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奏太の家は私の別荘

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・【奏太の家は私の別荘】


「別荘! やって来たぞー!」
 学校から帰ってきて、すぐさま奏太の家に入っていった私は両手を大きく広げて、家の中で叫んだ。
 ここは私が何をしても怒られない楽園なのだ。
 実際はそんなことないんだけども、気持ちとしてはそんな感じだ。
 本当は大きくジャンプしたり、走り回りたいところだけども、今日は雨の日なので、服が家干しされている。
 うん、洗濯はちゃんとしているようだ、そこは合格。
 ただ、ただ……やっぱり! この家の隅々を見るまでも無く、埃が多い!
 どうやら奏太も奏太のお父さんも掃除までは手が回らないらしい。
 好き勝手遊びたい気持ちは山々だけども、まずはやっぱり部屋が綺麗にならなければならない。
 というわけで今日はこの別荘を掃除しまくります!
 まずは掃除機を探さないと。
 と思ったら、意外とすぐあった。
 細くてお洒落な掃除機が部屋に置いてあったのだ。
 いつでも気付いた時に掃除ができるように、と言った感じに置いてあるが、使っている形跡は無さそう。
 何故なら掃除機に埃が積もっているから。
 じゃあまず掃除機を綺麗にしないと、ということで、雑巾を探すが、見つからない。
 雑巾ゼロ家庭かぁ。
 仕方なく、本当に仕方なく、一旦私の家に戻ることにした。
 そこで私は使い古されすぎてボロボロになり、もう使わない私のTシャツを持ってきた。
 それをハサミでちょうどいいサイズに切って、雑巾とした。
 使い古されて使わないTシャツは、たくさん洗濯されたことにより、布が柔らかくなっているので、雑巾代わりにちょうどいいのだ。
 このやたら貧乏性みたいな方法は私のお母さんの知恵です。
 ドヤ! 私のお母さんは貧乏だろう!
 ……なんてドヤ顔をしても今はこの別荘で一人。
 ちょっと虚しくなりつつ、私はまず掃除機の掃除を開始した。
 とにかく使い古されたTシャツは布が柔らかく、埃を絡めとるのに最適なので、水を付ける必要も無い。
 掃除機という精密機器かどうか分からないモノにも安心して使える。
 スススススーと埃を拭いてしまえば、ハイ! 綺麗な掃除機の完成!
 早速掃除機を使って、部屋を綺麗にしてしまいましょう!
 私は鼻歌交じり……いや、むしろ鼻歌全開で掃除を始めた。
 鼻歌を歌うために掃除しているくらいのテンションで。
 というか鼻歌じゃなくて、完全に歌を歌っている。
 適当に作った”タイトル/奏太は掃除しない”という歌を歌っている。
 たまに家干ししている服が私の顔面にパサーと付くけども、そんなことは気にしない。
 たとえそれがパンツでも気にしない。
 何故ならパンツって所詮布だから。
 布は何も怖くない。
 私は布には強気に出れるのだ。
 布弁慶なのだ。
 ……と、そんなどうでもいいことを考えていれば、いつの間にか掃除は終わっているもので。
 まずは掃除機の世界制覇!
 次は拭き掃除でもしちゃおうかなっ!
 Tシャツ雑巾を水で濡らして、ちょっと絞ってから床を拭き始めた。
 この別荘はフローリングがメインで掃除しやすいなぁ。
 いっぱい綺麗にしたらフローリングに寝転がって、涼しい場所を探し尽くそうっと。
 さて床を終えたら、今度は置物の埃を取ろうかな。
 それもTシャツ雑巾で大丈夫!
