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青西瓜(伊藤テル)

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【それぞれの仕事、そして】

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・【それぞれの仕事、そして】


 今日は三人それぞれ、別々で仕事をすることになった。
 師匠は家を建てて、水田も作り、舞衣子さんは果樹園をもっと大きくして、僕は竈の使い方などを村の人たちに教える仕事だ。
 ……まあまず僕が師匠から使い方を教わったんだけども。
 また、お姉さんが事前に師匠から竈の使い方を教えてもらっていたし、お姉さんと僕の二人で村の人たちに教えていったので、その仕事はすごくうまくいった。
 ふと、僕はお姉さんにこんな話をした。
「お姉さんは語変換の術に興味がありますか?」
「はい、私も使えるようになったらいいなぁ、って思います。理人くんはどうしてお師匠さんと一緒に旅をしているの?」
「もっと広い世界を見てみたくて。僕が住んでいたところは文明もあったんですけども、それよりも冒険がしたかったんです」
 僕がそう答えると、興味津々な感じでお姉さんが、
「何で冒険がしたかったの?」
「う~ん、何かいろんなことを知りたくて。これ! という目標があるわけじゃないんですけどもねっ」
「でも素敵、とても素敵だと思うよ。私も旅してみたいなぁ」
 ふと、僕は、お姉さんも師匠の弟子になって、一緒に旅ができればいいのに、と思った。
 正直、僕よりも頭が良いし、立派な語変換の術使いになるんじゃないかな、と。
 しかしお姉さんはこんなことを言い出した。
「でも、旅する前にしないといけないこともあるし」
「……旅をする前にしないといけないことって何ですか?」
「もっと、この村の文化レベルを上げたいと思っているの」
「文化レベルを、上げる、ですか?」
 その僕のオウム返しの問いにゆっくり頷き、
「はい、せめて日本語はちゃんと使えるように皆なってほしいんです」
「確かに、それは大切ですもんね」
「まだ私だって拙い部分はあるけども、そういう言葉を教える先生になりたいと思っているの」
「それこそ素敵ですよ! お姉さんすごいです!」
 僕は本当に最高だと思って拍手をした。
 お姉さんは続ける。
「まだまだ夢のまた夢だけどね、でもそのために今、本で勉強しているんです。それに、理人くんや舞衣子さん、お師匠さんたちと話して勉強させて頂いています」
「いやいや! むしろ僕がお姉さんと会話して勉強させてもらっていますよ!」
「じゃあ二人で勉強しているんですねっ、切磋琢磨していきましょう!」
 お姉さんの笑顔が妙に眩しくて、くらっとしてしまった。
 その時、僕はまた思い出してしまった。
 そうだ。
 またこの繰り返しだ。
 依頼された場所へ行って、誰かと仲良くなって、でも必ず別れの日はやって来て。
 いつも思うんだ。
 僕もこの場所に残る、って。
 でも自分で決めたことだから。
 自分で冒険するって決めたことだから。
 さようならを言って、その地、その地をあとにして。
 そうか、もうこのお姉さんとも別れてしまうんだ。
 そろそろ依頼も終わりに差し掛かっている。
 嫌だな。
 今日こそ残ろうかな。
 今日こそこの村に残ってしまおうかな。
 でも冒険する僕を素敵と言ってくれたお姉さんに幻滅されたくない。
 だからまた冒険する道を選ぶのだろうな、僕は。
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