9 / 17
【09 東大寺の大仏様】
しおりを挟む
・
・【09 東大寺の大仏様】
・
私はスマホで、混雑状況をチェックして、今日は東大寺に行こうと思った。
午前は民宿の手伝いをして、午後から鱗マンさんに送られる形で外に出た。
その時にも改めて混雑状況をチェックしていると、ヨータが、
「スマホ? 連絡?」
「ううん、混雑状況を見ていたの、今日は東大寺に行こうと思っているから人が多いとちょっと疲れちゃうかなって」
と言ったところで、LINEの通知音が鳴った。
何だろうと思っていると、あの坊主の子で、でもその子ではなくてそのお母さんからだった。
『国宝巡りをしているとお話していましたが、東大寺にはもう行きましたか?』
『まだです。というかちょうど今日行く予定です』
『でしたらわたしの友人が子供のことで悩んでいるので、話を聞きに行ってくれないでしょうか』
まさかの依頼形式。
私は隣にいるヨータに相談すると、
「ゆにのやりたいようにしたらいいと思うよ、僕はゆにの意見を全面的に尊重するよ」
「それじゃぁ」
とメッセージをまた返信した。
『では場所を教えてください。その友人のお方のところへも行きます』
まずは場所が送られてきて、あとから時間指定のメッセージも送ってくれるらしい。
私とヨータはとりあえず電車で東大寺のほうへ向かった。
最寄りの駅に着いたところでまずはご飯という感じで、海鮮重のお店に寄った。
そこでも勿論、まるで別の世界線の裏メニューを頼んで待っている途中、また別の客が墨汁をぶちまける事件のことを話していて、この辺最近物騒なのかなって思った。
まあそんなことはいいとして、ヨータと他愛も無い話をしながら待って、ついに鹿せんべい風のせんべいが散りばめられた海鮮重がテーブルに届いた。
まず海鮮重の海鮮が新鮮で美味しい。マグロやエビ、イカなどなど、優しい素材の甘みがする。
美食家で知られる魯山人先生が『甘いは旨い』という名言を残したけども、まさしくその通り。
さらに鹿せんべい風のせんべいが食感と香りのアクセントになって、すごく美味しい。
パリパリ感とせんべい特有の香ばしさが海鮮とマッチして本当に美味しい。ご飯とも合う。お茶漬けにもおかき入っているからね、それみたい。
ヨータもうんうん頷きながら、
「海鮮が豪華で美味しいし、色合いも綺麗で本当に高級なお重って感じだね。鹿せんべい風のせんべいも薄さがちょうどいいというか、それぞれの具材に馴染むよね。噛みやすいというか」
ヨータも美味しそうに食べていて、その顔を見ても私は満足した。
というわけでここからは東大寺って感じで、道を歩いていった。
東大寺の周りはお店が栄えているんだけども、どこか荘厳というか、独特の重い……というわけじゃないんだけども、圧のある雰囲気が漂っていた。
私に霊感があったら、霊圧とか言っていたかもしれない(霊感無くてむしろいいけども)(アンチお化け)。
と、思っていたら何か近くでイケメンが女子をナンパしているみたいで空気に合わねーって思った。
このイケメン、霊圧とか感じないのかな、私は感じるすべが無いけども。
まあイケメンといったって、ヨータのほうがイケメンだし、頭脳も明晰で、私はヨータがいればいいけども、って、ヨータにそういう良いところを私も思われたい。
何か私って良いところあるかな、ヨータはすごく褒めてくれるけども、私って正直別にじゃない? ただお節介武術心得じゃない? 何か最悪っぽい。
ヨータに好きになってもらうにはどうすればいいのかな、と思っていると東大寺に着いた。
中に入ると、もう、デカい、ドデカい、ド級のデカい大仏様がお見えになりました。お見えになりましたは言葉が違う? でもそんな感じ。
「何か、すごく大きいね……」
ヨータも語彙消失していて可愛い。私だけじゃなくて良かったという共感もある。