 Tシャツ雑巾をちょっと細くカットして、でも完全に切り取るのではなくて、先っちょはくっついてる状態でカットして、まるで埃取りのようにする。
 ……まあ埃取りから比べると、だいぶ、線が太いけども。
 でもその埃取り状になった部分をさわさわと埃を取りたいモノの上をなでるだけでも、相当埃はとれる。
 こうやって大事そうな置物とかには、ゴシゴシせず、埃を取ろう。
 まずは家電。
 置物。
 そして……あっ。
 そうだ。
 そりゃそうか。
 あるか。
 無論、捨てたりもしないもんなぁ。
 何か。
 何で。
 今まで気付かなかったんだろう。
 でもそうか。
 奏太の視線もこっちに行くことは一度も無かったな。
 いや奏太は私のことばかり見ていたらしいけども。
 いやそのことを考えるのは今いらない。
 またちょっと最近ある胸の持病が出そうになったし。
 いやまあそんなことよりも。
 そんなことよりも。
 ギターだ。
 奏太のお母さんのギターだ。
 昔、奏太のお母さんが元気だった頃、奏太のお母さんは自宅でギター教室をしていた。
 普通ピアノ教室なのに、とか、意味分からないツッコミを入れていたなぁ、私。
 何が普通だという話なんだけども。
 奏太のお母さんのギター教室は大盛況だった。
 毎週火曜日と木曜日は、ギターを持った人たちが奏太の家にやって来て。
 大合奏とかしていたような気がする。
 この家もそれ用に建てたみたいで、防音がしっかりで、ギター教室をするスペースがしっかり確保されていた。
 でもこのギター教室をするスペースに、何かモノが置かれているような感じはしない。
 決して物置スペースにはなっていない。
 ただその分、埃が積もっていた気がする。
 私は最初気付かず、掃除機もかけちゃったし、床拭きもしちゃったから、もう埃が多く積もっていたかどうかは分からないけども。
 というか大丈夫? 私。
 踏みこんじゃいけない領域だったんじゃないの?
 でももう掃除しちゃったもんなぁ。
 えぇい、もうここは私の別荘なんだ。
 キッチンに埃が飛んでこれられても困るので、優しく埃を取ってしまおう。
 優しく、優しく、Tシャツ雑巾とギターの弦が絡まないように。
 とかいっていると、私が普通にギターの弦に触れてしまった。
 ビィンとギターの音色が鳴った時に私は思い出した。
 奏太がギターをしていたことを。
 まだ奏太は小さかったので、曲を弾くようなことは無かったけども、すごく嬉しそうにギターをかき鳴らしていた。
 それを拍手しながら聞いていた私と、奏太のお母さん。
 好きだったな、奏太の音色。
 いやもしかしたら奏太のあの楽しそうな雰囲気が好きだったのかもしれない。
 奏太のお母さんもすごく楽しそうで。
 ……奏太のお母さんが病気になって入院してからは、奏太がギターを持っているところすら見たことない。
 奏太のお母さんはいわゆる血液のガンになって、長いこと入院し、手術が成功しても病気は良くならず、急に容態が悪化し、そのままお亡くなりになってしまった。
 あの頃の奏太は酷く塞ぎ込んでいた。
 私が「遊ぼう」と言っても、無視して。
 私は奏太にあまりにも無視されて泣いていたっけ。
 その仲直りに、と、奏太は私の家で食事するようになったんだっけ。
 そして私の家族と一緒に食事していくうちに、また奏太は笑顔が戻ったんだ。
 でも奏太がギターを持つことは戻らなかったなぁ。
 そうだよね、どんな思い出も詰まっているんだからもうギターなんて持たないよね。
 でも変わらずここにあって。
 奏太はこのギターのことを見ることはあるのだろうか。
 実はたまに持ったりはしているのだろうか。
 いやいや、私が考えたってしょうがない。
 私はまずこの部屋の掃除を終わらせるだけだ。
 私は埃取りも終わらせて、一段落し、イスに座った。
 まだまだ奏太が帰ってくるまで、四十分くらいある。
 じゃあそうだ、居間だけじゃなくて奏太の部屋も掃除してあげようかな。
 というわけで、奏太の部屋に入ることにした。
 奏太の部屋のドアなんて、めちゃくちゃ久しぶりなはずなのに、一発で奏太の部屋を引き当てた。
 やっぱり覚えているもんだなぁ、と思いつつ、奏太の部屋に入ると、そこには大きなポスターがっ!
 これは、外国人……?
 そしてサッカー選手だ!
 多分憧れている選手なんだろうなぁ。
 結構カッコイイなぁ。
 サッカー選手にもカッコイイ人っているんだなぁ。
 でも何か、むむっ、これは世紀の大発見だ、これは新常識の始まりだ。
 このサッカー選手! ちょっと奏太に似ている!
 奏太って外国人っぽいところあるんだなぁ……って!
 これじゃまるで奏太がカッコイイみたいじゃん!
