絡まるソースのような

青西瓜

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奏太に優しさを

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・【奏太に優しさを】


 奏太がお風呂から上がってきた。
 タオルで頭を拭きながら。
「お風呂ありがとう……って! おいしそうなチーズの香り!」
「おい! 食いしん坊! それはメインディッシュだから説明のあと!」
 頭を拭き切った奏太はタオルを畳んで部屋の隅に置いて、二人でテーブルの席について、早速私が料理の説明を始めた。
「まずは長ネギのホワイトソースにカレー粉やケチャップを足して、マイルドなカレーソースにして千切りのキャベツとかの野菜に掛けてみました!」
「薄い黄色のソースに緑のキャベツ、赤いトマトって色合いがいいなぁ」
 奏太はなかなかの色合いマニアでもあるなと思いながら話を続ける。
「そしてホワイトソースに味噌とショウガを足して、和風に仕立てて、焼いた豚肉に掛けました!」
「味噌味のショウガ焼きかぁ、そこにホワイトソースってどんな感じの味なんだろう?」
「意外と乳製品の味と味噌って合うから絶対おいしいと思うよ、実際味見してもおいしかったし! そしてメインディッシュはこちら!」
 私がメインディッシュに手を向ける。
 それを見た奏太がわぁっと喜びながら、
「焦げたチーズがおいしそうだなぁ」
「純正のホワイトソースで作ったラザニアです! 中にご飯が入っているグラタンだよ!」
「それは言われなくても分かるよ」
 でもここまで言い切るのが私の中でのセットだからと思いながら、私は続ける。
「炒めたマッシュルームやエリンギ、シメジなど、キノコが具材として追加しているラザニアです!」
「道理で香りが良いわけだ」
「じゃあ早速食べて! 食べて!」
 笑顔で料理をほおばる奏太が好きだ。
 その姿を見ることが私にとって至福だ。
 作って良かったなぁ、と思う。
 おいしいって言ってくれて。
 ありがとうって言ってくれて。
 優しく微笑んで。
 大きく笑ったりして。
 私と会話を楽しんで。
 私の話をよく聞いてくれて。
 私がちょっと学校での愚痴をこぼすと、真剣に頷いてくれて。
 好きだ。
 この時間が好きだ。
 まだこんな関係を始めたばかりなのに、この時間が今の私にとって一番重要だ。
 この時間のために、いくらでも料理に力を入れられる。
 最初は別荘だ、別荘だ、と遊ぶつもりだったけども、今はやっぱり料理を頑張りたい。
 この時間が長く続くために、できるだけ料理を作りたい。
 宿題は全然したくない。
 やらないとダメだからやるけども。
 好きだ。
 好きだ。
 この時間が好きだ。
 ずっと続けばいいのに。
「彩夏、実は俺、オマエに言わないといけないことがあるんだ」
 ……ん? 急にどうしたんだろう、改まった感じで。
 しかもちょっと真剣な感じ。
 そう言ってから、ちょっと間もある。
 言おうか言わないか迷っている感じもする。
 何だろう、嫌な予感がする。
 もしかしたら、もうこういうの止めないか、という話?
 いや! 嫌! だとしたら嫌すぎる!
 どういう理由で止めたいのかなっ?
 私に対して申し訳ないという気持ちなら絶対論破できる!
 でもやっぱりずっと私と一緒にいることが嫌ならもうそれはただただ泣くだけだ!
 泣かされのみの関係だ!
 それだけは! それだけは!
「やめてぇぇぇぇええええええええええ!」
 ……あっ、声に出てしまった。
 奏太が何だかどんどん青ざめている。
 そりゃそうだ、目の前の女の子が急に『やめてぇぇぇ!』と叫んだんだ。
 誰だって意味も分からず、ただただ青ざめるだろう。
「ど、どうしたんだ、彩夏……」
 どう誤魔化そう、そう思って俯いて、うんうん考えていると、
「もしかすると、やっぱり俺に料理作ったりすること大変で嫌……か?」
 と言ってきたので、この流れはまずいと思って、
「それは本当にやめてぇぇぇええ!」
 と叫んだ。
「本当にやめてぇって、つまり、本当に辞めたいということ? そっか、ゴメン、俺ばっかり楽しんでゴメンな……」
「いやいやいや! 辞めたいという意味じゃなくて! って! 楽しんでぇっ?」
「えっ、辞めたいという意味ではないの……か?」
 混乱しているような奏太。
 いやまあ私も若干混乱しているけども、今は私が気になったことを聞く。
「というか奏太も楽しいのっ?」
「いや俺はすごく楽しいよ、彩夏とこうやっている時間がすごく好きだ。でもやっぱり何でもかんでもやってくれる彩夏が大変なら、と、思って」
「私も楽しい! 辞めたくない! この時間が好きだもん! 私だって!」
「そうか、それなら良かった……俺も好きだよ、彩夏」
 良かったぁ、まずこの可能性は消え去ったってことね。
 じゃあ改まったヤツはこのことを言うわけじゃないんだぁ。
 ところで、急に奏太が頬を赤めてモジモジし始めたけども、急にどうしたんだろう。