ここから私は事前知識を振りかざす。
「大仏様は十五メートルあるんだってさ」
「やっぱり何か、本当これを人間が作ったの? って感じだよね」
「そうだね、ポンと生まれたみたいだよね」
「そんなニワトリの卵みたいに言わないでよっ」
と笑ったヨータ。ウケて良かった。でも大仏様に対しては失礼なのでマイナス・ポイントかもしれない。
私は指差しながら説明する。
「あの窓みたいなのあるじゃん、大仏殿の唐破風下の窓からは大仏様のお顔が覗いているんだぁ」
「覗いているというか見通している感じだね、千里眼というか、遠くまで見てくれている感じがする」
「大仏様は大規模な改修を経ているけども、胸から下は造立当初が残っているんだって」
「そっか、何か下のほうが古い感じがするのは、そのせいなんだね」
「厚い唇に優しい微笑み、何だかいいよね!」
とザックリとしたことを言ってサムズアップした私に、ヨータが同じように優しく笑いながら、
「そうだね、ずっと日本を見守ってくれている感じがする」
と言った。
何か雰囲気良くない? と思ったところでLINEの通知が鳴り、仏閣でLINEってマイナス・ポイントとかじゃないよね、と思っていると、坊主の子のお母さんからだった。
時刻はこのくらいの、といった内容だった。
じゃあその時間に合わせていくため、ちょっと東大寺の中をぶらぶらさせて頂いた。
待ち合わせ時間になり、家庭にお邪魔して、居間に通されたのち、そこそこの挨拶後、早速本題へ移った。
要約すると、うちの病気がちの子が急にわたしと会話してくれなかった、という話で、お母さんの見立てとしては、せめてと思って与えているパソコンで有害なサイトを見たのでは、という意見だった。
母子家庭でわたしと会話してくれなきゃ誰とも会話しないので、もう困惑しきりという話。
果たして突然現れた私とヨータに心を開いてくれるかは分からないけども、私とヨータはその子(秀介くん)の部屋をノックした。
すると声がして、あっ、声出してくれるんだと思った。
部屋が向こうから開き、私とヨータでまず自己紹介、そのあとに今どんな悩みがあるか聞くと、部屋の中に招き入れてくれた。
ちょっと私には当たりが強い感じだったけども、何か順調って感じ!
でも秀介くんは私とヨータを座布団の上に座らせたら、ベッドに座って黙ってしまった。
その雰囲気から、何か言いたいことがあることは明白だった。
ふと、ヨータが、
「パソコン、あるんだね」
と言うと、秀介くんはこくんと頷いた。
「いつもどんなの見ているの? ウィキペディアとか?」
とヨータが言うと、秀介くんは小さな声で、
「それも見る」
と言うと、ヨータが笑顔で、
「ランダムジャンプ機能って面白いよね、出てきた言葉でアナグラムして遊んだり、短歌を詠んだりする遊びを僕はするんだけども、秀介くんはどんなことする?」
と言い出して、そんなことするぅ? と思った。
インテリ・ギフテッドの遊びは奥深いなぁ、と思っていると、秀介くんはフフッと吹き出してから、
「アナグラムはぼくもするよっ」
何だかちょっと心を開いてくれたっぽい。
ヨータと秀介くんが共鳴していて両方推せるなぁ、と思っていると、ヨータが、
「ちょっと一緒にパソコン起動させてやらない?」
「うん!」
秀介くんはさっきよりも元気にベッドから立ち上がり、パソコンの前に座った。
きっとヨータはそこでブックマークバーを確認する気だと思った。
画面に映ったブックマークバーにはウィキペディアが一番左にあって、TVerなどのサイトの他に、フォルダでYouTubeというのがあった。
ということはYouTubeで陰謀論とかにもハマっているのかな、とか思っていると、ヨータが、
「YouTubeも見るんだね、どういうの見てるの?」
と何気無く、自然に聞くと、
