絡まるソースのような

青西瓜

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奏太のための料理

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・【奏太のための料理】


 作った料理の説明。
 私は手をパツンと叩いてから、元気に喋り出した。
「今日はジメジメした天気を辛さで吹き飛ばす! 豆板醤ソース祭りにしました!」
「豆板醤って?」
 こんな基本的なことも知らないのかと思いつつも、私はきちんと真面目に説明を始めた。
「そら豆で作った辛いお味噌って感じかな? まずは、これは昨日の夜に私の家で既に漬けていて、大根のカクテキ風です」
 そう言って持ってきていたバッグからタッパを取り出して、開けた。
「漬物だね、何だかおいしそうな香りっ。それに何か甘い香りもするような……辛いんじゃないの?」
 奏太は香りが好きだなぁ、と思いながら説明する。
「辛いんだけどもっ、これは豆板醤とすりおろしたリンゴで漬けた大根の漬物なんだっ」
「漬物に果物っ? そんな組み合わせがあるのっ? というか前に言っていたヤツだ!」
 驚いてくれた奏太。
 いい感じだ。
「うん、そうそう、前に言っていたヤツだよ。甘みと辛さのバランスが良くて、結構私好きなんだぁ」
「ちょっとつまんでみていい?」
「まだダメ! 料理の説明が全部済んでからじゃないと!」
 そう私が拒むと、ちょっとシュンとした表情の奏太がちょっと可愛い。
 そう言えば、うちのお母さんは奏太が可愛いって言っていたなぁ、と少し思い出した。
 いやそんなことよりも料理の説明だ。
 これ以上奏太がシュンとしないためにねっ!
「豆板醤と味噌を合わせるのが基本的な豆板醤ソースの始まりなんだけども、そこにすりごまを足して担々麺風のスープ!」
「何か麺が入っているみたいだけども、これラーメン?」
「ううん、ラーメンの麺は無かったので、糸こんにゃくが入っています!」
「なるほど! 糸こんにゃくを麺にしているわけだ! なんだかヘルシーだなっ!」
 喜んでいるようで出だしは上々。
 私は続ける。
「でもやっぱりサッカー帰りはガッツリ食べたいでしょ?」
「そりゃモチロン、というか見えてるから、早く説明してくれよ、早く食べたいよ」
「そしてメインディッシュは豆板醤にケチャップを入れたチリソースで絡めた鶏肉です!」
「エビチリとかあるけども、鶏肉も合うのっ?」
 疑問符を浮かばせる奏太に私は自慢げに答える。
「めちゃくちゃ合います! ご飯にも合うからじゃあ食べようかっ!」
 二人で『いただきます』をして、料理を食べ始めた。
 気絶をする前にご飯を炊いておいて良かったぁ。
「麺が小麦の麺だったら炭水化物の食べ過ぎだけども、糸こんにゃくだから気にせず食べられていいな」
「そうそう! 太っちゃダメだからね!」
「全て豆板醤ソースを使った料理なのに全然味が違って、飽きないし、面白いなっ」
「料理って面白いでしょ!」
 そう言ってドヤ顔の私。
「フフッ、彩夏も面白いよ」
 そう言って笑った奏太。
「ちょっとどういう意味さっ!」
 私は何だか馬鹿にされたような気がして、ちょっと怒り声を上げてしまった。
 すると。
「いや、一緒にいて飽きないという意味だよ」
 そう言って優しく微笑んだ奏太。
 飽きないと言ったってまだ、二日目くらいじゃん。
 いやまあ飽きないと言われたら、やっぱり嬉しいけどもっ。
 そして私と奏太は私が家に帰るまで、飽きずにずっと会話していた。
 会話というものが、また続くのだ。
 これでもか、これでもか、というくらい続くのだ。
 これがずっと続くのならば、本当にこれからの人生が楽しみだ。
 