 いや別にカッコ悪いとは言わないけども、奏太は奏太だからなぁ。
 そういうラインじゃないからなぁ。
 と思いながら、部屋中を見渡すと、
「あっ、漫画だ」
 私は少女漫画よりも少年漫画のほうが好きだ。
 理由はバトルとかカッコイイからだ。
 あと恋とかイマイチよく分からないからだ。
 ゴメン、自分の中でちょっと大人ぶった。
 恋なんて全然分からない。
 とにかく少年漫画のバトルや熱い友情みたいなヤツが大好きだ。
 あとギャグ漫画も結構好きで、余裕で爆笑してしまう。
 さて、奏太の好きな漫画はどんな漫画かなぁ……!
 今一番人気の海賊漫画だ!
 やっぱりこれかぁ!
 私は巻数が多くて買うの諦めたけども、奏太は全巻揃っているなぁ。
 自分が産まれるよりも前のヤツも持ってるんじゃないかなぁ。
 やっぱり奏太の家はお金があるなぁ、と、少し、ちょっとだけ最低なことを考えてしまった。
 その分、お父さんが忙しいんだろうけども。
 そう考えると、どっちがいいんだろうなぁ。
 いやまあ私のお母さんとお父さんは多少ウザいから、それだったらいっそのことお金がほしいけども、奏太のお父さんはすごく優しいからなぁ。
 やってほしいことが分かる、みたいな人で、すごくカッコイイんだよなぁ。
 私のお父さんも奏太のお父さんだったら良かったのに。
 でもまあ忙しかったら嫌だな……優しくても意味無いからな……。
 それにしても奏太の部屋はちょっと高価なモノが多いような気がする。
 漫画だって全巻揃えちゃえばだいぶ高価になってくるし、大きな板のスマホも見つけた。
 これだって高いはずだ。
 テレビゲームもいっぱいある。
 というか部屋にテレビがある。
 私の部屋にはテレビ無いからなぁ。
 あっ、録画機器もある。
 ……奏太はどんなテレビを録画しているんだろう。
 ちょっと気になるな。
 あくまで、あくまで、私はバァヤだから。
 一バァヤとして奏太の趣向をチェックしておくか。
 私は奏太のテレビのビデオを見ると、そこには……!
 よく分からないカタカナがいっぱいだ!
 カタカナ多っ!
 カタカナのテレビマニアじゃん! 奏太!
 いや、これ、もしかしたら……○○ーズ、とかFC○○とか……もしかすると、これ、サッカーのチーム名?
 あっ! 奏太はカタカナマニアじゃなくてサッカーマニアか!
 サッカーの生中継がいっぱい録画されてる! あと多分海外のヤツだ!
 いやでもスポーツ全般そうだけども、生中継見たらもう見ないでしょ。
 結果分かってても録画して残しているなんて相当のマニアだなぁ。
 今度、奏太にサッカーマニア大賞あげようっと。
 授賞式開いてあげようっと。
 じゃあ! じゃあ! この大きな板のスマホもサッカーでいっぱいに違いない!
 どこまでサッカーが好きか、ちょっとチェックしてみたいなっ。
 私はベッドの上に置いてあった大きな板のスマホのところへ行き、奏太のベッドに座りながら早速起動してみることにすると、なんと!
 暗証番号を入れる、だと……!
 まさか何らかの番号を入れさせようとしてくるとは! なんたるガード!
 奏太はどんなヤバイ・サッカーを見ているんだ!
 まずは奏太の誕生日を入力して……とっ、あっ、すぐに開いた、やったぁっ!
 しかし暗証番号で隠すとは、どんなヤバ過ぎて怖いサッカーを見ているのだろうか。
 このブックと書かれたヤツをチェックしてみるか。
 初期から現在までのボールだけの写真集とかヤバイくらいのサッカー好きかもしれないからね……って!
 ひぃぃいいいいいいいいい! 写真集あった!
 でも! でも! これ! 女性が水着になっている写真集だっ!
 ちょっと! 奏太まだ小五でしょ! こういうのは早いよ! 最速だよ!
 でも、でも、バァヤなんだから、バァヤなんだからチェックしないと……ちょっと、こんな水着、あるの?
 この世にこんな水着あるの? これで本当に泳げるの?
 ちょっと、もう、何か、頭が、パンク、しそう、奏太って、こういうの、見てるの?
 意識が、奏太に、いや、彼方に、いってしまいそう……う~ん……う~ん……う~ん……。
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