「風景見てるだけ……」
とちょっと訳ありげに小声でそう言った。
私はすぐ分かった。これは嘘だと。
風景だけ見るなんてありえない。きっと結構えっちなヤツを見ているに違いない。女性はエロいみたいなのを見て、お母さんが怖くなったのかもしれない。
ちょっとカマをかけてみるか。
「秀介くんって、女性のこと気になったりする?」
すると秀介くんはイスから立ち上がり、
「何それ!」
とちょっと過剰に怒ったので、これは図星だなぁ、と思った。
大体分かったし、そろそろお母さんに報告へ行こうと思っていると、ヨータが、
「まあ自分とは違う人間って気になったりするよね、何を言い出すか分からないし。それよりもランダムジャンプ、せっかくだししようよ。僕もこうやって自分とは違う人間と一緒にやることは初めてだからドキドキしているよ」
と優しい声で言うと、秀介くんは深呼吸してからイスにまた座り、一緒にそのランダムジャンプでアナグラムや短歌を詠みだした。
その間、私はのけものって感じだけども、まあ楽しそうにしているからいいか……じゃなくて、私だけで報告を済ませるか。
大方お母さんの予想通りって感じかなと思って、その場を動こうとすると、ヨータが、
「ちょっと、いくら一緒に遊んでいるとはいえ、急に一対一になるのは危険でしょう。勿論僕が秀介くんに対してね。ゆにもその場にいて。これは秀介くんのために」
と言って止めたところで秀介くんが、
「別にゆにさんはどこかに行っていいよ、ヨータさんだけでいい」
と言って、まあそれはそれで悲しいと思った。
でもヨータが私を残した意味は、と思っていると、ヨータがこんなことを言い出した。
「今日、ゆにが東大寺の混雑状況を調べていたことも思い出してさ、浮かんだんだけども、秀介くんってYouTubeでライブカメラの風景を見ているよね。YouTubeで風景って言ったら、車窓かライブカメラでしょ。でも僕はライブカメラだと思う」
「そ、そうだよ……」
と明らかに動揺したような先細りの声を出した秀介くん。
ヨータは続ける。
「しかもきっと近間のライブカメラ、つまるところ秀介くんは大仏様のように見通していたというわけだね」
秀介くんは黙って頷いた。
「秀介くん、そのライブカメラにお母さんが映ったんじゃないかな、知らない誰かと一緒にいるお母さんが」
私は目を皿にして驚いた。
そういうことか! って。
女性に対して、どこか偏見というか恐怖心がある感じって、お母さんが急に知らない誰かと一緒に歩いていたからってことぉっ?
秀介くんは小さく頷いてから、
「ぼく、捨てられるんだ、きっと」
「そんなことないよ、お母さんは秀介くんのことを心配しているんだ、直近で心配している子を捨てるわけないじゃないか。秀介くん、一緒にお母さんに聞いてみないかい?」
「ヨータさんも一緒にいてくれる?」
「勿論。一緒に聞こう」
その後、お母さんは再婚予定の人だと言って、いつ秀介くんに会わそうか考えていたところで、会話してくれなくなって困っていたという話だった。
無事解決して、お母さんからも秀介くんからもお礼をたくさん言われた。
民宿に戻ってきてから私はヨータへ、
「すごいね、ヨータって。てっきり秀介くん、ちょっとえっちなサイトにハマっているんだと思ったよ」
「真面目な子だと思ったから、そういうことじゃないって思ったんだ。でも秀介くんも元気になって良かったね」
「それは本当にそう!」
「ゆにのおかげだね、ゆにが依頼を受けたおかげだし、最初の自己紹介とかもゆにがいてくれたおかげでスムーズにできたよ。結局僕はゆにがいないとダメなんだぁ」
「そんなことないでしょ!」
とツッコむようにヨータの背中を淡く叩いたんだけども、本当に、というか一生そうだったら嬉しいなと思ってしまった。
・【09 東大寺の大仏様】