・【奏太と私の日々】


 次の日から私は奏太にたくさんのソース、そして料理を作った。


・【あくる日の奏太と私】


 サッカークラブから帰ってきた奏太を玄関で迎えてから、奏太は一旦お風呂場に行って着替えてくる。
 そして居間に入ってきた奏太をイスに促して、私も座り、説明が始まる。
「今日はホワイトソースです! モチロン手作り!」
 私はドヤ顔スタート。
 それに対して奏太は多分きっと疲れているはずなのに、いつも笑顔で私の話を聞いてくれる良い友達なのだ。
「いつもありがとう、どんな手順で作ったんだ?」
 ……本当は料理のレシピなんて興味も無いだろうに、でも聞いてくれる。
 いつも私の話を聞いてくれる。なんて優しいんだ。
 私の喋りたい喋りたいオーラを優先させてくれる。
 もはやオーラでもないか、完全に顔に出ているもんなぁ、私。
 そのドヤ顔だもんなぁ。
「基本は牛乳200ミリリットルに、小麦粉大さじ1、これでホワイトソースは作れます!」
「じゃあ混ぜるだけ? でもその感じはただ混ぜるだけという感じじゃないよな」
「そう! そして今日作ったのは長ネギのホワイトソース!」
「断片的に情報がちょっとずつ出てくるなっ」
 そう、断片的に出して話を伸ばしたいと思ってしまうのが私の癖。
「まずは長ネギを炒めます。そこに小麦粉を一気に入れてまた炒めていきます。小麦粉が馴染んだなぁ、というところで牛乳を入れますが……ストップ!」
「急に大きな声を出すなよ、まるで俺が作っているような臨場感でストップって言うな」
 少し呆れた声でそう言った奏太。
 その自分の無駄な演技にちょっと反省しつつも、話は続ける。
「ここ重要っ、牛乳はちょっとずつ入れないとダマになるんです」
「逆に牛乳をちょっとずつ入れるんだ、なんとなくダマになるなら小麦粉をちょっとずつ入れたほうが良さそうだけども」
 そう相槌を打つ奏太に、また私は調子に乗って大きな声を出してしまう。
「そこは素人の発想だなぁ! 牛乳でダマを削っていくという発想だからね! 合ってるか分かんないけども!」
「いや合っているか分かんないのかよ、でもまあそうするんだ」
「そう! そのちょっとずつ手間を掛けるのが愛情なんだなぁ」
 そう言って何だかしみじみしてしまった私。
 つい小さく何度も頷いてしまった。
 自分の言っていることに対して、自分で『正しい正しい、いよっ! 正しい!』という感じになってしまった。
 それを見ていた奏太は、優しい目元をしながら、
「俺なんかに愛情を掛けてくれてありがとう」
 と言った。
 なんか、て。
 なんせバァヤなんで奏太に一番愛情を掛けるよ。
 それにしてもまた胸が痛い。でももうこういうモノだと最近思っているので大丈夫です!
 持病というヤツね! 悪化させなきゃ大丈夫! 大丈夫!
「で! 塩コショウで味を調えた長ネギのホワイトソースでいろいろ遊んでみました!」
「今日も楽しみだな、彩夏の料理」
「じゃあ奏太、いつも通りお風呂沸かせているから先にお風呂入っておいでよ! 私は最後の準備をしているから!」
 そう、最近はサッカークラブから帰ってくる奏太のために、先にお風呂を沸かせておくのだ。
 疲れている体にはやっぱりサッパリとしてお湯の器が一番だから。
 お湯の器、お風呂のことね。
 私はたまにお風呂のことお湯の器って呼んでいるから。
「料理だけじゃなくて、お風呂まで、いつも悪いな……」
「だってお風呂なんてスイッチ一つじゃん。何なら今度から私が掃除しようか?」
 お風呂の掃除は、学校へ行く前に奏太が掃除していくらしい。
 奏太はサッカーで忙しいので、それくらい別に私が奏太の家のお風呂掃除をしてもいいと思っている。
 でも。
「そんな! 彩夏の手が荒れちゃうじゃん! それは絶対にしなくていいし、必ず俺が毎朝やるから大丈夫!」
 そう言って、奏太は脱衣所へまた入っていった。
 一旦説明のため、居間に来てもらうのって、ちょっと手間かなと思いつつも、やっぱり私は説明をしたいから仕方ない。
 というか私の手荒れを気にしてくれるなんて、本当に奏太は優しいなぁ。
 さっきから優しい祭りだなぁ。
 でもおかしいな、昔はそんなに優しくなかったような気もする。
 もっと生意気で、いつも泣かし泣かされの関係だったような気がする。
 何だか久しぶりに話したら急にすごく優しくなっていたなぁ。
 奏太の中で何か変わったのだろうか。
 でも変わるはずないよなぁ、だって私は何も変わっていないから。
 それとも奏太は『人に優しく』と書かれた本を読んだのかな。
 それで変われるってすごいと思う。
 いや、読んだだけで変えてしまうようなすごい本なのだろうか。
 もしそんな本があるのなら、私も読んでみたい。
 いや別に読まなくていいか。
 よく考えたら、私ってば昔から優しいし。
 昔の泣かし泣かされの関係も、私の台詞はいつだって正論だったような気がするし。
 さぁ、最後の準備で、最高の料理にしてしまおう!
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