わせだけでいくらでも食べられるもんね」
 クラはうんうんと頷きながら、
「勿論まぐろも美味しいんだけどね、まぐろの生臭さは元々少ないんだけども、きゅうりや玉子によって緩和されて、美味しさだけになるんだよね」
「クラは分かってくれて嬉しいなぁ」
 とキャッキャッと会話していると、テイの声が聞こえてきた。
「寂しい……」
 テイのほうを見ると、なんとまだ恵方巻が残っていて、クラは即座に、
「喋っちゃった!」
 と言ったんだけども、私はテイの残りの恵方巻をひょいとつまみ上げて、それを食べて、
「残りは私が食べちゃったから、テイは喋った時点で終わりだったってこと。これで食べ切ったことになるんじゃない? みんな願いが叶うね!」
 テイは目を潤ませて喜んでくれた。
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