・
私はスマホで、混雑状況をチェックして、今日は東大寺に行こうと思った。
午前は民宿の手伝いをして、午後から鱗マンさんに送られる形で外に出た。
その時にも改めて混雑状況をチェックしていると、ヨータが、
「スマホ? 連絡?」
「ううん、混雑状況を見ていたの、今日は東大寺に行こうと思っているから人が多いとちょっと疲れちゃうかなって」
と言ったところで、LINEの通知音が鳴った。
何だろうと思っていると、あの坊主の子で、でもその子ではなくてそのお母さんからだった。
『国宝巡りをしているとお話していましたが、東大寺にはもう行きましたか?』
『まだです。というかちょうど今日行く予定です』
『でしたらわたしの友人が子供のことで悩んでいるので、話を聞きに行ってくれないでしょうか』
まさかの依頼形式。
私は隣にいるヨータに相談すると、
「ゆにのやりたいようにしたらいいと思うよ、僕はゆにの意見を全面的に尊重するよ」
「それじゃぁ」
とメッセージをまた返信した。
『では場所を教えてください。その友人のお方のところへも行きます』
まずは場所が送られてきて、あとから時間指定のメッセージも送ってくれるらしい。
私とヨータはとりあえず電車で東大寺のほうへ向かった。
最寄りの駅に着いたところでまずはご飯という感じで、海鮮重のお店に寄った。
そこでも勿論、まるで別の世界線の裏メニューを頼んで待っている途中、また別の客が墨汁をぶちまける事件のことを話していて、この辺最近物騒なのかなって思った。
まあそんなことはいいとして、ヨータと他愛も無い話をしながら待って、ついに鹿せんべい風のせんべいが散りばめられた海鮮重がテーブルに届いた。
まず海鮮重の海鮮が新鮮で美味しい。マグロやエビ、イカなどなど、優しい素材の甘みがする。
美食家で知られる魯山人先生が『甘いは旨い』という名言を残したけども、まさしくその通り。
さらに鹿せんべい風のせんべいが食感と香りのアクセントになって、すごく美味しい。
パリパリ感とせんべい特有の香ばしさが海鮮とマッチして本当に美味しい。ご飯とも合う。お茶漬けにもおかき入っているからね、それみたい。
ヨータもうんうん頷きながら、
「海鮮が豪華で美味しいし、色合いも綺麗で本当に高級なお重って感じだね。鹿せんべい風のせんべいも薄さがちょうどいいというか、それぞれの具材に馴染むよね。噛みやすいというか」
ヨータも美味しそうに食べていて、その顔を見ても私は満足した。
というわけでここからは東大寺って感じで、道を歩いていった。
東大寺の周りはお店が栄えているんだけども、どこか荘厳というか、独特の重い……というわけじゃないんだけども、圧のある雰囲気が漂っていた。
私に霊感があったら、霊圧とか言っていたかもしれない(霊感無くてむしろいいけども)(アンチお化け)。
と、思っていたら何か近くでイケメンが女子をナンパしているみたいで空気に合わねーって思った。
このイケメン、霊圧とか感じないのかな、私は感じるすべが無いけども。
まあイケメンといったって、ヨータのほうがイケメンだし、頭脳も明晰で、私はヨータがいればいいけども、って、ヨータにそういう良いところを私も思われたい。
何か私って良いところあるかな、ヨータはすごく褒めてくれるけども、私って正直別にじゃない? ただお節介武術心得じゃない? 何か最悪っぽい。
ヨータに好きになってもらうにはどうすればいいのかな、と思っていると東大寺に着いた。
中に入ると、もう、デカい、ドデカい、ド級のデカい大仏様がお見えになりました。お見えになりましたは言葉が違う? でもそんな感じ。
「何か、すごく大きいね……」
ヨータも語彙消失していて可愛い。私だけじゃなくて良かったという共感もある。
ここから私は事前知識を振りかざす。