 コロコロ表情が変わるヤツだな、奏太って。
 それにしても何か奏太、変なこと言ったっけなぁ、別に恥ずかしがるようなこと言ってなかったような。
 『俺も好きだよ、彩夏』のあとにこうなったんだよなぁ、でも私も好きだもんな、この時間。
 気持ちが一緒だったことが逆に恥ずかしいとか、そんなところかな。
 共感が恥ずかしいって、変な感覚だなぁ。
 というか。
「じゃあ改まって何か言おうとしていたけども、あれは何なのっ? てっきりこういうの辞めようって言うんだと思った」
「いや、う~ん、何か恥ずかしいなぁ、と思って」
「私と二人っきりでいることが? いや別に全然恥ずかしくないじゃないっ」
「いやまあ改めて言われるとそれはそれで恥ずかしいような気もするんだけども、そうじゃなくて……」
 何か言おうとしている奏太。
 何だろう?
「そうじゃなくて?」
「俺さ、10日記念に感謝の手紙書いてきたんだ……」
 10日記念! 感謝の手紙! 何それ! マメかっ!
 でもいい! そういうところ何かいい!
 昔の生意気な奏太には考えられないけども、とてもいい!
「読んでよ! 今すぐ読んでよ!」
 私は大テンションアップ。
 興奮で今は絶対に眠れないだろう。
 そもそもこの時間帯に寝たこと無いし。
 寝は絶対しない。
「まあ、自分で書いてきたんだから読むか……短いし、文章は下手だけどもいいか?」
「何でもいい! 大丈夫! 感謝の手紙は雑食だから!」
「何だよ感謝の手紙は雑食って、雑食も何も感謝の手紙ってそんな読まれたことないだろ、多分」
「そう! これが初! だから早くちょうだい! ちょうだい!」
 私は駄々をこねるように感謝の手紙を欲する。
 その私の姿に、ちょっと笑いながら奏太は喋り出した。
「じゃあ読むぞっ」
 そう言って、手紙を居間に置いてあるタンスの引き出しから取り出し、咳を一つついてから、さらに深呼吸をしてから奏太は読み始めた。
「彩夏へ、毎日料理を作ってくれてありがとうございます。最近はお風呂まで沸かしてくれていて本当に助かっています。それなのに、こんな言葉でしかプレゼントができない俺をまず許して下さい」
「いいよっ、そんなことぉっ」
 我ながら気持ち悪い照れ声が出てしまったな、と思ったが、そんなこと奏太は気にせず、朗読は続く。
「彩夏が俺の家で料理を作ってくれるようになってから、とても頑張れるようになっています。サッカーなどでつらいことがあっても、このあとに彩夏が家で待っていてくれていると考えると、勇気が沸いてきて、瞬間瞬間に全力が出せるようになりました」
 そんな、私だってこのあと奏太が帰ってくるんだと思うとワクワクするわっ。
「そして家に帰ってくると、彩夏がいて。その彩夏といろんな話をして、それがとても楽しくて。この時間がずっと続けばいいのにな、と、彩夏が帰ってから毎晩毎晩思います」
 ここは私のほうが上だな。
 だって話している時からずっと続けばいいのに、って思ってるから。
「日々、気付いたら彩夏のことを考えていることもあり、俺にとって彩夏はとても大切な………………友達です……以上!」
 いや自分で書いた文字を読めなくなるな、友達という文字が読めなくなるんじゃないよ。
「何か恥ずかしいな、やっぱり……でも、本心だから……」
「ありがとう! 奏太! 言われて私めちゃくちゃ嬉しいよ! というわけで! その手紙、ちょうだい!」
 そう言うと、奏太は『え?』というような表情を浮かべた。
 いやだって。
「その手紙は永久保存版にするから手紙ちょうだい!」
「いや、手紙そのものは、あの、ダメだから……」
 そう言って急に焦り出した奏太。
 いや書いてある通り読んだんだから、全部私に伝えたんだから手紙をもらってもいいでしょう。
「ほら、字が汚いし、さ……」
「そうだね! さっき”友達”という字が自分で読めなくなっていたもんね! でも大丈夫だから!」
「いや! そこは、ちょっと、違、というか、いや、そうか、そう、読めなくなっていたから、さ……」
 そう言って俯き出した奏太。
 いや字が汚いんでしょ! 嘘ではないでしょ!
 この俯きは嘘だから俯いているんじゃなくて、字が汚い自分が恥ずかしくて俯いているんだろうなぁ。
「とにかく! 手紙はダメ! はい! 片付けます! 片付けます!」
 と言って手紙を畳みだした奏太。
 その一瞬だったけども、手紙の文字が後ろから透かされて見えた時、最後の”友達”の部分が本当に読めず、こりゃダメだなと思った。
 こりゃ本当に字が下手で、これだから男子は……と思った。
 まるで違う字のように友達とは読めなかった。
 とはいえ、とはいえだ、こんな手紙を用意してくれていたなんて、すごく嬉しい。
 ”言葉でしかプレゼントができない”と言っていたが、その言葉がとても心に響いた。
 というか言葉が嬉しい。
 言葉がありがたい。
 もっと奏太からいろんな言葉をもらいたい。
 今日の夜、自分の家に戻ってきてからそんなことを思っていた。
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