「大仏様は十五メートルあるんだってさ」
「やっぱり何か、本当これを人間が作ったの? って感じだよね」
「そうだね、ポンと生まれたみたいだよね」
「そんなニワトリの卵みたいに言わないでよっ」
と笑ったヨータ。ウケて良かった。でも大仏様に対しては失礼なのでマイナス・ポイントかもしれない。
私は指差しながら説明する。
「あの窓みたいなのあるじゃん、大仏殿の唐破風下の窓からは大仏様のお顔が覗いているんだぁ」
「覗いているというか見通している感じだね、千里眼というか、遠くまで見てくれている感じがする」
「大仏様は大規模な改修を経ているけども、胸から下は造立当初が残っているんだって」
「そっか、何か下のほうが古い感じがするのは、そのせいなんだね」
「厚い唇に優しい微笑み、何だかいいよね!」
とザックリとしたことを言ってサムズアップした私に、ヨータが同じように優しく笑いながら、
「そうだね、ずっと日本を見守ってくれている感じがする」
と言った。
何か雰囲気良くない? と思ったところでLINEの通知が鳴り、仏閣でLINEってマイナス・ポイントとかじゃないよね、と思っていると、坊主の子のお母さんからだった。
時刻はこのくらいの、といった内容だった。
じゃあその時間に合わせていくため、ちょっと東大寺の中をぶらぶらさせて頂いた。
待ち合わせ時間になり、家庭にお邪魔して、居間に通されたのち、そこそこの挨拶後、早速本題へ移った。
要約すると、うちの病気がちの子が急にわたしと会話してくれなかった、という話で、お母さんの見立てとしては、せめてと思って与えているパソコンで有害なサイトを見たのでは、という意見だった。
母子家庭でわたしと会話してくれなきゃ誰とも会話しないので、もう困惑しきりという話。
果たして突然現れた私とヨータに心を開いてくれるかは分からないけども、私とヨータはその子(秀介くん)の部屋をノックした。
すると声がして、あっ、声出してくれるんだと思った。
部屋が向こうから開き、私とヨータでまず自己紹介、そのあとに今どんな悩みがあるか聞くと、部屋の中に招き入れてくれた。
ちょっと私には当たりが強い感じだったけども、何か順調って感じ!
でも秀介くんは私とヨータを座布団の上に座らせたら、ベッドに座って黙ってしまった。
その雰囲気から、何か言いたいことがあることは明白だった。
ふと、ヨータが、
「パソコン、あるんだね」
と言うと、秀介くんはこくんと頷いた。
「いつもどんなの見ているの? ウィキペディアとか?」
とヨータが言うと、秀介くんは小さな声で、
「それも見る」
と言うと、ヨータが笑顔で、
「ランダムジャンプ機能って面白いよね、出てきた言葉でアナグラムして遊んだり、短歌を詠んだりする遊びを僕はするんだけども、秀介くんはどんなことする?」
と言い出して、そんなことするぅ? と思った。
インテリ・ギフテッドの遊びは奥深いなぁ、と思っていると、秀介くんはフフッと吹き出してから、
「アナグラムはぼくもするよっ」
何だかちょっと心を開いてくれたっぽい。
ヨータと秀介くんが共鳴していて両方推せるなぁ、と思っていると、ヨータが、
「ちょっと一緒にパソコン起動させてやらない?」
「うん!」
秀介くんはさっきよりも元気にベッドから立ち上がり、パソコンの前に座った。
きっとヨータはそこでブックマークバーを確認する気だと思った。
画面に映ったブックマークバーにはウィキペディアが一番左にあって、TVerなどのサイトの他に、フォルダでYouTubeというのがあった。
ということはYouTubeで陰謀論とかにもハマっているのかな、とか思っていると、ヨータが、
「YouTubeも見るんだね、どういうの見てるの?」
と何気無く、自然に聞くと、
「風景見てるだけ……」
とちょっと訳ありげに小声でそう言った。
私はすぐ分かった。これは嘘だと。
風景だけ見るなんてありえない。きっと結構えっちなヤツを見ているに違いない。女性はエロいみたいなのを見て、お母さんが怖くなったのかもしれない。
ちょっとカマをかけてみるか。
「秀介くんって、女性のこと気になったりする?」
すると秀介くんはイスから立ち上がり、
「何それ!」
とちょっと過剰に怒ったので、これは図星だなぁ、と思った。
大体分かったし、そろそろお母さんに報告へ行こうと思っていると、ヨータが、
「まあ自分とは違う人間って気になったりするよね、何を言い出すか分からないし。それよりもランダムジャンプ、せっかくだししようよ。僕もこうやって自分とは違う人間と一緒にやることは初めてだからドキドキしているよ」
と優しい声で言うと、秀介くんは深呼吸してからイスにまた座り、一緒にそのランダムジャンプでアナグラムや短歌を詠みだした。
その間、私はのけものって感じだけども、まあ楽しそうにしているからいいか……じゃなくて、私だけで報告を済ませるか。
大方お母さんの予想通りって感じかなと思って、その場を動こうとすると、ヨータが、
「ちょっと、いくら一緒に遊んでいるとはいえ、急に一対一になるのは危険でしょう。勿論僕が秀介くんに対してね。ゆにもその場にいて。これは秀介くんのために」
と言って止めたところで秀介くんが、
「別にゆにさんはどこかに行っていいよ、ヨータさんだけでいい」
と言って、まあそれはそれで悲しいと思った。
でもヨータが私を残した意味は、と思っていると、ヨータがこんなことを言い出した。
「今日、ゆにが東大寺の混雑状況を調べていたことも思い出してさ、浮かんだんだけども、秀介くんってYouTubeでライブカメラの風景を見ているよね。YouTubeで風景って言ったら、車窓かライブカメラでしょ。でも僕はライブカメラだと思う」
「そ、そうだよ……」
と明らかに動揺したような先細りの声を出した秀介くん。
ヨータは続ける。
「しかもきっと近間のライブカメラ、つまるところ秀介くんは大仏様のように見通していたというわけだね」
秀介くんは黙って頷いた。
「秀介くん、そのライブカメラにお母さんが映ったんじゃないかな、知らない誰かと一緒にいるお母さんが」
私は目を皿にして驚いた。
そういうことか! って。
女性に対して、どこか偏見というか恐怖心がある感じって、お母さんが急に知らない誰かと一緒に歩いていたからってことぉっ?
秀介くんは小さく頷いてから、
「ぼく、捨てられるんだ、きっと」
「そんなことないよ、お母さんは秀介くんのことを心配しているんだ、直近で心配している子を捨てるわけないじゃないか。秀介くん、一緒にお母さんに聞いてみないかい?」
「ヨータさんも一緒にいてくれる?」
「勿論。一緒に聞こう」
その後、お母さんは再婚予定の人だと言って、いつ秀介くんに会わそうか考えていたところで、会話してくれなくなって困っていたという話だった。
無事解決して、お母さんからも秀介くんからもお礼をたくさん言われた。
民宿に戻ってきてから私はヨータへ、
「すごいね、ヨータって。てっきり秀介くん、ちょっとえっちなサイトにハマっているんだと思ったよ」
「真面目な子だと思ったから、そういうことじゃないって思ったんだ。でも秀介くんも元気になって良かったね」
「それは本当にそう!」
「ゆにのおかげだね、ゆにが依頼を受けたおかげだし、最初の自己紹介とかもゆにがいてくれたおかげでスムーズにできたよ。結局僕はゆにがいないとダメなんだぁ」
「そんなことないでしょ!」
とツッコむようにヨータの背中を淡く叩いたんだけども、本当に、というか一生そうだったら嬉しいなと思ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる